よくわかる日本の歴史 ~ただし、原始時代から日本にのみダンジョンがあったものとする~【第三部完】   作:Mr.ティン

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巨鯨と雷鳥の伝承 もしくは離陸シーンは滾るという話

嵐が、海を荒れ狂わせていた。

暗雲が立ち込め、稲光が時折海面を照らす。

波は高く、激しく打ち付け合うようだ。

 

こんな夜、普通の船なら出航することすらできないだろう。

何しろ、大航海時代はまだまだ先の話。

沿岸を伝う様な航路では、岩礁の危険も多い。

こんな夜に船を出そうなど、自殺行為でしかない。

だが、俺にとっては大した話ではないし、むしろ都合がいい位だ。

 

(人目につかないからな……よし、そろそろか)

 

俺は、魔力の流れの中で、ある場所に意識を集中させていた。

荒れる波間。

その深くから、何かが浮上してくる。

 

それは、巨大な影。

 

何も知らなければ、恐らく巨大な鯨のように見えるだろう。

シルエットだけなら、間違ってはいない。

しかし、その体表は分厚いゴムのような特殊な素材に覆われ、生き物とはとても見えないだろう。

 

その実体は……。

 

(鯨型ゴーレム、要塞鯨:フォートレス・ホエール、浮上開始)

 

俺が作り上げた、一種の輸送用ゴーレムだ。

かつて、俺はダンジョンコアを海中でも活動できるように、幾つかのモンスターでテストを行っていた。

その中で、大型の鮫型ゴーレムは、道士徐福や秦の始皇帝に目撃されて、「大鮫魚」の伝説になった経緯がある。

 

(あれは、予想外だったな……)

 

俺は、その後の経緯も含めて思いだし、苦笑する。

あの巨大な鮫型ゴーレムは、予想以上に目立って、結局始皇帝が指揮する軍の矢の雨で損傷し、機能不全になってしまった。

だが、同時にいい教訓になったと言える。

今回のこの鯨型ゴーレムは、その発展形だ。

多少の矢では貫けない表面被膜と、様々な用途に使用できる内部容量。

更に、術師などが使う五行の術、その中でも水行の術を駆使することで、水中で生物とは思えないような機動も可能だ。

 

(サイズは、さらに大きくなったが……それでも、自信作だな、コイツは)

 

都の様子を眺めつつ、時間をかけじっくりと作り上げたこの鯨型ゴーレム。

それが要塞鯨:フォートレス・ホエールだ。

その巨体が今、荒れ狂う海上へ完全に浮上する。

日中であれば、要塞鯨の名前に相応しい威容が見えた筈だ。

小さな島ほどもあり、目立つことこの上ないだろう。

故に、夜間、それも嵐の夜での運用だった。

 

そして、その口が、ゆっくりと開く。

中には巨大な鳥の姿をしたゴーレムが、鎮座していた。

 

(鳥型ゴーレム、暗夜鸛:ナイト・ストーク、頼むぞ……)

 

この暗夜鸛:ナイト・ストークは、空輸を目的として作り上げたゴーレムだ。

魔力がある空域なら、無補給で飛行可能な長距離運搬用として、作り上げている。

更に表面には、魔力の拡散を防止するための特殊な処理が施してある為、魔力が無い地域でも数日は飛行可能だ。

そして今回、その体内には、遠隔で制御可能な試作型コアが存在している。

内陸部の火山に、ダンジョンコアを輸送するのが、今回の目的だ。

 

(目的地に着いたら、鳥の身体ごと火口に入り、地殻エネルギーに接続する……片道の旅だが、頼むぞ暗夜鸛)

 

俺は、システムを確認する。今のところは、問題はない。

今回は、この方式のテストだ。

とりあえず、日本にほど近い大陸側の火山――朝鮮半島の白頭山へコアを移送し、遠隔操作が可能か確かめるのが目的になる。

上手く行けば、今まで手をこまねいていた内陸の火山にアクセスできるようになる筈。

それは、俺に課せられた使命を果たすのに、必要なチャレンジだ。

 

だが……。

 

(師匠! これ、すげえな!!)

 

隣から、スサノオの声が聞こえた。

彼も、この光景を見物しに来ているのだ。

その声は、若々しい興味深さに溢れている。

……その気持ちは、分かる。

 

(だろ? まるで、潜水空母から飛び立つ戦闘機みたいだ)

 

俺は、少し得意げに答える。

生前の世界で見た、潜水空母の映像を思い出す。

巨大な潜水艦から、小型の航空機が発進する光景。

それと、今の状況は似ている。

 

(男のロマンってやつだな!!)

 

スサノオが、興奮気味に言う。

 

(ああ、そうだな)

 

俺も、同じように思う。

こういう、巨大で、複雑で、カッコいいシステムは、男の心をくすぐるものだ。

この方向では、ハルカのノリが今一悪い為、乗ってくれるスサノオの存在が素直にありがたい。

 

(それにしても、夜中の嵐の中でやるなんて、大変じゃないか?)

(人目を避けるためだ)

 

スサノオの疑問に、俺は説明した。

 

(この鳥型ゴーレムは、ダンジョンコアを内蔵しているから、かなり大きい。そして、それを搭載して最も近い海岸まで運ぶ鯨型ゴーレムも巨大だ)

 

確かに、昼間にこれを実施すれば、間違いなく目撃されるだろう。

だから、夜間、しかも嵐の中を選んだ。

視界が悪ければ、見つかる可能性も低い。

 

(なるほどな……見られたら騒がれるよな! 確か昔戦を挑まれたこともあるって聞いたぜ、師匠!)

(……そうならないため、だな)

 

同時に、何時までも海上で待機していても、人目にさらされる可能性は上がる。

俺はこれ以上時間を置く必要はないと、鳥型ゴーレムに最終確認の信号を送った。

 

(さあ、行くぞ)

 

稲光が、海を照らした。

その光の中、鳥型ゴーレムが、翼を広げる。

巨大な翼。

それが、一度大きく羽ばたいた。

 

ゴオオオオッ!

 

風が巻き起こる。

術師達の術式を応用した、風の制御だ。

これにより、戦闘機めいた巨体が、その印象の通り戦闘機の様な機動や急加速が可能なのだ。

そして、鳥型ゴーレムは、鯨型ゴーレムの口から飛び立った。

 

(……離陸成功)

(おおー!)

 

俺は、無事の離陸に安堵し、一方でスサノオは純粋にその飛行に目を輝かせた。

鳥型ゴーレムは、嵐の中を力強く飛んでいく。

その姿は、雷鳴と共に、次第に遠ざかっていった。

 

(すげえ……本当に飛んだぜ!)

(ああ。だが、ここからが本番だ)

 

スサノオが、感動したように叫ぶ中、俺は、魔力の通信を試みる。

海上では、辛うじて魔力による通信が可能だ。

だが、内陸の上空になると、急激に魔力が失われる。

その後は、鳥型ゴーレムの自律制御に任せるしかない。

 

(……頼むぞ)

 

俺は、祈るような気持ちで待った。

時間が、ゆっくりと過ぎていき、ある時通信は、途絶えた。

鳥型ゴーレムは、今、大陸の上空を飛んでいるはずだ。

白頭山まで、無事に辿り着けるか。

 

(……)

 

俺は、じっと待ち続けた。

そして――

 

ピン。

 

微かな魔力の反応があった。

 

(来た!)

 

俺は、すぐに通信を確立する。

試作型コアからの信号だ。

 

(……到達。火口内に設置完了。地殻エネルギー接続、良好……成功だ!)

(やったな師匠!)

 

俺は、思わず拳を握りしめた。

隣でスサノオも喜んでいる。

 

実験は、成功したのだ。

コアの遠隔制御も、地殻エネルギーへのアクセスも、問題なく機能している。

 

(ああ。これで、世界中の内陸部にある火山の制御にも目処が立った)

 

俺は、自信を持って言った。

この鯨型ゴーレムと鳥型ゴーレムを駆使すれば、どんな場所にでもダンジョンコアを運べる。

火山が多い地域、プレート境界、地殻エネルギーが集中する場所。

全てを、制御下に置くことができる。

 

(これで、魔力のネットワークは、さらに強固になるな)

 

俺は、満足げに頷いた。

もっとも、いくつかの問題はある。

破局噴火防止に、海外の火山の地殻エネルギーを制御するのは良いが、その際には魔力が放出されるのだ。

魔力による功罪を考えると、このまま放出するのは問題があるように思えたのだ。

だが、最悪魔力を放出せずコア内に蓄積だけする等の手段はとれるはず。

俺は一旦その問題については、判断を保留することにしたのだった。

 

 

――そして、時は流れる。

 

俺は、この鯨型ゴーレムと鳥型ゴーレムを駆使して、世界中の火山を制御下に置いていった。

 

イタリアのヴェスヴィオ火山。

アイスランドの火山群。

北米の火山地帯。

 

次々と、コアを設置していく。

 

だが、時代がかなり下ったある日、俺は気づいた。

 

巨大すぎるゴーレムたちは、結局人々に見つかっていたのだ。

所謂、海の怪異として。

僅かな目撃者によって、語り継がれ、何時しか名さえ与えられていた。

 

要塞鯨は、『ザラタン』と呼ばれていた。

 

島ほども大きい怪魚。

船乗りたちが、誤って上陸し、火を焚いたところ、それが実は巨大な魚の背中だったという伝説。

 

(……いや、おかしい。流石に上陸はされて居ないはずだ……船乗りだから話を盛ったのか?)

 

ただの伝承かと思ったのだが、調べてみるとその船乗りは、確かに俺が要塞鯨を稼働させた時期に付近の海域に居た形跡がある。

俺は、静かに頭を抱えた。

 

そして、暗夜鸛はといえば、北米での伝説の祖霊、『サンダーバード』と同一視されていた。

 

嵐と共に飛来する、巨大な雷鳥。

その羽ばたきが、雷鳴を呼ぶという伝説。

 

(夜間の嵐の中で飛ばしたから、そう見えたんだろうな……祖霊の伝承は元からあっただろうから、実際に現れたとでも思われたか)

 

俺は、深くため息をついた。

人目を避けるために、夜間の嵐を選んだ。

だが、それが逆に、神秘的な伝説を生んでしまった。

他にも、サンダーバードは鯨を持ち上げるなどと言う伝承もある。

これも、要塞鯨から飛び立つ際の姿を見られていた際に関連付けられたのではないだろうか?

やはり、何処にでも人目と言うものはあるらしい。

だが……。

 

(……まあ、いいか)

 

俺は、諦めた。

伝説になったところで、実害はない。

むしろ、人々が畏れて近づかないなら、好都合かもしれない。

 

(それにしても、ザラタンにサンダーバードか……)

 

俺は、苦笑する。

生前の世界でも、これらの伝説は存在していた。

まさか、この世界では、俺のゴーレムがきっかけになったり同一視されるとは。

 

(この世界、本当に不思議だらけだな……)

 

俺は、改めて思った。

俺が作ったものが、伝説になる。

それもまた、この世界の在り方なのかもしれない。

 

(まあ、火山の制御ができれば、多少は許容範囲か……)

 

俺は、そう結論づける。

 

伝説は伝説。現実は現実だ。

俺の目的は、達成できたのだから、それで、十分だろう。

 

(さて、次はどこの火山を制御下に置こうか……)

 

俺は、世界地図を眺めながら、次の計画を練り始めた。

伝説の怪魚と雷鳥が、今日も世界中を飛び回る。

それを知る者は、誰もいない。

ただ俺だけが、密かに頭を抱えながら、その様子を見守り続けるのだった。




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