よくわかる日本の歴史 ~ただし、原始時代から日本にのみダンジョンがあったものとする~【第三部完】 作:Mr.ティン
【平清盛】
保元の乱が終わり、崇徳上皇の怨霊が讃岐の地に封じられた後、某は帝の重臣として取り立てられた。
帝、後白河天皇は、某の働きを認め、平家を重用してくださったのだ。
「清盛、そなたの功は大きい。これからも朕を支えよ」
「ありがたき幸せ。某は、帝のために全力を尽くしまする」
帝の言葉に、某は深く頭を下げた。
某は、この機会を逃すつもりはなかった。
某は平伏する中、これまで進んできた道が脳裏に浮かんでは消えてゆく。
某は、平忠盛の子として生まれた。
だが、実の父は白河法皇だという噂もあった。
真偽は定かではないが、某はその噂を利用することもあった。
若い頃、某は海賊討伐で武名を上げた。
瀬戸内を荒らす海賊たちを次々と討ち、朝廷から認められたのだ。
その後も、某は積極的に魔穴を利用し、己を鍛え上げてきた。
先の乱では、某は夜襲を主張した。
敵が油断している夜明け前に攻撃すれば、勝機があると読んだのだ。
某の読みは当たり、帝側は勝利した。
(某の判断が、勝利を導いたのだ)
某は、自分の能力を信じていた。
武力、戦況判断、政治的な判断においても、某は、それらすべてに優れていると自負していた。
(平家を隆盛させる。それが、某の使命だ)
某は、固く決意した。
帝の側近である藤原通憲、通称信西は、精力的に改革を進めていた。
記録所を設置し、荘園整理を行い、新制を発布する。
王権の強化と財政の再建が、信西の目標だった。
「清盛殿、平家には播磨、安芸、淡路、常陸の受領を任せたい」
信西が、某に告げた。
「ありがたき幸せ。某は、それらの国を治めてみせまする」
某は、喜んだ。
これらの国の受領を独占することで、平家の経済基盤は大きく強化される。
特に播磨や安芸は、瀬戸内海の交易の要衝だ。
某は、海上交易にも目をつけていた。
(宋との貿易を活発化させれば、平家はさらに富を得られる)
某は、交易による富がどれ程力につながるか、それを知っておった。
かつての藤原氏も、交易によって富を得て、それが権力の源になった事を知っていたのだ。
だが、某と信西の急速な台頭は、宮廷内に反感を生んでいた。
「信西と平氏が、権力を独占している」
「我らは、蔑ろにされている」
既存の公卿たちが、不満を募らせていた。
某は、それを知っていたが、構わぬ。
(不満を持つ者は、力で押さえつければよい)
某と信西の考えは、急進的すぎたのかもしれぬ。
だが、我らは自分の道を進むしかなかった。
そんな中、帝は譲位された。
守仁親王が新たな帝となり、帝は後白河上皇となられた。
ここで、権力は再び分裂し、上皇と帝、二つの権力が並立することになったのだ。
後白河上皇は、この対立の中、自身の側近として藤原信頼を急速に引き上げた。
そして信頼は、信西と並ぶ院近臣として、力を持ち始めた。
(信頼か……あの男は、危険だ)
某は、信頼を警戒していた。
信頼は、武蔵や陸奥など東国の知行国を背景に、源義朝と結びつきを強めていた。
そして源義朝は、保元の乱での武功に比して官位が低く、某との差に強い不満を抱いていた。
「某は……父を処刑し、帝のために戦ったというのに……」
噂では、源義朝はその様な事を呟いていると聞く。
まるで、怨嗟のように。
保元の乱の後、義朝は父・為義を処刑せねばならなかった。
それは、義朝にとって耐え難い苦痛だったはずだ。
(義朝は、情に厚すぎる。それが、あの者の弱点であろうな)
某は、義朝を理解していた。
義朝は個人としても、集団を率いる武人としても優れていた。
だが、政治的な立ち回りには疎く、脆弱と言える。
そんな信頼と義朝の二者は、急速に協力関係を築いていった。
背景には、かつて起きた大蔵合戦という、武蔵国比企郡大蔵で起きた源氏内部の抗争があった。
その際、信頼は源氏内の義朝の支援を担い、そこから繋がりが出来て行ったと聞く。
こうして既に結びつきがあった彼らは、『信頼と義朝』という一つの勢力となっていったのだ。
(これは……まずいな)
某は、不安を感じた。『信西と某達平家』と『信頼と義朝を始めとして源氏』。
宮廷は、二つの陣営に分かれつつあったのだ。
そんな日々の中、某は熊野詣に出ることにした。
表向きには、熊野権現に参詣し、平家の繁栄を祈るためだ。
だがその裏には、某の内面の不安があった。
讃岐に流され、怨霊と化した崇徳上皇の怨念が、平家に災いを齎すのではないかと、懸念を抱え続けていたのだ。
「某は、しばらく都を離れる」
「父上、大丈夫でございますか?」
某が一族に告げると、息子の重盛が、心配そうに尋ねた。
「案ずるな。信西殿がおる。都は安泰だ」
某は、そう答えた。
同時に、某以外の平家の武者も居るのだ。
何も起きるはずがない、筈であった。
だが、某の判断は甘かった。
いや、これこそ崇徳上皇の怨念によるものだったのであろうか?
某が熊野に到着してしばらくした頃、急報が届いたのだ。
使者が、息を切らして某の元に駆け込んできた。
「清盛様! 大変です! 都で乱が起きました!」
「何だと!?」
某は、驚愕した。
「信頼様と義朝殿が挙兵し、後白河上皇様と帝を幽閉しました!」
「幽閉だと!?」
某の心は、まるで嵐のように荒れ狂った。
(某の不在を狙ったのか……!)
某は、すぐに理解した。
某が都にいない今こそ、信西殿と平氏を排除する絶好の機会だったのだ。
「信西殿は!?」
「信西様は……逃亡されましたが、南山城で捕らえられ、殺害されました……」
使者の言葉に、某は拳を握りしめた。
「信西殿が……」
某は、深い怒りを覚えた。
信西は、某の協力者だった。
彼を失うことは、平家にとって大きな痛手だ。
「すぐに都へ戻る!」
某は、決断した。
「しかし、清盛様、道中は危険かと……」
「構わぬ。某には、紀伊の武士たちがついておる」
某は、紀伊の武士、湯浅宗重や、熊野別当の湛快らに支援を求めた。
彼らは、快く某に協力してくれた。
「清盛様、某らも共に参りましょう」
湯浅宗重が、力強く言った。
「ありがたい」
某は、急ぎ都へと引き返した。
都に到着した某は、まず状況を確認した。
信頼は自ら近衛大将となり、義朝を播磨守に任じるなど、恩賞を乱発していた。
だが、その行為は、まるで謀反そのものだった。
上皇と帝を幽閉し、勝手に人事を行う。
これでは、朝廷内で孤立するのも当然だ。
(信頼は……政治を理解しておらぬ)
某は、冷静に分析した。
二条親政派の一部や、平氏系の貴族たちは、某の帰還を期待していた。
(ならば、某がすべきことは明確だ)
某は、策を練った。
まず、某は信頼に臣従するふりをした。
「某は、信頼様に従いまする」
「清盛殿、そなたが味方になってくれるとは!」
某の言葉に、信頼は喜んだ。
信頼は、まるで子供のように単純だった。
(この男は……本当に政治が分かっておらぬ)
某は、心の中で呆れた。
そして、某は密かに動いた。
帝と中宮を、六波羅の某の邸へと救出したのだ。
さらに、後白河上皇も仁和寺へと移送した。
「これで……正統な帝と後白河院は、某の側にある」
某は、満足した。大義名分を得たのだ。
一方で信頼は、慌てふためいていた。
「清盛が裏切っただと!?」
報せを受けた信頼の動揺ぶりは、目も当てられぬ者だったと聞く。
「義朝殿、どうするのだ!?」
「某らは……大内裏に立て籠もるしかない」
一方で義朝は、苦渋の決断をしていた。
大義名分を失った今、そうするほかなかったのであろう。
そして、大内裏での戦いが始まった。
義朝とその子・義平らは奮戦し、彼らの武勇は、まるで鬼神のようだった。
「押せ! 押せ! 六波羅まで攻め込むぞ!」
義朝の声が、戦場に響く。
義朝の軍勢は、一時は某の六波羅邸まで攻め込んできたのだ。
「くっ……義朝め、やはり強い……」
某は、義朝の武勇を認めざるを得なかった。
だが、某には策があった。
「……源光保殿、源頼政殿、今こそ、帝に忠義を示す時ぞ?」
某は、事前に工作していた源氏の一部を、寝返らせたのだ。
「某らは、清盛殿につく!」
光保と頼政が、義朝に刃を向けた。
「な、何故だ! お前たちは、源氏ではないか!」
義朝が、驚愕の声を上げた。
「源氏であろうと、勝ち目のない戦は戦わぬ」
頼政が、冷徹に答える中、戦局は、一気に某の側へと傾いた。
一度崩れれば、義朝の軍勢は立て直しも利かず、敗走するばかり。
「退け! 退け!」
「何としても生き延びねば……」
義朝が、撤退を命じる中、信頼は、逃亡を図る。
だが、すぐさま捕らえられ、某の前に連行されたのだ。
「許してくれ……許してくれ……」
信頼が、まるで哀れな犬のように命乞いをしている。
だが、某は容赦しなかった。
「信頼は、六条河原で処刑せよ」
某の命令で、信頼は処刑された。
義朝は、東国へ落ち延びようとした。
だが、運命は彼を見放した。
尾張国の野間で、長田忠致に裏切られ、殺害されたのだ。
「義朝殿が……討たれた……」
その報を聞いた時、某は複雑な思いを抱いた。
(義朝は……立派な武人だった。だが、政治的には甘かった)
某は、義朝を悼んだ。
だが、同時に、これで源氏の脅威は去ったとも思った。
義朝の長男・義平は捕らえられて斬首された。
一方で三男・頼朝は、伊豆へ流罪となった。
「頼朝は……まだ若い。流罪で十分であろう」
某は、頼朝の命を助けた。
それは、一度は轡を並べ共に戦った義朝殿への、最後の義理であった。
こうして、藤原信頼一派は壊滅し、源義朝一門は没落した。
競合する源氏が失脚したことで、某ら平家は、院政を支える唯一の武門としての地位を確立したのだ。
某は、六波羅の邸で、都を見渡した。
(平家の時代が……やってくる)
某は、確信した。
某が築き上げてきたもの、それが今、実を結ぼうとしている。
「某は、平家を隆盛させる。そして、この国を治める」
某は、心に誓った。
帝と上皇は、某を重用してくださった。
某は、太政大臣への道を歩み始めた。
平家一門も、次々と要職に就いていく。
「父上、我らの時代が来ましたな」
重盛が、喜びの声を上げた。
「そうだ。だが、油断してはならぬ。某らを妬む者は、まだ多い」
某は、重盛を戒めた。
(某は……急進的すぎるのかもしれぬ)
某は、自分の欠点を理解していた。
信西がそうであったように、既存の公卿や寺社、そして他の武士たちから疎まれている。
それが、いずれ平家滅亡の遠因となるかもしれない。
だが、某は止まらなかった。
(某には、やるべきことがある)
某は、宋との貿易を活発化させた。
大輪田泊を整備し、海上交易の拠点としたのだ。
既に莫大な富が、平家に流れ込んできている。
「平家にあらずんば人にあらず」
そんな言葉が、次第に都で囁かれるようになった。
力を持ったが為に、平家の皆が尊大に振る舞うようになった証であろうか?
それほどまでに、平家の栄華は、まるで太陽のように輝いていた。
だが、某の心には、わずかな不安があった。
崇徳上皇の怨念が、完全に封じられたわけではないことを、某は知っている。
讃岐の地で、怨念を封じる儀式に参加した某は、あの黒い瘴気を忘れることができなかった。
(あの怨念が……某の心に、何かを残したのか……?)
某は、時折、胸の奥に違和感を覚えた。
それは、まるで黒い種が植えられたかのような、不吉な感覚だった。
だが、某はそれを振り払った。
(某は、前に進むのみだ)
某は、平家の繁栄のために、全力を尽くすことを誓ったのだ。
空には、美しい青空が広がっていた。
だが、彼方の空には、まるで暗雲が集まり始めているかのような、微かな予兆があった。
平家の時代は、今、始まったばかりだった。
だが、その繁栄がいつまで続くのか、それは誰にも分からない。
それでも某は、進むより他ないのだ。
なお、崇徳上皇は、史実よりも早く、平治の乱前に没しています。
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