よくわかる日本の歴史 ~ただし、原始時代から日本にのみダンジョンがあったものとする~【第三部完】   作:Mr.ティン

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平清盛は治承三年の政変により院政を終わらせ、平氏の政治支配を確立した

【平清盛】

 

平治の乱が終わり、某は朝廷内での影響力を急速に拡大していった。

武士としての実力を背景に、某と平家一門は次々と公卿列へと登用されていった。

某の子弟たちも、まるで竹が伸びるように、高い官位へと昇っていく。

 

「父上、某も公卿となりました」

「うむ、よくやった」

 

重盛が、喜びの声を上げ、某は息子の成長を喜んだ。

だが、同時に某は次なる目標に向けて動いていた。

瀬戸内の制海権を確立し、宋との貿易を推進するのだ。

 

某は、大輪田泊の整備を進めた。

港を拡張し、大型船が停泊できるようにする。

さらに、経が島を造成し、貿易の拠点とした。

 

「これで、宋との貿易が盛んになる」

 

某は、確信していた。

瀬戸内を制する者が、この国の富を制するのだ。

某は、海上交易路を完全に掌握し、そこから得られる富が、平家を日乃本を動かす。

 

その後、某の思い描いたとおりに、宋からの船が、次々と大輪田泊に入港してくるようになった。

絹織物、陶磁器、香料、書籍。

様々な品々が宋より運ばれ、そして逆に我が国からは金、硫黄、刀剣、更に魔穴の産物などが輸出された。

更には質の良い宋の銭が大量に流入し、国内のものの動きを加速させる。

それら全てを制しているのが、某の平家なのだ。

 

「某の予想通りだ。莫大な富が、平家に流れ込んでくる」

 

某は、満足した。

経済力こそが、権力の基盤である。

農作物は国の土台ではあるが、活力を担うのは物の流れなのだ。

某は、それをよく理解していた。

 

同時に、某は厳島神社の造営も進めた。

海上に浮かぶ壮麗な社殿は、まるで龍宮のように美しかった。

さらに、福原に別邸を建設した。

 

「某の権力を、周囲に示すのだ」

 

某は、自らの威光を誇示することに躊躇しなかった。

そして、遂にその日が来た。

某は、武士として初めて太政大臣に就任したのだ。

 

「清盛、そなたを太政大臣に任ずる」

 

帝の言葉に、某は深く頭を下げた。

 

「ありがたき幸せ」

 

某は、感慨深かった。

武士が、公卿の頂点である太政大臣になる。

これは、まさに前例のないことだった。

 

だが、宮廷内の反応は冷ややかだった。

 

「武士風情が、太政大臣だと?」

「これは、朝廷の恥だ」

 

公家たちが、露骨に不満を示した。

院政側も、某の台頭を警戒している。

政治的な摩擦が、まるで火種のように燻っているのだ。

 

(某は……疎まれているのだな)

 

某は、それを理解していた。

だが、某には次の策があった。

某は、太政大臣に就任してから、ほどなくして辞任した。

その動きは公卿たちを安堵させるものだった事だろう。

やはり、武家に太政大臣など身に余ったのだと。

 

「清盛殿、何故辞任されるのですか?」

 

某の周囲もまた驚き、騒ぐ。

だが、某はこう告げたのだ。

 

「某の役目は、終わった。今は、次の世代に権力を継承する時だ」

 

太政大臣という地位は得た。

それは確かな実績であり、それで十分だ。

その上で、某は先を見据えねばならぬ。

実務的な軍事権や治安権は、重盛らに移譲していき、某は影響力を保ちながら、家中の統率を次世代に引き継ぐのだ。

 

そして同時に、某は出家の準備を始めた。

 

「父上、出家されるのですか?」

「そうだ。某は、もう老いた」

 

重盛の言葉に某はそう答えたが、真実は別にある。

某の身体には、異変が起きていたのだ。

時折、胸の奥に鈍い痛みが走る。

身体が、まるで内側から蝕まれているかのような感覚がある。

実のところ、太政大臣の早期の辞任も、次代への継承を進めるのも、これが最も大きな理由であった。

 

(崇徳上皇の……瘴気か……)

 

某は、確信していた。

讃岐の地で封じた崇徳上皇の怨念。

間近で濃厚な瘴気を受けていた某の身は、当時から僅かな違和感が残っていた。

その瘴気が、某の身体を少しずつ蝕んでいるのだ。

某の心に植えられた黒い種が、今、芽吹き始めている。

 

(某の時間は……限られている)

 

某は、危機感を抱いていた。

だからこそ、権力の継承を急がねばならない。

だが、某が権力を手放しても、平家の繁栄は続いた。

いや、むしろ加速した。

平家一門は、次々と高い官位に就いて行く。

その結果、一門はまるで公卿のように振る舞うようになっていった。

 

「某らは、もはや武士ではない。公卿なのだ」

 

平家の者たちが、そう言い始め、武芸の鍛錬を怠り、宴会や歌会に興じるようになったのだ。

 

(これは……まずいな)

 

某は、それらに気づき、危機感を抱く。

平家が、武家としての力を失いつつあることを。

だが、某はそれを止めなかった。

 

(公卿化することで、朝廷内での地位は安定する。それも、一つの道ではある)

 

某は、そう自分に言い聞かせた。

だが、某の心の奥底には、わずかな不安が残る。

 

(武家としての力を失えば、いずれ……)

 

某は、その先を考えることを避けた。

世代を重ねれば、それらは必然として起きる事だと思ったのだ。

このまま平家が天下を治めて行けば、それは当たり前のこととなる。

それがいち早く起きているとも言えるのだ。

 

(ならばこそ、今様々な問題を処理せねばならんな)

 

 

平家の急速な台頭は、様々な摩擦を生んでいた。

延暦寺との対立が激化し、強訴が起き、摂関家領を巡る紛争もまた発生していた。

政治的緊張が、まるで積み重なる薪のように、高まっていった。

 

そして、ある日、一つの事件が起きた。

 

「清盛様、密告がございます」

 

多田行綱が、某のもとに訪れた。

 

「何だ?」

「院近臣らが、東山鹿ヶ谷の山荘で平氏討伐を密議しておるとのことです」

 

行綱の言葉に、某は眉をひそめた。

 

「平氏討伐……だと?」

 

某は、すぐに動いた。

これは、院近臣の力を削ぐ好機であると判断したのだ。

某は、密議に関わったとされる者たちを即座に処罰した。

西光は斬首、成親らは配流、俊寛らは遠島に処された。

 

(これで、院近臣の勢力は衰えるだろう)

 

某は、満足した。

だが、実のところ、この密議が本当にあったのかどうかは定かではない。

某は、平氏の策謀として、院近臣を排除したに過ぎなかったのだ。

 

だが、この事件は、平家への反発をさらに強めることになった。

公家も、寺社も、そして他の武士たちも、平家を警戒し始めたのだ。

 

特に、この事件の影響を受けたのは、我が子重盛だった。

重盛は、平家と公家側との間に立って調整役を務めていた。

だが、双方からの圧力は、まるで岩に挟まれるように、重盛を苦しめた。

 

「父上……某は……」

 

その心労の末、重盛が某に弱音を吐いた。

 

「どうした、重盛?」

「某は……もう、疲れました……」

 

重盛の顔には、深い疲労の色が浮かんでいた。

 

「重盛、お前は頑張っている。某は、お前を誇りに思うぞ」

 

某は、重盛を励まそうとするも、重盛の心は、既に折れかけていた。

そして、遂にその日が来た。重盛が、病に倒れたのだ。

 

「父上……某は……もう……」

 

重盛が、弱々しく言った。

 

「重盛! しっかりしろ!」

 

某は、息子の手を握った。

だが、重盛の命の灯火は、まるで風に吹かれる蝋燭のように、消えかけていた。

 

「父上……平家を……頼みます……」

 

重盛の最後の言葉が、某の胸に突き刺さった。

そして、重盛は息を引き取った。

 

「重盛……っ!」

 

某は、深い悲しみに沈んだ。

重盛は、某の抑制役だった。

彼がいたからこそ、某は暴走せずに済んでいたと、某自身解っていた。

だが、もう重盛はいない。

 

(某を止める者は……もういないのか)

 

某の心の中で、何かが弾けた。

某は、もはや躊躇することなく、強引な政策を推し進めるようになった。

 

某の娘、徳子を帝に入内させた。

そして、徳子が産んだ皇子を立太子させた。平家の血を引く者が、次の帝となるのだ。

 

「某の孫が……帝になる……」

 

某は、権力の頂点を極めたと感じた。

それは、かつての藤原氏と同じ、外戚による朝廷支配に他ならぬ。

このまま進めば、平家は新たな藤原氏となるだろう。

 

(いや、それでは足らぬのだ)

 

だが、某はまだ満足しなかった。

某は、数千騎を率いて上洛し、京都を制圧した。

臨時除目で、多数の院近臣を解官・配流し、更に後白河法皇を鳥羽殿に幽閉し、院政を停止させたのだ。

 

「法皇様を……幽閉した……だと?」

 

都の民が、驚愕し、公卿たちさえ恐れ戦く中、某は、宣言した。

 

「某は、もはや何者にも従わぬ」

 

帝も、上皇も、法皇も、全て某の掌中にある。

某が、まさしく名実共に日乃本の頂点に立ったのだ。

 

そして、某は天皇・上皇・法皇を伴い、福原へと移動した。

 

「某は、福原に新たな都を造る。和田京、すなわち福原京だ」

 

某の宣言に、周囲は騒然となった。

 

「都を……移すのですか?」

「そうだ。某の都を、某が造るのだ」

 

某は、福原京の造営を命じた。

これは、平家が帝や院さえも超える権力を持ったことを、天下に示すものだった。

 

だが、某の心の奥底には、不安があった。

身体の異変は、ますます酷くなっていた。

胸の痛みは、まるで心臓を握りつぶされるかのように激しくなった。

崇徳上皇の瘴気が、某を確実に蝕んでいる。

 

(某の時間は……もう残されていない……)

 

某は、焦りを感じていた。

だからこそ、某は急いだ。

全てを、今、成し遂げねばならない。

 

だが、某の急進的な政策は、溜まりにたまった反発を噴出させることになった。

公家も、寺社も、そして各地の武士たちも、平家に対する怒りを募らせていた。

 

そして、ある日、報告が届いた。

 

「清盛様! 東国で、源氏が挙兵しました!」

 

使者が、息を切らして報告した。

 

「源氏……だと?」

 

某は、動揺を隠せなかった。

 

「はい、伊豆に流されていた源頼朝が、兵を挙げたとのことです」

 

頼朝……義朝の息子。某が、命を助けた男だ。

 

「頼朝が……」

 

某は、深い溜息をついた。

 

(某の過ちだったのか……あの時、頼朝を処刑しておけば……)

 

某は過去の行いを憂いたが、全ては過ぎた事。

ならば、今悔やんでいる時間などない。

 

「すぐに討伐軍を送れ!」

 

某は、命じた。

だが、某の心には、暗い予感があった。

 

(平家は……もはや武家ではない。公卿と化してしまった)

 

某は、気づいていた。

平家一門は、武芸を忘れ、宴会に興じている。

若い一門の者は、魔穴にも潜っていないとも聞く。

そんな彼らが、東国の荒武者たちと戦えるだろうか。

 

(某が……許容してしまったのだ。平家の公卿化を……)

 

某は、自分の判断を悔いた。

だが、もう遅い。

 

頼朝の挙兵は、平家の崩壊の始まりを告げるものだった。

某はそれを理解していた。

だが、それを受け入れるわけには行かぬ。

この身尽きるまで、抗うのだ。

 

某は、福原の都を見渡した。

まだ建設途中の都は、まるで未完の夢のようだった。

 

(某が築き上げてきたもの……それが、今、崩れ去ろうとしている……だが、まだだ)

 

意気込む某の胸に、深い痛みが走る。

崇徳上皇の瘴気が、まるで某を嘲笑うかのように、某の身体を蝕んでいく。

だが、まだこの身は動く。

 

「某は、成し遂げきっていないのだ……故に、抗わせていただくぞ」

 

某は、この身を蝕む瘴気へ、崇徳上皇の怨念へと語り掛けた。

権力を得た。富を得た。

だが、それを次代に残せなければ、全ては夢と消える。

ならば、既に朽ちつつある老体であろうとも、抗うまでだ。

 

平家の時代は、まだ終わっていない。

そう、終わらせる気などない。

某、平清盛は、その運命の転換点に立っているのだ。




なお、崇徳上皇は、史実よりも早く、平治の乱前に没しています。
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