よくわかる日本の歴史 ~ただし、原始時代から日本にのみダンジョンがあったものとする~【第三部完】   作:Mr.ティン

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魏志倭人伝に曰く、その女王に魏は鏡百枚を下賜したとされる

姫巫女のクニには、長年敵対しているクニがある。

クナと呼ばれるそこは、三姉弟にとって両親の仇だ。

俺とハルカがこのクニに来た切掛けである、あの戦。その相手が、クナだったのだ。

戦の王子と埴輪の兵とで一度は撃退したものの、指揮官である将、クコチヒコは無事に撤退した。

また、クニの長であるヒミクコは健在で、今もその脅威を周囲に知らしめている。

 

(調べれば調べるほど、このクナのクニは脅威だな)

(そうねえ。巫女ちゃん達があんなに頑張っているのに、押し切れないものねえ)

(原因は明白なんだけどな……)

 

巫女として圧倒的な力を誇る姫巫女や、政の王子の内政力、戦の王子の武力に対してクナ国が対抗可能な理由。それは、ダンジョンだ。

 

(この国の、姫巫女のクニは平地だ。対してクナのクニは、山地を主に押さえている。ダンジョンの質が違うんだ)

(海に沈まなかったから、強い動物や強い道具が生まれるものね)

 

強力なモンスターを相手に狩りを繰り返す兵は、自然に精強になる。

また、ドロップ品の質の違いは、戦場での装備の差に繋がっていた。

もちろん山地であるために、農業で支えられる人口は少なく、兵力に差はある。

それでも、一度はこのクニを追い詰めるほどに、傘下のクニから兵を集められる力を持っていた。

だからこそ、姫巫女のクニは、一度滅びかけたのだが。

 

(戦の王子や埴輪の軍勢で戦力的には盛り返したものの、逆にこちらから攻め入るには、相手の地形が厄介だ。山岳に森林では、数よりも質や地形利用が脅威になる)

(……あの子達は、どうするのかしら?)

(現状を良しとはしないだろうな。座していても向こうは攻めてくる。このクニだけでなく、傘下のクニにも)

 

すっかり三姉弟を我が子のように気に入ってしまったハルカが心配をするが、実際現状は難しい。

今のところ、彼我の戦力は拮抗している。

拮抗するまでに、盛り返せたのは、やはり巫女の求心力だ。

姫巫女の力に引き寄せられるのか、傘下を望むクニが増えている。

ただ、その多くは平地のクニだ。

巫女の力は、農業を大きく助けるから、必然の流れではあるのだろう。

 

対して、山地などのクニは、クナ側が従えていく傾向にある。

同じように強力なダンジョンを抱えていると言う点が、結びつきやすいのだろうか。

そういえば、戦の王子のイズモ遠征は無事に成功し、多頭の大蛇をみごとにうちたおしたのだとか。

もっとも本人に言わせると、

 

「兄上の言う通りに、酒飲ませたら寝たぞ。後は首を残さず落としただけで、師匠と鍛えた技も使うまでも無かった。つまらん!」

 

とのこと。

だが、その功績は大きい。

姉妹を大蛇に喰われ、残すところただ一人となっていた長の娘は、救い主である戦の王子に完全にほれ込み、輿入れしてきた。

この婚姻により、古くからの力ある豪族のイズモのクニは、完全に姫巫女のクニ側となった。

大陸にも近く有力な豪族との間で、強固な同盟が結ばれた形だ。

倭の国全体で見ても、これは大きな出来事だろう。

 

この様に順調に力を増し人口に優れる姫巫女のクニと、兵の質に優れるクナのクニ。

拮抗した状態に対して、三姉弟はどう舵を取るのか?

 

その方針が決まったのは、ある夜の事だった。

 

 

「何か、手は無いだろうか?」

 

そう切り出して来たのは、やはり政の王子だった。

知恵に優れる彼は、現状にずっと危機感を抱いていたのだろう。

 

「クナ、ですな?」

「ああ、このままでは何れ押し負ける。いや、姉上が居る限り、負けはしない。だが、その後は無理だ」

「次代も育ってはいるようですが」

 

姫巫女が長を継ぎ、既に当時子供だった者が成人し子を為す程の時が過ぎていた。

当初は滅亡しかけるほどに数を減らした民も、同盟先からの移住者などで大きく数を増やしている。

その中には、俺の目からしても有望な人材が育ってきている。

次代の巫女、次代の武を任せられるような力自慢、俺のような偽物ではなく本当に諸国を見て回ってきた知恵者。

だが……、

 

「クナの王、そしてあの将には至らぬ」

「左様ですな」

 

政の王子が言う通り、クナの王ヒミクコそしてその将クコチヒコは傑物だ。

並みの人材では届かない。

現状の拮抗状態は、姫巫女が居るからこそだ。

巫女としての力が強い彼女が居るからこそ、カミに訴えかけ農業を安定させられている。

また兵力面でも、あれほどの数の埴輪の兵を運用できていた。

逆に言えば、彼女に何かあれば、クナは一気に攻め寄せてくるだろう。

 

「そうなってからでは遅い。姉上が万全な今だからこそ、手を打つ必要がある」

「しかし、手、ですか」

「……ヒトの身でたて得るモノで良いのだ」

「……ふむ」

 

もちろん、俺がダンジョンコアとしての力を振るえば、クニ同士の争いなどどうとでもなる。

だが、それは駄目だ。

ダンジョンコアとしての俺は、ヒトの勢力のいずれにも加担しない。

一度加担してしまえば、タガが外れて際限なく人の世に介入してしまうだろう。

それは色々な意味で、破滅を呼び込む道だ。

 

だが、アバターに意思を宿している時。一人のヒトとしてできる範疇なら。

人々に寄り添って動くのもかまわないかと思う。

何故なら、その程度なら、俺が為さなくても誰かが出来ていた筈だからだ。

 

だから、俺はここで一つの昔話をすることにした。

 

「ナのクニはかつて、大陸の大国に使者を送り、倭の奴の国の王の称号を与えられたと言います」

「……何?」

「そして、かつてこの地──倭国の統一を為した初めての『王』も、大陸へと使者を送り、その後ろ盾を以て権威とした」

「……確かに、今のこのクニであれば、使者を送り得るか」

 

大陸の大国。その威光を求めるというのは、既に何度も行われていた。

対馬を通じて既に交流のルートが構築されているのだ。

そのため、北九州に位置するクニなら、大陸の進んだ技術や知識を求める動きがある。

 

「だが、かつての『王』は結局クニを割った。大陸は遠く、権威を意に介しないものも多かったと聞く」

「権威と言われても、耳にしただけでしょうからな」

「……そうだな。だが、耳にしただけではなく、明確な証があれば」

 

かつての王は、百人を超える生口(奴隷)を捧げてまで、大国の後ろ盾を得ようとした。

しかし、後ろ盾を得ても、それは遠い遠い国の事だ。

生前のような通信が発達した世界でもない限り、その権威には実行力が伴わない。

しかし、政の王子が言うように、目に見える形の証があれば、少なくとも印象は変わる。

 

「ナのクニの長は、金印を与えられたとか」

「それでは足りないな。このクニだけにあっても、それは耳にしただけと変わらない。ならば、与えられた品が多ければ良い」

「金印をその様に多く求めると?」

「いや、金印でなくとも良い。多くのクニに、このクニから与えられる重要なモノ……そうだな、姉上も扱う、鏡が妥当か」

「……なるほど、良い手かと」

 

まったく、政の王子は話が早い。

此方の意図を汲んで、およそ最適だろう答えを自分から出してくれる。

むしろ、この程度の案は、元より彼の腹案として候補にあったのではないかとすら思う。

外つ国から与えられた鏡を各クニに配り、権威を目に見える形で知らしめる。

更に、姫巫女の力なら、その鏡を通じて各クニに何かできる可能性すらあった。

どうやら、方針は決まったようである。

 

「では、早速貢物を用意しなければなりませんな。多くの品を与えられるには、代償が必要でしょう」

「頼む。それで、使者もそなたに任せようと思うが」

「……この身は、この地より離れること能わず」

「……そうか。済まなかった、忘れてくれ」

 

いや、可能であれば、俺も大陸には行ってみたい。

何しろ、今の大陸は絶賛三国真っ盛りな頃の筈だ。

そんなの生前の知識があれば興味を抱かずにはいられない。

しかし、魔力の流れと拡散の仕様上、大陸奥深くまで行くと、魔力を通じてのアバターへの意思の接続が切れてしまう。

それでは使者としての役目を果たせない。

俺は内心で泣く泣く使者の役目を辞退した。

 

(……あ、そういえば)

 

そこでふと、閃くものがあった。

俺は政の王子に一つの提案をすることにした。

 

 

 

「わぁ! 外つ国の宝物がこんなに!」

 

結論だけ言うなら、大陸への使者は成功裏に終わったと言っていいだろう。

帰って来た船には、使者と共に凄まじい数の宝物などが乗せられていたのだ。

 

「これは、金印、それも『倭国王』とは」

 

感嘆に、政の王子の声が震える。

その中には、かつてナのクニが与えられたように、金印が含まれていた。

ナのクニの長が与えられたモノは、『委奴国王』。倭の中の奴の国の王という、倭国の中でも限られた国の王扱いだった。

それに対して、姫巫女が与えられたのは『倭国王』。つまり、倭の国そのものをまとめる王の扱いだ。

この権威、このお墨付きは、果てしなく強力だ。

 

他にも、その王である証であるかのように、金帯や飾帯類まである。

これらは、金銀製の帯や帯飾りなどで、位階を示す装身具だ。

他にも、一種の通貨として使用できそうな真珠・瑪瑙・翡翠などの宝玉類や、生薬・香料・絹などもある。

そして、なにより重要なのが、

 

「凄い数の鏡だな!? 幾つあるんだ?」

 

そう、無数の鏡だ。

磨き抜かれた銅鏡が、海の揺れでも傷つかないように保護され、今は日の光を反射してキラキラと輝いている。

その数、実に百枚。

背面には神獣や神仙が描かれていて、「君宜高官」「保子宜孫」など、持ち主の出世や子孫繁栄を祈る言葉が刻まれてもいる。

他にも製作された年らしい年号も記載されていた。

まさしく、大国の権威を示すかのような品だ。

 

「これらの鏡は、事前に決めていたように、各地のクニへ与えます。姉上、それでよろしいですね?」

「う~んと、ちょっとまってね」

「……? 姉上、何を?」

 

その並んだ鏡に対して、姫巫女が魔力を通しつつ、何か念じていく。

すると、鏡が一様に輝きを増した。

 

「おお、何だコレ!? 全部に姉上が映っているぞ!?」

「姉上、これは一体?」

「ええ、色んなクニのヒトと、何時でもお話しできるようにって」

「……は?」

「ほら、こっちの鏡を覗き込んで話すと、話せるのよ?」

「いや、姉上?」

「こっちの方から話しても、声を届けられるのよ。あ、でも何枚かの鏡から、一度に話しかけられたらどうしようかしら?」

「…………」

 

何でもない事のように言う姫巫女に、政の王子が絶句している。

一方戦の王子は、単純に好奇心が勝っているのか、一つの鏡を通じて姫巫女とやり取りしては、

 

「おお、つまり姉上と何時でも話せるのか!」

 

と能天気に喜んでいた。

 

正直、俺もその様子には、ドン引きだ。

生前の知識がある俺には、この鏡の威力がよくわかる。

各クニとの、ホットラインだ。

ろくな通信も無い、それこそ狼煙でやりとりするレベルの時代に、こんなものオーバースペックにも程がある。

そしておそらく、声を届けられるという事は、各地のカミや精霊とも、姫巫女は交信できるはずだ。

 

(……とんでもないな。単純に声のやり取りだけでも十分に過ぎる)

 

軽く考えるだけでも、その用途、その影響力は桁が違う。

少なくとも、姫巫女の率いるクニは、クナとその勢力に対して勢いを増すのは間違いない。

多少の兵の質や装備の差など無意味にするほどの『武器』を、姫巫女は手にしてしまったのだから。

 

 

こうして、姫巫女のクニとその勢力は、クナに対して一気に優勢となった。

その様は、まさに日の出の勢い。

クナの勢力下に会ったクニがいくつも鞍替えしたり、または戦で敗れていく。

何しろ、通信手段を持つクニと、持たないクニとの争いだ。

アドバンテージに差があり過ぎる。

しかし、クナそのものは頑強に抵抗を続ける。

やはり本丸は強固であり、また山地であるクナの地形が、この状況を作り上げていた。

 

 

そんな状況がしばらく続き……しかしある時、倭国全てを激震させる出来事が起きた。

 

姫巫女の、死だ。

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