世紀末都市「ふるさと」   作:鳩胸な鴨

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28話 世紀末都市「湖鳴村」 その5

それからしばらくして。ここらの歴史とガイコツの状態から、釣り上げたガイコツには事件性がないと判明した。

聞くと、大宮周りは戦国時代の遺骨がたびたび出土しているらしい。釣り上げたガイコツもその一つなのでは、と警察に言われた。

おじさんロボットについては、小屋から離れた空き家に隠れてもらうことでなんとか誤魔化せた。

彼に聞くと、警察への応対もプログラムしていなかったらしい。

「ここは大宮だぞ」と言うと、すっかり忘れていたらしく、愕然としたのち、がっくりと項垂れていた。

 

「結構古い頭蓋骨だったみたいでよかったですね。事件性アリだと半日は潰れてたと思います」

「慣れすぎてないか、お前」

「事情聴取には慣れてますよ。白骨死体に出会したのはさっきのが初めてですけど」

 

私の家は、父ちゃんのじいちゃん、さらにはそのまたじいちゃんに至るまで、壊滅的なまでに運がない。事件発生からの事情聴取など慣れっこだ。探偵ものの主人公だってできるかもしれない。

…まあ、面倒くさがりの私にそれほどの頭はないのだが。

短かったとは言え、事情聴取に疲れた彼を横に、私はロボット当てゲームに勤しむ。

 

「畑の土いじりしてるおじいちゃんもロボット、収穫した野菜洗ってるおばあちゃんもロボット…、あの人も、あの人も…。今んとこロボットしか見ないような気がしますね」

「お前、よくわかるな…」

 

ここまで、通りがかりに見る人全てがロボットだった。

無論、適当こいているわけではない。私にはこれまで見た人間がロボットだと確信できる理由があった。

 

「そうは言っても、畑仕事とかしてると結構わかりやすいですよ」

「わかりやすい?」

「ええ。作業に会話と休みがなさすぎるんで」

「あー…。盲点だったな」

 

ロボットたちの動きは確かに、日々培ってきた慣れを再現できていた。

しかし、そのどれを見ても、作業中に汗を拭うだったり、息を吐くような素振りだったり、仕事中に少なからずある会話がなかったりと、人間味が欠けていた。

何も知らなければ「いやに無愛想な人たちなのかな」と見過ごしていたが、「ロボットがいる」という前提を通してみると、疑惑が確信となる。それほどまでにわかりやすかった。

 

「ふと思ったんですが、今まで見てきたロボットたちって、きちんと本人とか土地の持ち主には許可とってんですか?」

「……取ってるぜ」

「ならいいんですけど」

 

間が気になったものの、許可を取っているのならツッコむ必要もあるまい。

私は今まで見てきたロボットたちの方へと視線を向け、感嘆の声を漏らす。

 

「しっかし、よく2年でここまで人そっくりなロボット作れましたね。

…おじさんおばちゃんおばあちゃんおじいさんと中年老人ばっかなのが気になりますが」

「村の営みを再現するって実験なんだから、そりゃ偏るだろ。ここどこだと思ってんだ」

「クソ田舎の限界集落ですね」

「だろ」

 

確かに。連休でもないのに、若者がこんな閑散とした田舎で畑仕事なんてしてたら不自然に見えるか。

そんなことを思いつつ、私は今まで見た、機械が営む村の評価を下す。

 

「確かに、『村の営み』は再現されてますね。『人の営み』を除けば、ですが」

「……それって、再現する必要あるか?」

 

言われてみるとそうだ。畑仕事をさせるだけなら、人の営みまで再現させる必要はない。

…都合よく働くドッペルゲンガーとして使うのなら話は別だろうが。

 

「まあ、仕事させるだけなら、必要ないとは思いますよ。人のように動かすって言うんなら再現する必要アリだとは思いますが」

「…………そうか」

 

彼のその態度に、ふと違和感を覚えた。

いや、違う。ずっと感じていた違和感が、ぼんやりと形になった、と言った方が正しい。

その疑惑がつい、口をついて出た。

 

「……あの。ちょっと変なこと言っていいです?」

「なんだ?」

「アンタ、ロボットじゃないですか?」

 

びしっ、と彼が固まる。

予想外の質問だったのだろうか。それとも、突飛な疑問に呆れているのだろうか。

彼は目を伏せ、私に疑問を返した。

 

「……なんで、そう思った?」

「んー…、なんて言うんでしょうか。ユーモアが足りないっていうか…、明るさが足りない?」

「……………」

 

無論、2年も会話していなかったから、性格が変わっていたのかもしれない。

変なこと聞いた、と言おうとした、その時。

目の前の耶麻斑 修司の瞳が、まるで機械のように煌めいた。

 

「わかるやつにはわかるもんなんだな」

「……マジ?」

 

自分の違和感が当たっていたこと。目の前の耶麻斑 修司がロボットだったこと。

その他諸々、様々な感情が混ざるも、私の口からはその全てを吐き出せなかった。

 

「丸々人格をコピーできたはずなんだが…、やっぱり作業用の機械だからか、そこらへんの機微が上手く出力できないわけか」

「…自分のコピーを生み出したわけですか。すんごいことしますね、アイツ」

 

面倒くさがりの彼のことだ。人を再現するロボットを作るなら、まずは自分を再現したものを作ろうと思ったのだろう。

なにせ、全ての面倒ごとを押し付けられるのだ。どうせ今もどこかで機械いじりでもしてるのだろう。

そう確信した私は、ロボットの耶麻斑 修司に問いかけた。

 

「んで、アイツはどこにいるんです?どうせ2年前から学校サボってるでしょ」

「末恐ろしいな、お前…。オリジナルがここ2年、学校に行ってないことまでわかるか…」

「私も私そっくりのロボットがいたら、学校とか仕事とか、ぜーんぶ押し付けてがーすか寝てるんで」

 

まさか2年間まるまる行ってないとは思いませんでしたが、と付け足し、ため息をつく。

と。耶麻斑 修司はふと、思いついたように声を上げた。

 

「よし。じゃ、次のゲームに行こうか」

「次のゲーム?」

 

こてん、と首を傾げると、ロボットの耶麻斑 修司は本物と同じように、不適な笑みを浮かべた。

 

「オリジナルの耶麻斑 修司がどこにいるのか、当ててみろ」

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「…………人を再現したロボットって、そんなんアリか…?」

 

時は戻り、現代。これまで話を聞いていた春香くんが顔を歪め、首を捻っている。

いくら曾祖母さんが狐憑きの人間卒業者とはいえ、流石に人を模した機械には現実味を感じることができないらしい。

私はコーヒーを啜り、大宮に住む人なら誰でも知っている、ある事実を告げる。

 

「知られてないだけで、大宮には人型ロボットがそこそこいますよ」

「そこそこ!?」

「ちょっと遠くのスーパーに買い物行ったら知り合いに会うくらいの確率ですれ違いますね」

「高いのか低いのかわかんないな」

 

作ったやつは、「あまりにモテないから、自分のことが好きな女の子を作る」などと宣っていた。…女にモテない星に生まれたせいか、作ったロボット全員から嫌われていたが。

「無条件で好かれるアルゴリズムを組んでいたはずなのにぃ!」と私の弟に泣きついていたっけか。

 

「まさかとは思うが、それって耶麻斑 修司が作ったロボットだったりするか…?」

「違いますね」

「それはそれで怖いんだが」

「大丈夫ですよ、そういう『科学力で殴ってくるタイプの危険人物』は大抵、『暴力装置』によって抑えられてるんで」

「暴力装置?」

「クロスカウンターのオーナーをはじめとした、大宮の最強枠たちのことです」

 

こういった科学者による被害が小さく収まっているのは、やらかす直前にクロスカウンターのオーナーをはじめとする最強枠がすっ飛んでくるからだ。

そう思うと、修司は運が良かったのだろう。世界征服計画が漏れることなく、直前まで邪魔されなかったのだから。

まあ、動き出したら流石におっちゃんをはじめとする大宮最強枠に襲撃され、すべておじゃんにされていただろうが。

……そう考えると、やっぱり修司は運がなかったのかもしれない。

そんなことを思いつつ、私は話を続けた。

 

「話を戻しますと、私が言った『ゲーム』というのは、『村の中に潜むロボットたちを見つけること』と、『オリジナルの耶麻斑 修司を見つけること』でした。

…まあ、村の中に潜むどころか、まとめてぜーんぶロボットだったんですがね」

「土砂崩れで消えた村をまるごとロボットが乗っ取ったわけか?」

「そういうことです」

 

ここまで開けっぴろげに話したのは初めてだが、話そうとした時よりも呼吸が随分と楽になった。

やはり、無意識ながらに一人で抱えることに限界を感じていたのだろうか。

そんなことを思っていると、もごもごと誰が口を動かす音が響いた。

 

「……ふぁほ、ひひへほひひ?」

「…………なんて?」

 

声がした方へ目を向けると、顔中が腫れ上がった教授と目が合う。

なんてことはない。デリカシーと道徳心が欠落した質問を続けた結果、私と春香くんの顰蹙を買い、一度タコ殴りにされたのである。

本人も地雷原でタップダンスしたという自覚があったのだろう。飛んでくる私たちの折檻を甘んじて受け入れていた。

良識があるのかないのか、よくわからない女だ。もしかすると、好奇心が強すぎて抑えられないだけなのかもしれない。

トマトみたいな顔面で喋ろうとする彼女だが、あまりに滑舌が悪く聞き取れない。

そんな様子を見かねてか、春香くんがため息混じりに翻訳を始めた。

 

「聞いてもいい、だと」

「わかるんだ…」

「まあ、ニュアンスで」

 

ニュアンスでわかるものなのだろうか。

私も20年生きてきて、顔面が膨れ上がった人間の声を何度も聞いているが、翻訳できる気がしない。

 

「……で、なんです?」

「ほひはひへ、ふははふっほんはほっへ」

「もしかして、村が吹っ飛んだのって…だと」

 

どうやら脳細胞は死んでなかったらしい。

確信した上での質問だと悟った私は、ため息混じりに答えた。

 

「ええ。そのロボットがまとめて自爆したんですよ」

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