よくわかる日本の歴史 ~ただし、原始時代から日本にのみダンジョンがあったものとする~【第三部完】   作:Mr.ティン

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日本史内の世界史案件

正直に言って、今回のアバターでの活動は、酷くメンタルにきた。

政治的暗闘を、渦中の人物の傍で見続けたというのは、精神的負荷が高すぎたのだ。

それでも、この時代を肌身で感じたのは意味があったのだと思う。

ある意味、日本と言う国が本格的に始まった際の様子を目にできたのだ。

その点は満足していると同時に、護衛を続けた厩戸王──聖徳太子の事も気に入っていたからだ。

 

(そう言えば、厩戸王の魔力は何処に向かったか判るか?)

(ああ、あの者ならば、新たに生まれた領域、すなわち浄土に昇ったようです)

 

ツクヨミに尋ねてみれば、彼の魂は仏教への信仰が生み出した魔力の領域──浄土へと至っているらしい。

 

今更だが、この国には死後の世界がある。

土台となったのは、八百万の神々への信仰と、ダンジョンそのものだ。

俺の生前、日本神話の中では、死者は黄泉の国や根の国と呼ばれる冥府で暮らすとあった。

これはこの世界も同様どころか、いっそ顕著だ。

ダンジョンのような大地の底へ向かうような道の存在や、死者を土葬する習慣と相まって、地下は死後の世界だと想像されていたらしい。

元々死者の魔力は遺体に宿るかそのまま霧散していたのだが、何時しか死者の魔力が地下に溜まり、一種の仮想世界化していたのである。

魔力で出来た冥界と言うべきだろうか。

また、死後神としてあがめられる様になったりすると、此方もいつの間にか形成されていた精霊や八百万の神が住まう高天原に昇ることもあった。

 

同様の事が、仏教を基盤として起きたのが浄土だ。

信仰篤いものが、死後仏の導きにより浄土に至るか、もしくは魔力が流転し新たな命に宿る。

この場合、注意しなければいけないのは、魂の存在はまた別だという事だ。

流転するのは、生前に身に宿した魔力。

魂は、もっと大きな世界の中の流れの中にある。

とは言え、魔力には生前の意思を写し取っているため、もう一つの魂と言っていい代物ではあるのだが。

 

(……あの時代に生きた者達の魔力も、それぞれの冥府に流れたみたいだな)

 

破れたものの、存分に武を示した物部氏の守屋の魔力は、高天原にまで至っていた。

恐らく、一種の武神として信仰されていくのだろう。

 

そして、俺が仕えた厩戸王の魔力は、仏教の冥界である浄土に至った。

彼もまた、仏法に篤い存在として今後信じられていくのだろう。

 

一方で、蘇我氏の面々は根の国に軒並み向かったらしい。

根の国は地獄と言うわけではないけれど、恨みを買った相手が居る場合生前と同じく争ったりもする。

生前恨みを買い過ぎた入鹿などは、特に苦労しているようだ。

もっとも、俺のアバターも苦労させられたから、助ける気にはなれないが。

 

(死んだ後も心休まらないのね。可哀そうに……)

 

それでも、穏やかなハルカはそんな者達も憐れんでいた。

もっとも、そんな者達の魔力はその内にカタチを保てなくなって、純粋な魔力となって溶けていく。

そういう意味では、終わりは約束されているのは救いだろう。

仏教の八大地獄のような桁の違う年月責め苦を受け続ける訳でもないのだから。

 

(……死んで浄土に至っても、あの人は修行を続けて、何れは仏となるのだろうな)

 

そして、今回の生身での活動で一番縁深かった厩戸王。

彼ならば、何れ仏にも至るのだろう。

 

(そうなったら、また会う事もあるのかもしれないな……)

 

そんな事を思いながら、俺は疲れた心を癒すのだった。

 

 

 

魔力の流れの中で、そんな日々を過ごしている中、

 

(アキト様、ちょっと見てくれ! なんかすごい戦が始まりそうだぞ!)

 

急にスサノオが魔力の中の俺の領域──今は前回のアバターの老境の住まいだった庵を模している──に飛び込んで来た。

 

(戦? ……まつろわない北の民を飛鳥の帝が攻めようとしているのか?)

 

一応この国は、天皇をトップに統一されたことになっている。

しかし、実際には従い切らない豪族は多かった。

特に、飛鳥の地から遠く離れた関東や東北と言った土地は、未だ統制下に入ったとは言い切れない。

実際乙巳の変──蘇我入鹿の暗殺は、そういった北のまつろわぬ民を従わせるためのものだったはずだ。

だが、スサノオは首を横に振る。

 

(違うって、西だ! 外つ国に船が向かっているんだよ!)

(……ああ、そう言えば、半島で国が滅んで、亡国の王族が逃れてきていたな)

 

スサノオが手をかざすと、庵の壁が別の光景へと変わる。

そこには、多くの船が九州北部から対馬へと向かおうとする姿があった。

恐らく、スサノオにとって相性のいい海鳥の視界を共有しているのだろう。

 

その光景で思い出したのが、この頃の半島の情勢だ。

先のアバターで活動していた頃、朝鮮半島は三国に分かれて争っていた。

隋も撃退した高句麗、古くからヤマト政権と付き合いのあった百済、そして新興の新羅。

この中の内新羅は、新たに大陸で興った唐と手を組み、百済を攻め滅ぼしたのだ。

生き残った百済の王族や民は、付き合いがあったヤマトの政権を頼って海を渡り、訴えたのだろう……祖国の奪還を。

 

この数多くの船は、その訴えに今代の天皇──中大兄皇子が即位した天智天皇が応えた結果なのだろう。

 

(……おいおい、このままだと大陸に至るぜ? 兵は大丈夫なのか?)

(魔力が抜けきるまでは、ある程度時間がかかるだろうが……)

 

海原を行く船を見て、スサノオが不安の声を上げる。

魔力が濃厚な領域は、ダンジョンコアがある対馬までだ。

その先の海底には地脈の力が弱くて、海底のコアネットワークも影響が薄い。

濃厚な魔力の中で生きて来た兵達は、高山病にでもかかったような衰弱を起しかねなかった。

それでも船は進む。

 

(……国としても、兵の衰弱が何処までの影響になるかの試金石にしたいのかもしれないな)

(そいつは非情だな。だが、知りたくなるのは、兵を率いた事もある身としては、分かるぜ……)

 

今の飛鳥の地にある政権は、あらゆることが手探り状態だ。

だからこそ、今後の知見としても、半島や大陸で魔力を帯びた兵がどれ程戦えるのか、確かめたいのかもしれない。

もっとも、一番大きいのは、朝鮮半島での交易・影響維持のためだろう。

 

船の進む先は、魔力が薄い。

それでも何とか海鳥の視界は維持されている。

そこには、迎え撃つようにこちらも無数の船が待ち構えていた。

 

(唐と新羅の連合軍か)

 

船に掲げられた『蘇』一文字の旗が、将の名を示していた。

 

 

【唐の将:蘇定方】

 

 

潮の匂いが鼻腔を刺す。朝の光はまだ低く、白い霧が河口を覆っていた。

私は舷側に立ち、波間に揺れる艦列を見渡す。

名を蘇定方という。

大唐の将として、この日、海の向こうにある古い友邦と敵対することになった理由を、私は幾度も自問したが、軍令は冷たく、命令は明快だった。

百済の地は既に唐と新羅の連合軍の手に落ち、我々は海からの封鎖と追撃を命じられていた。

潮の流れと風向きを読み、兵を整え、船を並べるのが私の仕事だ。

 

出陣の朝、将兵たちの顔は様々だった。

新兵の目には恐れが、老兵の顔には慣れがあった。

私は彼らに声をかけることは少ない。言葉は無駄に波に消えるからだ。

だが、ひとつだけ伝えた。

敵を侮るな、味方を信じよ。

海は裏切るが、統率は裏切らない。

艦上では帆綱がきしみ、櫂が水を切る音が規律のように響いた。

私の胸には、戦術の地図と、故郷の父母の顔が同居していた。

 

敵は海から来ると聞いていた。

倭国の船団が百済復興を掲げて渡海し、百済の残党と合流しているという。

彼らの数は多く、士気も高いと報告があった。

だが、海戦は数だけでは決まらない。

船の操縦、風の読み、兵の配置、そして何よりも指揮の一貫性が勝敗を分ける。

私は艦列を二重三重に組ませ、左右から挟む形で敵を包囲する算段を立てた。

潮目を利用し、敵の舳先を封じる。陸側からは新羅軍が押さえ、我々は海の牙となるのだ。

 

だが、気になる話も聞いている。

倭国は、妖しの術を使い、兵は怪力を振るうのだと。

兵達もそれらを聞き及んでいるのか、幾らかの動揺がある。

特に友軍たる新羅の兵の中には、絶望めいた色をその顔に浮かべているモノさえいる。

何でも、百済が滅ぶ際、極僅かにいた倭国の兵が、恐るべき暴れ様を見せ、多数の被害が出たのだとか。

愚かな事、迷信だと大唐の将として笑い飛ばしはしたが、私もまた不安に駆られている。

倭国から来た者が、何かおかしな力を振るう。

そんな話は唐でも当然の事とされている。

 

倭国からの使者は度々都にまでやってきているからだ。

都にたどり着いた直ぐの倭国の使者は、ひと飛びで樹木を飛び越えてみせる事までしたという。

だが、時間を置くとそう言った力が失われていくのだとも。

 

私は直接その様な力を見た事はない。

だが、兵を預かる将として、念頭に置かねばならぬだろう。

 

 

戦端が開かれたのは、白村江の河口であった。

朝の静けさが一瞬にして砕け散る。

味方の船よりも多い船が、波間から現れたのだ。

 

旗が翻り、太鼓が鳴り、矢が空を裂く。

私は艦の甲板で冷静を装いながら、心の中で一つ一つの指示を繰り返した。

舵手に合図を送り、弓兵に斜め射を命じ、火薬を詰めた小舟を風下に放たせる。

海は我々の味方にも敵にもなる。

波が高くなるたび、船は軋み、兵は踏ん張る。

このまま行けば、敵の船の動きを封じ、火のついた小舟による火計が成るであろう。

 

だが、全ては敵からすると、戯事であった。

 

遥か彼方より、味方の弓が届くはるか先から、矢の雨がもたらされた。

何という射程か!?

それどころか、波に揺れる船から放っているというのに、悉く操舵の兵から射抜かれていくのだ!

まさか、如何なる技量があれば、その様な真似が可能なのか!?

 

更に不可思議な事も起きた。

潮目が、普段と全く違う。

まるで味方の船の動きを縛るかのように、突如渦を巻き、真っ当に操舵や動きを許さぬのだ。

まさか、これが妖しの術だというのか!?

 

事ここに至って、私は即座に撤退を命じた。

敵の数多く、味方は混乱するばかり。

これでは戦の体も成し得ぬばかりか、いたずらに兵を失うだけである。

何よりも、今まさに小型の船を前面に押し出し、突撃せんとする相手の姿が見えた。

これをまともに受ければ、此方は壊滅しかねぬ。

 

号令と銅鑼の響きが、海上に鳴り響く。

訓練された大唐の軍は、整然と引き始めた。

しかし一部の船は、乱れた潮に船足を取られ、身動きが取れぬ。

そこへ、倭国の兵が襲いかかった。

だが、あれは何だ!?

船から船へ飛び移るどころか、海面を走ってまでいるではないか!?

その動きは、まさしく人外のもの。

統率された軍にはほど遠いが、しかし海を宙を駆ける兵にそのようなもの必要ないとでもいうかのようだ。

取り残された船は、瞬く間に蹂躙され、人が木っ端のように吹き飛ぶ様が見える。

更にはそれら倭国の兵が、撤退する此方の船へと次々に襲い掛かった。

 

何たる……何たることか!!

 

最早統制など望めぬ。

この海にあるのは、人外の暴威と、それに晒される獲物のみだ。

 

こうして、私はこの海戦にて敗軍の将と成り果てたのである。

 

 

 

【アキト】

 

(……勝っちまったよ)

(そうだな……たぶん、まだ対馬にも近くて魔力が抜け切らなかったのが勝因だろう)

 

勝鬨を上げ、上陸して橋頭保を作り始めた兵達を皆と見ながら、俺はこの戦いについて調べていた。

正直この時代については大化の改新位しか記憶に無く、この戦いの事を知らなかったからだ。

そして、俺はこの海戦──白村江の戦いの存在を知る。

俺の生前の歴史での結末も含めて。

 

(……本来の歴史では、この海戦で負けていたのか)

 

俺の生前の歴史では、日本側は指揮系統の連携に難があり、唐の組織的な艦列運用に包囲分断されて壊滅的な大敗を喫したらしい。

だが、この世界ではダンジョン産の弓の超射程や、五行の術による海の流れの操作、更には兵の規格外の身体能力によって、それらの一切を粉砕してしまったのだ。

 

(……えっ、これどうなるんだ!?)

 

続く陸戦でも無双した倭国と百済の連合軍は、半島南部に橋頭保となる拠点を建設し始めている。

俺はその様子を見ながら、全く想定外な歴史の変動に戸惑い続けるのだった。




倭国の兵は普通の兵でも無双ゲープレイアブルキャラ程度の性能が有ります。
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