甚爾君の強さに脳を焼かれた主人公が呪力と術式を縛ってしまう話。なお主人公君は禪院直哉の一つ下の弟である。

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第一話

俺には天才の兄がおる。みんな言ってる。禪院家の次の当主は兄さんなんやって。

 

「お前も俺と同じ術式(才能)がある。」

「残念やなあ。お前は俺より一年遅く生まれた。一年前の俺に追いつけても今の俺には一生追いつけん。」

「でもまあお前は恵まれとるで。俺の次にやけど。」

 

投射呪法、一秒間を二十四分割し、動きを作る。過度に物理法則を無視した動きでなければ視覚内自由に動ける。それにより、父、禪院直毘人は最速の術師と呼ばれている。同じ術式を持つ最高の見本がこの禪院家にはあった。しかし、彼にとっては兄こそが自身に最適な見本、兄が最強だった。

 

「兄さん、訓練つけてください。」

 

直哉にとっても自分と同じ術式の相手との訓練は都合が良かった。禪院家の他の者の誰と訓練するより強くなれることを実感していた。

 

「家には落ちこぼれがおるんやって。男のくせに呪力が一ミリもない。」

 

その日の兄との訓練を終えて、みじめに這いつくばっているとそう声をかけられた。

 

「どんなしょぼくれた顔しとるんやろな。どんなにみじめな顔してるんやろな。今のお前よりずっといい顔しとるやろ。」

 

見に行かへん?疑問形で投げられた命令が二人、禪院直哉と禪院天智の人生を大きく変える。一人はその強さに、自分が彼にとって道端の雑草でしかないと分からされて、人になろうと強さを求めた。そして一人は―

 

「兄さん?」

 

今まで見たこともないような兄の顔。自分にあった最強の代名詞がすげ変わる。呪力が一ミリもないのに兄より強い。すべてを捨て去った強さ。今の自分には絶対になれない類の強さ。

 

 

本当に?

 

 

得ることは難しい。あの人は呪力を得られない。術式を得られない。でも俺なら。

 

「――捨てるなんて簡単やん。」

 

口の中で投げ捨てるように言った瞬間。胸の奥が、コトリと沈んだ。呪力の流れも、術式の感覚も、すべてが“霧散”する。

 

「―ッ!おいあほ!なにしてんッ!」

 

ほんの数秒。ただの感情の爆発、子供じみた投げやりな願望が――呪術師の世界では洒落にならない重みを持ってしまう。

 

 

 

呪力と術式を使わないという縛りを彼は自身にかけたのだ。

 

 

 

 

昨日の件で取り乱した兄はたった一日で落ち着きを取り戻していた。彼は昨日と同じように兄に訓練をせがむ。

 

「兄さん、訓練付けてください。」

「ええで、でも今日俺に一撃も入れられんかったら二度と俺の前に姿を現すな。」

 

その言葉に少し動揺する。それでもべつに構わなかった。昨日までなら取り乱していただろうが、もう今の天智にとって兄は通過点でしかない。

 

「???―――なんでッ!」

「やっぱりな。そうやろうと思った。お前呪力と術式を縛ってもうたんや。お前は呪力も術式も使えへん。なのに甚爾君にもなれへん。正真正銘ただのごみや。」

 

呪術における縛りで得られるものは呪術に関するものだ。呪術を捨てて、肉体強度が上がるわけがない。そんな縛りは成立しない。はずなのに。これは不完全な知識で縛りを結んだ。捨てるだけ捨てて何も得られない縛りを結んでしまった。

 

「俺は雑草やと思うとったけど、これが雑草やったんやな。これに比べれば俺は花くらいはある。」

 

みじめな顔、しょぼくれた顔、呪力のない人間のそんな顔はどんな顔なのかと昨日は想像して嗤いものにしていたのに。

 

 

 

その顔は鏡の前にあった。

 

 

 




この設定で続きを書いてくれる神を探しています。ぼんやりプロットはできているのですが私がやろうとすると書き始めるのに五年はかかり、完成させるのにさらに五年はかかりますので。

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