よくわかる日本の歴史 ~ただし、原始時代から日本にのみダンジョンがあったものとする~【第三部完】   作:Mr.ティン

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東北地方には、坂上田村麻呂に討たれた鬼の伝承が複数残っている

(まずは、一体目。悪くない流れだが……さて、どうなるものやら)

 

俺は、魔力の流れの中で、大岳丸を倒した後の田村麻呂たちの様子を見ていた。

田村麻呂たちは途中多少の怪我を負ったものの、今は万全に近い状態にまで回復している。

逃げた怪異を追っていた兵達も戻りつつあり、この胆沢の地での戦いには勝利したと言っていいだろう。

 

(とはいえ、先はまだ長いぞ、アマテラス)

 

何しろ、浄化すべき瘴気の塊は未だ残り、怪異の長も残っている。

俺は奥州全体のダンジョンの様子を確認していた。

各地のダンジョンから流れる魔力の流れ、その変化、そして怪異たちの動き。

それらを、全て把握する為に。

 

(アマテラスちゃんは、本当に良い男子と巡り合えたわよね)

 

ハルカが、嬉しそうに言う。

彼女は、高子――アマテラスが、夫である田村麻呂を助ける姿を、熱心に応援していた。

 

(ああ。あの二人は、本当に良い夫婦だな)

 

俺は、ハルカに微笑みかける。

高子が田村麻呂のために奔走し、田村麻呂がその期待に応える。

その姿は、見ていて心温まるものがあった。

この先も困難は続くだろうが、あの二人ならば問題ないだろうと思わせてくれたのだ。

 

また、蝦夷の戦士たち、とくに阿弖流為も素晴らしい武を見せてくれた。

弓の使い手と言うと、かつて秦河勝の名の写し身を操っていた時に見た、物部守屋の強弓を思い出す。

キロ単位で離れた的を正確に射抜いたその技は、今でも鮮明に思いだすことが出来る。

俺が見たところ、阿弖流為は守屋とは別方向で達人と言えた。

遠距離の狙撃はそこまでではないものの、中距離での速射と正確さはずば抜けていて、大岳丸に最後まで突風を使わせなかったのだ。

 

(何時の時代も、強者は居るものだな……)

 

あの妙技を見て、密かに滾るものがあったのは否めない。

だからこそ俺は、神器の分け御霊を事前に用意していた。

田村麻呂に渡す、天羽々斬。高子が操る二振りの剣に宿す、大通連と小通連。

そして……天之麻迦古弓。

 

俺は、小鳥の写し身でアマテラスへ助言したのだ。

阿弖流為にも、神器を授けるべきだと。

 

ただ、あの弓、天之麻迦古弓は扱いが難しい。

扱い方を誤ると、自分の身を亡ぼす元になりかねないリスクをはらんでいる。

それでも、その力は本物だ。

強力な力を持つ怪異の長も、あの弓ならば射抜き倒せる筈。

 

(阿弖流為ならば大丈夫だとは思うが……)

 

今回の胆沢の戦いで、田村麻呂率いる兵と蝦夷の戦士たちには、強大な敵にともに立ち向かった経験を得た。

今も守り抜いた集落で共に活動している為、今後に大きく影響を及ぼすだろう。

 

(こればかりは、完全に俺の知る歴史と変わってしまったな……)

 

俺の生前の歴史では、田村麻呂と阿弖流為の共闘など、在り得なかった。

もっとも、その心情は本来今に近いものだったのかもしれない。

俺の知る歴史では、降伏した阿弖流為を田村麻呂は礼を以って遇して、朝廷へ助命の嘆願も行ったとされている。

しかし、朝廷の軍を一度は打ち破った阿弖流為を、桓武天皇は危険視し、その命令により最後には処刑されてしまう。

 

(この世界で、桓武天皇がどう判断するか……)

 

おれには予測がつかなかった。

 

 

そんな風に考え込んでいた俺なのだが……、

 

スィ~~

(……うん? 何だ?)

 

目の前を通り過ぎるものがあった。

アマタだ。

 

(たいへん! たいへん!)

(こっちにも攻めてくるよ~?)

 

今は、分裂した子供の姿で、慌ただしくこの領域の中を飛び回っていた。

俺たちの息子は、スサノオに指導されながら、分裂した状態で各地のダンジョンの管理を手掛け始めているのだ。

 

(ししょー、ここのダンジョンに怪異が来たよ!)

(よし、こっちは霊鳥を送れ! それから、こっちはこの神獣だ!)

 

スサノオが、アマタ達に指示を出す。

アマタ達は、その指示に従い、霊鳥や神獣といったモンスターをけしかける。

元々瘴気を払い、怪異を追い払うために用意したそれら神獣達だ。

並みの怪異たちでは太刀打ちできるはずもなく、それらのモンスターに追い払われていく。

 

(やったね!)

(よしよし、筋が良いぞ!)

 

アマタの分裂体の一つが、喜びの声を上げ、スサノオがその頭をワシワシとなでる。

あの個体は、特にスサノオになついている子だ。

……いつの間にかスサノオをししょーと呼んでいることから、弟子入りでもしたらしい。

 

その姿を見て、俺は少し安心した。

アマタは、確実に成長している。

ダンジョンの管理という、重要な仕事を、少しずつ学んでいるのだ。

 

ただ、怪異の長は、アマタが操るモンスターでは力が足りない。

 

(あれらは、瘴気の浄化に特化しているからな……)

 

勿論並みの怪異なら容易く倒せる力はあるし、怪異の力の源である瘴気を浄化するので強力な対抗策ではあるのだが、如何せん怪異の長達は強すぎる。

その為、それらに対しては、スサノオが鬼の写し身で追い払っている状況だった。

実際、蔵王の神域にあるダンジョンに押し寄せた大猛丸に対して、神獣では手も足も出なかった。

その身にまとう雷が強力過ぎて、近寄る事さえできなかったのだ。

 

(……まあ、スサノオの相手にはならなかったが)

 

俺は、呟いた。

スサノオは、各地を飛び回り、怪異の長たちを追い払っている。

先にスサノオに追い払われた大猛丸は、蔵王山から逃げた後、傷を癒しているのか、動きを見せていない。

だが、今、新たに動きがあった。

 

(こいつは……豪雨を操る大武丸か。この方向は、出羽の国のダンジョンを狙おうとしているみたいだな)

 

奥州つまり宮城県側に、田村麻呂たちは居る。

しかし、日本海側はそれと比べ手薄と言っていいだろう。

こちらも朝廷と蝦夷が瘴気を浄化しているのだが、田村麻呂たちほどの英雄は居ない。

その隙を突こうというのだろう。

とはいえ、それも徒労に終わってもらうのだが。

 

(スサノオ、出羽に大武丸が向かったぞ。恐らくは、出羽三山の霊域のダンジョンを狙っている)

(了解だ、師匠! じゃあ、ちょっと行ってくるからな、アマタ。後は任せたぞ!)

(わかったよ、ししょー!)

 

俺は、スサノオに念話で伝えると、スサノオが、即座に応答し、出羽の国へと急行する。

後を任されたアマタは、幼い顔を出来る限りにキリっと引き締めると、その他のダンジョンに押し寄せる怪異を適切に処理していく。

 

(……大武丸はこれで問題は無いか)

 

二人の様子を微笑ましく思いつつ、俺はここは任せて問題ないと、視点を変えた。

 

……問題は、残る最後の怪異の長だ。

俺は恐山の方角を見る。

 

悪路王。

 

全ての怪異の王と呼ばれる存在。

それが、恐山から動かない。

ただじっと、まるで何かを待っているかのように。

 

その様子に、俺は不気味なものを感じていた。

 

(何を企んでいるんだ……?)

 

悪路王の意図が、読めない。

何らかのたくらみがあるとは思うのだが……さて。

 

(……こんな時は、ツクヨミの意見も聞きたいところだが……うん?)

 

その時、ふと気づいた。

 

(そういえば、最近ツクヨミの姿を見ていないな?)

 

俺は、首を傾げた。

高子――アマテラスが、これほどに活躍している。

夫である田村麻呂との仲も、実に良好だ。

それなのに、やけに静かだ。

あの色々と手遅れなツクヨミが、なぜこうも静かでおとなしいのか?

普段なら、何か言ってきそうなものなのに。

 

(……ハルカ、ツクヨミを見なかったか?)

(そういえば……最近、見ていないわ。ツクヨミちゃん、何処に行っちゃったのかしら?)

 

俺はハルカに訊ねるが、ハルカも不思議そうに首をかしげるばかり。

いや、確かにアマテラスが写し身で地上に降り立ってから、ツクヨミはことあるごとに暴れていた。

その度にスサノオに取り押さえられ、黙らされたりしていたので逆に静かな事が普通となってしまっていたのだ。

つまり、慣れとは恐ろしいという事になる。

 

とはいえ、今行方を知っていそうなスサノオは居ない。

他に行方に詳しそうなものと言うと……。

 

(ああ、あの子がいたか)

 

アマタの分裂体の一人は、いつもツクヨミの顔にへばりついていた。

その子ならば行方を知っているかと思い、俺は訊ねることにした。

 

(アマタ、ツクヨミはどこにいる?)

(ツクヨミおにい? それなら、都にいるよ!)

 

アマタが、無邪気に答えた。

 

(都へ? 何をしているんだ?)

(えっとね、『姉上が都で暮らしているなら、私もお傍で!』だって。ちょっとまえの事だよ?)

(なん……だと……?)

(あらまあ、ツクヨミちゃんも元気ねえ)

 

アマタの言葉に俺は驚愕し、ハルカはのんびりとほほ笑んだ。

慌てて都を確認しようと、魔力の領域に都の様子を映し出す。

そこから、魔力の流れを辿り、ツクヨミの気配を探すと……。

 

(見つけた。この屋敷か?)

 

都のある貴族家に、ツクヨミの気配があった。

その屋敷内を映し出すと、乳母らしき女官に育てられている赤ん坊が居る。

ツクヨミは、何をどうやったのか、その家の子として育てられていた。

 

(何をやっているんだ……まさか、アマテラスに育てられようと画策した訳じゃないだろうな?)

 

俺は、呆れた。

ツクヨミは、赤ん坊の状態から育てられている。

だから、静かだったのだ。

 

恐らく、貴族家の前などに赤ん坊の写し身を作って捨てられた風を装った、と言った流れだろうか。

慈悲深い、田村麻呂の事だ。うっかり捨て子を見れば、拾いかねないというのは理解できる。

恐らく田村麻呂が良く行き来する道端に捨てられた風を装ったりもしたのだろう。

過去を調べてみれば、実際予想の通りで乾いた笑いが勝手に溢れだした。

 

(理解はできるのだが……流石に拗らせ過ぎだろう……)

 

その上、恐らくタイミングが悪かった。

ツクヨミが降り立ったのは、奥州出征の前後だったのだ。

その時点でダンジョンコアから意識を写し身に移したツクヨミは、田村麻呂と共にその妻も奥州に向かった事に気づけない。

高子の現状を、知らないのだ。

 

(アナタ的に言うと、策士策に溺れる、と言うのかしら?)

 

ハルカも流石に苦笑し、俺も、何をやっているのかと呆れはてる。

何しろ、ツクヨミが拾われた家は、坂上家ですらないのだから。

その証拠に、世話を受けているツクヨミこと赤ん坊の顔は、何とも不機嫌そうなのだ。

 

(……まあ、高子と田村麻呂の熱愛ぶりを見て、暴れられても難儀だ。今はこのままでいてもらうか)

 

このまま放置しておくのが、賢明かもしれない。

俺は、その様に決めた。

 

ただ、そうなると、今度はツクヨミを拾った貴族家が気になってくる。

 

(この家は……ほほう、小野家なのか)

 

調べてみると、遣唐使として唐に渡った小野妹子を祖先に持つ、名家だった。

遣唐使を任されたほどの家柄と考えると、知的なツクヨミとは相性がいいように思える。

 

実際、ツクヨミは相応に可愛がられて居る様だ。

赤ん坊の世話をする乳母たちの表情は明るく、和やかに談笑を交わしている。

 

「篁様、お元気ですね」

「ええ、本当に。こんなに元気な赤子。それにとても聡明そうなお顔だこと」

(篁……? 小野篁、か?)

 

俺は、その名に何となく聞き覚えがあった。

データベースを調べて見ると、直ぐにその詳細が分かった。

小野篁は、あの小野小町の父、あるいは祖父とされる人物なのだ。

 

さらに、様々な伝承を伝えられている。

優秀な学者であり、詩人であり、官僚。

だが、同時に、変人的な逸話も数多い。

反骨精神にあふれ、遣唐使になれと言う天皇の命さえも断って、流刑に処されたこともあるというのだから、ホンモノだ。

更に閻魔大王の補佐官を務めたとか、昼は朝廷で働き、夜は地獄で働いたとか、そんな伝説さえ残されている。

 

(……ツクヨミらしいな)

 

俺は、思わず笑った。

ハルカも、くすくすと笑っている。

 

(本当に、ツクヨミちゃんらしい……)

(ああ。でも、きっと面白い人生を送るだろう)

 

俺は、そう思った。

ツクヨミが、どんな人生を歩むのか、それはそれで、楽しみだ。

 

ただ、その為にも……奥州に平和が齎される必要がある。

俺とハルカは、再び奥州の状況を見守り始めた。

 

胆沢の戦いの戦後処理を終えたらしい田村麻呂たちは、次なる相手を定めたようだ。

その相手は、スサノオに追い払われた大猛丸。

高子なら、逃げた大猛丸の行方も見通せたのだろう。

阿弖流為も、神弓を手に、共に戦う覚悟を決めている。

 

(……みんな、無事に、戦い抜いてほしいわ)

(そうだな……きっと、大丈夫だ)

 

ハルカが、祈るようにつぶやき、俺は頷く。

 

田村麻呂と高子、そして阿弖流為。

神器を手にした彼らなら、きっと乗り越えられる。

俺たちは、その無事を祈りながら、その行方を静かに見守るのだった。

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