よくわかる日本の歴史 ~ただし、原始時代から日本にのみダンジョンがあったものとする~【第三部完】 作:Mr.ティン
今回は授業回となります。
夏の日差しが、教室の窓から差し込んでいる。
窓近くは、既にかなりの暑さとなっていた。
そんな中、午後初めの授業が、まさに始まろうとしていた。
教師・三上は、黒板の前に立ち、チョークを手にし生徒に語り掛ける。
「では、前回の続きを始める。院政の時代から、武士が主役となっていく過程を追っていくぞ」
三上の声は、端的かつ明確だった。
「白河法皇が北面武士を結成した時代がある。これは、朝廷の側に、専属の武士集団を置こうとした試みだ。だが、その試みもまた、武士の台頭を加速させることになった」
黒板に『北面武士』と書き込む。
その横に『院政』と記す。
「そして、その後に起きたのが、保元の乱と平治の乱だ」
三上が、黒板に『保元の乱』と書く。
定原が、真面目な表情で聞いている。
芦原は、予習で用意したノートを確認していた。
「この乱で重要なのは、朝廷内の派閥争いに、武士が介入したということだ。崇徳上皇派と後白河天皇派に分かれ、それぞれが源氏と平氏を味方にした。この戦いで、後白河天皇方についた源義朝と平清盛が勝利し、政治の実権を握り始めるのだ」
黒板に『源義朝』『平清盛』と書く。
すると坂上が、軽く手を上げた。
「先生、その後はどうなるんっすか?」
「良い質問だ。その後、平治の乱という別の乱が起きる」
三上が、黒板に『平治の乱』と付け加える。
「この乱は、複雑だ。保元の乱で勝利した後白河天皇も、その後、権力を失い始める。そして、信頼という近臣が台頭し、源義朝と手を組んで平氏を排除しようとした。だが、この乱では、平清盛が勝利し、源義朝は敗北する」
黒板に『信頼』と『平清盛の勝利』と書く。
芦原が、資料のページを指摘した。
「先生、この乱で源氏は完全に衰退したんですか?」
「そうだな。源義朝は自害し、その子供たちは流刑となる。特に、頼朝は伊豆へ流刑となるが、この流刑生活が、後に重要な役割を果たす」
久留間が、静かに頷いた。
稲沢が、興味本位で質問した。
「先生、その後、平氏はずっと権力を持ってたんですか?」
「そうだ。平治の乱後、平清盛は次第に権力を集中させていく。やがて、太政大臣となり、武士として初めて最高位に登った。その後、彼の一族は、朝廷の最高位を占めるようになっていく」
三上が、黒板に「平清盛の昇進」と時系列で記す。
「だが、ここで重要なことがある。保元の乱についてだ」
教室に、わずかな静寂が落ちた。
三上の表情が、わずかに厳しくなった。
「保元の乱で敗北した崇徳上皇について、知っているか?」
定原が、ノートを見つめた。
「崇徳上皇は、配流されたと書いてあります」
「そうだ。讃岐国へ流されたのだ。だが、その後、崇徳上皇は、極めて深い怨念を抱くことになる。そして、その怨念は、何らかの形で、この世に影響を及ぼし始めたのだ」
教室の雰囲気が、わずかに変わった。
芦原が、不安そうに質問した。
「先生、怨念というのは……」
「日本の歴史には、いわゆる『怨霊』と呼ばれる存在がある。最も有名なのが、日本三大怨霊と呼ばれる存在だ。その一人が、この崇徳上皇である」
三上が、黒板に『日本三大怨霊』と書き、その下に『崇徳上皇』と記す。
「崇徳上皇は、讃岐での流刑生活で、深い怨念を抱いた。その怨念は、『瘴気』と呼ばれるものとなり、後の歴史に様々な影響を与えた。特に、彼が流刑中に呪詛の書を書き、その怨念が実現することになる」
坂上が、驚いた声を上げた。
「先生、それって本当の話っすか?」
「そうだ。そして、ここが重要なのだが、現代でも、この崇徳上皇の瘴気に対する対処が行われている」
三上が、黒板に『宮内庁による瘴気の浄化』と書いた。
教室の生徒たちが、注目する。
「宮内庁と言う言葉くらいは知っているな? これは、皇室関連の施設や陵墓を管理する機関なのだが、実は、崇徳上皇の陵墓に対しては、定期的に瘴気の浄化作業を行っているのだ」
稲沢が、目を丸くした。
「そんなことが……」
「ああ。公式には『陵墓の保全と維持』という名目だが、実際には、崇徳上皇の怨念による瘴気を浄化し、それが周囲に悪影響を与えないようにするための措置なのだ。これは、この世界における、歴史と超自然現象が交錯する一つの例だな」
さらに教師は、名目こそ掲げているが、公然の秘密と言うやつだ、と続ける。
教師へ、久留間が静かに問いかけた。
「つまり、怨霊というのは、単なる伝説ではなく、現実に存在する脅威ということですか」
「正確には、そうだ。古い歴史の中で、強い感情や執念が蓄積した場合、それは現実に悪影響を与える可能性がある。特に、王権に関わるような重大な恨みは、より大きな力を持つことがある」
黒板に『怨念の影響』と書きながら、三上は続ける。
「だから、魔穴での修行という概念も、また、この世界の一部なのだ。歴史と魔力、そして怨念が、この世界を形作っているのだ」
定原が、整理するように言った。
「つまり、保元の乱というのは、単なる政治的な争いではなく、怨霊を生み出すほどの深刻な出来事だったということですね」
「そうだ、定原。正しい理解だ。歴史というのは、単なる事実の積み重ねではなく、その背後にある人間の感情や執念が大きく影響している。そして、この場合、崇徳上皇の怨念は、平氏の衰退にまで影響を及ぼしたとも言える」
三上が、黒板の『保元の乱』と『怨念の影響』を繋ぐ線が加えられる。
「こうして、保元の乱と平治の乱を経て、平氏が政権を握ることになった。だが、その平氏の隆盛も、やがて、この怨念によって揺らぎ始めるのだ」
芦原が、予習資料を確認しながら言った。
「先生、それが平家滅亡へつながるということですか?」
「そうだ。平清盛が東大寺を焼き討ちにした際、その仏の加護が失われたことで、崇徳上皇の瘴気が活性化し、清盛自身を蝕み始めたのだ。そして、それが平家の衰退の一因となり、源氏もまた同族内で争う事になる」
三上が、黒板に『東大寺焼き討ち』と『瘴気の活性化』と時系列で記す。
坂上が、つぶやくように言った。
「怖っ。歴史も複雑っすね」
「そうだ。だから、歴史を学ぶ際には、単なる事実だけでなく、その背後にある感情や力学を理解する必要があるのだ」
三上が、一度、全体を見渡した。
「そして、この平氏の政権から、源頼朝による武家政権へと移行していくのだが、その過程で、多くの武士たちが、自らの運命に翻弄されていくのだ。特に、源義経のように、天才的な武力を持ちながら、政治的には幼さを持つ者は、その運命が如何にも悲劇的である」
三上が、黒板に『源平合戦』と大きく書く。
「この合戦において、源氏が勝利し、源頼朝が全国に守護と地頭を置き、武士による支配体制を確立させたのだ」
黒板に『守護・地頭の設置』と大きく書く。
「ここで重要な点がある。鎌倉幕府の成立年については、従来は朝廷が幕府を公式に認めた年を成立年としていた。だが、近年の学説では、この守護と地頭を全国に置くことで、実質的な支配体制が確立した年を、幕府成立年とすることが多くなっている」
三上が、黒板に『幕府成立年の二説』と書き、その下に『説1:朝廷の公式認可』『説2:守護地頭設置による支配体制確立』と並べて書く。
「つまり、権力構造がどこに移行したかということが、重要なのだ」
生徒達は、二つの説を見ながら静かに頷く。
「そしてもう一つ、この時期に重要なのが、文化の変化だ。それまでの貴族文化から、武家文化へと次第に移行していく。建築も、美術も、文学も、全てが変わっていく」
三上が、映像資料を映し出した。
古い貴族邸宅の画像から、武家屋敷の画像へと移る。
「武家の建築は、貴族の建築とは異なり、防御を重視している。城郭も発展していく。これは、武士の本質を反映していた」
教室の生徒たちが、画像に見入っていた。
「そして、義経についても触れておこう。頼朝の弟であり、軍事的には天才だった義経だが、政治的には幼さを持っていた。最終的に、彼は奥州へ逃れることになるが、その逃亡の物語は、後に『判官贔屓』という感情を生み出した」
稲沢が、また質問を上げた。
「先生、義経は奥州でどうなったんですか?」
「それについては、次回の授業で詳しく説明する。だが、今の段階では、奥州の藤原氏に保護されたということだけ知っておけ。ただし、その後の彼の運命については、歴史に謎が多く残っている」
三上の言葉には、またしても含みがあった。
あたかも、義経が本当には死なず、どこかで生き延びているかもしれないという示唆が、微かに込められていたのだ。
定原が、整理するように質問した。
「先生、つまり、この時代で何が重要なのかというと、貴族から武士への権力の移行ということですか?」
「その通りだ。この移行が、日本の歴史を大きく変えた。武士による支配は、その後、戦国時代まで続くことになる。そして、その背後には、怨霊や瘴気といった、力学もまた存在していたのだ」
三上が、黒板に『貴族政治の終焉』『武士政治の開始』と大きく書く。
「そして、この鎌倉幕府の成立により、頼朝は東国の武士たちを統率する強力な支配体制を確立した。だが、頼朝自身は、その統制を直接行わず、妻の北条政子と、その家族である北条氏に権力を委ねていく」
三上が、黒板に『北条氏』と書く。
「ここから、執権北条氏による幕府統治の時代へと入っていくのだが……その詳細については、次回だな」
振り返った三上の視線の先、教室の時計が、授業終了を示す時刻を指していた。
「では、今回はここまでとする」
三上が黒板の前から身を引いた。
僅かに、息をつく生徒達。
「次回の授業の予習として、執権北条氏の成立について調べてくることを宿題とする。特に、北条時政から北条義時への権力移行について、重点的に調べるように」
しかし、教師の三上からの追い打ちに、生徒たちはうめき声を上げる。
坂上などは、
「えっ、また宿題っすか」
などと呟いていた。
その声を背に、三上は教室を出て行くのだった。
教室に残された生徒たちは、授業終わりの鈴を耳にしつつ、ため息をついた。
口々に予習内容に触れるなど、語り合う。
「また執権北条氏か。調べることが多いな」
「北条政子って、結構複雑な人物みたいっすね。源氏の妻として、でも同時に北条氏の当主として」
「政治ってやつは複雑だな。一筋縄ではいかない」
定原や坂上が、椅子の背もたれに寄りかかり、久留間が、静かに口を開く。
一方で芦原は、資料を片付けながら稲沢と語りあっていた。
「それにしても、崇徳上皇の話は怖かったわね。今でも宮内庁が瘴気を浄化してるなんて」
「ほんとほんと。日本三大怨霊って、今でも凄い力を持ってるんだよね……」
だが、授業の話題は長続きしない。
その証拠に、坂上は次の話題を振っていた。
「あ、そう言えば、夏季休暇はどうするっす? 予定無いなら、みんなで遠くのダンジョンに遠征とかどうっすか?」
久留間の顔が、わずかに動く。
「遠征か。確かに、夏はいい機会だな」
「海や山の行楽ついでにダンジョンっって事?」
芦原もまた、坂上の提案に興味を示していた。
そこへ稲沢が、すぐに乗る。
「いいね! 夏休みだし、何もしないなんて、勿体ないもん!」
その後も、夏代予定について語り合う生徒達。
外の眩い陽光は、その彼らの声さえも照らすかのように輝いていた。
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