よくわかる日本の歴史 ~ただし、原始時代から日本にのみダンジョンがあったものとする~【第三部完】   作:Mr.ティン

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お待たせしました。これより、平安時代後期編です。


玖章 平安時代 後期 ~摂関政治の頂点と衰退 そして武士の時代へ~
藤原道長は、藤原北家の有力者・藤原兼家の五男として産まれた


「くそっ! なんてこった……」

 

俺は、自分の領域の中で、絶望の声を上げていた。

目の前に広がっているのは、平安時代の有名人達の活躍の様子だ。

安倍晴明、芦屋道満、源頼光と四天王に、大江山の鬼たち。

俺でも知っているような平安のビッグネームたちが、こうもぶつかり合った。

その上、俺の知るのとは別の結末を辿った源氏と鬼たち。

皆、それぞれに人生を謳歌している。

 

それが、たまらなく悔しい。

 

「……アナタ、そう気を落とさないで」

「そうだよ、おとーさん。仕方なかったんだよ」

 

ハルカとアマタが慰めてくれるが、どうしても無念が募る。

俺はどうして……どうして……。

 

「どうして俺は、彼らの活躍をライブで見られなかったんだ……っ!」

 

そう、目の前で繰り広げられているのは、過去の情景だ。

これまでも利用してきた、コアによる過去情報の収集機能。

素晴らしい臨場感がある映像だというのに、全ては過去なのだ。

 

「こんな事なら、アイツは放置しても……いや、それは駄目だな」

 

迂闊な事を口走ろうとして、危うく思いとどまる。

頬に感じるのは、俺の横に居るアマタの視線。

アマタには、残念な方向の姿を見られてもいいが、クズな姿は見せたくない。

 

とは言え、内心では愚痴りたくもある。

 

(……全く、あんな奴らが現れさえしなければ、この時代を生身で体験しようとも考えていたのにな)

 

そう、俺は実のところ、この平安時代でも有名人が多いこの時代を、ハルカやアマタと共に、生身で過ごすことを考えていたのだ。

何しろ、生の安倍晴明や坂田金時、源頼光を見られるかもしれないのだ。

それに、陰陽師の術もかなり洗練され、多様にもなっているのも面白い。

今まで俺はダンジョンの機能か、長年の修行で身に付けた武術はともかく、術の方向ではあまり自分を磨いてこなかった。

その為、この時代の発展した陰陽術を学ぶためにも、この時代で生身で過ごしたいと考えていたのだ。

 

 

ところが、ある日事態は急変する。

 

(アキト様! 大変です!!)

(な、何だ!?)

 

平安京で過ごすための身体を念入りに作っていたある日の事。

海底及び海外のコアネットワークの運営と管理を任せていたイザナギが、俺の領域に飛び込んできたのだ。

普段は落ち着いたイザナギが、今まで見た事の無い様な焦りを見せている。

 

(ど、どうしたんだ急に)

(まずはこれを見ていただきたく!)

 

言葉で説明するのも惜しいのか、イザナギは俺の前に一つの映像を映し出した。

するとそこには、恐るべきものが映っていたのだ。

 

(……これは、ゴーレムか? それも海底用の……)

 

俺はそう口にしたものの、断言できなかった。

何故なら、映し出されていたのは、海底に散らばる砕かれた岩だったのだ。

辛うじて幾つか形をとどめている部分が、かつて手足だった事を物語っている。

 

そう、ゴーレムは破壊されていたのだ。

それも、かなり念入りに。

だが、このゴーレムは、海底のコアを運ぶため、かなりの大きさで作ってある。

更に多少の衝撃などを吸収し、海水に魔力が拡散しないように、表面は分厚いゴム系の素材で覆われて、衝撃にも強い。

だというのに、この破壊ぶり。

尋常な事態では無かった。

 

(これは……どういう事だイザナギ? あえて聞くぞ? 誰が、これを壊した?)

 

勿論このような破壊、自然ではありえない。

このゴーレムは海底のコアのメンテナンス用に、常に海底のコア付近を警護し、また必要であればコアの交換やメンテナンスを行えるように作ってある。

つまり、まともな生物が居ないはずの環境に、自己修復も可能な岩の巨人が居たという事になる。

そんな環境では、余程巨大な地震や地殻変動でもない限り、このゴーレムが破壊されるような自然現象は起き得ないだろう。

更に言うなら、そんな深海でこのゴーレムを破壊できるような存在も生存し得ないはずだった。

 

だが、よくよく見れば、ゴーレムの表面を覆うゴム部分には、はっきりと跡が残っていた。

恐らくは、蛇のような長大な何かが巻き付き、岩をも砕くような圧力で締め上げたのだ。

つまり、何者かが、深海と言う環境で、本当にゴーレムを砕いたのだ。

そう目星をつけ問いただした俺に、イザナギは告げる。

 

(こちらを。この奥で、今も押さえております)

(何……?)

 

イザナギが映像を拡大する。

すると、砕けたゴーレムのさらに奥、深海の暗がりで激しく動く影があった。

それもゴーレムだ。

しかも、複数。

集団で陣形を組み、身を貝殻のようにして固まっている。

あれらを今操っているのは、恐らくイザナミだ。

彼女も長年海底のコアをあのゴーレムを使い管理しているので、自在に操れるはずだが、ああも防戦一方になっているのは余程の事態と言っていい。

 

だが、イザナギが見せたかったのは、それじゃない。

 

(……なんだ、アレは)

 

それは一見、人のカタチをしているように見えた。

頭部と、胴体。そしてそこから伸びる四肢。

深海の暗がりに潜む人型の何か。

一瞬、過去に南極の深海で見かけた『ニンゲン』や、大型化したイカなどを思い出したが、それとも違う。

 

何しろ、そいつは人型こそしているが、頭部に触手が生えているのだ。

その謎の人型が、ゴーレムたちを襲っている。

ゴーレムとさして変わらない大きさで。

 

(……いや、何だこれは?)

(恐らくは、イソギンチャクの化け物かと)

(へ? ……おいおい、本当か)

 

イザナギの言葉に、コアの機能を立ち上げてみれば、アレが魔力を取り込み変異したイソギンチャクの一種だと判った。

だが同時に、こうもある。

 

(……邪神の眷属、ね)

 

恐らく、これは俺の生前の知識の影響なのだろう。

深海などに潜む人知を超えた外なる神々の創作物。

それが、深海に蓄積した魔力によって海底に住まうイソギンチャクの一種を変異させたのだろう。

 

(……どうやら、知性も高いらしいな。ゴーレムを襲っているのは、更なる魔力が目当てか)

(その様で)

 

この辺りは、地上で暴れた怪異たちとも共通している。

変異した動植物は、自身の力を強める場合、更なる魔力を求める傾向がある。

その為、かつて様々な怪異が、魔力を求めてダンジョンコアを狙った。

それと同じ行動をとっているのなら、ゴーレムを稼働させている魔石は、たまらない魅力だろう。

何しろ巨大なゴーレムの体躯を維持し長期間活動させるための魔石は、ダンジョンコアに転用できる圧縮された魔力を秘めている。

かつてはそれを利用して海底のコアネットワークを拡大していったのだ。

 

だが、その圧縮された魔力こそが、今標的になっている。

 

(……駆除、するしかないな)

(そのとおりかと。このままでは、海底に埋まった核岩まで掘り起こされかねませぬ)

 

魔力で変異した動物は、基本放置する方針の俺だが、ダンジョンそのものを標的にされては話が別だ。

そして、俺の認識によって、邪神の眷属なんて業を付与されてしまったのなら、その意味でもオレ自身が責任を取る必要がある。

 

だが……。

 

(やっかいだな、あれは)

(はい、とんでもない力を持っております)

 

映像が、ある一体のゴーレムを拡大する。

そのゴーレムには、脈打つ触手が幾重にも絡みついていた。

同時に、静寂の深海に響く、破砕音。

新たに、ゴーレムが砕かれたのだ。

更にその胴の奥から、魔力を拡散し始めた魔石を引きずり出した触手が、ある一体の邪神の眷属の元へと戻っていく。

その個体は、他の眷属よりもはるかに体躯が巨大で、対比して大きなゴーレムが小柄に見えるほどだ。

 

その巨大な眷属が、取り出したばかりの魔石を、何かの果実であるかのように丸呑みした。

何と異様な光景だろうか?

更に、魔石に秘められた魔力を吸収したのか、更に体躯が大きくなった。

 

(……駄目だな、アレは。放置できない。イザナギは、アマテラス達にも声をかけてくれ)

(御意)

 

このままだと、あの大型の邪神の眷属は、瞬く間に力を付けて、海底のコアを根こそぎにするだろう。

それどころか、何れ海底から地上にも進出しかねない。

止めるなら、今なのだ。

 

 

(……それが、思いのほか時間がかかったんだよな……)

 

その後アマテラスやスサノオに田村麻呂も討伐に加わり、何とか邪神の眷属たちを殲滅した。

だが、思いのほか時間がかかってしまった事と、緊急性の問題から、それ以外の事に長らく手が付けられない状況になっていたのだった。

そしてようやく、源頼光達の活躍をじっくり見れるようになったのだ。

 

(う~ん、重ね重ね、直で見たかったな……頼光と酒呑の一騎打ちは)

 

そして、見返して色々と思ってしまうのも仕方がない事なのだった。

 

 

(……とは言え、まだ手遅れではないか)

 

酒呑童子が源氏に降るという驚天動地はあったものの、大江山の鬼は討伐された。

武士と怪異の戦いは一旦幕を下ろし、次は平安時代の別の有名人たちの活躍が始まっていく。

 

俺は、宮中の様子を映しだした。

まだこの時代の中心は、宮中になる。

そしてその宮中の頂点に立つ者。

彼と、彼に関わるの人々の動向は、これから本流になって行くのだ。

 

(……そう、摂関政治の代名詞にして、頂点を極めた男、か)

 

その名は、藤原道長。

藤原氏の全盛をもたらす者が、映像の中でたたずんでいた。




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