よくわかる日本の歴史 ~ただし、原始時代から日本にのみダンジョンがあったものとする~【第三部完】   作:Mr.ティン

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新年あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い致します。
この後の数話は、番外編として現代ダンジョンの様子を見ていきます。


とある高校生のダンジョン探索 その1

【とある高校生】

 

「こうやって自分一人でダンジョンに入るのは、初めてだな」

 

俺の目の前には、石造りの通路が伸びていた。

天井はそこそこ高くて、幅もそこそこある通路だ。

壁や天井に明かりはないはずなのに、なぜかほんのり暗がりの先が見えている。

 

「確か、授業でやっていたな。魔力を帯びた壁が、極僅かな光を放っているんだったか」

 

ダンジョンについての授業で先生が話していた内容が頭をよぎる。

クラスメイト達は既に知っていた内容のようだったけれど、俺にとっては新鮮な話だった。

 

「仕方が無いよな。初めてだったんだから」

 

高校に入って実習と言う形で、俺は初めてダンジョンに入った。

中学生までは、基本的にダンジョンに入る時保護者の同伴が必要だ。

俺の場合、家族の都合がなかなか合わなかったのと、無理に入る気もしなかったから、ここまでズルズルと初ダンジョン入りが伸びてしまった。

 

だけど、実習でダンジョンに入ったからには、もう自分一人だけで潜ってもいい筈だ。

そう思った俺は、この週末に一人でダンジョンに入り込んでいた。

振り返ると、入って来た入り口とその向こう側から射し込む明かり。

各ダンジョンに必ずある、管理事務局のゲートが見えていた。

もうここは、ダンジョンの中だ。

 

 

一応俺も、此処まで準備はしてきた。

古くから続いているってふれこみの、近所にある武術塾には中学時代それなりに通っていたんだ。

そこで、俺自身の資質も見てもらってある。

筋力や素早さなんかの身体能力は、特に突出した物は無く並み。

その代わりに、俺はスキルを身に付けていたらしい。

 

『固着』ってスキルがそれだ。

コイツは、触れ合っている者同士を離れなくする効果がある。

その接着力? も、かなり強力だ。

金属部品同士をくっつけたら、無理に引っ張っても金属部分が先に壊れる位、くっついたままになる。

効果範囲は、今の所視界に入っている中で2カ所まで。

だけど、スキルに慣れて行けば、もっと範囲や固着する数を増やせるらしい。

 

「つまり、もっと強くなれるって事だよな」

 

俺は、気合を入れた。

初めてダンジョンに入った実習で、この『固着』スキルがどれくらい役に立つか理解できている。

このスキルを活かせば、俺はそれなり以上に戦えるはずだ。

 

俺は改めて自分を見下ろした。

まず目に入ったのは、首から下げられたダンジョン入場証。

そこには、定原 晢斗の文字。俺の名前だ。

この入場証は、ゲートで入退場を管理していて、一定以上の期間入場し続けていると管理事務局が遠隔で連絡して来る仕組みになっている。

他にも、緊急時の通報もこの入場証から出来るので、ダンジョンに入る時には規則で携帯必須だ。

 

入場証以外だと、俺は動きやすいジャージの上に、幾つかのプロテクターを装着していた。

これは、硬質なプラスチックに大型の虫の甲殻素材を混ぜこんだ素材で出来ていて、軽さと硬さを両立した防具だ。

材質のせいか比較的安く、学生の俺でも十分に揃えられるくらいの値段だった。

 

あとは、今手にしている槍。

近所の武術塾の先生によると、槍は初心者から達人まで幅広く扱える優良武器らしい。

剣や刀よりも遠くに届く間合いは、殆どのモンスターの攻撃範囲の外から攻撃できる。

狭い通路だと振り回すことはできないけれど、単純な突き攻撃なら出来る事が多い。

 

俺は、確かめるように軽く槍を振ってみた。

このダンジョンの通路は、人が三人程度横に並んで進める程度に幅がある。

今手にしている槍はそこまで長くないのもあって、振り回すのも問題無さそうだ。

 

「……よし、行くぞ」

 

意を決した俺は、改めてダンジョンの奥へと進んでいった。

 

 

このダンジョンの事は、事前に調べてある。

ここはいわゆる古式だ。

つまり、昔からあって動物ばかりが出るダンジョンになる。

この手のタイプは、現代だと不人気だ。

何しろ、手に入るのは動物素材ばかりで、処理に手間がかかる。

人型や本当の意味でのモンスターなんかが出てくる新式は、難易度が高めな代りに落とす素材やアイテムの質が高くて、そっちの方が人気あるんだ。

 

ただ、初めて一人でダンジョン入りする俺にとっては、こっちの方が有難い。

 

(……居たな)

 

薄暗い通路の奥から、足音が聞こえる。

遠目で見えるシルエットは、四つ足のケモノのそれだ。

向こうもこっちを認識しているらしい。

大きさは小型犬位だろうか。

但し、その姿はほぼネズミのそれだ。

唯一違うのは、口元から覗くのが大きく伸びた前歯ではなく、肉食のケモノの様な上下に伸びる牙である事だろうか。

牙鼠──もしくはファング・ラットと言われるダンジョン特有のモンスターだ。

このダンジョンの第一層で出てくる定番のモンスターと言うのも含めて、事前の情報通りの姿だった。

 

(初めは、コイツからだ)

 

俺は槍を腰だめに構えた。

自分から近寄りはしない。

武術塾の先生からも、戦い方の指導は受けている。

俺のスキルと、俺の槍の腕前。

今俺が出来る戦法を。

 

(もうすぐ……もうすぐ……そこだ!)

「ヂュッ!?」

 

牙鼠が勢いよく走り寄って、もう数メートルも進めば槍の間合いに入ろうかという瞬間、俺はスキルを発動した。

その瞬間、勢いよく駆けていた牙鼠がつんのめり、その顔を石の床に激突させる。

 

「ヂュヂュッ!???」

 

混乱した様な牙鼠だが、無理もない。

その前足の片側が、俺のスキルで縫い留められたように床に貼り付いているからだ。

もちろんそれは、俺のスキル『固着』の効果。

接している二つの物を離れなくするのは、モンスターの身体の一部にも適用できる。

俺のスキルによって、牙鼠の片方の前足と床を貼り付けたのだ。

それだけじゃない。

 

「ヂ?!」

 

つんのめって床に接した頭そのものも、今は床から離れなくなっている。

自由に動かせるもう一方の前足と後ろ足をばたつかせて居ても、片方の前足と頭が固定されていたらほぼ何もできないのと同じだ。

 

「で、動けない相手を狙って刺すのは、ろくに戦った事が無い俺だって出来る」

 

俺は数歩前に出た。

槍の攻撃範囲まであと数メートルと言う所で、牙鼠の動きを止めたのだ。

前に出れば、直ぐに牙鼠は間合いに入る。

 

「フッ!!!」

 

俺は鋭く息を吐きながら、槍を突き出した。

穂先は固定された牙鼠の頭を刺し貫き、抜く前の捻る動きで頭蓋の中身をかきまぜる。

ビクン! と身体を跳ねさせた牙鼠は、もがいていた動きを止めて、そのまま息を引き取った。

……俺は、一人でモンスターを倒したのだ。

 

「っ……ふう~」

 

一応数瞬牙鼠を観察して、それ以上動きが無い事を確認し、俺は大きく息をついた。

 

「やっぱり、実習の時とはまた違うな」

 

実習の際には、先生の式神が前衛として壁になってくれていたのと、今のような直接攻撃もほとんどこなしてくれていたので、俺自身は殆ど手を汚すことが無かったのだ。

それでも最後のモンスターだけは止めを刺した。

鹿の姿をしたそいつの毛皮を貫いた感触は、今も手に残っている。

思えばそれが、明確に生き物を殺した初めての経験だ。

小さな虫などを無意識に潰していたとかとは全く違う、自分の意思を持って生き物の命を奪ったという感覚。

今この手で牙鼠を倒した感覚と同じそれ。

 

「……まだ、慣れないか」

 

クラスメイトは既に慣れていたのだろうか?

少なくとも、武器を使って戦っていた皆は既に慣れている感覚なんだろうなと思う。

もしかすると、術を主な攻撃手段としている場合は違うのかもしれない。

 

(今度聞いてみようかな)

 

そんな事を思いながら、俺はナイフを取り出して牙鼠の腹を裂いた。

そこから小ぶりな石が転がり落ちてくる。

魔石だ。

このサイズだと、含有魔力量は少ない筈。

だけど、どんなサイズでも魔石なのは変わらない。

こんなのでも、小銭位には換金できるのだから、有難く貰っておこう。

 

「……消耗無し。この階層は基本的にモンスターも単騎でしか出てこないから、このまま進んで良さそうだな」

 

俺は自分の状態を確かめつつ、通路の奥を見る。

事前に、このダンジョンの情報は調べてあった。

典型的な古式ダンジョンで、モンスターはほぼ単体でしか現れない。

出てくるモンスターも、今の様な野生の動物に毛が生えたようなものばかりだ。

つまり、俺のスキルで動きを止めて、間合いの長い槍で攻撃し続ければ封殺できるって事になる。

それが、このダンジョンを選んだ理由だった。

ここなら、俺一人でも安全に潜れる。

そして……。

 

「どんなダンジョンでも、そこで戦えば地上なんかより余程魔力を身体に取り込める、だったな」

 

授業で聴いた、魔力を取り込み強くなれる最適な方法を、俺は思い返すように復唱する。

この日本で生きていくなら、魔力をどんどん取り込んで、自分を高めていく方がいい。

身体能力だけじゃなくて、知力や精神的なものも、魔力を取り込めば高めて行ける。

その魔力も、ダンジョンの中で戦う方が効率的だと、古くからいろんな人たちが研究してわかっていた。

 

俺もダンジョンに今まで入れなかった分、武術塾などで魔力をそれなりに取り込む方法を学んできた。

けれど、やはり早くからダンジョンに入っていた同級生と比べると、見劣りする感覚がある。

実習で遠目に見たクラスメイトの戦いをみて、特にその想いは強くなった。

 

「だから、俺もダンジョンに潜るんだ……!」

 

そして今、俺はこうしてダンジョンに足を踏み入れた。

一人でモンスターと戦い、こうしてスキルを活かして勝利も出来ている。

その事実が、俺の中で何かに火をつけたような感覚があった。

 

「よし……行くぞ」

 

まだまだこのダンジョンには先がある。

俺はその事がなんだか嬉しくなりながら、通路の奥へと足を進めた。

 

 

……ただ俺はこの時、もう少し床に気を付けるべきだったと思う。

ダンジョンには居る時、入口にある管理事務局の表示にも、その表示はあった。

 

誰かが俺の前にこのダンジョンに入っていたのだ。

そして、この時床には確かにあった筈なのだ。

途切れ途切れに落とされた血の跡が。

俺が進もうとする通路の先に続きながら。




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