カードゲームだけして生きていけば良い最高の世界にTS転生した 作:ティーカー
レイちゃんから、あることを聞いた。
曰く、最近私たちが暮らす地域で事件の発生件数が多いらしい。
ここ最近世間を賑わせていたダイアークの他にも、色々と悪のプレイヤーが暴れているそうだ。
これに関しては、ぶっちゃけレイちゃんも本当ならそっち側だったのだと思う。
だからこそ、悪のプレイヤーの存在にも敏感なんだろうからね。
いつの間にか普通のかわいい女の子になっちゃったみたいだけど、一体何でそんなことに?
まぁ、平和ならそれでいいか。
いや全然平和ではないんですけどね。
この世界、とにかく事件の類が多すぎる。
毎日何かしら起きては、何かしら解決しているし、大抵は世界の危機に直結しかねない問題だ。
ヒーローがすんごい数いるのに、全然足りてないってなかなかですよ。
まぁそうでもなきゃ大人が何でも解決しちゃって、子どもが事件に関われないんですけど。
それもまた大人目線だとなんんんにもよろしくないから、ホビアニって良し悪し。
私としては、それもまた子どもの成長の機会だと思うから、悪いとは思わない。
この世界の人からしてみりゃ冗談じゃないかもしれないけど、だって何も死ぬわけじゃないからね。
負けたらカードになるだけ、大事なカードを奪われるだけ。
それでも心に大きな傷を残すけど、前世とは違ってそれらは取り戻せるものだから。
黒幕を倒せばカードは元に戻るし、前世の詐欺と違って奪われたカードは戦って取り戻せばいい。
心の傷も、この世界なら成長に変えられる。
成長は時にカードという形で強さにも変わるから、きっとすべてが悪いことではないと思うんだ。
そう考えると、私は世界の危機に対してとても無責任な立場である。
だが、だからこそ一つの許せない線引ってものがあるんだ。
今回は、ちょっとその線引を越えそうだな、と。
レイちゃんの
□
それは、人々から感情を奪う存在だった。
悪感情を引き出し、それ以外を駆逐する。
まるで、絵の具でかいた絵画の上から黒いペンキをぶちまけてすべてを無に帰すかのような。
そんなことを願う存在だ。
楽しいという感情が嫌いだった。
寂しいという感情だけがすべてだった。
だから憎んだ。
別に特別な理由があって、そうなったわけではない。
”それ”は、最初からそういう存在として生まれてきたのだ。
それは、一枚のカードだった。
カードには時に意思が宿る。
意思が宿ったカードは、悪のプレイヤーとなり自身の存在意義を全うするべく動き出した。
しかし、その尽くが失敗に終わる。
寂しいという感情を暴走させて、周囲にその感情を押し付ける存在だった沈黙霊も。
子供達の間に不和を招いて、友情に修復できない傷を生み出すためのダイアークも。
どちらも、決定的な状況に至る前に事態が終結した。
こんなはずではなかったのに!
ああ、寂しい、憎い! 苦しい! 辛い!
どうして、どうしてどうして、自分だけがこんな目に――!
「悩んでるみたいだね」
ふと、声がした。
沈黙霊やダイアークを唆したカード――モンスターは天を見上げる。
モンスターがいる場所は、寂れた路地裏だ。
普通、こんな場所に人はやってこない。
現にこれまで、モンスターは見つかったことがなかった。
どうしてここが解ったのか。
どころか――空から見下ろすその”少女”は、まるで自分のことをすべて理解しているかのようだ。
――美しい少女がいた。
美しい白の髪には青のメッシュが入っており、瞳も同じように蒼白だ。
ぴっちりと張り付くスーツのような、やたらと露出の高い服。
そして仮面をつけて、頭には猫耳、背には尻尾がついている。
猫耳怪盗とでも表現するのが正しい姿。
月を背に、そんな少女がモンスターを見ていた。
――何者だ。
モンスターが、声なき声で問いかける。
「何者……そうだな、色々と名前はあるけど――この姿だったら」
人差し指を口元に当てて、少し考える素振りを見せる少女。
その動作一つ取っても愛嬌があり、人を魅了する不思議なカリスマ性が感じられる。
そんな少女は、端的に。
「ドロー・ザ・キャット」
そう、名を告げた。
ドロー・ザ・キャット。
モンスターでも知っている。
伝説のヒーローだ。
これまで、幾度となく現れては誰も勝てなかった悪のプレイヤーを倒してみせる”最強”と謳われたヒーロー。
しかしその行動基準は猫のように自由気ままで、「自分が出るべき」だとおもった事件にしか介入しない。
そう言われている。
――そんな化け物が、一体何のようだ。
「あはは、化け物はひどいなぁ。でも、名前を知ってくれていたのは光栄だ」
どこか恭しく礼をしてみせるその姿は、可憐でもあり胡乱でもある。
モンスターを、小馬鹿にしているようにも思えてしまう。
剣呑な視線を、モンスターはドロー・ザ・キャットに向けた。
「わ、待って待って怒らないで。私は君とバトルをしに来ただけなんだから」
――つまり、貴様は敵だ。
「敵……かどうかで言えば、敵だろうね。私はヒーローで、君は悪のプレイヤーなんだもの」
ならば、とモンスターはプレイボードを構える。
もはや一刻の猶予もない。
こうしてヒーローと悪のプレイヤーが出会ってしまったのだから。
何より、モンスターは追い詰められている。
策は失敗し、ヒーローに居場所がバレた。
つまり、ここで決着をつけなくてはいけない状況にあるのだ。
「その前に、一つだけ。君は私がこうして姿を見せる理由と基準って、わかるかい?」
――知らない。
「そうだろうね」
ドロー・ザ・キャット――札山ドロアは楽しいことだけをして生きていきたい。
そのために、楽しくないことはしたくない。
悪のプレイヤーを叩きのめす。
それは見方によっては”楽しい”ことだろう。
だって、正しいことをしているんだから。
でも、ドロアは決してそう思わない。
なぜなら――
「――楽しんでほしいからだよ」
――何を言っている?
「この世界はとても楽しい。仮に嫌なことがあっても、乗り越えて成長する楽しみがある。多くの人が楽しいことを謳歌する最高な世界。――でも、そうじゃない人たちもいる」
ドロアには、ある基準で自分が動くべき事件を線引している。
それはとても単純な基準だ。
「――君はちっとも楽しそうじゃない」
それこそが、ドロアが動く基準だった。
「悪のプレイヤーは悪いことをした。悪いことは反省すべきだ。でも、反省して罪を償ったら? 悪だったからって、一生不幸でいなくちゃいけないのか? ――誰からも、取り返しのつかないものを奪ったりしてないのに」
だからドロアは、ドロー・ザ・キャットになった。
「ルールを守って楽しくバトル! それが私の信条なんだ。楽しく、そして前を向いて生きていこうよ」
――ふざけたことを!
「ふざけてるかもしれないね。でも、ふざけて遊び倒したくなるくらい、この世界は楽しくて、面白い。それを知らずに負けて終わりなんて、あまりにももったいないと思わないかい!」
――言っていることが、何も理解できない!
「言葉で伝えるつもりはもとからないよ。私たちには、カードがあるんだから!」
かくして、ドロー・ザ・キャットは地に降り立つ。
これから救うべき悪と向き合って、正面から意思をぶつけ合って。
「さぁ、やろっか!」
――上等!
デッキから、楽しいという感情の源泉を。
「開花!」
――開花!
――カードバトルが終わった時、モンスターはその姿をあらわにした。
それは、古ぼけたぬいぐるみ。
誰かが捨ててしまったのか、はたまた孤独がぬいぐるみという形で現れたのか。
どちらにせよ、それを持ち帰った少女は、後にそれをあるカードショップへと持っていく。
新たにマスコットとなったぬいぐるみは、客たちの楽しそうなバトルの様子を眺めるようになり、そして時折自分もバトルに参加するようになったという――
一応、今回でプロローグが区切りです。
ドロアというキャラのことを色々説明した感じですね。
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