よくわかる日本の歴史 ~ただし、原始時代から日本にのみダンジョンがあったものとする~【第三部完】   作:Mr.ティン

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とある学校の日本史授業風景 番外編 ダンジョン実習と魔石塚

生徒達のざわめきが辺りに満ちる。

小高い丘の様な地形に開いた、暗く深い穴。

ダンジョンの入口の前に、多くの生徒達が並んでいた。

 

クラス担任の三上が、生徒達に告げる。

 

「ダンジョン実習は、浅い階層迄とはいえ実戦には変わりない。護衛に式神を付けているので、術が得意な生徒は、前衛を任せる様に。接近戦を挑む場合、初撃を式神に任せ、横合いから攻めること」

 

三上の言う通り、生徒の隣には異形の姿がある。

生徒の安全の確保のために三上が用意した式神だ。

古い仏像が着ているような甲冑を身に纏い、そして頭部は様々な動物の物。

込められた魔力は、生徒達が潜る上層基準よりも二段階は多い。

実戦を体験させるとは言え、生徒への安全確保は念入りに行われなければならず、式神の守護はその表れだ。

 

「このダンジョンの上層には、遠距離攻撃を行うモンスターは居ない。とはいえ、安全マージンはしっかりとること。怪我をした場合は、治療を忘れないように」

 

既に班分けされ、ダンジョンに入る順番も決まっている。

早い順の生徒達は、実戦前の興奮に上気し、遅い順の生徒達は今しばらくの時間を持て余すかのようだ。

 

「準備は良いか? では、1班から順次入穴。何か異常があれば、式神を通じて連絡するように。気を付けてな」

 

三上の声に従い、順にダンジョンへと入っていく生徒達。

一方順番待ちの生徒は、様々に言葉を交わす。

 

「ようやくうちのクラスの番が来たな」

「順番回ってくるのが遅いんだよな」

「仕方ないよ。あんまり多く入っても実習にならないって言うし、このダンジョンは学校の占有でも無いし」

「ダンジョン専攻の高校だと、学校がダンジョン抱えてたりするんだろ?」

「そっちは大変だっていうよ? 朝から夜までずっとダンジョンに入りっぱなしの日が続くって」

「それはキツそうだな」

 

他愛ないやり取り。殆どの生徒達の顔に、緊張や不安の色は無い。

しかし、例外はあった。

生徒の一人は、僅かな不安と共に言葉を零した。

 

「実は俺、ダンジョンって初めてなんだよね」

「えっマジ!? 家族に連れてってもらった事無いの?」

「珍しすぎない?」

 

一人の生徒の告白に、周囲の生徒が目をしばたかせた。

 

「いや、両親忙しくてさ。兄弟も居ないし、あんま近くにダンジョンなかったから、一人で行くのも難しくて」

「おいおい、大丈夫かよ? モンスター殴れるのか?」

「今日はソロ実習だぞ? まあ先生の式神が居るからどうとでもなるだろうけどさ」

 

不安そうにした生徒の横に立つ、教師が使役する式神を見る生徒。

その顔が、何故かハムスターであることに一抹の不安が頭をよぎるも、初めてダンジョンに入るという生徒は、手にした武器を示して見せる。

 

「一応、それ位は。近所の武術塾で戦わせてもらったし」

「そうなん? ちょっと武器振ってみろよ」

「こう?」

 

初のダンジョンだという生徒は、手にした短めの槍を軽く振るう。

突き、払い、振り下ろし。

ダンジョンに入った事が無いという割に、その動きは一応の鋭さを伴っていた。

 

「う~ん、そこそこか?」

「なら、まあいけるのか?」

 

周囲の生徒の感触は悪くない、と言った所か。

 

「術とかスキルはつかえんの?」

「一応あるよ。固着って奴」

「ああ、足止めか。地味だけど便利な奴だ」

「だから槍なのか。相手の足を固定して、間合いの外から一方的に突くんだな?」

「うん。だからあんまり心配してない。先生が言うように、遠距離攻撃してこないなら」

 

告げられたスキルの名に、同じ班の生徒達は、一様に納得の色を浮かべる。

 

「連携とかもやりやすいな」

「パーティー実習の時とか、サポート枠になりそうじゃね?」

「でも今日は一応ソロ実習だからなあ」

 

その様に語らいつつも、初心者の生徒と同じ班の者達は、彼の密かな有能さに目を付けていた。

 

 

別の班では、術に秀でた生徒達が集まり、気勢を上げる。

 

「楽しみっすね! 術を打ちまくりっすよ!」

「あんまり規模の大きいのは止めてよね」

「派手な術式の子は良いなあ。私のなんて地味で」

「アンタの術式、たしか呪殺系でしょ? エグくていいじゃない」

「みんなお手軽に術使っててズルイ! アタシ毎回踊らないといけないのに!」

「アンタの踊りはソロだと大変そうよね……」

「……うん、先生が式神を前衛に用意してくれてよかった」

 

炎の嵐を巻き起こせる者、狙った敵を呪い殺せる者、祈祷の為に躍る者。

共通しているのは、接近戦を得手としていない事か。

教師の用意した式神は、彼等の為にあつらえたかのようだ。

 

「それにしてもさー。三上っちヤバくね?」

「さらっとこの魔力量の式神全員に配ってるの、普通じゃないよね……」

「三上先生って、確か深層Ⅰ種免許持ちって話っすよ」

「えっマジで!? てっきり下層くらいかと」

 

生徒達は教師の意外な実力に驚きの声を上げる。

 

「深層Ⅰ種とか、プロとかのレベルでしょ?」

「違うって、プロはⅡ種免許の方だよ」

「そうだっけ? でも深層よ?」

「特別なダンジョン以外、全部潜れるって事だもんね」

「むしろダンジョンマニアの方向っすね、深層Ⅰ種は」

「……あ~、そっち方面かあ。何か判る」

「ね~」

 

生徒達の語らいは、教師を話題に盛り上がる。

その全ての会話を、傍らに立つ式神が全て聞いて居る事に、生徒達は未だ気付いていないのだった。

 

 

 

その日の午後。

生徒達が一通りの実習を終え、集合する。

三上は生徒達に欠員や怪我した者が無い事を確認し、一つ頷いた。

 

「本日のダンジョン実習は、ここまでとする。全員怪我は無く、問題は無かったようで何よりだ」

 

そこでふと、教師の三上は思いだしたかのように、ダンジョン横にある地形を示した。

 

「余談だが、ダンジョンの周囲を囲むように盛り上がっている箇所、そこが日本史の授業で語った魔石塚だ」

「えっこれがそうなんですか?」

 

ただの土の盛り上がりか、ダンジョンを囲む土塁程度に考えていた生徒が驚きの声を上げる。

 

「裏手に、魔石塚としてわかるように地層がガラス越しに見える場所がある。少し、移動しよう。こっちだ」

 

ダンジョンの入口から大きく回り込み、裏手へ。

そこには史跡を示す表示と、その由来が書かれた看板があった。

その横に、土塁を一部切り取り、その断面を直接見られる箇所がある。

積み重なった魔石と、モンスターの骨などが何層もの縞模様となって居る様が一目で見て取れた。

 

「このように、この周囲の土塁は、掘り起こせば、魔石やモンスターの骨などが埋まっている」

「おお~! こんな風になってるっすね」

「結構骨も多いね」

「ん~、確かに授業で言ってたみたいに、この魔石からは魔力を感じないなあ」

 

生徒達は地層の断面を見ながら、そんな感想を言い合った。

 

「授業で解説したように、大昔の人々の生活の証が此処にある。同時に、ダンジョンが古くから人間の生活と密接に関わって来た証が、ここにある訳だ」

 

生徒達の様子を確認した教師は、十分と見て取ったのか頷いた。

そこでふと、一人の生徒が顔を上げる。

 

「でも、こういうのって何時くらいに捨てられたのとか、よくわかりますよね」

「下の方が古いんだろうけど、何時捨てられたとか、こう均等に積まれるのかとかあるよな」

「ああ、それか。そう難しい話では無いぞ」

 

生徒の疑問に、教師は答える。

 

「最新の解析技術では、その元素保有量で捨てられた時期などがわかるし、そもそもこの国には魔力があるからな」

 

教師の言葉の意味を察したのだろう。

ある生徒が勢いよく声を上げた。

 

「……あ! 解析スキル」

「そうだ。魔力に染み付いた情報を読み取る解析スキルは、何もダンジョンのモンスターやドロップ品の鑑定に使えるだけではない。こうした調査にも有用だ」

 

そして一瞬苦い顔をした教師は、一つの実例を挙げた。

 

「昔、とある考古学専攻の学者が、自分の実績を積むために発掘品の偽装を行った事がある」

「そんな事があったんですか?」

「ああ。考古学とは、華々しい発掘成果を求められがちだからな。色々と追い詰められて、偽装に手を出したのだろう」

 

追い詰められようと、偽装は偽装だが。そう続けて教師は語る。

 

「他の遺跡で見つかった石器を、自分の発掘現場にあらかじめ埋め、それを発掘したかのように見せかけた。それが発覚して、学会は大騒ぎだ。今までの研究がひっくり返されかねない事態だからな」

「……あ、そこで解析なんだ!」

「そうだ。解析スキルは、沁み込んだ魔力残滓から情報を引き出す。偽装されたものを見破り、本当に各地で埋まっていた石器とを識別した。おかげで、考古学研究は立て直せたと聞いている」

 

ただ、教師はそこで困った様に続けた。

 

「その偽装した学者も、自称解析スキル持ちだったのが、偽装の発覚が遅れた原因でもあった。学者として権威のある者の言葉を覆すのは、難しかったのだろうな」

「実績を積んでる人が断言したら、改めて解析とかしないっすよ」

「そうだな。何しろその学者は、ゴッドハンドなんて異名で賞賛されていたのだから。全く、とんだ神が居たものだ」

 

肩をすくめる教師。

そして、話は終わりだと、生徒達を駐車場へと導く。

同じ市内とはいえ、終鈴までに高校へ移動しなければいけない。

 

生徒達は、実習後の興奮と心地よい疲労に身を任せながら、駐車場で彼らを待つバスへ向かうのだった。




次話から古墳時代編
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