宇宙人から好かれています 作:モブ地球人
うわ、人多いな。さすがは休日、多くの人が映画館に訪れているようだ。事前に予約しておいてよかった。専用の発券機で発行するだけなので、チケット売り場の長蛇の列に並ぶ必要がないしとっても楽。
「チケット発行してくるわ」
「ではその間に私達は売店で飲み物とかを買ってきますね」
「うぇー、あれ並ぶの?」
売店には大量の人が並んでいる。見ろ、あれがポップコーンの引力に惹かれた人間達だ。
「ケイくんは何が欲しい?」
「キャラメル味のポップコーンとソーダ」
「はーい」
やっぱりポップコーンと言えばキャラメル味だよね。キャラメル味こそ至高。それに加えて映画館で食べるポップコーンは格別だ。売店に並ぶ価値はあるね。まぁ今日はモモとメアが並ぶんだけど。
券売機でチケットが発行されるのを待ちながら、ちらりと売店に並ぶ2人を見る。楽しそうに談笑しているが、メアはそのうち飽きて並ぶのをやめそうだ。気持ちは分かる。
そしてチケット売り場の方を見るとララ先輩とナナの2人が並んでいる。尾行をやってる人達が堂々と並ぶな。あの2人も映画を見るのか。俺達と同じ作品か、それとも別の作品か。何を見るかはメアが教えていそうだ。
「……ケイ?」
「ん?」
「奇遇ですね」
「おっす」
まさかまさかのヤミと遭遇した。珍しく驚いたような表情をしている。
「こんなところでケイに会えるなんて思っていませんでした」
「俺も。ヤミも映画を見に?」
「はい、気になる映画があったので」
ヤミが手に持ったチラシを見せてくる。メアのペアチケットで見ようとしていた恋愛映画だ。
「ヤミもこういう恋愛映画とか見るんだな」
「はい。最近原作を読んで面白かったので、たまには映画でもと」
「へー、これ原作あったんだな。知らなかった。というかヤミって恋愛ものとか読むんだな」
「はい、その、最近ハマってしまいまして……」
「意外」
「……ケイには分かってもらいたいです」
んー? この恥じらうような、あるいは拗ねるような表情、そしてこの発言……いやー、まさかね? さすがに自意識過剰でしょ。昨日のメアの発言もあり、妙に意識してしまう。
「まあいいです。ちょうどいいのでケイも今から一緒に見ましょう。いずれケイとも一緒に見るつもりでしたから。ペアで使える割引チケットもありますよ」
「んー、相変わらずの強引さ。好きだけど、ヤミのそういうところ」
トランスで伸ばした髪が体に巻き付けられる。このまま誘拐する気だ。髪からはいい匂いがする。これが俺とヤミの恒例行事である。
そして君もペアチケット持ってるんかい。皆揃いも揃って福引して、一体何が景品なのだろうか。
「でも今日は先約があるんだ。許してちょんまげ」
「先約、ですか?」
「そ、デート」
「デート……そうですか、デートですか……そうですか……」
デートという言葉を聞いた途端、ヤミはひどく意気消沈してしまった。しょぼんとした表情になり、俺を拘束する髪からも力が抜ける。
「デートなら、仕方ないですね。……1つだけ、聞かせてください。誰と、いつから付き合っていたのですか?」
「誰とも付き合ってないけど?」
「ん? えっと……」
「嘘じゃないよ。デートしてることも、誰とも付き合ってないことも」
ヤミは困惑の表情を浮かべている。なかなか見られない表情だから新鮮で可愛い。
「それはデートと呼べるのですか?」
「だってメアとモモが『デートって言え』って怒ってくるんだもん」
「ああ、なるほど……」
「納得いった?」
「はい、状況は理解しました。納得はしていませんが」
「うぐっ、苦しい……」
怒りの表情をしながら髪で締め上げられる。周りの人、誰か助けてくれ。そこ、今目を背けた優しそうなパパさん、ヘルプミー。
「私とのお出かけは一度もデートとは言ってくれなかったではありませんか」
「だって言われてない……」
「察してほしかったです。……ケイ達が見る映画を教えてください。私も一緒に見ます。デートの邪魔はしませんから」
「その前に、拘束解いて……苦しい……」
「……」
しぶしぶという様子で拘束が解かれる。
「ふぅ、ありがとさん。見ようと思ってるのはこれとこれ。先にこっち見る」
「2つも見るんですね。時間は?」
「こっちは10:30から。こっちは14:00から」
「わかりました。今からチケット買ってきます」
今からチケット買うのか……席開いてるかぁ? そもそも間に合う?
スタスタと歩くヤミからは少し怒りの波動を感じる。うーん、やっぱりヤミも
「ヤミ、今度2人で出かけようか」
「……いつですか。今ここで予定を決めましょう」
うわ、食いつきすご。ものすごい速さで振り返り、スタスタと戻ってきた。モテモテじゃん俺。人生で一番モテてるかもしれない。
ヤミもメアもモモも皆良い子だし、可愛いし、一緒にいて楽しいし、俺にはもったいない子達ばかりだ。なんで俺のこと好きになってくれたんだろう。やっぱり誠実で真面目でイケメンだからかな。
「明日は空いていますか? 放課後デートしましょう」
「放課後でいいの? 時間短いよ?」
「大丈夫です。少し前に本で読んで実践したくなったので」
「なる」
ヤミは小説や漫画の影響を受けやすい。探偵っぽい決めポーズを決めながら推理をしたり。普段のクールな様子から想像できないくらいオモシロ可愛いオモロな女の子なのだ。ボコボコにされそうだから口が裂けても本人には言えないけど。ト◯コを読んで美食屋になる日も近いかもしれない。
「いいよ。明日は何も予定ないし」
「ありがとうございます。では放課後デートは明日で。プランは私が考えておきますので、行きたいところがあればメッセージで教えてください」
「あいよ」
「デート、デートですから」
「はいはい」
チケット売り場に向かうヤミの足取りは先ほどと打って変わって楽しそうだ。分かりやすい奴だこと。にしてもヤミもかぁ……もちろん俺のことを好いてくれているのは嬉しい。とても嬉しい。だって皆良い子なんだもん。可愛いし。
けど日本の法律に従うと、俺の手では1人しか幸せにできない。俺が日本人である限り、誰か1人を選ぶ責任がある。ふぅ、モテる男は辛いぜ。
それはさておき、まずはこの喉元に突きつけられた刃をどうにかしないとなぁ。
「ケイくーん、言いたいこと、分かるよね?」
普通なら銃刀法違反で捕まりそうなものだが、生憎ここは彩南町である。歩く露出狂ことスーパード変態校長が捕まらないのだから、たかがトランスで刃物を出したくらいでは捕まらないのである。マジであの校長が捕まらないのはなんでなんだ。
「辞世の句考えるからちょっと待って」
「ジセイノク?」
「この前授業でやったぞ」
「え、うそっ、ケイくんで遊んでて聞いてなかったかも」
まぁ嘘だけど。そもそも授業では取り扱ってないし、メアが知らなくてもしょうがない。
「そのジセイノクっていうのはどうでもいいよ。ケイくん、さっき"ほかの女のことは考えない"って約束したばかりだよね」
「だってヤミとバッタリ会っちゃったし」
「おしゃべりしたことは許すよ、相手がヤミお姉ちゃんだし。でもデートの約束をするのは完全にギルティだよ」
「だってヤミが寂しそうだったし」
「むぅ……そーゆーケイくんの優しいところは好きだけどー……」
自分だけに優しくしてほしい、とかそんな感じかな。
「メアってなんでも楽しそうにしてくれるから一緒にいて楽しいし、そういうところ好きだぞ」
「へっ? い、いきなりなに?」
「罰ゲーム。好きなところ言うってやつ」
「あっ、そっか。怒りで忘れてた」
「おっちょこちょいさんめ。そういうところも可愛いぞ」
「わたし、そんなに可愛い?」
「そんなに可愛い」
「やばっ、ケイくん可愛いなんて全然言ってくれないから、嬉しくて頬緩んじゃう……」
確かに、メアには面と向かっては言ってなかった気がする。だって恥ずかしいし。
「ちゅーしよ?」
「ダメ」
「なんでー?」
「付き合ってないから」
「じゃあ付き合お?」
「まだ好きになってないからダメ」
「早く好きになって」
「頑張って」
メアも頑張ってるんだ、簡単には堕とされないぞの気持ちで俺も頑張ろう。まぁ仮に付き合ってたとしても、こんな人の多い場所でキスなんてしないけど。
「もーメアさん! 自分の分は自分で持ってください!」
「もー、モモちゃんは厳しいなぁ」
「その量をモモに任せたの? そりゃ怒るよ」
「だって食べたかったんだもーん」
モモがメアに差し出したトレイには大サイズのポップコーンが2つ。どれだけ食うつもりだ。
「まったくもう……はい」
「えへへ、ありがとモモちゃん」
「ケイさん、こっちが私達2人の分ですよ。私達、2人の」
「わざわざ強調しなくても」
ちなみに罰ゲームの効力はモモに対しても発生しているはずだが、メアは何も言わないし、後回しでいいか。シアターに入ってペアシートに座ってからでいいだろ。
「とりあえず入るか。ほい、メアの分のチケット」
「ありがとー」
「モモは一緒にこのチケットな。あとそれ持つぞ」
「ありがとうございます。では行きましょう」
3人でシアターに入場する。入場するときにちらりと後ろを見たらララ先輩とナナ、それからヤミも一緒に並んでいたので、どうやらチケットは買えた様子。
「じゃ、また後でねー」
「はい、また後で。行きましょうケイさん」
「あーい」
メアと別れ、モモと2人でペアシートに向かう。ふむ、初めて使うが、かなり使い心地がよさそうだ。広い上にフカフカそう。隣の席とはパーテーションで仕切られており、背もたれも高く、周りの目を気にせず過ごせそうだ。
「ケイさんも早く座ってください。ほら早く」
「はいはい」
一足早く腰を下ろしたモモに急かされ、俺も腰を下ろす。あーいいなこれ。家にもほしい。
トレイを座席にセットすると、すぐさまモモが抱きついてきた。うわ、おっぱいデッカ、柔らか。滝行して精神を鍛えなおさないと。
「はぁ、ケイさん……ケイさんの匂い好きです」
「どうした急に」
「ヤミさんともメアさんともイチャイチャしてズルいですよ。私もケイさんとイチャイチャしたいです」
「うわ、見られてた。イチャイチャしてたつもりは一切ないけど」
まぁトランス使ってたし目立つか。
「ちゃんと見えてましたよ。ということで罰ゲームです♪ 私の好きなところ、ちゃんと教えてくださいね」
「大人っぽく振る舞おうとしてるところ。でもまだまだ子供っぽいところが可愛い」
「……それ、本当に好きなところなんですか? あんまり褒められてる気がしないです。あとケイさんには子供っぽいって言われたくないです」
「本当に好きなところだよ。可愛い子好きだし。この花の髪飾りとか似合ってて可愛い」
「はぅっ」
今のセリフ、女たらしっぽくてヤバい。僕は誠実な男です。信じてください、本当です。
「もうっ、ケイさんはいつも私達の心を弄んで……ますます好きになっちゃいますよぅ。あぁ、早くケイさんと結婚したいです」
「すっ飛ばさないで、過程を」
「では付き合ってください」
「まだ好きになってないからダメ」
「早く私達のこと好きになってください」
「うーんデジャブ」
「我慢できないくらい、私もメアさんもケイさんのことが好きなんですよ」
好き好きと抱きついてくるモモに堕とされてしまいそうだ。俺はチョロい男じゃないんだ。助けてくれ。
「そろそろ予告始まるから静かにな。あと抱きつくのは勘弁して、ポップコーン食べづらい」
「ではこうやって腕に抱きつくのは……」
「うーん、まぁこれならいいよ」
右腕でモモの体の柔らかさを感じ、鼻でモモの甘い匂いを嗅がされ、理性が壊されそうだ。あ、でも予告が面白いから何とかなりそう。やっぱり映画館で見る映画はいいな。予告で新しい作品と出会えるのは映画館ならではだ。
「……怖いの、苦手なんですか?」
「嫌い、無理」
「うふふ、ケイさんの意外な弱点発見です♪」
こんな怖いやつ予告で流さないでほしい。びくっとなってしまったではないか。お化けとかマジ無理、勘弁。でも静ちゃん先輩は可愛いからOKです。むしろ大歓迎。毎日俺の前に姿を現してほしい。
お、本編が始まった。開始5分の時点ですでにギャグ全開だ。予想以上に面白い。良い映画だ。
「ふふ、んん……んふっ」
モモは頑張って笑いをこらえているようだ。周りは声出して笑ってるのだから、モモも遠慮しなくていいのに。可愛い奴だ。
映画館で予告を見てる時間楽しい、楽しくない?