よくわかる日本の歴史 ~ただし、原始時代から日本にのみダンジョンがあったものとする~【第三部完】 作:Mr.ティン
【源頼義】
安倍氏との関係が決裂した後、陸奥の国は、まるで嵐の前の海のように不安定な状況となった。
国司である某に従うべき土豪たちが、次々と安倍氏に付き始めたのだ。
彼らの多くは、朝廷と安倍氏の間で揺れ動く、半土豪とも言うべき微妙な立場の者たちだった。
「頼義様、このままでは……」
配下の一人が、不安そうに某に告げた。
「分かっておる。だが、焦っては事を仕損じる」
某は、冷静に答えた。
某には、策があった。安倍氏を挟撃するため、津軽の俘囚を味方に引き入れるのだ。
某は、津軽の有力な俘囚である安倍富忠らに使者を送った。
「某と手を組めば、この地での地位を保証しよう」
某の調略に、富忠らは応じた。
彼らもまた、安倍頼時の勢力拡大を警戒しておったのだ。
だが、某の動きを察知した頼時もまた、動いた。
頼時は、自ら津軽へ向かったのだ。
富忠らを説得し、再び自分の陣営に引き戻そうとしたのだろう。
だが、運命は頼時に味方しなかった。
富忠が放った伏兵が、頼時を襲ったのだ。
頼時は、まるで罠にかかった獣のように、伏兵の矢に射られ、重傷を負った。
「頼時殿が……重傷を負ったと?」
某は、その報を聞いて、複雑な思いを抱いた。
頼時は、某に帰順した男だった。
もし貞任が暴走しなければ、頼時と某は、共に陸奥の国を治めていたかもしれぬ。
だが、運命は残酷だった。
頼時は、傷が癒えぬまま、命を落としたのだ。
「頼時殿……」
某は、その死を悼んだ。だが、戦は続く。
頼時の死により、安倍貞任が家督を継承したのだ。
貞任は、父とは違い、朝廷への対立姿勢を一層強固なものとしていた。
「某は、源氏など恐れぬ!」
貞任の声が、陸奥の地に響いた。
某は、遂に貞任との決戦に臨むこととなった。
だが、某には誤算があった。
某は、個人の武勇には秀でておった。
魔穴で鍛え上げた力は、初老となった今も衰えておらぬ。
だが、軍を率いることは、個人の武勇とは別の技術が必要だったのだ。
地盤を押さえた安倍氏は、補給路を確保し、兵力を次々と集めた。
一方、某は、補給難に苦しみ、兵力の確保にも手間取る有様。
「くっ……これでは……」
某は、戦場で歯噛みした。
軍としての強大さでは、明らかに安倍氏が勝っておったのだ。
そして、某は大敗を喫した。
戦場から脱出できたのは、わずか七騎。
某と、某の子である義家、そして数名の配下のみだった。
「父上! お逃げください!」
義家が、まるで鬼神のように戦いながら、某に叫ぶ。
義家の太刀筋は、まるで水が流れるかのように美しく、そして容赦なかった。
敵兵が次々と倒れていく。
(義家……お前は、本当に強くなった)
某は、息子の戦いぶりを見て、感慨深い思いを抱く。
義家は、石清水八幡宮で元服した時から、八幡太郎と称されていた。
八幡大菩薩の加護を受けし者として、その名は既に東国に響くほど。
若い頃から武芸に秀で、魔穴での修練にも励んできた義家は、今や某に匹敵するほどの武人へと成長しておったのだ。
いや、若さという点では、既に某を上回っているやもしれぬ。
「すまぬ、義家……!」
某は、義家の武勇に助けられ、辛うじて戦場を脱した。
義家がいなければ、某はこの場で命を落としておったであろう。
息子に救われるとは、父として複雑な思いもあったが、同時に誇らしくもあった。
(義家は、某以上の武人となるやもしれぬ)
某は、そう確信した。
だが、それは軍としては全滅と言ってもよい惨敗だった。
(某の……采配の拙さが、この結果を招いた……)
某は、深い自責の念に駆られた。
この敗北により、安倍氏は奥羽の独立政権と言うべき、圧倒的な支配権を確立した。
民たちも、朝廷ではなく安倍氏に税を納めるようになった。
陸奥の国は、まるで朝廷の手から離れてしまったかのようだった。
だが、某は諦めなかった。
(某は……再起せねばならぬ)
某は、固く決意した。
そして、某は一つの策を思いついた。
出羽の清原氏と同盟を結ぶのだ。
清原氏は、出羽の有力な俘囚であり、大きな軍事力を持っておった。
故に某は、清原氏の当主、清原光頼を訪ねたのだ。
「光頼殿、某に力を貸していただきたい」
某は、深々と頭を下げる。
この時、某は武人としての誇りを捨てた。
勝つためには、頭を下げることも厭わぬ。
「ほう……源氏の頭領が、某に頭を下げるか」
光頼が、まるで興味深げに某を見た。
「某は、陸奥の安倍氏を討たねばならぬ。だが、某一人では力が足りぬ。どうか、お力添えを」
某の懇願に、光頼は少し考えてから答えた。
「安倍氏は、確かに危険な存在だ。このまま放置すれば、我ら清原氏にも害が及ぶやもしれぬ」
光頼の言葉に、某は希望を感じた。
「それに、朝廷に恩を売る好機でもある。よかろう、某は貴殿に協力しよう」
光頼の言葉に、某は深く頭を下げた。
「ありがたき幸せ!」
こうして、某と清原氏の同盟が成立したのだ。
この同盟により、戦局は一気に某の側へと傾いた。
清原氏の軍勢は、まるで怒涛のように強大であり、某の軍と合わせれば、安倍氏を圧倒する戦力となったのだ。
「全軍、進め!」
某の号令で、源氏と清原氏の連合軍が動き出す。
連合軍は、次々と安倍氏の拠点を落としていった。
まるで雪崩のように、安倍氏の支配が崩れていく。
そして、遂に最後の決戦の時が来る。
安倍貞任は、厨川柵に立てこもった。
厨川柵は、まるで要塞のように堅固な防御を誇る拠点だった。
「貞任殿は、あの柵に全ての望みを賭けておるのだな」
某は、厨川柵を見上げた。
「全軍、厨川柵を包囲せよ!」
某の命令で、清原氏との連合軍が厨川柵を包囲した。
包囲は、まるで鉄の輪のように、厨川柵を締め上げる。
そして、某は好機を見た。
「総攻撃、開始!」
某の号令で、連合軍が一斉に攻撃を開始した。
矢が、まるで雨のように柵に降り注ぎ、兵たちがまるで波のように柵に押し寄せる。
安倍氏の兵たちも、必死に抵抗した。
だが、圧倒的な戦力差の前に、次第に押されていく。
「ぬおおおっ!」
貞任の雄叫びが、戦場に響いた。
貞任は、最後まで戦い続けたが、運命は彼を見放した。
貞任は、連合軍の矢に射られ、討死したのだ。
「貞任殿……」
某は、貞任の死を見届けた。
貞任の弟、安倍宗任は、その後まもなく降伏したのだった。
「某は……降伏する」
宗任が、力なく某の前で首を垂れる。
その後朝廷は、宗任を九州へ流罪とし、こうして、長く続いた前九年の役は、終わりを告げたのだ。
戦いの後、陸奥の国は平定された。
安倍氏の所領は、全て清原氏が支配することとなり、清原氏は、まるで巨人のように、東北最大の勢力へと成長することとなる。
だが、某は不安を感じておった。
「清原氏が……あまりにも巨大になりすぎた」
某は、呟いた。かつての安倍氏と同じように、清原氏もまた、朝廷の統制が利かぬほどの力を持ち始めておる。
(これは……いずれ、また乱の種となるやもしれぬ)
某の予感は、的中することになる。
だが、それが後三年の役として顕在化するのは、しばらく先の話だった。
某は、陸奥の国を後にした。
長い戦いを経て、某は多くのものを学んだ。
個人の武勇だけでは、戦には勝てぬ。
同盟を結び、策を巡らせ、軍を率いる技術が必要なのだ。
(某は……まだ学ばねばならぬことが多い)
だが、同時に、某は源氏の名を高めることができた。
東国での軍事的基盤を確立し、武士としての名声を得たのだ。
この功績は、後の源氏の繁栄へと繋がっていくに違いない。
(そして、義家がおる)
某は、息子の顔を思い浮かべた。
八幡太郎義家は、某以上の武人となる素質を持っておる。
某が築いた基盤を、義家がさらに発展させていくであろう。
その確信が、某の胸にあった。
(某の戦いは、まだ終わらぬ)
某は、都へと戻る道を歩きながら、空を見上げた。
空には、まるで未来を照らすかのように、美しい青空が広がっておった。
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