よくわかる日本の歴史 ~ただし、原始時代から日本にのみダンジョンがあったものとする~【第三部完】   作:Mr.ティン

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気が付けば200話目になりました。
今回は、授業回になります。


とある学校の日本史授業風景 14コマ目 平安時代④

初夏の日差しが、教室の窓から差し込んでいた。

午前最後の授業、四時間目の鐘が鳴り、生徒たちが席に着く。

その様子を確認し、教師の三上が、黒板に向かいながら言う。

 

「前回は、藤原氏がどうやって摂関政治の基盤を築いたか、藤原道長以前の流れまでやったな。今日は、その続き、藤原道長の治世について解説する」

 

教師が、黒板に「藤原道長」と大きく書いた。

 

「道長は、藤原兼家の五男だ。本来なら、藤原北家の中心になるはずがなかった人物だが、兄たちが次々と早世したことで、結果的に藤原北家の棟梁となった」

「先生、それって運が良かっただけじゃないんですか?」

 

坂上が、軽い調子で質問した。

 

「いい質問だな。確かに運の要素もあるが、道長はその運を最大限に活かす政治手腕を持っていたと言われている」

 

教師が、黒板に「長徳の変」と書いた。

 

「道長の最大のライバルだった甥の藤原伊周は、長徳の変で失脚する。これにより、道長は政治的な主導権を握ることになったわけだ」

「先生、長徳の変って、何があったんですか?」

 

稲沢が、興味深そうに尋ねた。

 

「簡単に言うと、伊周が花山法皇に矢を射かけるという事件を起こした。理由は女性を巡る恋愛のもつれだったと伝わっているな」

「えー、恋愛で?」

「そうだ。当時の宮中は、そういう人間関係も政治に大きく影響していた」

 

教師が、資料を配り始めた。

 

「さて、道長は権力を握った後、どうしたか。娘の彰子を帝に入内させた。これが重要だ」

 

教師が、黒板に系図を描き始めた。

 

「道長は、娘三人を次々と帝の妃にした。彰子、妍子、威子の三人だ。これを『一家三后』と言う。そして、彰子が産んだ皇子が後一条天皇となり、道長は摂政に就任した」

「……摂政って何だっけ?」

「前にやったよ、忘れたのか?」

 

生徒達が密かに囁き合うのを聞きとめた教師は、一瞬渋い顔をしつつも、解説する。

 

「摂政は、幼い天皇を補佐する役職だ。実質的に政治の全権を握ることができる。道長はこの地位に就くことで、権力の頂点に立ったわけだ」

 

教師が、黒板に有名な和歌を書いた。

 

「この世をば 我が世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも 無しと思へば」

 

「これが、道長が詠んだとされる歌だ。満月のように欠けるところがない、つまり完璧な権力を手に入れたという意味だな」

「すごい自信っすね」

 

坂上が、感心したように言った。

 

「ああ。だが、道長はただ権力を握っただけじゃない。文化事業にも力を入れたと言われている」

 

教師が資料を映像で映し出すと、色鮮やかな絵巻物が表示された。

源氏物語絵巻。現代も色褪せないそれを見せながら、教師はその意義について触れる。

 

「道長は、紫式部の『源氏物語』や清少納言の『枕草子』といった文化を支援した。政治的には対立する立場の清少納言も、文化として優れていれば支援したんだ」

「先生、それってすごくないですか?」

 

定原が、真面目な顔で言った。

 

「そうだな。道長は、政治と文化を分けて考えることができた人物だったと伝わっている。この時代、平安文化は最盛期を迎える」

 

教師が、次のスライドに移った。

 

「さらに、道長は魔穴の管理運営を目的とした組織、魔穴寮を設立した。初代の長は、安倍晴明だ」

「78ページの下に書いてありますね」

 

芦原が、教科書を指さして言った。

 

「そうだ。魔穴寮は、全国の魔穴を管理し、防衛力を強化する組織だった。これにより、朝廷は怪異や魔物への対応力を高めた。そしてこれは、連綿と受け継がれ、現代でもダンジョン省として形を変え残っている」

「そうなんだ……」

 

思いのほか長い歴史を持つ公的機関にあっけにとられる生徒達。

教師は、そんな彼らの反応を見届けた後、次の話に移っていく。

 

「さて、ここまでが藤原道長の治世だ。摂関政治は、この時期に最盛期を迎えた。しかし、同時に律令政治の終焉に向けての流れも始まっていた」

 

教師が、黒板に「武士の台頭」と書いた。

 

「その契機となったのが、東北で起きた二つの戦いだ。前九年の役と後三年の役だな」

「先生、それって教科書の次のページですか?」

 

坂上が尋ねた。

 

「そうだ。この二つの戦いは、後の武士の台頭につながる重要な事件だと言える」

 

教師が、黒板に『前九年の役』と書いた。

 

「前九年の役は、陸奥国の豪族、安倍氏が起こした反乱だ。安倍頼良、後に頼時と改名するが、彼が奥六郡を実効支配していた」

「先生、なんで反乱になったんですか?」

 

稲沢が尋ねた。

 

「国司の藤原登任と対立したんだ。頼良は魔穴を積極的に利用して力をつけていた。登任はそれを脅威と見なして攻撃したが、逆に返り討ちに遭い、戦死してしまった」

「国司が負けたんですか?」

 

名前を呼ばれていない女子生徒が驚いたように言った。

 

「そうだ。これに対して朝廷は、源頼義を陸奥守兼鎮守府将軍に任命した」

 

教師が、黒板に「源頼義」と書いた。

 

「頼義は河内源氏の頭領で、魔穴で鍛えた強力な武人だった。頼良は頼義の武威に恐れて即座に帰順したが、頼義の配下が襲撃される事件が起き、関係が決裂する」

「襲ったのは誰だったんっすか?」

 

坂上が尋ねた。

 

「頼良の息子、安倍貞任だ。貞任は父が即座に帰順したことを不満に思っていた。この事件をきっかけに、戦いが始まった」

 

教師が、地図を示した。

 

「戦いは長期化した。頼義は一度大敗して、わずか七騎で逃げる羽目になる。この時、頼義の息子、源義家が活躍した」

「源義家……八幡太郎義家ですか?」

 

定原が確認するように尋ねた。

 

「そうだ。よく知ってるな。義家は石清水八幡宮で元服したことから、八幡太郎と呼ばれた」

 

教師が、次のスライドに移った。

 

「頼義は、出羽の清原氏と同盟を結び、戦局を逆転させる。最終的に、安倍貞任は討死、弟の宗任は降伏して九州に流罪となった」

「で、清原氏が東北を支配したんですね」

 

芦原が、教科書を見ながら言った。

 

「その通りだ。ここで重要なのは、安倍氏の所領を全て清原氏が手に入れたことだ。清原氏は東北最大の勢力となった」

 

教師が、黒板に『後三年の役』と書く。

 

「そして、その清原氏が内部対立を起こす。これが後三年の役だ」

「また戦争っすか?」

 

坂上が、少し疲れたように言うが、教師は緩やかに首を振る。

 

「いや、身内での争いであるから、更に酷い話かもしれないな」

「うへぇ」

 

教師の言葉に坂上が顔を顰めるが、教師の解説は止まらない。

 

「清原真衡が死ぬと、後継を巡って清原清衡、清原家衡、清原武衡が対立した。清衡の館が襲撃され、妻子が殺される」

「ひどい……」

 

稲沢が、顔をしかめた。

 

「そこで清衡は源義家に救援を求めた。義家は要望に応え、陸奥守として、治安維持を名目に介入したわけだ」

 

教師が、年表を示した。

 

「戦いは約四年続く。冬の豪雪や補給難で苦戦したが、最終的に義家は金沢柵を包囲し、陥落させた。家衡は討たれ、武衡は処刑された」

「で、清衡が勝ったんですね」

 

久留間が、珍しく発言した。

 

「そうだ。清衡は後に奥州藤原氏を築く。中尊寺金色堂で有名だな」

 

教師が、ここで重要だという顔をした。

 

「さて、ここからが今日の授業で最も重要な部分だ」

 

教師が、黒板に「恩賞問題」と大きく書いた。

 

「義家は戦後、朝廷に恩賞を求めた。しかし、朝廷は『私戦である』として恩賞を拒否したんだ」

「え、なんでですか?」

 

稲沢が驚いて尋ねた。

 

「清原氏の内部対立に勝手に介入しただけだ、という理由だ。義家は私財で兵を動員していたので、大きな負担を背負った」

「それはひどいっすね」

 

坂上が、憤慨したように言った。

 

「義家は、私財をなげうって兵たちに恩賞を与えた。この話が東国の武士たちの間に広まり、義家の名声は全国に響いたと伝わっている」

 

教師が、黒板に矢印を引いた。

 

「ここが重要だ。この事件により、武士たちは気づいた。朝廷は武士を利用するだけで、正当に評価しない、とな」

「それで、武士が独立していったんですか?」

 

定原が、理解したように尋ねた。

 

「その通りだ。武士たちは『自力救済』を常態化させるようになった。朝廷に頼らず、自分たちの力で報酬を得る。これが、武士の独立性を強める大きな契機となったんだ」

 

教師が、黒板にまとめを書いた。

 

「前九年の役と後三年の役。この二つの戦いで、源氏は東国で強い影響力を持った。特に源義家は、武士の理想像として語られるようになる」

「それが、後の鎌倉幕府に繋がるんですね」

 

芦原が、納得したように言った。

 

「そうだ。源頼朝が鎌倉幕府を開くのは、この約百年後だ。だが、その基盤は、頼義と義家が築いたんだ」

 

教師が、黒板全体を見渡した。

 

「整理するぞ。藤原道長の時代、摂関政治は最盛期を迎えた。文化も栄えた。しかし、同時に東北では武士が力をつけていた」

 

教師が、チョークで線を引いた。

 

「朝廷の権威は、まだ強かった。だが、実際の軍事力は、武士が握り始めていた。この矛盾が、やがて大きな変化を生み出す」

「次は、院政ですか?」

 

定原が尋ねた。

 

「そうだ。次回は、白河上皇の院政と、平氏の台頭について解説する。武士がさらに力をつけていく過程を見ていくぞ」

 

ちょうどその時、チャイムが鳴った。

 

「じゃあ、今日はここまでだ。教科書80ページまで予習しておけ」

「はい、ありがとうございました」

 

生徒たちが、一斉に立ち上がって礼をした。

教室には、まるで歴史の流れを感じたかのような、静かな余韻が残っていた。

 

が、しかし……。

 

「やっと昼だ~」

「ね~、一緒に食べよ~」

「いいよ!」

「……今日は購買なんだよな」

「俺もだ。売り切れる前に急ぐぞ」

 

すぐさま、生徒達は昼食の事で頭がいっぱいになっていく。

 

窓の外では、初夏の日差しが強まりながら、眩しく輝いていた。




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