一日三食食べたくて   作:ケツバット

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陰より眺める者

 王女誘拐事件は幕を閉じた。同時に起きた複数の襲撃事件で街は大騒ぎだが、直に落ち着いていくことだろう。

 

「緊急会議って、なんなの?」

「先日の廃墟区の破壊についての」

 

 王都廃墟区。ならず者共や悪徳貴族の取引にも使われたり浮浪者が住み着き手付かずだった其処は教団に利用されていた。

 

 昨夜、怪物が現れ浮浪者は逃げ出し、巻き込まれた者はいなかったが区画は完全に吹き飛んだ。

 

「流石はシャドウ様です!」

「とても美しい光でした。シャドウ様以外未だ到達出来ぬ、我等が目指すべき領域……」

「……………昨日のあれは、シャドウではないわ」

「「「────」」」

 

 その言葉に、その場の全員が固まる。

 『アトミック』。言葉の意味は不明だが、シャドウの象徴たる技。シャドウガーデンの剣たる彼女達が至るべき領域。

 

 膨大な魔力量に超絶的な魔力操作を行い始めて可能となる絶技。彼から力を授けられた自分達こそ、手にすべき力。

 

「まさか………アルファ様が?」

「いいえ。使用したのは………………サード」

「サード…………! 恐れ多くもシャドウ様に目をかけられるあの男!」

 

 ベータが何処か忌々しげにその名を口にする。報告を受けていたイプシロン達も不満気に愁眉を歪める。

 

「めを、かける?」

「気に入られている、という意味よ」

「なんなのですそいつ! 生意気なのです!」

 

 報告書は受け取ったが読んでないデルタはシャドウに気に入られている誰かがいると知りプンプン怒りを顕にする。

 

「前回の武神祭にて王国最強と謳われたアイリス王女を降し優勝。そのまま騎士として引き入れるべく獅子髪グレンを後援者とし約1年の学習を行いミドガル魔剣士学園に入学………所詮、世界の裏を知らぬ表で崇められるだけの男だと思っていたのだけど………」

 

 シャドウが何かと気にかけていた。だがそれは陰に潜む彼が表舞台で利用する駒として見ている、としか思ってなかった。というかそうでも思わなければ気が狂いそうだ。

 

 そんな七陰にとって嫉妬と憎悪の対象がアトミックを使った?

 

「まさか、既にシャドウ様と繋がりが?」

 

 自分達にすら明かさなかった秘蔵の弟子、ということだろうか?

 

「シャドウ曰く、ただ一度の邂逅。力の一端を見せただけ…………だそうよ」

 

 つまりは独力でシャドウの領域に足をかけた。尋常ならざる才覚。成る程、彼に師事しながらも至らぬ身では興味を奪われて当然だ。

 

「悪魔憑きを治せることから、魔力干渉も一級………ええ、我々が彼に勝てるところなど忠義とこの世界の闇を知っていることだけでしょう」

「シャドウ様の描く未来に必要ならば、接触するべきなのでしょうか………」

「いいえ…………シャドウは、彼は彼のまま進むことに意味がある、と。『光照らされる場所、そこに陰は生まれ、我等は邪悪なる意志を狩る』……ってね」

「それではまるで、シャドウ様が端役ではありせんか! その男は、シャドウ様が成した功績を掠め取る卑しい盗賊にほかなりません!」

「他ならぬシャドウが光となることを望まないのよ」

 

 ベータの叫びにアルファとて納得いってないと表情で語りながら言う。グッと悔しそうに顔を歪めるアルファにベータもそれ以上言えなかった。

 

「…………闇を知らぬからこそ平穏に生きる民の為にも、闇を知らぬ英雄が必要。そういうことでしょうね」

「…………それがシャドウ様の意思ならば」

 

 頭では納得したが、心では納得していないのがその表情から伺える。

 

 

 

 

 

「ふふふ。まさか、まさかだよね」

 

 シャドウことシドは機嫌が良かった。それはサードがアイ・アム・アトミックを使用したからだ。そう言えば彼は『スタイリッシュ盗賊スレイヤー』の名を知っていた。昔何処かで会ったことがあるのだろう。

 

 アルファ達以外に仲間はいなかったから、恐らくは盗賊狩りとかを目撃したのだろう。シドの中で一つの物語が生み出される。

 

 主人公が幼少期、村の近くに現れた盗賊とか退治しようと勇気を持って剣を取り森に向かう。

 

 しかし未だ未熟な彼は追い詰められてしまう。そんな時に現れた圧倒的な強者。

 

 なんだあの強さは、一体お前は何者なんだ!? スタイリッシュ盗賊スレイヤー………そう名乗り立ち去る背中。

 

 主人公は以来、そのたった一度見た背中を追い続けながらその強さに迫った。

 

 そして成長した主人公は、再びスタイリッシュ盗賊スレイヤーと再会する!

 

 スタイリッシュ盗賊スレイヤーなんて名前じゃなくもっとしっかり名乗るべきだったな。いや、彼はス盗(ト)レイヤーとかっこいい略称をつけてくれたけど。

 

 少なくともサードはその技を模倣しようとする程に印象に残してくれていたらしい。

 

「ウンウン、陰の実力者っぽいよこれ!」

 

 アトミックの打ち合いとかしてみたいが、主人公と敵対してしまえばそれはもう陰の実力者じゃなく単なる敵キャラだ。

 

 なんか何処まで育ったか見てやる、的な事が出来るイベントが欲しいな。

 

「いやぁ、でもかなり強いからなあ彼。まあ最強系主人公と唯一互角の謎の実力者! ってのもアリだよね。その正体がモブだと思われているクラスメイトって、最高のシチュじゃない? それに彼、ノリもいいみたいだし」

 

 ディアボロスチルドレンだっけ?

 ベータ辺りに『彼も今回の演劇に誘ってね』と伝えるようにお願いしてみたけど、上手くやってくれたらしい。

 

 後ろ暗い過去を持つ系主人公だ。きっと力に憧れた時に教団に誘われたとかそんな設定なのだろう。

 

「でもなぁ、そういう設定にするには君ちょっと優しいこと自覚したほうがいいよ」

 

 運良くタダや安く成りやすいという理由でミツゴシ商会の店につき合わされるシドは知っている。例えば菓子なんかを大量に買った後、基本的には自分で全部食べるが泣いてる子供がいれば分けてあげることを。

 

 その子供に孤児院に誘われ結局買った分のほとんどを渡したりすることもあるのを。いいよね主人公属性。ああ言う日常の何気ないところに出る。

 

「そういえばそろそろ武神祭があるじゃん! サードも出るだろうし、そこにこっそり参加すれば…………!」

 

 最初は正体を隠した陰の実力者。弱そうに擬態しており、主人公や一部実力者だけが疑問を抱く。

 

 そして主人公とぶつかり合い真の強さを見せる!

 

 主人公『この剣は、お前はまさか!!』

 

 正体を明かす。

 

 陰の実力者『あの時からどれだけ成長したか、我自ら図ってやろう』。

 

 満足して立ち去る陰の実力者。

 

 優勝するもさらなる強さを求める主人公。

 

「これだ!!」

 

 

 

 

「? なんだ、途轍もない馬鹿に目をつけられたかのような悪寒が」

「どんな悪寒よ」

「具体的ね………」

 

 城の修練場の一つ。アレクシア、アイリス、グレン、マルコ、サードの5人がそこにいた。

 アイリスが新設した『紅の騎士団』のメンバーだ。本当はもう少しいたが教団と繋がっていたのでサードがこっそり殺した奴等の中に混じってた。

 

「まずディアボロス教団の強さは魔力量と、それなりのノウハウ」

「それなりなのね」

「まあこっちはあんま関係ないな。兵の質ではシャドウガーデンが上だ………元悪魔憑きだけあり、魔力が多いからな」

 

 因みに悪魔憑きと言えば、サードが治せることを公開すべきだとアイリスは進言したが貴族共に邪魔された。見逃した教団関係者や、後は単純に平民のサードが国にとって重要になることが気に食わない貴族や悪魔憑きは聖教に任せるべきという聖教信徒だ。

 

「だが一番の質の違いは魔力操作」

「魔力操作なら私達も………」

「じゃあこれ、できるか?」

 

 と、サードが指を1本立てる。あふれた魔力が輝きミドガル王国の国章が浮かび上がる。

 

「な!?」

 

 魔力の可視化だけでも上位の魔剣士にしか出来ないのに、形を変える。それを手慰み程度の感覚で行うサードに誰もが驚愕する。

 

「そ、それにどんな意味が?」

「そうだな。まず、これが魔力で単純に身体能力を増加した一撃」

 

 マルコの言葉にサードが剣を振るう。鍛錬用の鎧が叩き切られる。半分ほど剣がめり込み後は膂力で引きちぎった感じだ。

 

「で、これが魔力操作で強化した肉体を操りながら振るった場合」

 

 別の鎧が、今度は切り裂かれる。先程は目で追えたが、今のはまるで目で追うことが敵わなかった。

 

「…………!」

「他にも剣に込める魔力だって面で込めるより刃部分の点と、反動を受ける点に魔力を圧縮するとかで同じ剣でも耐久も切断力も変わる………あと魔力消費も抑えられるし………」

 

 ついでに言えば魔力を一度に使える量は限界値がある。もちろんこれは訓練で増やせるが………。例えば放出量百の魔剣士同士が切り合った場合、魔力をより圧縮している方が勝つ。

 

「ちなみに昨日使った強化法は体外に排出した魔力を再度肉体に取り込むことで使用魔力量を増幅させる覚醒もどきです」

 

 外部から薬品などで魔力を取り込み増幅するディアボロス教団員だったので思いついた技だ。

 

「これに剣技を組み合わせれば更に良くなる」

「でも貴方、剣技はそこそこじゃない」

 

 サードの戦い方は膨大な魔力と超絶技巧の魔力操作で強化した肉体で戦うというもの。シャドウに合わせれば『レベルを上げて魔力で斬る(物理で殴る)』とでも言うだろう。

 

「剣技自体はこの中ではアレクシア殿下が一番ですが…………まあ教団を相手するには心許ない」

 

 不満気な顔をするアレクシアだったがその言葉を飲み込む。事実ゼノンには勝てていないのだ。

 

「だから俺が教えますよ」

「いや、だから…………」            「模倣剣技(トレース)アレクシア・ミドガル」

 

 と、サードが剣を構える。その構えにアレクシアとアイリスが目を見開く。

 

「貴方、剣技は………」

「以前私は、貴方の剣が羨ましいといった。本心ですよ、一々力いっぱい頑張って、成長した達成感なんてものを得られて。私は一度見たら模倣出来る才能(たち)でして」

 

 苦労らしい苦労をしたのは『アイ・アム・アトミック』ぐらいか。それもどちらかというと増幅した魔力に体を耐えられるようにする事への苦労。肉体が耐えられないせいで魔力制御が乱れたりして………まあ結果として魔力許容量を増幅する手段の最上級として『あれ』も習得したが………。

 

「まあこれじゃあアレクシア王女だけがあまり育たないので………向上剣技(アップデート)してお相手します」

 

 スッと剣を向ける。その所作だけでそれなりの実力者たる彼等はそれがアレクシアが更に進んだ先に辿り着ける剣技だと察する。

 

「……………あ〜……………心、折れてません?」

「「「「勿論!!」」」」

 

 

 

 一通り訓練が終わった後、スライムを渡しておいた。あれを操るのは魔力操作訓練にはもってこいだ。

 一先ず手足に輪っか状態で維持させること、遠くの物を取る時などに変形させて使うなど日常的に訓練されることにした。因みにサードは初めてやったら出来たよ。

 

「………………………」

 

 ふと、寮に帰る途中のサードは足を止めた。

 

 

 

 

「見つけたのです! 彼奴が………」

 

 その後姿にグルルと唸る獣人の少女デルタ。家族の皆は大好きだ。それ以外は大嫌い、なんて言うつもりはないがシャドウに気に入られているとなれば話は別だ。気に入らない。

 

「ボッコボコにしてやるのです! 弱い奴に、ボスに気に入られる資格はないのです!」

「おー!」

 

 と、同意するのはデルタの部下パイだ。「デルタとパイが考えた最強の世界征服計画」というとても残念な頭で考えたシャドウの子供を一万人産むかいうとても残念な計画を共有する中でもある。

 

「いくですよパイ。まず、は…………!」

 

 と、飛び出そうとしたデルタが固まる。

 

「デルタ様…………?」

 

 カチカチと硬く軽い物をぶつけ合わせるような音が響く。それはパイの歯が鳴る音だった。

 

「あ、え………?」

「はっ、ひ………」

 

 デルタも目を見開き呼吸を荒くする。息の吸い方が思い出せない。

 パイはデルタの視線を追ってしまう。見るなど本能が告げる。見なくてはと、身体が動き、目が合った。

 

「………………ぁ」

 

 敵意に対する返礼。敵意を返された。ただそれだけ。それだけで、獣の本能のが強い獣人の中でも頭が残念で獣により近い2人は動けなくなる。

 

 視線が外れ歩みを再開するサード。その背が視界から消えても2人は暫く動く事は出来なかった。

 

 

 

 

「雑魚が見てんじゃねーよ」

 

 それもこんな人通りの多い街中で騒ぎを起こすような考えなしとは。教団ではなくシャドウガーデンっぽかったから取り敢えず見逃すが。

 

 ちゃんと戻って幹部達に『手を出すな』と忠告できる程度の立場であればいいが。というかなぜ自分を狙って? 過去でも知られたか………中々情報収集能力が高いようだ。

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