よくわかる日本の歴史 ~ただし、原始時代から日本にのみダンジョンがあったものとする~【第三部完】   作:Mr.ティン

197 / 202
昨日は体調を崩して更新できませんでした。
ストックが無いとこういう時に困りますね……。


陸奥守として赴任した源頼義に安倍頼良は帰順し、名を頼時に改めた

【安倍頼良】

 

儂は、陸奥の国の奥六郡を実効支配する土豪として、順調に勢力を拡大しておった。

朝廷の目が届きにくいこの北の果ての地で、儂は独立性の高い領主として、民を治めておったのだ。

 

だが、儂が衣川以南へと進出しようとした時、事態は急変した。

陸奥の国の国司、藤原登任が、儂を脅威と見なし、軍を起こしたのだ。

儂の配下が、慌てて報告に来た。

 

「頼良様、国司殿の軍勢が、鬼切部に向かって参ります!」

「何だと……国司殿が、わざわざ軍を?」

 

儂は、眉をひそめた。

 

確かに、儂は国衙の徴税や国司の権威に、必ずしも従っておらなんだ。

だが、それは、この地の土豪たちの多くがそうしておることだ。

にも関わらず、国司殿が軍を起こすとは。

 

「頼良様、国司殿は、我らが魔穴を利用して力をつけておることを、恐れておるのかもしれません」

 

配下の一人が、そう進言した。

 

「……そうか。ほんなら、儂らの力を見せてやらねばならんな」

 

儂は、覚悟を決めた。

 

鬼切部の戦いで、両軍はぶつかり合った。

だが、戦いは、儂の予想以上に一方的なものとなった。

 

儂の軍勢は、魔穴で鍛えられた武具を持ち、魔穴で修練を積んだ兵たちで構成されておった。

一方、国司殿の軍勢は、急ごしらえの寄せ集めに過ぎぬ。

朝廷が魔穴利用を押し進めようと、全てがそれに従う訳でも無いという事だ。

儂の兵たちが、まるで嵐のように国司軍を蹴散らしていく。

 

「押せ! 押せ!」

 

儂は、自ら先頭に立って戦った。

そして、勢い余って、儂は藤原登任を戦場で討ち取ってしまったのだ。

 

「……し、しもうた」

 

儂は、登任殿の亡骸を見て、まるで氷水を浴びせられたかのように固まった。

国司を討ち取るなど、これは朝廷への反逆と見なされかねん。

 

「頼良様、これは……」

 

配下たちも、青ざめた顔をしておった。

 

「……落ち着け。儂が考える」

 

儂は、必死に頭を働かせた。

 

このままでは、朝廷が本格的に討伐軍を送ってくるやもしれん。

ほんなら、儂にできることは一つしかない。

 

帰順だ。

 

朝廷から派遣される次の陸奥守に、儂から帰順を申し出る。

それしか、生き残る道はない。

 

やがて、新たな陸奥守として、源頼義殿が着任された。

儂は、頼義殿の噂を聞いておった。

河内源氏の頭領にして、魔穴で鍛え上げた武威を持つ猛将だと。

 

だが、実際に頼義殿を目にした時、儂は全身が震えた。

頼義殿の周囲の空気が、まるで陽炎のように歪んで見えるのだ。

それほどまでに、内なる気が溢れておる。

 

(こ、これが、源頼義……)

 

儂は、即座に決断した。

 

「頼義殿、儂は貴殿に帰順いたす!」

 

儂は、その場で深々と頭を下げた。

 

「ほほう……帰順か」

 

頼義殿が、まるで面白くなさそうに呟いた。

 

「儂は、貴殿と戦う気など、毛頭ございません。どうか、儂をお許しくだされ」

 

儂の言葉に、頼義殿は少し考えてから頷いた。

 

「分かった。某は、貴殿の帰順を受け入れよう」

 

頼義殿の言葉に、儂は安堵の息を吐いた。

 

儂は、頼義殿を盛大に歓待した。

宴を開き、この地の珍味を振る舞い、酒を酌み交わした。

 

頼義殿は、まるで肩透かしを食らったかのような顔をしておったが、歓待を無下にはできぬと、朝廷に報せを送ってくれた。

 

折しも、都では後冷泉天皇の祖母・上東門院の病気平癒祈願が行われておったそうな。

戦を起こせば、その祈願を血で乱す恐れがあるとして、儂は大赦されたのだ。

 

儂は、頼義殿の武に感服し、名を頼時に改めた。

これで、主従関係が公的に広く示されることとなった。

 

(これで、儂は生き延びることができた)

 

儂は、心の底から安堵したのだった。

 

 

【源頼義】

 

頼時の帰順から、数年の間は平穏な時が続いた。

某は、陸奥守として、この地を安定して治めておった。

だが、某の心には、常に物足りなさがあった。

 

(この地には、伝説の武人、阿弖流為がおるという)

 

某は、その伝説を信じておった。

 

時折、山中に入っては、阿弖流為を探した。

いつか出会い、一勝負できればと、某は期待しておったのだ。

だが、阿弖流為は、一向に姿を現さなんだ。

 

(いずれ、会えるやもしれぬ)

 

某は、そう信じて、山中を巡り続けた。

そして、陸奥守の任期が終わる間近のことだった。

某は、胆沢城で安倍頼時に饗応を受け、多賀城の国府へ戻る途中だった。

 

「頼義様! 大変なことが!」

 

配下の一人が、慌てて駆けてきた。

 

「何事だ?」

「藤原説貞殿の子、光貞殿と元貞殿らの一行が、阿久利川付近で襲撃を受けました!」

「何だと!?」

 

某は、驚きの声を上げた。

 

「人馬に損害が出ております!」

 

配下の報告に、某は眉をひそめた。

某は、すぐに光貞を呼び寄せた。

 

「光貞、何があったのだ?」

「はい、頼義様。実は……」

 

光貞が、某に説明した。

 

「以前、安倍貞任殿が、私の妹を娶りたいと申し出たのですが、私は断りました」

「うむ」

「今回の襲撃は、その仕返しではないかと思われます」

 

光貞の言葉に、某は考え込んだ。

 

(だが、妙だ)

 

某は、疑問を抱いた。

 

(某の任期は、もうすぐ終わる。某の配下が帰京するこの時期に、従順だった安倍氏が、わざわざ襲撃するだろうか?)

 

某には、腑に落ちぬところがあった。

 

(貞任殿から、直接話を聞く必要があるな)

 

某は、決断した。

 

「貞任殿に、出頭を命じる」

 

某の命令に、配下たちが動き出した。

だが、頼時は貞任の出頭を拒み、衣川の関を封鎖したのだ。

 

「何だと……出頭を拒否したと?」

(何故だ? 頼時殿は、某に帰順したはず。それなのに、何故出頭を拒否する?)

 

某は、さらに疑問を深めた。

ゆえに某は、何度も使者を送った。

 

「某は、ただ話を聞きたいだけだ。貞任殿に罪があるかどうかは、話を聞いてから判断する」

 

だが、頼時の答えは変わらなかった。

 

「貞任は出頭させられません」

(やむを得ぬ……)

 

その言葉に、某は深い溜息をついた。

某は、腑に落ちぬ思いを抱えたまま、安倍氏討伐に踏み切ることを決意した。

 

「全軍に告ぐ! 某は、安倍氏討伐を開始する!」

 

某の号令が、陸奥の地に響いた。

 

 

【安倍頼時】

 

一方で、儂も混乱しておった。

 

襲撃の報を聞いた時、儂は驚愕した。

 

「何じゃと!? 貞任が、光貞殿を襲撃しただと!?」

 

儂は、すぐに貞任を呼び寄せた。

 

「貞任、お前、本当に光貞殿を襲ったんか?」

「いえ、父上。私は関与しておりません」

 

貞任が、きっぱりと否定した。

そのため、儂は貞任の言葉を信じた。

だからこそ、頼義殿の出頭命令を拒否したのだ。

 

だが、それから数日後、真実が明らかになった。

 

「父上……実は、私が光貞殿を襲撃しました」

 

貞任が、観念したように白状した。

 

「な、何じゃと!? お前、最初は否定しておったではないか!」

 

儂は、怒りと困惑で声を荒げた。

 

「申し訳ございません。ですが、父上」

 

貞任が、儂を真っ直ぐに見た。

 

「私は、父上が頼義殿へ即座に帰順されたことを、ずっと不満に思っておりました」

 

貞任の言葉に、儂は息を呑んだ。

 

「我らは、この地で力をつけてきました。なのに、頼義殿が来た途端、戦いもせずに帰順する。それは、我らの誇りを捨てることではないでしょうか」

「貞任……」

「このまま頼義殿が国司の任期を終えれば、帰順した事実のみが残ります。我らは、ただ朝廷に従うだけの存在になってしまう」

 

貞任の声には、まるで燃える炎のような激情があった。

 

「その屈辱を晴らすには、この機を置いて他にありません。頼義殿が帰京する前に、我らの力を示すべきだと、私は考えたのです」

 

貞任の告白に、儂は言葉を失った。

 

(貞任……お前は、儂の帰順を、屈辱と感じておったのか……)

 

儂は、深く溜息をついた。

確かに、儂は頼義殿の武に恐れをなして、即座に帰順した。

だが、それは生き残るための選択だったのだ。

しかし、貞任には、それが理解できなんだのだろう。

 

「父上、私の行いは、もう取り返しがつきません」

 

貞任が、覚悟を決めたような顔で言った。

 

「頼義殿は、必ず討伐に来ます。ならば、我らは戦うしかありません」

 

貞任の言葉に、儂は拳を握りしめた。

 

(儂は……引き返せない道に、踏み込んでしもうたのか……)

 

儂は、まるで深い闇に落ちていくような絶望を感じた。

だが、もう後戻りはできぬ。

衣川の関を封鎖し、頼義殿の出頭命令を拒否した今、儂に残された道は、戦うことだけだった。

 

「……分かった、貞任」

 

儂は、重い声で言った。

 

「儂は、お前と共に戦う。頼義殿が来るなら、儂らも迎え撃つまでだ」

 

儂の言葉に、貞任は深く頭を下げた。

 

「ありがとうございます、父上」

 

こうして、儂と頼義殿の戦いが、始まろうとしておったのだ。

 

儂は、空を見上げた。

空は、どんよりと曇っておった。

まるで、これから起こる戦いを予感しておるかのように。

 

(儂は、生き延びるために帰順したというのに……)

 

儂は、心の中で呟いた。

 

(結局、戦わねばならんのか……)

 

儂の心には、まるで冷たい風が吹き抜けるような、やるせなさがあった。

だが、もう決めたことだ。

儂は、頼義殿との戦いに向けて、準備を始めた。

魔穴で鍛えた武具を整え、兵を集め、戦いの準備を進める。

 

(せめて、儂らの誇りを示して見せる)

 

儂は、そう心に誓った。

こうして、前九年の役と呼ばれる、長い戦いが始まろうとしておったのだった。

 




以下のXアカウントで告知や更新のアナウンスをしています。
https://twitter.com/Mrtyin
日々、皆様のお気に入り登録や評価などが更新の励みになっております。
誠にありがとうございます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。