よくわかる日本の歴史 ~ただし、原始時代から日本にのみダンジョンがあったものとする~【第三部完】   作:Mr.ティン

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久々の授業回です。


とある学校の日本史授業風景 13コマ目 平安時代③

初夏の日差しが、窓から教室に差し込んでいた。

午前の熱気が、少しずつ教室を温めている。

昼前の授業。生徒たちは、やや疲れた様子だが、真面目に授業を聞いていた。

 

「では、今日は平安時代中期の大きな転換点について学ぶ」

 

教師の三上が、黒板に文字を書き込んでいく。

『承平・天慶の乱』そう書き終えると、三上は生徒たちに語り始めた。

 

「この乱は、10世紀前半に起きた二つの反乱を総称したものだ。一つは東国での平将門の乱。もう一つは西国での藤原純友の乱」

 

教師が、地図を黒板に貼った。

日本列島が描かれ、東と西に印がつけられている。

 

「まず、なぜこの時期に、こうした乱が起きたのか。その背景を理解する必要がある」

 

教師は、黒板に箇条書きを始めた。

 

『背景』

・朝廷の財政悪化

・国司の私的収奪

・荘園の拡大

・地方豪族・武士の自立化

 

「平安時代中期、朝廷の財政は悪化していた。なぜか?」

 

教師が、生徒たちを見回した。首をかしげる生徒が多い中、おずおずと芦原が手を挙げた。

 

「よし、芦原。」

「荘園が増えて、税収が減ったからですか?」

「その通り。荘園は、貴族や寺社が持つ私有地だ。そして、多くの荘園は不輸不入の権を持っていた。つまり、税を納めなくていいし、国司も立ち入れない」

 

教師が、黒板に図を描いていく。

 

「こうして、朝廷の税収は減っていった。すると、朝廷は何をするか?」

「税を上げるんですか?」

 

視線を向けられた坂上が自信なさげに告げると、三上は頷いた。

 

「そうだ。だが、税を上げられるのは、荘園ではない公領だけだ。そして、その徴税を任されたのが、国司だった」

 

教師はさらに続けた。

 

「国司は、地方に赴任する役人だ。だが、彼らは必ずしも真面目ではなかった。むしろ、私腹を肥やす者が多かった」

「私腹を肥やすって、どういうことですか?」

「税を過剰に取り立てて、その一部を自分のものにする。あるいは、賄賂を要求する。こうした国司を、『受領』と呼ぶこともある」

 

前列の生徒の疑問に、三上は答え、さらに解説していく。

 

「そして、こうした国司の横暴に、地方の豪族たちは反発した。彼らは、自分たちの土地を守るため、武装し始めた」

 

教師は黒板に『武士の自立化』と書き記す。

 

「結果、地方では武士が台頭してきた。朝廷の支配力が弱まり、地方の自立性が高まった。これが、承平・天慶の乱の背景だ」

 

すると、稲沢が手を挙げ、尋ねる。

 

「そういえば、武士って、結局どんな人たちなんですか?」

「……うん、良い質問だな。では、そこから解説しよう」

 

稲沢の質問が気に入ったのか、三上は頷きながら黒板に書き記していく。

 

「後々まで日本の歴史に影響を及ぼすのが、武士だ。その始まりと言うべき、この時代の武士は、元々は地方の豪族だった」

 

三上の言葉と同時に、鎧に身を包んだ武士のイラストが黒板に描かれていく。

なかなか上手く描かれていて、生徒たちがそれに目を奪われる中、三上の解説は続いた。

 

「彼らは、開拓した土地を持ち、それを守るために武装した。そして、一族郎党を率いて、集団を形成していったわけだ」

「へえ、やっぱり、武装するから武士なんだ」

「その認識でも、大きくは間違っていないな」

 

生徒たちの様子を確認し、三上は今回の授業の本題に入っていく。

 

「では、具体的に平将門の乱について見ていこう」

 

教師が示した資料集のページには、ある武者の肖像画が掲載されていた。

そこには、『平将門』の題が記されている。

 

「平将門は、桓武平氏の一人だ。桓武天皇の血を引く、皇族の末裔だな」

「すごいですね、皇族の子孫なのに、反乱を起こしたんですか?」

 

坂上が、驚いた様子で言い、三上は頷く。

 

「そうだ。だが、将門にとっては、それが当然だったのかもしれない」

 

三上が、黒板に乱の流れを記していく。

 

『930年代半ば:将門、伯父・平国香と対立』

『930年代後期:将門、新皇を称する』

『940年代初頭:将門、藤原秀郷・平貞盛に討たれる』

 

一通り書き終えた教師は、生徒へと向き直った。

 

「将門の乱は、最初は身内の遺領争いから始まった」

「遺領争い?」

 

漢字が浮かばなかったのか、定原が首をかしげる。動揺する生徒たちにもわかるように、『遺領』と書き記しながら、三上は続けた。

 

「ああ。将門の父、平良将が亡くなった後、その遺領をめぐって、将門と伯父の国香が争った。国香は、将門が都で過ごしていた間に、遺領の多くを手に入れていたんだ」

「それは……ひどいですね」

 

坂上が、呟く。

 

「将門もそう思ったのだろう。彼は、国香と戦い、これを討った。だが、それで終わらなかった」

 

三上はさらにその後を語っていく。

 

「国香を討ったことで、将門は他の一族とも対立した。そして、周囲の豪族も巻き込んで、戦いは拡大していった」

「なんで、そんなに拡大したんですか?」

 

別の生徒が尋ねる。

 

「当時の関東は、開拓が進んでいた地域だ。新しく開拓した土地をめぐって、豪族たちは常に競争していた。そこに、将門という強力な武者が現れた。ある者は将門に従い、ある者は将門に対抗した」

 

三上が、地図を指した。

 

「そして、将門は国司とも対立した。国司を追放し、関東一円を支配下に置いた」

「それで、新皇を名乗ったんですか?」

「そうだ。将門は『新皇』を称した。これは、朝廷にとって許せない行為だった」

 

三上が、当時の朝廷の反応を語っていく。

 

「新皇というのは、既存の天皇とは別の天皇を名乗るということだ。これは、朝廷の正統性を否定する行為だ」

「だから、朝廷は将門を討とうとしたんですね」

 

定原が、納得した様子で頷く。

 

「その通り。だが、朝廷の官軍が関東にたどり着く前に、将門は討たれた」

 

三上が、『藤原秀郷』『平貞盛』、二名の名を黒板に書いていく。

 

「藤原秀郷は、下野の武士だ。大百足退治の伝説で有名だな。平貞盛は、将門に討たれた国香の子だ」

「父の仇討ちってことですか」

「そうだ。貞盛にとっては、父の仇だった。そして、秀郷は朝廷の命を受けて、将門討伐に向かった」

 

三上が、続けた。

 

「940年代初頭、下総で両軍が激突した。激しい戦いの末、将門は秀郷に討たれたとされている」

「将門はどうなったんですか?」

「都に送られ、斬首されたと記録されている」

 

坂上が興味深そうに尋ね、三上は答える。

 

「だが、将門には多くの伝説が残っている。首が空を飛んで坂東に戻ったとか、愛馬が首を運んだとか」

「本当なんですか?」

 

そして、三上は少し間を置いて、将門についての逸話にも触れた。

珍しく久留間が質問するが、三上は首を振りながら釘を刺す。

 

「いや、それは伝説だ。史実としては確認できない」

 

三上はふと窓の外に視線を向け、とうとうと歴史についての心構えを語った。

 

「歴史を学ぶ上で大事なのは、史実と伝説を区別することだ。伝説は面白いし、当時の人々の心情を知る手がかりにもなる。だが、それを史実として扱ってはいけない」

 

その言葉に、生徒たちは自然と頷いた。

 

「ただし」

 

三上は、続ける。

 

「将門が後に『坂東の守護神』として信仰されたことは、史実だ。将門を祀る神社は、今でも関東各地にある」

「なんで、反乱を起こした人が、神様になったんですか?」

 

女子生徒の一人が、尋ねた。

 

「それは、将門の怨霊を恐れたからだとも、坂東の人々が将門を英雄として讃えたからだとも言われている。明確な答えはないが、将門が人々の心に強い印象を残したことは確かだ」

 

三上が「現代でも神事や祟りの際に顕現すると言われることがある」と続けると、生徒たちの背筋に冷たいものが走った。

そんな生徒たちをよそに、三上の講義は続いた。

 

資料集がめくられると、新たな歴史画が現れる。今度は、船の絵だ。

 

「では、次に藤原純友の乱について見ていこう」

 

三上が、黒板に年表を書いていく。

 

『930年代末期:純友、淡路・讃岐を襲撃、難波に拠点を建設』

『940年代初頭:純友、大宰府を攻略』

『同年:博多湾の海戦で敗北、捕縛される』

 

書き終わった三上は、今度はもう一つの乱について、首謀者から解説を始めた。

 

「藤原純友は、藤原氏の一人だ。だが、彼は地方官吏として伊予に赴任した」

「地方官吏……出世コースじゃないってことですか?」

 

坂上が尋ね、三上は頷く。

 

「そうだな。藤原氏であれば、本来は都で要職に就くべきだった。だが、純友は早くに父を亡くし、一族の主流から外れていた」

 

三上が、説明を続ける。

 

「そして、純友は伊予で海賊取り締まりを任された。だが、いつしか彼は海賊を取り締まるのではなく、海賊を率いる立場になっていた」

「どうして、そうなったんですか?」

 

芦原の疑問に、三上も困ったように眉根を寄せた。

 

「詳しいことは、史料が少なくて分からない。ただ、純友が朝廷に不満を持っていたこと、海賊たちを掌握する力があったことは確かだ」

 

三上が、地図を指し示す。

 

「純友は、瀬戸内海を拠点に、千艘近い船団を率いていたと言われている。そして、930年代の末に、淡路や讃岐を襲撃し、更には都に近い難波に拠点を築いた」

「将門と同じ時期ですね」

 

坂上の指摘に、三上は満足そうに頷く。

 

「その通りだ。将門の乱と純友の乱は、ほぼ同時期に起きた。これが、朝廷を大いに困らせた」

 

三上が、黒板に図を描いた。

 

「朝廷は、東と西の二正面作戦を強いられた。だが、先に将門が討たれたことで、純友に戦力を集中できるようになった。対将門の戦に、朝廷の軍そのものは温存できたのも大きかったようだ」

「それで、純友はどうなったんですか?」

 

定原の疑問に、三上は資料を示す。

 

「純友は、一時は大宰府を陥落させるなど、勢いがあった。だが、最終的には博多湾での海戦で敗れた」

 

示された資料には、海戦の様子が描かれていた。

 

「朝廷軍を率いたのは、小野好古と源経基だ。彼らは、海戦で純友の船団を破った」

「源経基……」

「ああ、源経基は後の清和源氏の祖だ。有名な源頼朝や源義経の先祖だな」

 

有名な人物との関わりで生徒が興味を持つ中、三上はしかし困ったような顔を浮かべる。

 

「ただ、純友の最後はあまりはっきりとはしていない。捕らえられたのは確かなようだが、明確な記録に残っていないようだ」

「そうなんですか? 意外ですね」

「これについては諸説あるが……藤原氏の一人が首謀者ということで、政治的配慮があったという説が有力な程度だな」

 

もしくは、将門の印象がよほど強すぎたのか、と三上は零しつつ、黒板の『承平・天慶の乱』と書いていく。

 

「この二つの乱を合わせて、『承平・天慶の乱』と呼ぶ。これは、10世紀前半の全国的な動揺を示す事例だ」

 

三上が、黒板に『承平・天慶の乱の意義』と記しつつ、生徒たちに問いかける。

 

「この乱を通じて、何が変わったか?」

「……武士が強くなった?」

 

芦原の答えに、三上は頷く。

 

「その通り。将門を討った藤原秀郷や平貞盛、純友を討った小野好古や源経基。彼らは、武士として名を上げた」

 

そして以下を記していく。

・地方の自立性の高まり

・中央の統制力の低下

・武士の台頭

 

「そして、彼らの子孫が、後の時代に大きな役割を果たすことになる」

「源平合戦ですか?」

「そうだ。源経基の子孫が清和源氏となり、源頼朝が鎌倉幕府を開く。平貞盛の子孫が伊勢平氏となり、平清盛が台頭する」

 

三上が、黒板に記したのは、系図だ。

『源経基 → 清和源氏 → 源頼朝』

『平貞盛 → 伊勢平氏 → 平清盛』

 

「つまり、承平・天慶の乱は、後の武士の時代への第一歩だったと言えるだろう」

「なるほど……」

 

生徒たちが、感心した様子で頷いた。

 

「ただし、この時点では、まだ武士は地方の存在だった。中央では、藤原氏による摂関政治が確立していく」

 

三上が、黒板に『摂関政治』と書いた。

 

「藤原氏は、天皇の摂政や関白となり、実質的に政治を支配した。そして、荘園を拡大し、経済的な基盤を固めた」

「じゃあ、武士はまだ弱かったんですか?」

「地方では強かったが、中央では影響力がなかった。武士が中央で力を持つのは、もっと後の時代だ」

 

坂上の疑問に対して解説した三上。そしてまとめるように、それ以外の時代の様子を語り始める。

 

「だが、この時代に武士という存在が確立したことは、重要だ。そして、地方の荘園公領制も、この時代に発展していく」

「荘園公領制って、何ですか?」

「荘園と公領が混在する土地制度だ。荘園は私有地、公領は国の土地。この二つが複雑に入り組んでいた」

 

定原の疑問に対し、三上が図で解説していく。

 

「そして、荘園の領主は貴族や寺社、公領を管理するのは国司。彼らが、それぞれの土地から利益を得ていた」

「複雑ですね」

「そうだな。だが、この制度が平安時代後期から鎌倉時代にかけての基本的な土地制度となる」

 

三上が、時計を見た。

 

「さて、時間が押してきたな。本当は国風文化についても話したかったが……」

 

予鈴が鳴った。

 

「ああ、予鈴か。では、次回は国風文化について学ぶ」

 

三上が、黒板に書いた。

 

『次回:国風文化(源氏物語、かな文字、大和絵など)』

 

「予習しておくように。特に、源氏物語については、簡単でいいから概要を調べておくといい」

 

生徒たちが、ノートを閉じ始めた。

 

「では、今日はここまで。質問があれば、休み時間にでも聞きに来てくれ」

 

三上が、教材をまとめ、教室を出ていった。

教室に、ざわめきが戻ってくる。その中で、稲沢は芦原に語りかけた。

 

「将門の首が飛んだって、本当かな」

「伝説だって、先生言ってたじゃない」

 

芦原が笑い、坂上も話題に乗る。

 

「でも、面白いですね。馬が首を運んだとか」

「武士の時代か……」

 

定原の呟きに頷く久留間。

 

「興味あるんですか?」

「ああ。武士がどうやって台頭していったのか、気になる」

「次の授業も楽しみですね」

 

坂上が笑う中、昼休みのチャイムが鳴る。

生徒たちは、それぞれ弁当を取り出し始めた。

窓の外では、初夏の日差しがまぶしく輝いていた。




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