よくわかる日本の歴史 ~ただし、原始時代から日本にのみダンジョンがあったものとする~【第三部完】   作:Mr.ティン

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打製石器の産地にもブランドがある

あの原始人たちがダンジョンに現れてから、既に幾つかの時が過ぎている。

ダンジョンの外は季節が移り替わっているようだ。

ダンジョンコアとしての岩の身体では暑さや寒さを感じないのだが、時折産み出したモンスターの感覚は、寒さが忍び寄って来ているのを感じていた。

周囲の動物たちもその影響か、生態が変化しているように見えた。移動しているのだろう。

それは動物を狩猟して生きる原始人達の旅立ちを意味していた。

 

「ウ!」

「ウアウ。ホ!」

 

解体したクマやゾウの骨や皮を抱え、声を掛け合いながら、彼らは獲物を求めて去って行く。

 

(……やっぱり移動生活なんだな)

 

重傷を負っていた者も、魔力に満ちたダンジョンで過ごしていた為か、自己治癒も強化されて元気な様子だ。

凄惨な傷跡が残っているものの、恐らく長旅にも耐えられるだろう。

 

槍戦士、そう俺が認識した男は、この集団のリーダーであるらしい。

彼を筆頭に、どこか名残惜し気に原始人たちは、俺のダンジョンから去って行った。

 

ダンジョンに残されたのは、コアの間や出口付近の焚き火の跡と、わずかに残った骨の欠片だけ。

何処か寂寥感を覚えながら、俺はこれまで彼らを解析した結果から、その旅が長いものになるだろうとも考える。

その理由の一つは、彼らが使用していた打製石器、その産地だ。

 

(良質な黒曜石は、幾つかの産地から広範囲に広まっていたらしいが……)

 

リーダーの槍戦士が使っていた黒曜石の槍の穂先は、解析の結果遥か彼方の山地で採れるものだと判った。

恐らく原始的な交易は存在していて、ダンジョンに居た原始人達が直接山地まで行くことは無いのだろうけども、それでも交易できる場所までは移動する筈だ。

その旅の安全を祈りつつ、俺はこれからを考える。

 

(……ようやく一人きりか)

 

原始人たちが居る間は、あまり派手なことはできなかった。下手にモンスターを生み出して警戒されても困るし、何より彼らの反応を観察するのが面白かったからだ。

だが、今は違う。

 

(本格的に、外の調査を始めるか)

 

俺はダンジョンの機能に意識を向けた。

目的は、広範囲の偵察。ネズミでは限界がある。もっと広く、もっと高く、もっと遠くを見渡せる存在が必要だ。

 

(……鳥型モンスター、いけるな)

 

俺は魔力を集中させ、設計を始めた。

ただの鳥ではない。ダンジョンの外では魔力が急速に消耗する。前回のワイルドラットのように、すぐに死んでしまっては意味がない。

 

そこで俺は、魔石を使うことにした。

魔力を凝縮して結晶化したそれは、いわば魔力のバッテリーだ。

これを体内に埋め込めば一定時間は外でも活動できるし、周囲に魔力がある場所なら魔力を取り込み『充電』までできる優れモノだ。

 

その性能は、大きさと変換効率に因る。

単に大きければ魔力を多く貯め込めるし、効率が良いモノは同じ大きさでもモンスターの稼働時間や能力の性能が高い。

モンスターの体格次第で、体内に埋め込める魔石の大きさも決まってくる。

 

(設置:スカイアイ・レイヴン)

 

まずは試しにと俺が生み出したのは、漆黒の羽を持つ大型のカラス型モンスターだ。

翼を広げれば三メートル近く、鋭い嘴と爪を持ち、何より高い知覚能力と飛行能力を備えている。

魔石は胸部に埋め込んだ。

魔力の消費を抑えるため、戦闘能力は最低限に抑え、視覚と聴覚、飛行能力に特化させる。

 

(どれどれ……これなら、無補給で1か月は保ちそうだな)

 

能力を確かめると、中々に燃費よく仕上がっていた。

コレは今後偵察用の定番として使えそうだ。

 

(まずは周囲の地形を確認だな。ダンジョンのある崖の背後には何があるのか……)

 

スカイアイ・レイヴンは、ダンジョンの入り口から飛び立った。

その視界が、俺の意識に流れ込んでくる。

 

(……やっぱり、空からの視界は違うな! 良い景色だ……)

 

眼下に広がるのは、緑の草原と点在する森。そして、遠くに連なる山々。

だが、さらに高度を上げると、俺はある異変に気づいた。

 

(……あれは、火口跡か?)

 

ダンジョンがある崖の背後、山の奥に巨大な凹地が広がっていた。中央には、今もわずかに煙を上げる火口がある。

 

(活火山……いや、これは……)

 

俺はダンジョンの地形を再確認した。

崖の一角に開いたダンジョンの入り口。その背後に広がる山体。そして、その山体のさらに奥に広がる巨大な凹地。

 

(カルデラ、か。つまり、ここは巨大火山の裾野……)

 

火山の大噴火によって形成される巨大な陥没地形。俺の生前の知識が、目の前の地形と一致した。

俺のダンジョンは、その外縁部に位置しているらしい。

 

(……やっぱり、ただの異世界じゃないな。これは、地球の過去……それも、破局噴火の痕跡がある場所だ)

 

この世界の担当仏が俺をこの場所に配置したのは、しっかりとした意味があったのだろう。

蓄積される地下からのエネルギーが膨大なのも、納得がいく。

 

(……周囲のカルデラや山の形からすると、富士山ではないな)

 

日本列島で有名な火山と言えば、どうしても富士山が思い浮かぶ。

だがその特徴的な海にまで届くような姿は目の前の火山に当てはまらない。

(古代だから完全に形は一致しないだろうけれど、立地からして別物か)

確か富士山も何度かの噴火を経ながら、あのなだらかな裾野を形成していったはずだ。

しかし目の前の火山は、大まかに言うとお椀を伏せたような形をしている。

 

(確か、溶岩ドームだったか)

 

地下に豊富な溶岩を貯め込んだ姿は、底知れぬエネルギーを感じさせた。

その威容に、俺の使命が破局噴火の回避であることを思い出す。

 

(この火山が、いずれ……)

 

スカイアイ・レイヴンの視界を通じて、俺はカルデラの全貌を確認した。

直径は十数キロに及ぶ。中心部には、今も活動を続ける火口があり、周囲には火山性の地形が広がっている。

 

(……この火山が、再び噴けば、確かに破局的な被害が出るだろうな)

 

だが、今はまだその兆候はない。火山性のガスや地熱活動はあるが、噴火の前兆と呼べるほどのものではない。

 

(とはいえ、油断はできない。もっと観測手段を増やす必要があるか……)

 

俺はスカイアイ・レイヴンを複数体生み出し、周囲の空を巡回させることにした。

それと並行して、地上用の偵察モンスターも用意する。四足歩行の獣型モンスターに魔石を埋め込み、地表の調査を行っていく。

こうして、俺のダンジョンは徐々に外界への理解を深めていった。

 

 

 

季節は巡り、再び一年が過ぎた。

その間、俺は地下から魔力を精製し続け、ダンジョンの領域を拡大していった。

その結果、魔力の拡散によって周囲の環境にも変化が現れ始めている。

草木はわずかに色濃く、動物たちの動きも活発になっているのだ。

魔力が自然に影響を与えているのだろう。

 

(ようやく、ダンジョンの領域が半径10キロに達したか)

 

これだけ広がれば、外の情報もかなり把握できる。

地形、動物の分布、気候の変化、火山活動の兆候――全てが俺の監視下にあった。

 

(……さて、次は何をするか)

 

そう思っていた矢先だった。

 

「ウホ!」

(……? あれは……)

 

広げた領域に、ある気配が現れた。

領域内に何匹も放ったカラスたちの視界が、数人の人影を捉える。

 

毛皮を纏い、石の槍や斧を手にした者たち。

見覚えのある顔もある。あの斧戦士、そして槍の男。

 

(戻ってきたんだな)

 

あの原始人達だ。

彼らは、以前と同じように慎重にダンジョンに向かっていた。

 

「ウホ」

「ウアウ」

「ゥ!」

 

懐かしさすら感じるその面々。

とはいえ1年経ったためか、その構成は僅かな変化がある。

子供たちの身体は大きくなり、女の一人は新たな子供を抱えていた。

そして男たちの身体には幾らかの疵が増え、ドウクツクマの一撃で重傷を負ったあの男の姿は、無い。

 

(死んだのか、それとも別の集団に移ったのか……)

 

狩猟生活という過酷な環境の中では、何が起きるか判らない。

命を落とすのも、当然あり得るわけだ。

以前俺のダンジョンで過ごしていた際、あの傷を負った男は咄嗟の反応で遅れることが多かったから、ある意味必然の結果かもしれない。

俺がそんな事を考えている間も、彼らはダンジョンに向かって進んでいた。

 

(……まてよ? 減ることがあるなら、増えてもいいよな?)

 

そこでふと、ある考えが浮かぶ。

思いついた考えを実行できるか、俺は手早くダンジョンの機能を振り返った。

 

(……行ける。可能だ)

 

アイディアが形にできるのを確認して、俺は直ぐに実行に移す。

タイムリミットは、あの集団がダンジョンにたどり着くまで。

それまでに準備を済ませる必要がある。

 

 

そして、原始人達は、再び俺のダンジョンにやって来た。

 

「ウホ?」

「ウウ?」

 

あの時と同じように、まずリーダーらしい槍戦士と、力自慢の斧戦士が安全を確かめようとダンジョンの出口付近で中を窺っている。

何しろドウクツグマのような動物もいるのだ。先に実力のある者が洞窟を調べるのは当然なのだろう。

彼等は、仲間同士で短く言葉を交わしながら、奥の様子を窺っていた。

出口付近に問題が無いのを確かめたのだろう。今度は、あの時と同じように火のついた枝でダンジョンの中を照らし始める。

 

(……あの時と同じだな。だが、違う事もあるぞ?)

「ウ?」

「ホ!?」

「ホアア!?」

 

原始的な松明で照らされたダンジョンの奥に、それは居た。

踏み込んで来た原始人達と同じ、毛皮を纏い毛むくじゃらの顔立ちの存在。

ただしその体格は、入ってきた者達より頭一つ大きい。

 

「ホッホ。ウホ」

(はっは、驚いているな?)

 

そこに居たのは、事前に設置したモンスター。

見た目は原始人そのもののそいつは、ワイルド・ケイヴマン。

原始人達の暮らしをもっと詳しく調べるための、俺のアバターだった。

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