よくわかる日本の歴史 ~ただし、原始時代から日本にのみダンジョンがあったものとする~【第三部完】   作:Mr.ティン

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明日、明後日も更新危ういかも……


源義経は鎌倉の意に反したとされ追討の命が下される中、源頼朝は鎌倉幕府の体制を確立していった

【源義経】

 

由比ヶ浜で、私は一通の書状を受け取った。

兄上・頼朝からの書状だ。

その内容は、私の鎌倉入りを拒否するというものだった。

 

「これは……」

 

私の手は、わずかに震えた。

壇ノ浦での勝利から京へ戻り、後白河法皇の命により戦後処理を進めてきた。

平氏の所領を没収し、恩賞を分配する。

それは、法皇からの直接の命だったのだ。

 

だが、その行動が、兄上の怒りを買うことになろうとは、私には想像できなかった。

 

京での日々を思い出した。

 

 

後白河法皇が私に近づいた。

 

「義経よ。平氏の所領処理は、そなたに任せたい。その恩賞の分配も、そなたが主体となってくれ」

 

法皇の言葉に、私は従うしかなかった。

検非違使としての職務でもあったからだ。

 

だが、その処理を兄上に報告した時、兄上の沈黙が返ってきたのだ。

 

やがて、兄上からの文が届いた。

それは、私の鎌倉入りを禁止するというものだった。

 

「なぜ……」

 

私は、そう呟いた。

弁慶が、私の側に来た。

 

「殿、拙僧には理解できません。法皇様の命であれば、それは当然の職務では……」

「弁慶、そうなのだ。だが、兄上は納得されないようだ」

 

私は、弁慶に説明した。

東国の武士に対する恩賞は、鎌倉の権限だというのが兄上の原則のようだ。

それを、京の法皇の命により、私が勝手に実行したことが、その原則を破ってしまったのだ。

 

「ならば、弁慶。鎌倉へ行き、兄上に弁明しよう」

 

私は、決断した。

理解を求めるために、鎌倉へ向かう必要があった。

 

しかし、鎌倉に着いた時、私は足止めされた。

腰越で、兄上の命により、鎌倉への入城を許されなかったのだ。

 

「九郎の鎌倉入りは許さん」

 

兄上の返答は、冷たかった。

 

悲嘆にくれた私は、腰越で一通の書状を書いた。

それは、私の忠誠を訴える書状。

 

『兄上へ。私は、決して法皇に操られているのではなく、常に兄上の家臣として行動しております。今回の所領処理についても、法皇の命であったがためのものです。何とぞ、我が忠誠を信じてください』

 

そのような内容の書状を、私は書いて兄上に送った。

だが、兄上からの返答は、永遠に来なかった。

 

 

【源頼朝】

 

鎌倉で、拙者は事態の深刻さを理解していた。

 

範頼からの報告により、京での義経の動きは逐一聞き及んでいた。

義経が後白河法皇の命により、所領処理と恩賞分配を進めていることも知っていた。

 

だが、その知らせに対して、拙者は複雑な感情を抱かずにはいられなかった。

 

義経の忠誠に疑いはない。

だが、問題は、義経が後白河法皇の影響下にあるという事実だった。

 

「くっ……」

 

拙者は、歯を食いしばった。

 

東国の武士を統制するために、拙者は恩賞と奉公の仕組みを作り上げてきた。

その仕組みが、京の法皇による干渉から成り立つはずがない。

 

義経が、意図せずとも、後白河法皇の代理人となってしまっていたのだ。

 

拙者は、保元の乱での故事を思い出した。

あの乱で、源氏も平氏も、立ち位置次第で同族同士が敵対した。

崇徳上皇についた源為義と、後白河についた源義朝。

父と子が敵同士となったのだ。

 

(拙者たちも、同じ轍を踏もうとしているのか……)

 

その認識が、拙者の心を重くしていた。

 

義経の忠誠は本物だろう。

だが、その忠誠を、後白河法皇が利用しようとしている事実は変わらない。

故に、拙者は義経から距離を置くしかなかった。

 

 

やがて、京からの知らせが届いた。

 

後白河法皇が、拙者追討の宣旨を出したというのだ。

その宣旨には、義経がそれを強要したとも書かれていたという。

 

「何という身勝手さだ……」

 

拙者の怒りは、静かだが深かった。

 

後白河法皇は、義経を使って拙者を脅そうとしていたのだ。

その無礼さに、拙者は京に軍勢を差し向けることを決断した。

 

その圧力により、後白河法皇の態度は変わった。

今度は、拙者が義経を強要したと称して、逆に義経追討の宣旨を出したのだ。

 

「ふっ……」

 

拙者は、わずかに笑った。

 

後白河法皇の身勝手さは、ここまでとは。

最初は拙者追討、次は義経追討。

その矛盾に、法皇の本心が見える。

 

だが、拙者はその矛盾を、冷静に受け入れた。

そして、拙者はその義経追討の宣旨を、逆手に取った。

義経追討のためと称して、全国に拙者配下の守護・地頭を置く権限を得たのだ。

 

それは、武家による全国支配を意味していた。

つまり、幕府の成立を意味していたのだ。

後白河法皇の身勝手さが、逆に拙者に全国支配の道を開いてくれたのだ。

何より、源氏と平氏、更には義仲と義経の戦いも、元をただせば後白河法皇の在り様が招いたものと言えよう。

それが、武士による支配に至っている。

 

「范頼よ」

 

拙者が呼ぶと、范頼が現れた。

 

「兄上、何かご命令ですか?」

 

范頼の声は、いつもの冷静さを保っていた。

 

「義経を追討する宣旨が出たな。だが、拙者は義経を直接追い詰める気はない」

「兄上の御心は?」

「義経とその手勢が、京を離れるまで待つのだ。そしてその後、彼がどこへ向かうのかを見守ろう」

「かしこまりました」

 

范頼が、頷いた。

事ここに至り、拙者は義経の存在が、幕府を成立させるためには、討たれなければならない者へと変わってしまったことを理解していた。

だが、拙者としても、義経を積極的に討つ気はなかった。

義経が平氏との戦の功労者であることは間違いないのだ。

何よりあの軍略は、敵対する際に余りに厄介である。

 

「……京より離れれば、後白河院の手も及ぶまい」

 

拙者はそう范頼に告げ、義経がいかに動くのか、それを見守ることとした。

 

 

【源義経】

 

私は、腰越で足止めされたのち、京への帰路を辿っていた。

しかし、私の意が介在することなく、兄上への追討の命などが出されたと聞き及び、私は何が起きているのか把握することも出来ずにいた。

結果、後白河法皇からの追討の宣旨が出たという知らせを受けて、私は京を離れることを決断したのだ。

親しい側近の身を連れ、京を離れた私の傍に、弁慶が立った。

 

「殿、どこへ向かうのですか?」

「奥州だ。かつて拙者を庇護してくれた藤原氏の元へ」

 

私の言葉には、故郷へ帰る者の切実さがあっただろう。

京での栄光も、兄上の信頼も、失った。

後白河法皇からも追われる立場となった。

ならば、かつて育てられた奥州へ帰るしかない。

 

こうして私は、奥州へ向かったのだ。

 

【源頼朝】

 

義経が奥州に向かったとを知った時、拙者は何かを感じていた。

 

育った地に帰りたがる者の心情。

それは、拙者自身も理解できるものだ。

 

(九郎も、そのような心情を持つのか……)

 

何か大きなことがあれば、拙者も北条氏の元へ帰るであろう。

そのような思いが、拙者の心によぎったのだ。

だが、その思いも、すぐに現実の冷徹さに飲み込まれた。

 

義経は、もはや奥州で身を隠すしかない。

奥州の支配者たる藤原氏は、義経を庇護すると決めたようだ。

しかし、今代の秀衡はともかく、その子達はどうであろうか?

そのまま、義経を庇護し続けるなら、それはそれでよい。

 

だが、もし義経を拙者に差し出す様であれば……

 

そこまで考えて、拙者は外を見る。

白い旗が、鎌倉の空で翻っていた。

源氏の旗だ。

その旗の下で、拙者は武家による全国支配の仕組みを構築していた。

だが、その仕組みの代償は、弟・義経の自由だったのだ。

後白河法皇という敵に打ち勝つために、拙者は義経を切り離さねばならなかった。

 

その判断は正しいのか、拙者は自問した。

だが、答えは自明だった。

武家の統制のためには、後白河法皇の干渉を排除する必要があった。

そして、その排除のためには、義経との断絶が必要だったのだ。

 

だが、義経が故郷でこのまま静かに過ごすのであれば、あえて最後の手を下す必要もない。

 

北条政子が、拙者のもとへ来た。

 

「貴方様、大丈夫ですか?」

 

政子の声には、拙者への心配が含まれていた。

 

「ああ、大丈夫だ。拙者は、新しい時代を作り出している」

 

拙者の言葉に、政子は深く頷いた。

拙者の政治判断が、たとえ冷徹であったとしても、それが武家の時代を作り出すためのものであれば、それは是とすべきなのだ。

 

その拙者の決意を受けたのか、白い源氏の旗が風にあおられ、激しくはためいていた。




なお、崇徳上皇は、史実よりも早く、平治の乱前に没しています。
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