よくわかる日本の歴史 ~ただし、原始時代から日本にのみダンジョンがあったものとする~【第三部完】   作:Mr.ティン

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間章2 ~時代の間のこぼれ話~
写し身の事情


(そういえば俺の場合、意思を宿せるのが、何で牛とかなんだろうな?)

 

ある日、スサノオがそんな事を言い出した。

いやまあ、言いたいことは判る。

鳥などの飛べる動物や、もう少し小柄な動物は、操るのに使い勝手がいい。

特に視界を利用するだけ等の場合、大型の動物しか操れないとどうにも不便だ。

 

(それは、多分神仏習合の考え方が関わっているな)

(神仏習合?)

(神仏習合というのは、日本の土着的な神祇信仰と外来の仏教が長期間にわたり融合・折衷して成立した複合的な宗教現象のことだ)

 

俺の生前の世界での話になるが、要は日本と言う国が長年にわたって土着の神道と外来の仏教の折り合いをいかにすり合わせて行ったかの結果だ。

時系列的に言えば、それは幾つかの段階に分かれている。

 

まず唱えられたのが、客神や蕃神という、外部からやって来て定着した神としての見方。

これは、仏を八百万の神のある意味一部として見る考え方になるだろう。

多くの神々の一員として仏や天部も加わった、そんな形だ。

これは地方の豪族がヤマト朝廷に降った際に彼らが崇めている神をヤマト朝廷が奉じる神話に組み込んだり、移住者等が奉じている祖霊祖神を取り込んでいく際に利用された考えになる。

朝廷のような政治的な意味合いが濃い場合だけでなく、実際に下々で民が行う信仰の場での折り合いの付け方と言う面が強い。

 

(ああ、何となくわかるな! 元々神が多いし、そこに一人二人加わったところで大して変わらないだろう!)

(……まあ、おおざっぱな捉え方だが、間違っていないな)

 

実際、あらゆるものに神が宿っているなら、海の外の神や流れてきた民の神もまたそこにあると考えられる下地があったと言える。

 

(次に考えられたのが、八百万の神もまた輪廻する存在として仏の救いを必要としている『神身離脱』という考えだ)

(救い、ねえ。あんまりピンと来ないぜ!)

 

これは、仏教の輪廻に基づいた考え方だ。

元々仏教には輪廻によって魂はさまざまな存在に生まれ変わるとされている。

罪深ければ地獄に、時には動物に、そして時には神として。

 

(善行を積めば、神として生まれ変わる。その神の在り様の中に、八百万の神が含まれているといった形だな)

(へー? ……そうなのか?)

(実際にそうかはともかく、そこは考え方の話だからなあ……)

 

実際この考え方は、仏教側から見た神道の神々の捉え方の面が強いように思う。

そもそも、仏教と言うのは土着の神々の取り込みが盛んな面がある。

所謂天部というのは、そう言った神々が仏に帰依した姿に他ならない。

そういった神々は、元をたどれば多くがインド土着の神々に行き着いたりするのだ。

まあ、俺の様な実際に生まれ変わって仏の下でダンジョンコアなどをやっている存在を考えると、この考え方も実感として理解できた。

 

(……ところで、まだ俺が牛にしかなれない理由が見えてこないぞ?)

(あせるな。そこは次の考え方で解る)

 

そして、更に時が進んで唱えられるようになったのが、本地垂迹の考え方だ。

これは仏が本来の実体(本地)であり、日本の神々はその仏が救済のために現した姿(垂迹)だとする考え方になる。

 

(えっと、どういうことだ?)

(要は、神々もまた仏の在り様と言う考え方だな。救われる存在から、仏の一面になって救う側へと加わった形だ)

 

これはある意味、神社と寺院の結びつきが理論的に体系化する考えだ。

元々神身離脱の考え方が広まると、実践面では神宮寺の建立、社殿に懸仏や神像を置く慣行、祈祷儀礼の仏式化などが生じていた。

つまり、この考えが唱えられたころには、神社と寺が一体化し、神社の敷地内に寺が、またはその逆といった構造が多くみられていたのだ。

 

この辺り、何とも日本的だと思う。

ご利益がありそうであれば何でも取り入れてしまう。

 

(多くの神々が、仏教の仏や天部と結び付けられて、仏の化身である権現とされて、神社と寺院の結びつきが理論的に正当化されたわけだな)

(……なら、俺にも対応している仏があるって言うのか?)

(まあ、そうなる。スサノオ、つまり須佐之男命の場合、結びつけられたのは牛頭天王だ)

 

牛頭天王とは祇園神とも呼ばれ、祇園祭で有名な祇園信仰における疫神だ。

疫病司る為逆説的に疫病から守る神ともされて、薬師如来が本地仏とされた。

像容は憤怒相・牛頭意匠を伴うことが多い。

元をたどれば仏陀入滅の場となった祇園精舎の守護神であり、中国の疫神を取り込んで最終的に日本の御霊鎮撫が融合して形成された。

都市の疫病鎮静を担う守護神として広まり、大規模な鎮祭儀礼も行われる仏だ。

 

(牛頭意匠……って、おいまさか!)

(まあ、そういう事だな。牛にしか意思を宿せないのは、そのつながりが強すぎるからだろう)

(そんなのって有りかよ!? ……人型の身体に宿っても角が生えるのも、まさか)

(同じ理由だろうな)

(なんでだよ!?)

 

本人も与り知らない理由で牛と結び付けられてしまったスサノオには、御愁傷さまと言うほかない。

 

(いや、考えようによってはましかもしれないぞ? 海繋がりで首に鰓が出来るよりは……)

(比較対象が悪すぎねえかな!?)

(ふむ、場合によっては、蛸の足でも生えていたかもしれませぬな)

(兄上!? 何言っているんだよ!?)

 

スサノオが騒いでいた為か、ツクヨミも参加し始めた。

 

(何、冗談だ弟よ。ちなみに、我もまた夜に関わる鳥獣と言う縛りがあるが……概ね獣は夜行性の為、苦労は無いな)

(なんでそんなに得意げなんだよ……)

 

ツクヨミが言う通り、彼の場合意思を宿せる動物は、夜に活動するものと言う縛りがあるようだ。

以前意思を宿していた梟はその最たる例だろう。

もっとも、彼にも隠したい事象がある。

 

(知っているぜ、兄上。そういう兄上も人型に意思を宿すとおかしなことになるってな)

(っ! さて、何のことだか……)

 

スサノオの言葉に、滅多に動揺しないツクヨミが揺らいだ。

 

(はっはっは! まさか、兄上に兎の耳が生えるなんてなあ!)

(言うでない馬鹿者! そもそも何で知っている!? お前と替わって鬼の身体に意思を宿した際には、捻じって角に見せかけたというのに!)

(あ、それは私が教えちゃった)

(ハルカ様ァ!?)

 

そう、兎の耳だ。

ツクヨミは言及しなかったが、ツクヨミつまり月読命と兎の縁は深い。

月の神としても信仰される為、月の模様を兎に見立てて古くからツクヨミと兎は古くから結びつけられてきたのだ。

祀られる神社で『狛うさぎ』が置かれる例や、眷属として兎が語られることもある。

それほどの結びつきの為か、ツクヨミが意志を宿す先として兎も相性が良い。

そしてスサノオのように、人型に宿る際にはその特色が兎の耳となって現れてしまうのだ。

 

(正直、あれはシュールだったな……)

 

役小角に使役される前鬼。

スサノオが宿っていたその身体にツクヨミが宿った際、角の代わりに兎の耳が生えたのだ。

身体はスサノオが用意した屈強なモノだというのに、その額から角が消えて代わりに純白の毛が生えた耳がスッと頭の上に伸びたのを見たときは、思わず爆笑してしまった。

ツクヨミも状況を察したのか、即座に耳を捻って角に見せかけて、更には偽装の術を施していたが……実力が劣る弟子たちはともかく、役小角本人や俺達には通用しない。

その為ツクヨミが前鬼に宿っている際は、後鬼に宿っているアマテラスも常時笑いをこらえ、その様子を見たハルカもこらえきれず噴き出していた。

スサノオはあまり細かい事を気にしない為、角に偽装した耳に気付いていなかったが、ハルカが噴き出していた事から理解した経緯があった。

 

(みんな大変よねー)

 

ぎゃいぎゃいと言い合いを始めたスサノオとツクヨミをよそに、アマテラスは気楽な様子だ。

兄弟げんかを微笑ましいものを見るかのように見守っていた。

 

(そう言えば、アマテラスの場合、どうだったかな。三本足の八咫烏に宿っていたのは知っているが)

(私の場合は、他に鶏や鳩もそうですよ? でもあまり動物の種類は問わないですね。でも……)

(でも?)

(身体が白くなるんです)

 

アマテラスの場合、意思を宿すには、宿す変に動物にも器として相応の格が必要になる。

それでも例外があり、それが鶏や鳩であるらしい。

そう言えば、イワレヒコ──神武天皇とナガスネヒコとの戦いで、光り輝く鶏を送り込んで戦いの趨勢を動かしていたな。

そして、白い動物。

アルビノの特徴を持つ動物を神聖視するのは、様々な土地で見られる傾向だ。

そしてこの日本で代表的な神格であるアマテラスと結び付けられた結果、アマテラスが宿る動物は白くなるのだろう。

黒さを保ったままアマテラスを宿したあの三本足の烏は、逆に言うと白く染まらないほどに器の特性が優れていたのだろう。

 

(そう言えば、アキト様とハルカ様にそういう縛りは無いのですか?)

(特にないな。もっともそれは、器になる身体をしっかり作り込んでいるからだが)

 

基本的に、俺の意思を宿す身体は、俺が自ら作り上げているものに限られる。

あえて野生の動物に宿る気が無いのと、自分の身体はしっかりと作り込みたいからだ。

これはハルカの身体も同様と言えた。

ハルカの身体は、その時代時代で最高の者でなければならない。

コレは絶対の条件だった。

だが、あえて言うなら……、

 

(俺の身体となるものは、男性体である位か)

(ワタシの身体はおんなのこの身体ね!)

(ああ、なるほど……なるほど……)

 

どうにも俺としては女の身体はしっくりこないのだ。

色々と試していた旧石器時代の際には雌や女性体の器に宿った事もある。

しかし何れもしっくりこなくて、それ以後俺の身体は常に男性体として作っているのだ。

同時に、ハルカの身体は俺の希望で常に女性体でいてもらっている。

ハルカ自身も、男性体の身体は好まないようで、一度雄の鳥に宿った事がある位でそれ以後は必ず女性体であった筈。

 

(何とも、仲の宜しい事で……)

 

どんよりと影を纏ってしまったアマテラス。

……俺達の夫婦仲を見て思う所が在りまくるらしいが、こればかりはどうしようもない。

 

(……お見合い、設定しようか?)

(誰とですか!?)

 

事情があったとはいえ、生涯独り身だったアマテラス。

その内いい相手見つけてあげたいものだと思いつつ、俺はアマテラスに食って掛かられるのだった。

 




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