時を飛ばそう。
赤子はすくすくと大きくなった。
私は毎日、赤子の様子を知る為に、病院に通い続ける。
モモンガさんの事は心配だけれど、今の私にはどうにかできる問題ではない。
赤子を置いて旅に行く気もないので、赤子が成長して天寿をまっとうした時、一人でシンオウ地方に向かってもいいかもしれない。
……赤子と共にシンオウ地方へ行く事も考えたが、やめておいた。
普通の人に、オバロ世界は危ないだろう。
私のビルド、攻撃も回復も中途半端だから、二流だし。何よりPVPの戦績は良くない。
やっぱり一人になってから旅に出よう。
さて、赤子が児童養護施設に預けられる年齢になり、私も病院からそちらへ通うようになる。
病院から施設に連絡がいっているらしく、施設の人たちは私を見てもあまり驚かない。
ちなみに私と友達になってくれた、あのイエッサンも施設に引っ越した。
赤子のポケモンになる事を決めたらしい。
「あなたたちの行く末を、見守りたいの」
「正直めちゃくちゃ助かる。赤子と意思疎通できる誰かに、いてもらいたかったんだ」
イエッサンは施設の中の建物に住み、私は施設に通う形で日々を過ごす。
施設の他の子供たちは、怖がっているのか近寄って来ない。
近寄れば泣かれたり、逃げられるので、私からも近寄る事はない。
ただ、周りのポケモンたちとは仲良くしている……と思う。
挨拶はできるし、きのみがある場所の情報交換やら、あっちで縄張り争いがあるから近づいちゃダメだとか、色々教えてもらっている。
多分、仲良しの理由は、私がケガをしたポケモンたちを、治療魔法で治してやっているからだろう。
赤子を……名前はルスと、名付けられたらしい。イエッサンに教えてもらった。
幼児へと進化したルスは、よく外で遊ぶ。
春の日差しの中、施設の中庭で他の子供たちと遊んでいる。
それを遠くから、私は見守る。
だって!ルスからも、怖がられてるんだもの!
そんなに、この真っ黒なマネキン姿が怖いかい!?
ドレスで着飾っていても怖いの?どうしようもねえや!
うう、大きくなったら平気になりますように。
ルスの件は、時間が解決してくれるとして。
問題はまだある。
私が珍しいポケモンだと、有名になったのだ。
まあドッペルゲンガーは他にいても、この私の姿は、私しかいないからなあ。
他のユグドラシルプレイヤーも見てないし……。
一匹しかいない。故に珍しいポケモンとなったら、捕獲しに来るトレーナーも、研究しに来る博士も、施設を尋ねて来る。
トレーナーは対処しやすい。
投げてきたボールは、全てを破壊してやればいいのだ。
バトルは逃げていたが……先日、技をくらって逃げられなくなってしまった。
だから、その、できるだけ手加減をして、相手のポケモンを倒した。
もっと詳細に話すと、病院送りにしてやった。バトルしたトレーナーの慌てぶりを見る限り、かなり危ない状況だったのだと思う。
やり過ぎたのだろう。本当にごめん。
以後、あのトレーナーは見ていないし、私を捕獲しに来るトレーナーは減った。
代わりに、腕試しに来るトレーナーが増えた気がする。
バトルする内に、手加減には慣れた。
やったね!
博士たちは、基本こちらを観察するだけなので、無害なのだ。
きのみとかくれるので、ありがたく頂戴する。私は甘さを感じるモモンの実が好きで、イエッサンはマトマの実が好きだ。
イエッサン曰く、「口内が痺れてこそ食事よ」と言っていたな。
辛いもの好きでも限度があるよ……。
博士たちの中に混じって、一人の子供が遊びに来る事もあった。
名前はペパー、男の子だ。
いつも手持ちのオラチフと一緒にいた。
……見た事あるぞ、この子。
ポケモンで……なんてタイトルだったかな?主人公と近い位置にいたはずだから、重要キャラのはず。
オラチフに「ご主人が怖がるから来ないで!」と怒られるので、私はペパーくんに近づかない。
やっぱり遠くから見守る。寂しい。
ありがたい事に、ペパーくんはルスと仲良くなった。
私のせいで、年上の子供たちから避けられがちだったルスは、初めて“お兄ちゃん”と呼べる人物を得た。
もうニッコニコである。
ペパーくんはいつ来るのかと、施設の職員に聞き周り、来たら「お兄ちゃん」と呼んで離れない。
ペパーくんもそう呼ばれて嬉しいようで、こちらもニッコニコ。施設に来た日は、ルスを構い倒してくれる。
もうめちゃくちゃ可愛い。天使と天使がおる。
イエッサンも、ときめいているらしい。ペパーくんが来た日の夜は、二人の話で盛り上がる。
推しが複数いる幸せ、最高だぜ。
さらに嬉しい出来事があった。
ルスが五歳を迎えた頃。
ペパーくんと、ポケモンバトルをした日の事だ。
博士たちに見守られながら、ルスはイエッサンを、ペパーくんはオラチフをくりだす。
「――――!」
「――、――!」
相変わらず、人が何を話しているのかわからない。
けれど、イエッサンとオラチフの言葉ならわかる。
「オラチフさん、いきますよ!」
「ペパーと勝っちゃうもんね!」
始めはバトル経験者のペパーくんが有利だった。
が、中盤になってイエッサンのチャームボイスが、オラチフの急所に当たる。
オラチフはゴロゴロとバトルコートを転がった。
顔面蒼白でオラチフに駆け寄るペパーくん。お兄ちゃんの様子が変わったので、身を固くするルス。そして慌てて、イエッサンと共にオラチフの場所まで、駆けつけた。
オラチフが目を回した姿を見て、驚いたのか。ペパーくんが泣き出してしまった。
そして、その姿を見てルスも泣き出す。
見守っていた博士たちがやって来て、何かの欠片をオラチフに与えた。
オラチフは回していた目を、ぱっちりと開けて、立ち上がった。そして泣いているペパーくんの涙をペロッと舐めてあげる。
「ご主人!大丈夫だよ!」
オラチフの動きにいつものキレがないので、万全の状態ではないのだろう。
確かイエッサンが、回復の技「いやしのはどう」を使えたはず。私はそのまま見守るつもりでいた。
けれど。
「ねえ、こっちに来て!」
イエッサンに呼ばれた。何で?
疑問に思いながらも、飛行の魔法で空に飛び上がり、イエッサンの隣りに降りる。
「どうしたの?」
「オラチフさんを回復してあげて。うまくいけば、みんなと仲良くなれるわ」
「わ、わかった」
何やらイエッサンが、チャンスを作ってくれたらしい。
私は子供たちに怖がられつつ、大人たちに観察されつつも、オラチフの側へ。
「ダメ!ご主人が怖がるから、こっち来ないで!」
「すみません。ケガを治すだけですから!ペパーくんには近寄りませんから!」
オラチフに手をかざし、初級回復魔法を唱える。
オラチフは全快した!
「どうですか?」
「……痛くない。ありがとう」
「良かったです」
オラチフはいつもの元気な姿で、何度もジャンプした!
ペパーくんは泣き止み、相棒の元気な姿を見て、笑顔を取り戻す。
そしてルスも。今度は嬉し泣きをするのだった。
「――!」
ペパーくんが私に何か言った。
「え、何?」
「ご主人が“ありがとう!”って言ったぞ!」
「どういたしましてって伝えてくれる?」
「わかった」
オラチフは、さっきよりも激しくペパーくんの顔を舐める。ペパーくんは笑って受け止めていた。
それで伝わるの……?以心伝心か?
羨ましすぎる!
そんな気持ちでペパーくんとオラチフくんを見つめる。
すると、スカートが誰かに引っ張られた。
その方向を見れば、ルスがいて。
え?私に触ってる!?
「――――……」
「イエッサン、教えて!」
「ありがとう、だって」
「どういたしまして!!伝えてくれ!」
「わかったわ」
イエッサンが能力を使って、ルスに考えを伝える。
ルスは、初めて私に向かって笑った。
とんでもなく可愛かったぞ!
この日をきっかけに、私はルスとペパーくん共に仲良くなった。
怖いポケモンではないと、知ってもらえたのだ!
やったー!