よくわかる日本の歴史 ~ただし、原始時代から日本にのみダンジョンがあったものとする~【第三部完】 作:Mr.ティン
【源義家】
前九年の役が終わり、某は父・頼義と共に都へと戻った。
父は長い戦いを経て、疲労の色を隠せなかったが、某の胸には戦いの興奮がまだ残っておった。
(某は、あの戦場で多くを学んだ)
某は、そう思った。
父の背中を追いながら、某は武人として成長してきた。
石清水八幡宮で元服した時から、某は八幡太郎と称されるようになった。
八幡大菩薩の加護を受けし者として、その名は東国に響いておる。
だが、父が某に語った言葉は、某の心に重くのしかかった。
「義家、清原氏が巨大化しすぎた。某は……不安を感じておる」
「父上、それは……」
「安倍氏を倒すために清原氏と手を組んだが、今や清原氏は東北を支配する巨大勢力となった。これは、いずれ新たな火種となろう」
父の予感は、的確だった。
清原氏は、前九年の役後、陸奥・出羽の広大な地域を支配し、朝廷からも「俘囚長」として認められ、半独立的な権力を持つに至っておった。
まるで一つの国のように、清原氏は東北に君臨しておったのだ。
やがて、某は陸奥守として東北へと赴任することになった。
父の後を継ぎ、この地を治めるのだ。
「義家、気をつけよ。清原氏は、安倍氏よりも強大だ」
「承知しております、父上」
某は、父の言葉を胸に、陸奥の地へと向かった。
陸奥守として赴任した某は、清原氏の動向を注意深く見守っておった。
清原武則、武貞、真衡ら一族は、表面上は朝廷に従順だったが、その実、東北の支配者として振る舞っておった。
(父上の言う通りだ。この者たちは、いずれ朝廷に牙を剥くやもしれぬ)
某は、警戒を怠らなかった。
そして、ある日、事態は急変した。清原真衡が急死したのだ。
「真衡殿が……急死?」
「はい、義家様。病が原因とのことですが……」
配下の報告に、某は眉をひそめた。
真衡の死により、清原氏の後継を巡って、一族内に対立が生じ始めたのだ。
その対立の構図は、まるで嵐の渦のように複雑だった。
清原清衡は、母が安倍氏出身であるため、清原氏内部で立場が弱い。
清原家衡は、真衡の従兄弟で、強い反清衡派。清原武衡は、一族の長老格で、家衡と協力している。
この三者の対立が、まるで干し草に火を放つかのように、東北を揺るがし始めたのだ。
そして、遂に家衡が動いた。家衡が清衡の館を襲撃したのだ。
「義家様! 大変です! 清衡殿の館が襲撃されました!」
「何だと!?」
某は、すぐに詳細を確認した。
家衡の軍勢が清衡の館を襲い、清衡の妻子を殺害したという。
清衡は辛うじて逃れ、某のもとに救援を求めてきたのだ。
「義家様……どうか、お助けください……」
清衡が、まるで嵐に打たれた木の葉のように、弱々しく某に頭を下げた。
清衡の目には、深い悲しみと怒りが宿っておった。
「清衡殿、落ち着かれよ」
某は、清衡を落ち着かせた。
(某は……介入すべきか?)
これは清原氏の内部対立であり、某が介入する理由はない。
だが、某は陸奥守として、この地の治安を維持する責任がある。
「某は、陸奥守として、この地の治安を維持せねばならぬ」
某は、決断した。
「清衡殿、某は貴殿を助ける。国司としての治安維持を名目に、家衡殿らに対処する」
某の言葉に、清衡は涙を流して頭を下げた。
「ありがとうございます、義家様……」
こうして某は、後に後三年の役と呼ばれる戦いに介入することとなったのだ。
だが、この戦いは、前九年の役以上に厳しいものとなった。
家衡と武衡の連合軍は、まるで岩のように堅固で、某の軍は決定打を欠いた。
「くっ……押せ! 押せ!」
某は、戦場で叫んだ。
だが、家衡らの軍勢は、地の利を活かして巧みに戦った。
冬季の豪雪が、某の軍を苦しめた。
雪が、まるで白い壁のように視界を遮り、補給路を断った。兵たちは、寒さと飢えに苦しんだ。
「義家様、このままでは……」
「分かっておる……だが、引くわけにはいかぬ」
某は、歯を食いしばった。
戦線は、まるで凍りついた川のように、停滞した。一年、二年と時が過ぎても、決着はつかなかった。
(某は……父上と同じ過ちを犯しておるのか?)
某は、自問した。父は前九年の役で、軍の指揮の拙さから大敗を喫した。
某も、同じ道を辿っておるのではないか。
だが、某は諦めなかった。
(某は……必ず勝つ)
某は、固く決意した。
そして、遂に決戦の時が来た。
家衡と武衡が、金沢柵に立てこもったのだ。
金沢柵は、まるで鉄の要塞のように堅固な防御を誇っておった。
「全軍、金沢柵を包囲せよ!」
某の号令で、義家軍が金沢柵を包囲する。
だが、柵は容易には落ちなかった。
某はやむなく、長期包囲を決断したのだった。
「兵糧攻めだ。柵を包囲し続け、敵の兵糧が尽きるのを待つ」
不幸中の幸いは、金沢柵の中に魔穴の一口などが無い事であった。
仮にあったのなら、兵糧攻めなどそもそも成立しないのだ。
そして某の策は、まるで氷が溶けるように、じわじわと効果を現した。
柵内の兵糧が尽き始めたのだ。
家衡らの兵たちは、次第に弱っていった。
そして、遂に金沢柵は陥落した。
「総攻撃、開始!」
某の号令で、義家軍が一斉に柵に攻め込んだ。
柵内の兵たちは、もはや抵抗する力も残っておらなんだ。
家衡は逃亡したが、追っ手に討たれた。武衡は捕らえられ、京都へ送られ処刑された。
こうして、清原氏は滅亡し、清衡が東北の支配者として台頭したのだ。
「義家様、ありがとうございます……」
清衡が、深々と頭を下げた。
「某は、ただ国司としての務めを果たしただけだ」
某は、そう答えた。
後三年の役は、こうして終わりを告げた。
某は、都へと戻り、朝廷に報告した。
「某は、陸奥の乱を平定いたしました」
某の報告に、朝廷の者たちは頷いた。
だが、某が恩賞を求めると、朝廷の態度は一変した。
「義家殿、今回の戦いは、私戦である」
「私戦……ですと?」
「清原氏の内部対立に、貴殿が勝手に介入したに過ぎぬ。故に、恩賞は出せぬ」
朝廷の言葉に、某は愕然とした。
「某は、陸奥守として治安を維持したのです! それが私戦だと!?」
「そのように判断した」
朝廷の冷たい返答に、某は怒りを覚えた。
某は、私財を投じて兵を動員し、長い戦いを戦い抜いたのだ。
それなのに、恩賞は一切なしだと。
「……分かりました」
某は、それ以上何も言わなかった。
だが、某の心には、深い失望が刻まれた。
(朝廷は……武士を、ただの道具としか見ておらぬのか)
某は、そう感じた。
だが、某には従ってくれた兵たちがおる。
彼らに報いねばならぬ。
某は、私財をなげうって、兵たちに恩賞を与えた。
「義家様……ありがとうございます……」
兵たちが、涙を流して某に頭を下げた。
「某と共に戦ってくれた者たちだ。当然のことだ」
某の言葉に、兵たちは深く感謝した。
この出来事は、東国の武士たちの間に広まった。
「義家様は、朝廷から恩賞を得られなかったのに、私財で我らに報いてくださった」
「義家様こそ、真の武士の鑑だ」
某の名声は、まるで炎が広がるかのように、全国に広まった。
八幡太郎義家の名は、武士の理想像として語られるようになったのだ。
だが、某が得たものは、名声だけではなかった。
某は、一つの真実に気づいたのだ。
(朝廷は……もはや武士を正当に評価せぬ)
某は、そう悟った。
朝廷は、武士を利用するだけ利用し、恩賞は出さぬ。
ならば、武士は自らの力で報酬を得るしかない。
(武士は……もはや朝廷に頼らず、自らの力で生きていくべきなのだ)
某の考えは、まるで種が芽吹くように、東国の武士たちの間に広まっていった。
武士たちは、朝廷ではなく、源氏を頼るようになった。
源氏こそが、武士の利益を守ってくれる存在だと。
こうして、武士の独立性は、まるで川の流れが大きくなるように、強まっていったのだ。
某は、空を見上げた。空には、まるで未来を照らすかのように、美しい月が浮かんでおった。
(某が築いたこの基盤は、いずれ武士の世を創るであろう)
某は、そう確信した。
いずれ朝廷の時代は終わり、武士の時代が始まる。
その時代の礎を、某は築いたのだ。
後三年の役は、ただの奥羽の乱ではなかった。
それは、武士が朝廷から独立し、自らの力で世を治める時代への、大きな一歩だったのだ。
某、源義家は、その歴史の転換点に立っておった。そして、某の子孫たちが、その道を進んでいくであろう。
(某達の戦いは、終わらぬ)
某は、そう心に誓った。
武士の時代は、今、確実に近づいておる。
そして、源氏は、その時代を切り開く運命を背負っておるのだ。
某の歩みは、まるで歴史を刻むかのように、力強く響いておったのだった。
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