よくわかる日本の歴史 ~ただし、原始時代から日本にのみダンジョンがあったものとする~【第三部完】 作:Mr.ティン
今日中に何処まで書き溜められるかが勝負ですね……
【源頼光】
拙者は、父、満仲に呼ばれて、その居間に向かった。
父は、厳格な顔でそこに座っていた。
「頼光、お前に頼みたいことがある」
「何でしょうか、父上」
父の声は、いつになく重々しかった。
拙者は、居住まいを正して尋ねた。
「東国に、怪異の集団が現れている」
父は、そう切り出した。
「その頭目は、丑御前と名乗る女怪異だという」
丑御前、か。
拙者は、その名を初めて聞いた。
「その者たちを、討ってもらいたい」
父の言葉に、拙者は頷いた。
「承知しました。拙者と四天王で、必ずや討ち果たします」
拙者がそう答えると、父は少し複雑な表情を浮かべた。
「頼光……この件には、儂の過去の過ちが関わっている」
父の言葉に、拙者は目を見開いた。
「過去の、過ち……ですか?」
「ああ。お前に話しておかねばならぬ」
父は、深く息を吐いた。
「儂が、まだ若く未熟だった頃の話だ」
【源満仲】
儂は、若き日、常に焦燥感に苛まれていた。
父、経基は、平将門の乱の折に功を上げ、清和源氏の名を高めた。
その武勇と功績は、今も語り草となっている。
だが、儂はどうだ。
藤原純友の乱で、確かに功はあった。
しかし、父ほどの輝かしい功名は、まだ得ていなかった。
(このままでは、父を超えられぬ……清和源氏の頭領として、相応しくない……)
儂は、そんな焦りに駆られ、日々苦悶していた。
そして、儂は決意した。
怪異を討って、名を上げる。
それが、最も確実な道だと。
儂は、東国に怪異が多く出没しているという情報を得た。
密かに、僅かな従者だけを連れて、東国へと向かった。
最初に出会ったのは、山賊のような獣の混人たちの群れだった。
彼らは人里を襲い、略奪を繰り返していた。
「源満仲、参る!」
儂は、彼らに斬りかかった。
儂の剣技は、既に一流だった。
混人たちは、儂の前に次々と倒れていった。
次に、川の近くで人を襲う水の怪異の群れを討った。
そして、山奥に潜む鬼のような怪異たちも、儂は倒していった。
(これで、功を上げられる……)
儂は、討った怪異たちの証を集めながら、次の獲物を探した。
そして、ある森の中で、一つの怪異の群れを見つけた。
牛や馬の混人たちを中心とした、比較的大きな集団だった。
儂は、彼らに襲いかかった。
だが、この集団は、今までの怪異たちとは違っていた。
組織立って動き、儂を取り囲もうとする。
激しい戦いの末、儂は何とか優勢に立った。
怪異たちは、次々と倒れていく。
その時、一人の女が儂の前に跪いた。
牛の角を持つ、美しい女だった。
「お助けください……命だけは……」
女は、必死に命乞いをした。
儂は、剣を構えたまま、女を見下ろした。
(討つべきか……)
だが、女の必死な様子に、儂は躊躇した。
女には、他の怪異たちとは違う、何か人間的な情があるように見えた。
「……立て」
儂は、剣を下ろした。
「今回は見逃す。だが、二度と人を襲うな」
儂の言葉に、女は深く頭を下げた。
「ありがとうございます……ありがとうございます……」
女は、涙を流していた。
儂は、その場を立ち去ろうとした。
その時、森の奥から、一人の男が現れた。
鬼のような角を持つ、威圧的な風貌の男だった。
「待たれよ、源満仲殿」
男は、儂を呼び止めた。
「お前は……」
「儂は、この者らの長を務める者だ」
男は、深々と頭を下げた。
「先ほどは、我らが無礼を働いた。お詫び申し上げる」
男の態度に、儂は警戒を緩めなかった。
「何の用だ」
「実は、お願いがある」
男は、先ほど助けた女を手招きした。
「この者を、交渉役として遣わす。我ら怪異の集団、そなたに降りたい」
男の言葉に、儂は目を見開いた。
「儂に、降る……だと?」
「左様。そなたの武勇は見事であった。我らは、そなたの配下となり、その力になりたい」
男の提案は、儂にとって渡りに船だった。
(怪異の集団を配下にできれば、大きな力となる……)
儂は、少し考えた。
「条件がある。人を襲うことは、一切許さぬ」
儂の言葉に、男は頷いた。
「承知した。我らは、そなたの指示に従う」
こうして、儂は怪異たちと行動を共にするようになった。
だが、それが、全ての始まりだったのだ。
怪異たちは、儂に従順だった。
彼らは、他の怪異を討つ際にも協力してくれた。
儂の功績は、着実に積み上がっていった。
そして、交渉役として遣わされた女怪異が、儂の世話を焼くようになった。
「満仲様、お疲れではございませんか?」
女は、常に儂の傍にいた。
最初は、単なる交渉役だと思っていた。
だが、次第に、女との距離が近くなっていく。
女は、儂の苦悩を理解しているかのように、優しく接してくれた。
労いの言葉、励ましの言葉。
儂は、女に心を許していった。
そして、ある夜、儂は女と関係を持ってしまったのだ。
愚かだった。
今思えば、全てがその時から狂い始めていた。
女との日々は、儂にとって安らぎだった。
だが、それは長くは続かなかった。
ある日、女が深刻な顔で儂のもとに来た。
「満仲様……お話があります」
女の様子が、いつもと違った。
「どうした?」
「満仲様、私……身ごもりました」
女の言葉に、儂は驚いた。
「何……だと……?」
「はい。満仲様の子を」
女は、複雑な表情を浮かべていた。
喜びと、そして何か苦悩のようなものが入り混じっていた。
「それは……」
儂が言葉を探していると、女は続けた。
「満仲様、実は……お伝えしなければならないことがあります」
女の声が、震えていた。
「我ら怪異の長の、真の目的は……源氏の血、ひいては帝の血を取り込むことなのです」
女の告白に、儂は凍りついた。
「何……だと……?」
「満仲様の血を引く子が生まれれば、その子は源氏の血を持つ者。帝の血筋に連なる者となります」
女は、涙を流しながら続けた。
「その子を旗頭として、我ら怪異は人の世に影響を及ぼす。それが、長の目論見なのです」
「なぜ、今それを……」
儂は、愕然とした。
(儂は……利用されていたのか……!)
儂が問うと、女は泣きながら答えた。
「私は……満仲様に情が湧いてしまったのです。こんなことで満仲様を利用するのは、耐えられません」
女は、儂の手を握った。
「どうか、逃げてください。このままでは、満仲様は利用され続けます」
女の必死の訴えに、儂は正気を取り戻した。
このままでは、功名どころか、源氏に、帝に、取り返しのつかぬ汚名を残すことになる。
それは何としても避けねばならなかった。
「分かった。儂は、ここを去る……そなたも共に参れ」
俺は女に告げるが、女は悲し気に首を振った。
「無理なのです……私は、長の呪に縛られています。逃げられないのです」
そう言って着物の裾を上げた女の足には、いつの間にか鎖の如き瘴気がまとわりついていた。
「満仲様に真実を明かした為、呪が強まりました。じきに、長には知られてしまうでしょう」
「そうか……その子は、儂の子だ。だが、儂はもう、ここには戻れぬ……」
「いえ……そのお言葉だけで、十分です」
儂は、苦渋の決断をした。
「すまぬ……」
儂は、女に謝罪した。
「いえ……私こそ、満仲様を騙していました。本当に、申し訳ございません」
女は、深く頭を下げた。
「せめて、逃げる時間を稼ぎます。どうか、お早く」
女の助けで、儂は集落から逃げ出すことができた。
女は、儂の逃亡をしばらく隠してくれたのだ。
だが、長たちは儂を追わなかった。
目的は、既に達成されていたからだ。
【源頼光】
父の話を聞いて、拙者は言葉を失った。
父の過去に、その様な事があったとは……。
父は、苦渋に満ちた顔で告げた。
「そして、その女が産んだ子が……丑御前なのだ」
「……」
「丑御前は、儂の娘。そして、頼光、お前の姉にあたる」
拙者の、姉……。
「儂は、その事実を隠してきた。お前にも、誰にも言わずに」
父は、深く頭を下げた。
「許してくれとは言わぬ。だが、この過ちを、正さねばならぬ」
父の言葉に、拙者は複雑な思いに駆られた。
「丑御前は、現在、怪異たちの旗頭となっているとの知らせが入った。源氏の血を引く者として、彼らに担がれているのだ」
父は、拳を握りしめた。
「このままでは、源氏の名に、帝に、泥を塗ることになる。だから……」
「拙者に、討てと」
拙者は、父の言葉を継いだ。
「……すまぬ。既に衰えた儂では、この手で事を成せぬのだ」
父は、そう言って、再び頭を下げた。
拙者は、深く息を吐いた。
「承知しました。拙者が、参ります」
拙者は、そう答えた。
父の過ちを、拙者が正す。
それが、嫡子としての務めだ。
……だが、拙者の心には、重いものが残った。
拙者は、金時たち四天王を集めた。
「東国に、討つべき怪異がいる」
「おう! 任せとけ! 何処のどいつだ?」
拙者は、皆に告げると、金時が、元気よく答える。
一方で渡辺綱は、拙者の様子に何かを感じたようだ。
「しかし、頼光様、何か思い詰めておられるようですが」
「……ああ」
勘の鋭いものも居る以上、隠し通す事は出来まい。
拙者は、皆に事情を話すこととした。
父の過去のこと。
そして、丑御前が拙者の姉にあたること。
「なんと……」
綱も、驚きを隠せない様子だった。
そんな中、金時が、力強く言う。
「オイラたちは、頼光様に従います!」
「ああ。だが、拙者には迷いがある」
拙者は、正直に告白した。
「まかりなりにも、拙者の姉にあたる者を、この手で討てるのか……」
拙者の言葉に、皆は沈黙した。
その時、卜部季武が口を開いた。
「頼光様、拙者からの忠言をお許しください」
季武は、真剣な顔で言った。
「争う前に、丑御前殿本人と言葉を交わし、その心根を知るべきではないでしょうか」
季武の言葉に、拙者は目を見開いた。
「心根を、知る……?」
「はい。彼女が本当に討つべき相手なのか、それとも……」
季武は、そこで言葉を切った。
「何か、救う道があるのではないか、と」
「拙者も、そのように思います。その方が、道が開けましょう」
季武の言葉に、碓井貞光も頷いた。
貞光は、信仰深い者らしく、しばしば神託のようなお告げを受ける。
「また、何かを感じたのか?」
「形にはなっておりませんでしたが……」
貞光の言葉に、拙者は考え込んだ。
「そうか……討つだけが、道ではないのかもしれぬ」
拙者は、皆を見渡した。
「分かった。まずは、丑御前と対峙し、言葉を交わそう」
拙者の決断に、皆は頷いた。
「その上で、討つべきか、救うべきか、判断する」
拙者は、そう宣言した。
こうして、拙者たちは東国へと向かうことになった。
丑御前との対峙に向けて、拙者は覚悟を決めた。
姉として、どのような者なのか。
怪異たちに担がれて、本当に悪しき存在なのか。
それとも、救う道があるのか。
拙者は、その全てを見極めるつもりだった。
「では、出立する」
拙者は、四天王と郎党の兵たちを率いて、東国へと馬を進めた。
道中、拙者は父の言葉を思い返していた。
父の過ち。
そして、その過ちから生まれた、拙者の姉。
(丑御前……お前は、どのような者なのか)
拙者の心には、迷いと、そして一抹の期待があった。
もし、丑御前が救える者ならば。
もし、共に歩める道があるならば。
拙者は、そんなことを考えていた。
やがて、東国の山々が見えてきた。
あの山の奥に、丑御前がいる。
「頼光様、もうすぐ怪異たちの領域に入ります」
綱が、拙者に告げた。
「ああ。皆の者、警戒を怠るな」
拙者は、郎党たちに命じた。
「はっ!」
兵たちが、一斉に応えた。
拙者は、愛刀、安綱に手をかけた。
戦いになる可能性もある。
だが、まずは言葉を交わす。
拙者は、そう心に決めていた。
山道を進み始めると、周囲の空気が変わっていくのを感じた。
人の気配が消え、代わりに怪異たちの気配が濃くなっていく。
(ここからだ……)
拙者は、深く息を吸い込んだ。
そして、拙者たちは、怪異たちの領域へと足を踏み入れたのだった。
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