注:本作はAI(Gemini)を使用しています。ネタ・プロットは自分、自身の文章を学習させた上でAIの考えた文の使用率は全体の17%です。
※pixivとAO3にも投稿済み
―廃屋―
ディール要塞内・北東に位置する倉庫の奥。幾つかの木箱が置かれた陰に、それはあった。
「この上げ蓋が外の廃屋へと通じる通路を隠しています。」
床の上げ蓋を開いてブライアンが説明する。クリスとミシェイルは彼の後ろから中を覗き込んだ。石段の先に暗い通路が東に向かって続いている。
「さあ、行きましょう。」
ブライアンが先頭に立って下り、手に持ったランタンを掲げながら、石壁でできた狭い通路を進む。クリスとミシェイルもそれぞれランタンを手に続いた。
ほどなくして通路は木の扉に突き当たって終わった。扉を開けると、扉よりも若干高い棚がこちら側に背を向けて三つほど並んでいた。棚の横を回り込んで向こう側に出ると、どうやらここは地下室らしく、真ん中に木の階段があり、壁際に木箱や樽が幾つか置いてあった。木の階段の上には入ってきたのと同じような木の上げ蓋が見える。ブライアンが木の階段を上り、蓋を押し上げると、外界の光が差し込み、室内らしき光景が見えた。
「ここが…?」
「ああ。ディール要塞・北東の森の中の一軒家。恐らくこの要塞が建てられた時に作られた脱出路だ。」
最後に上げ蓋の外に出たクリスが訊き、ブライアンが説明する。そこはさして広くなく、二部屋しかない。今彼らがいる場所は外への扉がある部屋で、炊ぐ場所と食卓、戸棚、暖炉がある。扉には閂が掛けられていた。
「奥にも部屋があります。」
ブライアンが言い、三人は扉のない出入り口を通って奥の部屋へと移動した。そこは寝室らしく、ベッドが一つとチェスト、窓辺に机と椅子がある。
「……廃屋というより普通の民家に見えるが。」
「ええ。この場所に脱出したとして、敵が中を検めたり、暫く潜伏しなければならない状況になるかもしれず、そのような時のために、この家の住人としてやり過ごせるように家屋を補修し、生活用品も揃えてあります。」
ミシェイルが言うとブライアンが答え、向き直った。
「…何はともあれ、王子。提督にも許可はいただいたので、これからはここを使うことができます。ただ、来る時は必ず私に言って下さい。」
南西の海を臨む丘でミシェイルはクリスに告白して彼と恋人同士になった。ブライアンに話すと驚いたものの、すぐにマクリルとクリスが要塞に留まることができるようにジューコフに掛け合ってくれ、この廃屋――恋人になった二人が一緒に過ごせる場所まで手配してくれた。
「わかった。」
ブライアンに心から感謝しつつ、二人は頷いた。
―二人の時間―
その日は雨だった。ミシェイルにとって雨の日は筋トレを終えたら本を読むくらいしかすることがない。――否、なかった。クリスが現れるまでは。
ミシェイルが兵舎のクリスの部屋を訪ねると、やはり彼はいた。
「ミシェイル!」
クリスがミシェイルの姿を見て嬉しそうに出迎える。(恐らく)自分を待っていてくれたのだと思い、ミシェイルの胸が彼への愛しさでいっぱいになる。
「一緒に過ごさないか?」
ミシェイルが訊くとクリスは笑顔で頷いた。ミシェイルはクリスの肩越しに部屋の中を見て、同室であるはずの彼の祖父マクリルの不在に気づく。
「マクリルは?お前を連れ出すことを伝えておきたかったのだが…」
「じいちゃんは談話室に行っています。何でも新しい友達ができたとかで…。祖父のことは心配要りません。ランタンが部屋に見当たらなければ、俺が何処へ行ったのかわかるはずですから。」
クリスはそう言って部屋の備品であるランタンと火打石を持ち出し、ドアを閉めた。
「ブライアンさんには…」
「もちろん言ってある。」
ミシェイルがブライアンが一緒でなければ、廃屋に行くことは伝えてあるだろうとは思いつつ、念のため確認してしまう。ルールを疎かにすると彼の善意の計らいも取り消されるかもしれないからだ。
ミシェイルと並んで歩きながら、クリスは彼とのことを祖父に話したときのことを思い起こす……
『じいちゃん、俺……』
『ん?なんじゃ?クリス。』
『その……ミシェイル王子に、こ、告白されて。』
『……』
『離れたくない、傍に居て欲しい、…って。それでその……恋人になってくれ、って……』
『お前も同じように離れたくないと思っているならいいんじゃないかの?』
マクリルはあっさりと言った。
『え……けど俺、自分が彼と離れたくないと思っているかどうか、確信が持てないよ。』
『そんなに赤い顔をして、縋るような目で儂に話すということは“そう”なんじゃろ。』
『……』
『もともと当てのない旅じゃった。そしてここは鍛錬にはもってこいの場所じゃ。儂自身も逗留に反対する理由はないぞい。』
そう言ってマクリルは愛情深く笑った。
――じいちゃんもわかってくれて、色んな人の協力でここにいることができている。ミシェイルといられることに感謝しなきゃ。
クリスは改めて心に刻む。
二人は途中で厨房に寄り、乾燥させたハーブを適量をもらい(厨房では希望すれば、ハーブのストックをもらうことができた)、水筒を借りて水を入れ、灰色のトンネルめいた回廊を要塞北東の倉庫へと向かう。
倉庫に着くと二人はそれぞれのランタンを灯し、ブライアンに教えられた上げ蓋の下の通路を廃屋へと進んだ。
廃屋は外が薄暗いために室内も薄暗かった。二人の持つランタンの明かりが室内を柔らかく照らす。雨の日はいつもここに来るため、もう随分と見慣れた光景になってしまった。クリスはランタンを炊事場の壁棚に置き、竈の火をおこしてソースパンに水筒の水を入れ、沸かし始める。
やがてお湯が沸くとハーブを入れ、煎じたものを茶こしで濾して二つのカップに注いだ。
「ミシェイル。お茶を淹れたよ。」
クリスがカップを食卓に運び、ミシェイルの名を呼んだ。恋人になってからというもの、ミシェイルは彼に、王子の呼称ではなく名前で呼ぶようにと懇願していた。最初は戸惑っていたクリスも、今では自然と呼べるようになっていた。クリスに呼ばれて、家屋に異常がないか確認していたミシェイルは食卓へとやってきた。ここを訪れた時の常で、いつも一通りの点検をしている。もしも誰かが侵入した痕跡を見つけるようなことがあれば一大事だからだ。
「特に異常はないようだ。」
「よかった。」
二人で小さな食卓に着き、ともにハーブティーをいただく。
「温まりますね。ハーブの香りもいい。」
クリスはカップを両手で包むように持ち、湯気を立てるそれを静かに啜った。窓の外では雨音が強くなったり弱くなったりしつつ、絶え間なく降り続いている。ミシェイルはカップを口に運びながら、クリスをじっと見つめた。そしてカップを置き口を開く。
「……クリス。要塞に留まることにしたことを後悔していないか?…マクリルも。」
「いえ…」
クリスもカップをテーブルに置き、ミシェイルを真っ直ぐに見つめ返した。
「もともと流浪の旅で、ここでは日々鍛錬に励むことができます。……俺も貴方といられて嬉しいです。」
「そうか。」
ミシェイルはテーブルに置いていた手を伸ばし、クリスの手にそっと触れた。クリスは驚いて身動いだが、手を引くことはしなかった。ミシェイルはそのままクリスの手を包み込み、その温もりを確かめる。
「クリス。ディールに留まってくれてありがとう。」
「はは…」
クリスは目を泳がせて照れ隠しのように軽く笑った。ミシェイルも僅かに微笑み、クリスの手の甲を親指で円を描くようにゆっくりと撫でると、クリスは落ち着かない様子で視線を外した。心なしか頬が赤い。
「奥の部屋へ…」
ミシェイルが静かに言い、クリスの手を握ったまま立ち上がると隣室に導いた。隣の部屋はランタンの明かりも届かず、雨雲のせいで薄暗い。主のいない寝室。そこでは互いの温もりと息遣い、掌と指先で確かめられるものがすべてだった。
―冬の感謝祭―
クリスがディールに来てから数か月が経ち、季節は冬になっていた。今日は冬の感謝祭。殺風景なディール要塞も年に一度のお祝いの日ということで兵士たちの熱気に包まれていた。ささやかではあるが皆が持ち寄った常緑樹の枝が要塞のあちこちに飾られ、夜は篝火がいつもより多く焚かれていて明るい。
夕食の時間になって、ブライアンとともに食堂にやってきたミシェイルはクリスを探した。彼は食堂の片隅に祖父マクリルとともにいた。迷わず彼の許に真っすぐ向かい、呼び掛ける。
「クリス!」
「ミシェイル…?」
だがクリスはミシェイルの姿を見て戸惑った。何故なら、今まで食堂で彼を見かけたことがなかったからだ。
「クリス。儂は鍛錬を通してできた新しい友達と食べることにするよ。」
「王子。私はあそこにいる連中と夕食を共にします。」
マクリルとブライアンはそう言って行ってしまった。二人は彼らが気を利かせてくれたのだと理解する。
「…一緒に夕食を摂らないか?」
「…ええ。」
ミシェイルが微笑んで言うとクリスも微笑み返した。
食卓に着いた二人の目の前には具沢山のシチューに薄切り肉、チーズ、柔らかいパン、果物、そしてジョッキになみなみと注がれたエールと、普段より豪華な夕食が並んでいた。早速二人で乾杯し、食べ始める。
「暗い自室に一人で食事するよりも、ずっといいな。」
ミシェイルは顔を綻ばせた。普段は自室に食事が運ばれてくるが、祝日の今日は賑やかで浮かれた雰囲気の食堂で大勢と食事ができるということだった。彼の向かいに座るクリスはそれを聞いて一瞬、痛ましい顔をするが、すぐに微笑んだ。
「ええ。誰かと一緒に食事をするのは楽しいものです。」
「ああ。それがお前なら、尚更。」
ミシェイルがクリスの端正な顔を見つめて、続ける。
「……お前は俺にとって、色彩のないこの灰色の空間でただ過ぎるだけだった時間に差し込んだ光だ。」
それはミシェイルの本心だった。クリスがディールに来てからというもの、彼と過ごす時間はミシェイル自身の未来への諦念を忘れさせてくれた。感謝祭の今日、自身の思いを改めて口にし、二人が出会えた奇跡を天に感謝したかった。
「ミ、ミシェイル…あまり、人前でそういうことを言うのは……」
だがクリスは他の兵士たちに聞かれていないかを確認するように素早く辺りを見回した。マクリルとクリスが要塞に逗留しているのは周知の事実だが、その理由についてはブライアンとジューコフしか知らない。ただでさえ複雑な立場のミシェイルの事情を知られることを懸念してのことだった。
「クリス……」
ミシェイルはクリスの反応に些かガッカリしたものの、慎重になるのも仕方ないと割り切って声を落とした。
「……俺にとって唯一価値があるのは、お前が今、俺の目の前にいるという事実だけだ。」
その囁くような低い声にクリスの頬は一瞬で熱を持つ。
「こ、このシチュー、すごく美味しいですね!具も普段の食事よりずっと多い。」
クリスは頬の熱をごまかすように、シチューを口に運んで大きな声で感想を言った。そんなクリスの様子にミシェイルは思わず、くつりと喉を鳴らして笑った。
「そうだな。年に一度の御馳走だ。ありがたくいただこう。」
ミシェイルも同意し、食事を再開する。周囲の喧騒の中で彼らの会話は誰にも気づかれることなく、感謝祭の夜は更けていった。
―聖夜の誓い―
感謝祭のディナーではサーバーのエールが飲み放題だったため、ついにエールが枯渇する頃には皆、かなり出来上がっていた。ある者は鼻歌を歌い、ある者は肩を組み笑いながら、上機嫌で各々の部屋へと戻って行く。だがそんな中でも。
「王子。そろそろ部屋までお送りします。」
ブライアンは己が職務を忘れてはおらず、頃合いを見てミシェイルの許へとやってきた。
「あっ、じいちゃんは……」
すっかり失念していた祖父の存在を思い出してクリスも腰を浮かせかけるが。
「ああ。マクリル殿なら古参の老騎士ロベール殿と意気投合して自身の部屋で飲み直すそうだ。」
ブライアンに言われ、クリスは『ああ…』と再びすとん、と腰を下ろした。
「ブライアン。……その。これから“廃屋”に行ってもいいか?」
ミシェイルが騎士を見上げて訊く。夕食時、ミシェイルはクリスと旅の話、祖父との思い出、そして将来、戦争が終わったら二人でどんな場所に行ってみたいか、という夢のような話に花を咲かせたものの、恋人らしい時間を過ごせていないことが心残りだった。ブライアンは少し考える素振りをしたが。
「いいでしょう。それでは私も北東の倉庫まで貴方がたをお送りすることにします。」
と言って微笑んだ。
三人は途中でクリスとミシェイルの部屋に寄りランタンと火打石を持ち出し、要塞北東の倉庫へと向かった。外回廊からふと見上げると、澄んだ夜空には星々が白く瞬いていた。
「では私はここで。…良い夜を。」
「ありがとう。君も。」
「おやすみなさい。良い夜を。」
互いに挨拶をして倉庫の出入り口でブライアンと別れ、二人は倉庫から地下道に入り廃屋を目指した。
廃屋は、静かだった。部屋を暖めようと、クリスがまず暖炉の火を起こす。ミシェイルはいつものように異常がないか、家の中を一通りチェックする。それぞれの仕事を終えると小さなダイニングテーブルと椅子を暖炉の傍に移動して、二人で腰を下ろした。
パチパチと薪が爆ぜる音が響くと共に、やがて暖炉の炎が大きくなり、部屋が少しずつ暖かくなってくる。暖炉の炎とテーブルの上のランタンの光が、クリスの柔らかな紺色の髪をオレンジ色に染めていた。彼の存在がミシェイルの胸を重く締め付ける。
「……クリス、お前は十八歳になったばかりだ。このディール要塞で、俺という人質の傍にいるという選択をしたことを、後悔していないか?」
この先も続くであろう軟禁生活は、彼の自由な未来を奪うことになる。以前にも同じことを訊いた際、彼は否定していたものの…その事実は時折ミシェイルの心を襲った。だが。クリスは首を横に振った。彼の瞳には一点の曇りもない。
「いえ…。貴方に会えたことは奇跡にも近いことです。」
「…クリス。」
数か月前、南西の海を臨む丘で。初めてクリスとデートをした。あの日のクリスの頬の赤さ、ミシェイルの胸に灯った温かさは、今でも鮮明に思い出せる。
「……さっき、食堂でも、」
「え?」
「俺は二人が出会えた奇跡を天に感謝したかった。」
「ミシェイル……」
結局のところ、二人とも同じ思いでいたことがわかって、ミシェイルの胸が満たされる。…そして。暖炉の炎に照らされるクリスの端整な貌を見つめていたら触れたくて堪らなくなって。
「奥の部屋へ行かないか?」
思わず口にしていた。まだ室内が十分に暖まったわけではなかったが。
「…ええ。」
クリスがはにかむように答えたのにミシェイルが微笑み、立ち上がると手を差し伸べて。その手を取ってクリスも立ち上がり、互いの肩と腰にごく自然に腕を廻し合い、寄り添う。
ミシェイルは去り際にランタンを一つ持っていき、ベッドサイドテーブルに置くと、腕を身体に廻し合ったまま、二人は並んでベッドに腰掛けた。そのときクリスはベッドの足元に畳んだ毛布があるのに気づき、ミシェイルの腰に廻していた手を伸ばして引き寄せる。ミシェイルも毛布に気づき、空いた手で片側を掴み押さえると、クリスは反対側の端を掴んで広げ、一枚の毛布を二人の肩に掛けてすっぽりと包まった。
「はは、これならあったかいですね。」
「ああ。」
ミシェイルは肩に廻した手で傍らに座るクリスの髪にくしゃりと触れ、クリスは穏やかな瞳でミシェイルの肩に頭を預けた。ミシェイルの指が次にクリスの顎をなぞり、そっと掴んで抱き込むように自分の方を向かせ……唇を重ねた。とうに馴染んだキスは、聖夜の祈りにも似て、静謐で甘かった。
「クリス……次の年も、その次の年も、その次も、ずっと……お前と冬の感謝祭を過ごしたい。たとえそれが戦争という悲劇故に叶わなかったとしても……それを願った今のこの瞬間は永遠だ。」
口づけを解くとミシェイルが言い、クリスは静かに聞き入って彼の言葉の重さを理解した。そして……
「ミシェイル……」
潤んだようにも見える夜色の双眸でミシェイルを見つめ返し、星降る聖なる夜にクリスは彼の温もりの中に沈んだ。
-fin-