よくわかる日本の歴史 ~ただし、原始時代から日本にのみダンジョンがあったものとする~【第三部完】   作:Mr.ティン

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保元の乱は、双方の陣営に武士が与し、親子や縁者同士の、骨肉の争いとなった

【崇徳上皇】

 

矢が、まるで雨のように白河殿に降り注いでいた。

炎が、まるで生き物のように建物を這い上がっていく。

刀と刀がぶつかり合う音が、まるで地獄の鐘のように響いていた。

 

「上皇様! お逃げください!」

 

朕の配下が、血まみれになりながら叫んだ。

 

「落ち着け。朕は、ここを動かぬ」

 

朕は、冷静に答えたが、朕の心は、まるで嵐の海のように荒れ狂っていた。

 

(何故だ……何故、このような事態になったのだ……)

 

朕は、混乱の中で、この状況に至った経緯を思い返していた。

 

全ては、鳥羽法皇の院政から始まったのだ。

朕が天皇として即位した時、朕はまだ若く、政治の実権は祖父である白河法皇と、父である鳥羽法皇が握っていた。

朕は、まるで飾り物のように、玉座に座っているだけだった。

 

(朕は……天皇でありながら、何もできなかった)

 

朕の心には、深い不満が積もっていた。

鳥羽院政期には、派閥対立が激化していた。

待賢門院派と美福門院派の対立だ。

朕の母である待賢門院は、鳥羽法皇から疎まれ、美福門院が寵愛を受けた。

この対立は、まるで火種のように、宮中を揺るがし続けた。

 

さらに、摂関家内部でも対立があった。

藤原忠通と藤原頼長の兄弟が、まるで犬猿の仲のように争っていたのだ。

朕は、この混沌とした状況の中で、自らの権力を確立する機会を窺っていた。

 

 

そして、転機が訪れた。後に近衛天皇と呼ばれる帝が崩御したのだ。

 

(あの時こそ、朕の院政が始まる時だと思った)

 

朕には、子がいた。重仁親王だ。

朕は、重仁親王を次の天皇に擁立し、自らが院政を行うことを期待した。

それこそが、朕の長年の願いだった。

 

だが、鳥羽法皇は朕を裏切った。

鳥羽法皇は、朕の弟である雅仁親王を天皇に即位させたのだ。

 

「雅仁が……天皇に?」

 

朕がその報を聞いた時、朕の心は、まるで氷水を浴びせられたかのように冷え切った。

 

(何故だ……何故、朕ではないのだ……)

 

朕は、鳥羽法皇に問い質したかった。

だが、鳥羽法皇は、朕の訴えを聞き入れなかった。

 

「崇徳、これが朕の決定だ」

 

鳥羽法皇の冷たい言葉が、朕の胸に突き刺さった。

 

(朕は……また、権力から遠ざけられたのだ)

 

朕の不満は、まるで火の山の底に溜まった溶岩のように、心の奥底で沸き立っていた。

こうして、朕と帝となった雅仁との対立は、表面化した。

宮中は、二つの陣営に分かれた。

朕の側には、藤原頼長や、朕を支持する貴族たちが集まった。

帝の側には、藤原忠通や、美福門院派の貴族たちが集まった。

 

そして、両陣営は、著名な武士たちを味方に引き入れようと動いたのだ。

 

朕の側には、源為義と平忠正が加わった。

源為義は、河内源氏の棟梁だ。

源義家の孫にあたる人物で、東国での源氏の影響力を背景に持っていた。

 

「朕は、上皇様のために戦いまする」

 

為義が、朕に忠誠を誓った時、朕は心強く思った。

 

(源氏の棟梁が、朕の側についた。これで、勝機はあるはずだ)

 

平忠正は、平氏の有力な武士だった。

彼もまた、朕のために力を貸すと約束してくれた。

 

だが、帝の側にも、強力な武士たちが集まっていた。

源義朝と平清盛だ。

 

源義朝は、源為義の息子だった。

父と子が、敵味方に分かれたのだ。

義朝は、まるで若い獅子のように勇猛で、東国の武士たちから支持を集めていた。

 

「某は、帝のために戦う」

 

義朝が、帝に忠誠を誓ったと聞いた時、朕は驚いた。

 

(親子が……敵味方に分かれるのか)

 

朕には、その選択が理解できなかった。

だが、武士の世界には、朕の知らぬ論理があるのだろう。

 

平清盛は、平忠正の甥だった。

彼もまた、叔父と敵対する道を選んだ。

清盛は、平氏の中でも特に有力で、魔穴で鍛えた力を持つ武人だと聞いていた。

 

(こちらも、血縁者同士が争うのか……)

 

朕は、複雑な思いを抱いた。

こうして、両陣営は膠着状態に陥った。

互いに相手を牽制し合い、決定的な行動を起こせずにいた。

朕は、機会を窺っていた。

だが、朕の動きは、常に後手に回ってしまっていた。

 

 

そして、運命の日が来た。

七月のある日の未明、帝方が動いたのだ。

 

源義朝と平清盛が率いる軍勢が、白河殿を急襲してきたのだ。

 

「敵襲だ! 敵襲だ!」

 

配下の叫び声が、朕を現実に引き戻した。

 

(またしても……朕は、先手を取られたのか……)

 

朕は、歯噛みした。

戦場では、親子が、兄弟が、まるで宿敵のように相争っていた。

 

「父上!」

 

源義朝の声が、戦場に響いた。

 

「義朝……!」

 

源為義が、息子と対峙していた。

為義の周囲には、まるで陽炎のように気が立ち上っていた。

魔穴で鍛えた武人の証だ。

 

「何故、帝の側についた! 某は、上皇様のために戦っておるのだぞ!」

「某には、某の道がある。父上、すまぬ」

 

義朝の刀が、まるで稲妻のように閃いた。

為義の刀がそれを受け止める。金属が激しくぶつかり合い、火花が散った。

 

二人の周囲の空気が、まるで渦を巻くように歪んでいた。

内に秘めた力が、激しくぶつかり合っているのだ。

 

「うおおおっ!」

 

為義が、渾身の一撃を放った。

その一撃は、まるで山を砕くかのような威力を持っていたが、義朝はそれを、まるで水が流れるかのように受け流した。

 

「父上の技は、全て学ばせていただいた!」

 

義朝の反撃が、為義の防御を破り、為義が、後退する。

 

(源氏の親子が……こうも激しく争うとは……)

 

朕は、その光景を、まるで悪夢を見ているかのように見つめていた。

 

一方で、平忠正と平清盛もまた、戦っていた。

 

「清盛! 何故、某に刃を向ける!」

 

忠正が、怒りの声を上げた。

 

「叔父上、すまぬ。だが、某には某の選択がある」

 

清盛の周囲には、まるで炎のような赤い気が立ち上っていた。

平氏に伝わる特殊な力の使い方だ。

 

清盛が手を振ると、炎が、まるで龍のように忠正に襲いかかった。

忠正は、自らの魔力で防壁を張り、炎を防ぐ。

 

「くっ……!」

 

だが、忠正の防壁が、清盛の炎に押され始めた。

清盛の魔力は、まるで太陽のように強大だった。

 

「某は……負けるわけにはいかぬ!」

 

忠正が、渾身の力を込めて反撃した。

だが、清盛の炎は、まるで津波のように忠正を飲み込んでいった。

 

(平氏もまた……血縁者同士で争っている……)

 

朕は、戦場の惨状を見て、心が痛んだ。

 

戦いは、まるで地獄絵図のようだった。

魔穴で磨かれた力が飛び交い、建物が崩れ、炎が舞い上がる。

武士たちは、まるで鬼神のように戦い続けた。

 

だが、結局のところ、戦闘は短時間で終結した。

奇襲を受けた朕の側は、準備が整っておらず、後白河方の圧倒的な攻勢の前に崩れ去ったのだ。

 

「上皇様、もはやこれまでです!」

 

配下が、朕に降伏を勧めた。

 

「……そうか」

 

朕は、静かに答えた。

 

(朕は……敗れたのか)

 

朕の心には、まるで深い闇が広がるような絶望があった。

朕は、捕らえられた。帝方の武士たちが、朕を取り囲む。

 

「崇徳上皇、御身は配流となる」

帝方の使者が、冷たく告げた。

 

「配流……」

 

朕は、その言葉を噛み締めた。

 

(朕は……また、権力から遠ざけられるのか……)

 

朕の心には、まるで炎のような怒りが燃え上がった。

だが、朕はそれを表に出さなかった。

 

「分かった」

 

朕は、静かに答えた。

だが、朕の心の奥底では、まるで劫火の如くに、怨念が湧き上がっていた。

 

(朕は……何もできなかった)

 

朕が天皇だった時も、上皇となった後も、朕は常に権力から遠ざけられ続けた。

朕が望んだ院政は、一度も実現しなかった。朕の子は、天皇になれなかった。

 

(何故だ……何故、朕だけが……)

 

朕の心には、まるで毒のような怨念が広がっていった。

朕の周囲の空気が、わずかに重くなった。

まるで、見えない何かが朕の周りに集まってくるかのように。

 

影が、通常よりも濃く、深く見えた。

朕の背後には、まるで黒い霧のような何かが、ゆらゆらと揺れていた。

 

(朕は……この無念を、決して忘れぬ)

 

朕は、心の中で誓った。

朕を裏切った者たちへの怨念を、朕は永遠に抱き続けるだろう。

 

配下の者たちが、朕の変化に気づいたのか、不安そうな顔をしていた。

だが、朕は何も言わなかった。

 

朕は、配流の地、讃岐へと連れて行かれた。

道中、朕は何度も振り返った。

都の方角を、まるで忘れられぬ恋人を見るかのように見つめた。

 

(朕は……必ず、この怨念を晴らす)

 

朕の心には、まるで呪いのような思いが刻まれていた。

朕の周囲の空気は、ますます重く、冷たくなっていく。

草木が、まるで朕を避けるかのように、わずかに萎れて見えた。

 

鳥たちが、朕の近くを飛ぶことを避けた。

まるで、何か恐ろしいものを感じ取ったかのように。

 

(朕の怨念は……いずれ、形となるであろう)

 

朕は、そう確信した。

朕の背後には、まるで黒い影が実体を持ち始めたかのように、濃密な何かが漂い始めていた。

それは、まだ形を成していないが、確実に存在していた。

朕もまた古より続く帝の血を引く者。

それ故に、『それ』があることが、当然の如くに分った。

 

配流の地へと向かう朕の姿は、まるで生きながらにして怨霊と化していくかのようだった。

 

後に保元の乱と呼ばれる戦は、こうして終わった。

だが、朕の戦いは、これから始まるのだ。

 

朕の怨念は、やがて都を、そして日本全土を揺るがすことになるであろう。

朕は、その日を待ち続けるのだった。

空は、どんよりと曇っていた。

まるで、朕の心を映すかのように。

そして、その雲の向こうには、まるで何かが蠢いているかのような、不吉な気配があった。

 

朕の時代は終わった。だが、朕の怨念の時代は、今、まさに始まろうとしていたのだった。




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