よくわかる日本の歴史 ~ただし、原始時代から日本にのみダンジョンがあったものとする~【第三部完】   作:Mr.ティン

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富士川の戦いにて、源氏の軍は水鳥の羽音に驚き、敗走したと伝えられている

【源頼朝】

 

挙兵した拙者は、まず伊豆国目代・山木兼隆を急襲した。

この者は、平家が全国に配置した目代だ。

平家の差配の例にもれず、この者もまた平家で無いものを見下しており、東国の武士は半圧を募らせてた。

 

故に、まずはこれを討つ。

 

拙者の軍は、夜闇に紛れて兼隆の館を囲み、一気に攻め込んだ。

まるで不意を突かれた獣のように兼隆は狼狽し、幾らかの抵抗もむなしく討ち取られていた。

拙者の配下が、高らかに叫ぶ。

 

「山木兼隆、討ち取ったり!」

「よくやった! これが、拙者らの最初の勝利だ!」

 

拙者の言葉に、武士たちが歓声を上げた。

この戦果により、拙者の軍勢の戦意は、まるで炎が燃え上がるように高まった。

 

(これで、拙者の挙兵は本物だと、東国の武士たちに示すことができた)

 

拙者は、満足した。

だが、拙者の喜びは長くは続かなかった。

直後、石橋山で拙者の軍は、大庭景親らが率いる平氏方の大軍に包囲されたのだ。

配下が、焦った声で報告してきた。

 

「頼朝様! 敵の数は、拙者らの数倍です!」

「落ち着け。拙者らには、源氏の名がある」

 

拙者は、冷静さを保とうとした。

だが、状況は厳しかった。

平氏方の軍勢が、まるで何者であろうと逃がさぬとばかりに、拙者らを取り囲んでいる。

そして、さらに悪い報せが届く。

 

「頼朝! 清盛様の温情を仇で返す愚か者よ、聞くが良い!」

 

大庭景親が、拙者に向かって叫んだのだ。

 

「以仁王様と源頼政殿は、既に平氏軍に敗れた! 頼政殿は平等院で自害され、以仁王様も討死されたのだ!」

「何……だと……」

 

景親の言葉に、拙者は息を呑んだ。

平家討伐を発せられた以仁王様が討たれるとは……旗頭とすべき方を失っては、拙者たちの大義が失われてしまう。

拙者の心は、まるで氷水を浴びせられたかのように冷え切っていた。

 

「源氏の大義など、最早ないのだ! 降伏せよ、頼朝!」

 

景親の言葉が、拙者の胸に突き刺さった。

 

(以仁王様が……頼政殿が……)

 

拙者の軍勢にも、動揺が広がった。

大義名分を失った今、拙者らは何のために戦っているのか。

兵たちの士気が、まるで砂が崩れるように下がっていく。

 

「くっ……!」

 

拙者は、歯を食いしばった。

だが、大軍に包囲された拙者の軍は、もはや抵抗できなかった。

拙者は、惨敗を喫したのだ。

 

「頼朝様! お逃げください!」

 

それでも味方の武士たちが、血路を開いてくれた。

拙者は、彼らの犠牲の上で、辛うじて戦場を脱出したのだ。

 

「すまぬ……すまぬ……お前たち……」

 

逃げながら、拙者は何度も謝った。

多くの武士が、拙者を、源氏の命脈を繋ぐためだけに命を落とした。

拙者が生きているのは、まかりなりにも旗頭である為だ。

故に、拙者はここでは死なぬ。彼らの死を意味ある者にせねばならんのだ。

 

その後拙者は、真鶴から海路で安房へと脱出する。

船の上で、拙者は深い絶望に沈んでいだ。

 

(拙者は、敗れた……立つには早すぎたのか)

 

拙者の心には、深い無力感があった。

だが、拙者は諦めなかった。

 

(まだ……終わっていない)

 

拙者は、それでも足を止めぬと、硬く心に決めたのだ。

 

海路にて安房に到着した拙者だが、すぐさま転機が訪れた。

有力な武士たちが、次々と拙者のもとに参陣してきたのだ。

 

「頼朝様、某は千葉常胤。貴方に従いまする」

「某は上総広常。源氏の旗のもとに、参上いたした」

 

常胤殿が、深く頭を下げ、広常殿もまた、拙者に忠誠を誓ってくれた。

 

「ありがたい……ありがたい……」

 

拙者は、感謝の言葉を繰り返した。

 

(源氏の名は……東国でこれほどまでに影響力があるのか)

 

拙者は、改めて実感した。

源義家公が築いた名声は、今も東国の武士たちの心に生きている。

拙者は、その名声を継ぐ者として、彼らに受け入れられたのだ。

 

時が経つほどに、東国の武士たちが拙者のもとに集まってきた。

拙者の軍勢は、まるでうねる波が次第に大きくなるかのように、規模を増していった。

 

「拙者らの勢いは、もはや誰にも止められぬ」

 

拙者は、この勢いが止まらぬ事を確信した。

故に、拙者は、本拠地を明確に定めることとした。

人が集まるのならば、それを収める器が必要になる。

 

「拙者は、鎌倉を本拠地とする」

 

拙者の宣言に、武士たちが頷いた。

鎌倉は、かつて源義家公が関東の拠点とした地だ。

源氏にとって、ゆかりの深い土地でありつつ、他にも利点は多い。

 

「鎌倉は、三方を山に囲まれ、一方が海に面している。守りやすく、攻めにくい。本拠地として最適だ」

 

拙者は、戦略的な理由も説明した。

武士たちは、拙者の判断を支持してくれた。

更に、海に面しているというのは大きい。

海路は、移動にも交易にも利は多い。

 

こうして、拙者は鎌倉に入り、本格的な政権の基盤を築き始めた。

 

一方で、平家もまた動いていた。

平維盛を総大将とする討伐軍が、今日を発して拙者たちが居る東国へと出陣したのだ。

その動きを察知した配下が報告してくる。

 

「平家の討伐軍が、こちらに向かっております」

「分かった。拙者らも、迎え撃つ準備をせよ」

 

拙者は、冷静に命じた。

戦自宅を整え、進軍する。

そして、あと数日で、平家と源氏の軍が富士川で遭遇するという頃、拙者の陣に使者が訪れた。

 

「頼朝様、奥州から援軍が参りました!」

「奥州……から?」

「はい、魔穴で鍛え上げられた精鋭の軍勢です。昼夜を通して進軍し、平家との戦に間に合ったとのことです」

「ふむ……」

 

拙者は、その武者という物に興味を持った。

何より、奥州といえば、源氏とも縁が深い。

これは会わねばならぬであろう。

 

そして、その武者は拙者が居る陣幕へとやって来た。

 

まだ若い。そして何処か顔に幼さも残っている。

だが、その武将の周囲には、まるで風が渦巻くかのような気が立ち上っていた。

 

「兄上……」

 

若い武将が、拙者を見て思わず零したように呟いた。

 

「お前は……?」

 

拙者は、息を呑んだ。

相対しただけで、解る。

この者は、尋常なものではない。

そして、続く言葉を受け、拙者はこの者が何者かを知った。

 

「私は、九郎義経と申します。兄上にお会いしたく、奥州より参上いたしました」

 

義経……拙者の弟だ。

土肥実平らは不審そうな顔をしていたが、拙者は義経を招き寄せる。

 

「九郎……お前、よく来てくれた」

「兄上……私は、ずっと兄上に会いたかった……」

 

義経の声には、まるで子供のような純粋さがあった。

拙者底に、不思議な心地となった。

今まで、拙者の身内とは、流刑になった後に庇護してくれた北条氏だと考えていた。

しかし、こうして実の弟である義経と相対すると、奇妙な高揚を感じずにはいられない。

 

「拙者も、お前に会えて嬉しい」

 

拙者は、心からそう思った。

拙者と義経は、互いの無事を喜び合ったのだ。

そしてその直後、義経は、拙者の前で膝を突き、誓った。

 

「私は、兄上の剣となり、盾となります。どうか、私をお使いください」

「よくぞ言った、九郎。拙者は、お前の力を頼りにさせてもらうぞ」

 

拙者は、弟の忠誠を受け入れた。

こうして、拙者の軍に優秀な将が加わったのだ。

 

 

一方で平維盛を総大将とする平家の討伐軍は、深刻な問題を抱えていた。

兵の徴集が難航し、維盛と忠清の対立で出発が遅延していたのだ。

さらに、西国では幾つかの理由により不作であり、飢饉で兵糧不足に陥っていた。

 

「平家の軍は、士気が極めて低いようです」

 

それらの様子を、配下が報告してくる。

 

「それに、甲斐源氏の武田信義・安田義定らが、鉢田で平家の別働隊を壊滅させたとのことです。恐らく、この先で我らと合流して来るものと思われます」

「平家の軍は、既に崩れ始めているのだな」

 

拙者は、その報告を聞いて頷き、そして己の軍の優勢を確信する。

 

 

その後両軍は、富士川の両岸に布陣した。

東岸の拙者の軍には、報告通りに甲斐源氏も加わっていた。

だが合流後すぐに、彼らは別行動をとったのだ。

大きく回り込み、平氏軍の背後を突くつもりのようだ。

 

そして、その時が来た。

夜半、平氏の背後を突かんと動いていた武田軍に、異変が起きた。

富士沼に群れていた水鳥が、一斉に飛び立ったのだ。

 

その羽音は、まるで雷鳴のように響く。

この付近の水鳥は、富士の気を取り込んでいる為か、とかく大きいのだ。

一羽でも羽搏きは突風を呼ぶほど。

それが群れを成したのであれば、それは夜闇の静寂を引き裂く爆音となる。

 

「しまった! 動きを察知されたか!?」

 

武田軍が焦った。

だが、拙者の陣では、義経が進言してきた。

 

「兄上、あの騒ぎで武田の動きが読まれ、平氏軍がその対応に兵を動かすなら、本陣はその背後を突けます」

 

義経の言葉に、拙者は頷いた。

なるほど、釣られて平家が動くならば、その背後を突けばよい。

平家が動かずとも、今本陣を動かせば挟み撃ちとなる。

 

「九郎、その通りだ。本体を進軍させよ!」

 

拙者の命令で、本陣が動き出した。

 

 

だが、平家の軍は、水鳥の羽音に驚き、陣は拙者たちの想像を超えるほどの混乱に陥っていた。

士気が低いこともあり、兵たちは恐慌状態となったのだ。

多くの兵が、羽音から逃げ出し、陣からも飛び出していく。

 

「源氏の大軍が襲ってくる!」

「逃げろ! 逃げろ!」

 

平氏の兵たちが、叫ぶ。

さらに、拙者の本陣から進軍の音が響いたことで、兵の逃亡が相次いだ。

平氏軍は、実際に合戦に至る前に壊走し始めたのだ。

 

「追え! 敵を一人も逃がすな!」

 

拙者は、命じた。

だが、追撃は控えめにした。

拙者の目的は、平家を倒すことだけに終わらない。

基盤である東国を固め、治めていかねばならないのだ。

 

こうして、富士川の戦いは、ほぼ交戦もなく拙者の勝利に終わった。

この種利に、義経が興奮した様子で告げてくる。

 

「兄上、このまま上洛しましょう!」

「九郎、気持ちは分かるが……」

 

拙者が答えようとすると、上総広常が進言してきた。

 

「頼朝様、地固めが先です。東国を完全に掌握せぬまま上洛しては、背後を突かれます」

 

広常殿の言葉に、他の東国武士たちも頷いた。

 

「……分かった。拙者らは、鎌倉へ帰還する」

 

拙者は、決断した。

これにより、鎌倉政権の基盤固めが優先されることとなった。

同時に、源氏の東国支配が確立されたのだ。

 

鎌倉へ戻る途中、拙者は義経と話した。

 

「九郎、拙者らは勝利した。だが、油断してはならぬ」

「兄上の仰る通りです。平家の本丸である清盛が健在なうちは、安心できません」

 

拙者の言葉に、義経が頷く。

なるほど、流石は源氏の者だ。

しっかりと、物事を見ている。

義経の言葉に、拙者は満足した。

 

「お前は、よく分かっているな、九郎」

「それでも、兄上。源氏再興への大きな一歩を踏み出せたことは、喜ばしいことです」

 

義経が、まるで子供のように笑った。

 

「そうだな。拙者も、嬉しく思う」

 

拙者は、心から笑った。

 

(拙者は……源氏を再興する。そして、武士の世を創るのだ)

 

拙者の心には、確固たる決意があった。

平家の時代は終わりつつある。

次は、武士の時代だ。

そして、その時代を創るのは、拙者なのだ。

 

拙者は、鎌倉へと向かった。

源氏の旗が、風に大きくなびいている。

白地に赤の丸、それが拙者の誇りだ。

 

東国の武士たちが、拙者に従っている。

恩賞と奉公、その仕組みで拙者は彼らを統率する。

 

(拙者の戦いは、まだ始まったばかりだ)

 

拙者、源頼朝は、新しい時代の扉を開こうとしていたのだった。




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