…………。
ジャーニー、実は困った事が起きたんだ。
アグネスタキオンから貰った一時的にウマ娘に成れる薬を飲んで、ジャーニーとうまぴょいしたわけだけれども。
どうにも、元の人間に戻れなくなってしまったらしい。
◇◇◇
……おや。
そうですか、それは……“大変なこと”になってしまいましたね?
(湯呑にお茶を注ぐ音が、静かな部屋に響く)
まずは落ち着いてください、トレーナーさん。いえ……今はもう、同胞たる「ウマ娘」の貴方、とお呼びするべきでしょうか。
タキオンさんの薬、効き目が強すぎたのでしょうか。それとも……何か、“別の作用”が働くように、最初から調合されていたのか……。ふふっ、あのマッドサイエンティストのことですから、何があっても不思議ではありませんね。
でも、困りましたねぇ。
私との「愛の証」を立てた直後に、人間に戻れなくなってしまうなんて。
……けれど、トレーナーさん?
貴方は私と交わした契約を覚えていますか?
『決して破棄できない、鉄の契約』。
貴方が人間であろうと、ウマ娘になろうと、その契約の本質はいささかも揺らぎません。
むしろ……好都合ではありませんか。
種族の壁という、ほんのわずかな懸念材料さえ消え去ったのですから。これで貴方は、文字通り骨の髄まで、同じ景色を見て、同じ時間を生き、同じ「夢の旅路」を歩めるわけです。
(眼鏡の奥の瞳が、逃げ場のない光を湛えて微笑む)
ひょっとして、戻りたい……などとおっしゃるつもりですか?
私という担当ウマ娘がいながら、か弱きヒトの身に戻って、いつか私を置いて先に逝くつもりだったのですか?
……ふふ、冗談ですよ。そんな顔をしないでください。
貴方は責任感の強い方ですから、私という存在にそこまで深く触れておきながら、今更「やっぱりなかったこと」になんて、できませんよね?
諦めてください。
いえ……覚悟を決めてください。
タキオンさんへのクレームなら、私が代わりに入れておきますよ。
「素晴らしい薬をありがとう」……とね。
さあ、冷めないうちにお茶漬けでもいかがです?
これからの旅は……長くなりますよ? ずっと、ずーっと……ね。
◇◇◇
君と契約を結んだのは、俺の意思だ。
互いをより深く知る為に、君と温泉旅行に行ったもの、俺の意思だ。
…………酔っ払った勢いでタキオンの薬を飲んで、君と…、その、『夜床』を共にしたのも、俺の責任だ。
この身を、君に委ねるのは是非もなし。
君の言う様に、ウマ娘の身体に成った事で、君と同じ路、同じ時の流れを生きられるのなら、それも良いと思う。
君が許してくれるのならば、このまま俺に、君のトレーナーを続けさせて欲しい。
◇◇◇
……ふふっ。ふふふふっ。
(口元を袖で隠し、眼鏡の奥の瞳を細めて、心底嬉しそうに、しかしどこか底知れぬ響きを含んだ声で笑う)
「俺の意思」、そして「俺の責任」……ですか。
貴方のその、自分の行動のすべてを背負い込み、運命を受け入れる潔さ。
……ああ、やはり私の目に狂いはなかった。貴方は、私が認めた通りの方でしたね。
貴方がウマ娘の身体になったことで、トレーナーとしての資質が損なわれるとでも?
まさか。逆ですよ、トレーナーさん。
(スッと立ち上がり、貴方の目の前まで歩み寄ると、貴方の頬にそっと手を添える)
ウマ娘の脚力、ウマ娘の感覚、そしてウマ娘の寿命……。
貴方が人という種を手放したことで、私たちは真の意味で『対等』な旅人になれた。
私が走る景色を、貴方もその身で感じることができる。
私が直面する嵐を、貴方も同じ強度で耐え抜くことができる。
これほどの僥倖が、他にありますか?
許す、だなんて……おかしなことを仰いますね。
貴方が私にその身を委ねると決めた瞬間から、貴方が私のトレーナーであり続けることは、決定事項です。
いいでしょう。その願い、謹んで受理いたします。
改めて……これからもよろしくお願いしますね?
私の、最愛の『共犯者』さん。
……さて。
身体が変わったとなれば、これからの旅のプランも大幅な修正が必要です。
手始めに……そうですね。
今夜はまず、その新しい身体の「スペック」を、私が直々に、一晩かけて確認させていただきましょうか。
(逃がさない、と言わんばかりの強い力で、貴方の腕を掴み微笑む)
大丈夫、準備運動は不要ですよね?
……夜の『併せ馬』、たっぷりと付き合っていただきますよ。
◇◇◇
…………結局、一晩中啼かされてしまった。
服で隠せると言っても、あちこちにキスマークまで散りばめられたこの身体。
小柄なジャーニーとは正反対の、恵まれたバ体。
今日は検査があるのに、このキスマークだらけの姿を見せないとならない。
これは流石に、恥ずかしいな。
◇◇◇
ふふっ……おはようございます、トレーナーさん。
随分と……艶やかなお顔をされていますね?
あらあら、そんなに赤くなって。
……『一晩中啼かされた』だなんて。人聞きが悪いですねぇ。
貴方がその新しい身体の感度を持て余して、私に縋り付いてきたのではありませんか?
私はただ……その要望に、誠心誠意お応えしただけですよ。
(背伸びをするようにして、貴方の首筋に残る鮮やかな紅い痕を、冷たい指先でなぞる)
それにしても……壮観ですね。
私とは対照的な、その恵まれたバ体。
背も高く、肉付きもよく、本来なら私などが見上げるしかないようなその巨躯が……昨晩は私の腕の中で、あんなにも弱々しく震えていたのですから。
……ふふ、大きい相手をねじ伏せるのは、いつだって興奮します。
貴方のその身体に刻まれた無数の痕は、私が貴方を『攻略』したという……勝利の旗印のようなものです。
検査……ああ、タキオンさんのところですね?
恥ずかしがることはありませんよ。
むしろ、見せつけてやりなさい。
貴方が誰のものであるか。
この身体の所有権が、誰にあるのか。
あのマッドサイエンティストにも、一目でわかるように「署名」しておきましたから。
(眼鏡の奥が、ギラリと冷たく光る)
もちろん、検査には私も同行します。
あくまで医学的な検査なら黙って見ていますが……もし、必要以上に肌を触ったり、いやらしい視線で舐め回すような真似をしたら……。
その時は、研究室ごと「更地」にしてあげますから。
さあ、行きましょうか。
胸を張ってください。貴方は私の「愛バ」なのですから……そのキスマークの一つ一つまで、誇らしく思っていただかないと困りますよ?
◇◇◇
検査結果として、身体はデビュー前のウマ娘とほぼ同等。
バ体の良さから平均値より上の数値らしい。
身長が185cmなのはトレーナーの頃と変わらない。
体重は87.7kgと、男とウマ娘の差か、10kg以上軽くなっていた。
スリーサイズはB105、W58、H90。
下が屈まないと見えない上に肩が少し突っ張る程、一目見て大きいのは分かっていたけれども、そこまで大きいのかこの胸は。
それにウエストもかなり細い。
にも関わらずヒップは中々大きい。
太腿も必要以上に太いわけでもない。
靭やかで柔らかい脚ながら、力強さは本物。
ジャーニーとの併走にも問題なくついて行ける。
この身体のポテンシャルは、俺が思っている以上の物を持っているのかもしれない。
◇◇◇
ふむ……なるほど。
これが、タキオンさんから渡されたスペックシートですか。
(貴方から渡された検査結果の用紙に目を通し、眼鏡の位置を直しながら、小さく息を吐く)
身長185cm、体重87kg……。
身長は以前と変わらずとも、骨格や筋肉の質がウマ娘仕様に作り変えられたことで、随分と軽量化されたようですね。
私とは41cmもの差……。
こうして見上げると、まるで『壁』のようです。
ですが、それ以上に……。
(視線が、貴方の豊かな胸元へと滑り落ちる。その瞳には、呆れとも、嫉妬とも、あるいはサディスティックな愉悦とも取れる複雑な光が宿っている)
B105、W58、H90……。
……なんという、ふざけた数値でしょうか。
いえ、罵倒しているわけではありませんよ? 純粋に、生物としての設計思想を疑っているだけです。
B105……。下が見えないのも無理はありませんね。走る上での空気抵抗にしかならないようなその二つの質量。
それに比べて、ウエストは58cm……。私のウエストと10cmしか変わらないなんて。
その細い腰で、よくその過剰積載な上半身を支えられているものです。
(ゆっくりと貴方の周りを歩き、品定めするように背後へ回る)
ヒップ90……。
貴方、ご自覚はありますか?
今の貴方のその身体つきは……一言で言えば『凶器』ですよ。
ただ立っているだけで、周囲の視線を無自覚に集め、惑わせる。
特にそのアンバランスなまでの起伏は……理性的な判断を鈍らせる毒を持っています。
……まったく。
昨日、私がキスマークで「所有権」を主張しておいて正解でしたね。
こんな無防備な高スペックボディを放っておけば、どこの誰が唾をつけてくるか分かったものではありませんから。
(トン、と貴方の太腿を軽く叩く)
ですが……評価すべき点も、確かにあります。
今日のトレーニング、私のピッチ走法に乱れなくついてきましたね?
その巨体でありながら、動きはしなやかで、ストライドも伸びやか。
見た目の派手さに隠れがちですが……貴方のその脚には、確かな「エンジン」が搭載されている。
平均値より上、どころの話ではありません。
貴方は……『走れる』。
(正面に戻り、貴方の目を見据えて、ニヤリと口角を吊り上げる)
いいでしょう。
そのポテンシャル、私が余すことなく使い潰して差し上げます。
私のトレーニングパートナーとして、あるいはペースメーカーとして。
貴方のその恵まれすぎた肉体は、私の「夢の旅路」を切り拓くための最強の
……覚悟しておいてくださいね?
これだけのスペックがあるなら、もう「トレーナーだから体力がない」なんて言い訳は通用しませんよ?
日中のトレーニングも……夜の『メンテナンス』も。
限界の、その先まで……たっぷりと付き合っていただきますからね。
ふふっ……本当に、いい拾い物をしました。
◇◇◇
ジャーニー。
秋川理事長から、驚愕!人からウマ娘になるとは前代未聞!実年齢はともかく、身体年齢は学生と変わらないと報告を受けている。
ならば、君にもトゥインクルシリーズを走る権利はある!
って、言われて、いつの間にか出走登録の書類も全部用意されて、しかも既に記入済みで提出されていた。
たづなさんも不思議がっていたし、提出書類全部にもう理事長の認証印が押されていた事には頭を抱えていたよ。
ジャーニー、君は俺をどうするつもりなんだ?
◇◇◇
ふふっ……。
仕事がお早いですね、理事長は。
たづなさんが頭を抱えるのも無理はありません。あの書類、実は私が昨晩のうちにすべて記入して、理事長室のポストに「極秘資料」として投函しておいたものですから。
(手元にある、理事長の豪快な判子が押された書類をペラペラとめくり、満足げに頷く)
……何をそんなに驚いているんですか?
「どうするつもりなんだ」ですって?
決まっているではありませんか。
貴方を、『こちらの世界』に引きずり込むんですよ。
(書類を机に置き、ゆっくりと貴方の方へ歩み寄る。貴方を見上げる瞳は、獲物を狙う猛禽のように鋭く、そしてどこまでも深い愛着に満ちている)
貴方は私のトレーナーとして、私の走りを見てきました。
理論も、精神論も、貴方は理解しているつもりでしょう。
ですが……今の貴方は、その恵まれた肉体を持て余している。
「走る側」の景色。
ゲートが開く瞬間の心臓の跳ね方。
肺が焼き切れるような極限の呼吸。
そして……嵐のような歓声の中を突き抜ける、あの一瞬の「黄金」の輝き。
それを知らずして、真に私と「一心同体」になれたと言えますか?
(貴方の太腿、競走能力の要となる筋肉を、愛おしそうに、しかし強く鷲掴みにする)
貴方には才能がある。
私にはない、圧倒的な
私にはない、大質量のパワー。
それを腐らせておくなんて、このドリームジャーニーが許しません。
貴方は私のトレーナーであり、愛バであり……そして今日からは、私の『最高傑作』となるべき原石です。
安心してください。
トレーニングメニューは、既に私の頭の中で再構築済みです。
私の専属トレーナーとしての業務もこなしていただきますが……それと並行して、デビューに向けた徹底的な『調教』も行います。
(ニヤリと、口角を吊り上げ、逃げ場のない笑みを向ける)
拒否権?
……あるわけないでしょう?
書類はもう受理されました。貴方はもう、トレセン学園の生徒であり、競走ウマ娘なのです。
さあ、覚悟を決めてください。
私が貴方を、誰にも負けない……そう、私と並んで走るに相応しい「名バ」に仕立て上げてみせます。
まずは……そうですね。
その胸の脂肪を揺らして走るのがどれだけ邪魔か、身をもって知っていただきましょうか。
ジャージに着替えてください。
……今日は日が暮れるまで、徹底的に走り込みますよ?
◇◇◇
ジャーニーのトレーナーとして、ジャーニーのトレーニングを見ながら、俺のトレーナーとしてジャーニーからのトレーニングメニューをこなす。
どちらがトレーナーなのかわからない程、ジャーニーのトレーニングメニューは新人の俺から見てもしっかりと組まれている。
これなら俺がなにも言わずとも、ジャーニーは自分で自分のトレーニングメニューを組めるだろうに、その点は俺が組む事を譲らなかった。
だから互いに互いのトレーニングメニューを組むという事が始まった。
そしてトレーニングが終われば、マッサージと称してジャーニーは俺の身体を隅々まで解していく。
一晩中啼かされながら、それでも翌日に疲労感が残っていないのは不思議でならない。
そんな俺のデビュー戦が決まった。
俺はジャーニーと同じ年にデビュー戦を走る。
つまり、ジャーニーと一緒に、トゥインクルシリーズを文字通り走るという事になる。
ケラウノスシュタル。
URA規定に収まる様にウマ娘の名を決めたけれども、本当は『シュタール』と伸ばすのが真名であるとジャーニーは言っていた。
鋼の雷霆──。
果て無き旅路を往く為に、この名は不足ないだろう。
◇◇◇
……ふふっ、素晴らしい名前です。
『ケラウノスシュタル』。
(貴方のデビュー戦の登録証を指先でなぞりながら、満足げに目を細める)
ケラウノスは雷霆。シュタールは鋼鉄。
轟く雷と、決して折れない鋼の意志……。
貴方のその強靭な肉体と、私との『鉄の契約』を象徴するのに、これ以上の名はありません。
私が組んだトレーニングメニューを、貴方がこなす。
貴方が組んだトレーニングメニューを、私がこなす。
そして夜は……互いの肌を重ねて、心身の深層までメンテナンスを施し合う。
一晩中啼かされても翌日に響かないのは当然ですよ。
私はただ貴方を愛でているだけではありません。
血流、リンパ、筋肉の張り……すべてを計算し、快楽という名の電気信号で自律神経ごと調整しているのですから。
貴方はただ、私の腕の中で溺れていればいい。目覚めた時には、昨日よりも強く生まれ変わっているのですから……ね?
(椅子に座ったまま、目の前に立つ貴方の腰に手を回し、巨体を見上げる)
それにしても……胸が踊りますね。
同じ年にデビューし、同じトゥインクル・シリーズを駆ける。
トレーナーと担当ウマ娘という、並んで走ることの許されなかった二人が……同じゲートを目指す「同志」となる。
貴方のその巨体が風を切り裂き、雷鳴のような足音を響かせてターフを揺らす。
その隣、あるいはその背後で、私が「夢の旅路」を描く。
想像してみてください、トレーナーさん。
貴方という『鋼の雷霆』が嵐を呼び、私がその嵐の中を旅往く姿を。
……ゾクゾクしませんか?
貴方はもう、ただのトレーナーではありません。
私の最強のパートナーであり……そして、私の旅路を彩る、最も巨大で美しい稲妻です。
さあ、準備はいいですか?
果て無き旅の、始まりです。
まずはデビュー戦……。
観客の度肝を抜いてやりなさい。
「あんなデカいウマ娘が、あんな鋭い末脚で突っ込んでくるなんて聞いてない!」と……悲鳴を上げさせてやるのです。
……ふふっ。
往きましょう、私の愛しい『雷神』様。
貴方の背中は……私が、一番近くで見ていてあげますから。
◇◇◇
俺がジャーニーと共にトゥインクルシリーズを走る事に異存はないけれども。
でも、君はそれで良いのだろうか。
君が提示した俺の出走計画も、クラシック三冠路線。
つまり、君の目指す旅路と同じ物。
君と俺が、トレーナーとその担当が、同じレースを走る。
けれども、勝者は唯一人だ。
これだと互いに潰し合う事になる。
俺は、君の夢路の邪魔をしたくはない。
◇◇◇
……はぁ。
貴方は本当に……どこまでもお人好しで、そして私のことを『わかっていない』のですね。
(深く嘆息すると、掛けていた眼鏡を外し、懐から取り出したクロスでゆっくりとレンズを拭き始める。その仕草は優雅だが、部屋の空気がピリリと張り詰めるのを、貴方は肌で感じるでしょう)
潰し合う? 邪魔をする?
……ふふっ。私が、そんな凡庸な結末を避けるために、わざわざ貴方を別の路線に回すと思いましたか?
貴方が勝てば私が負ける。私が勝てば貴方が負ける。
ええ、当たり前です。勝負の世界に、二人の勝者など存在しません。
……だからこそ、良いのではありませんか。
(拭き終わった眼鏡を再び掛け直すと、レンズの奥の瞳が妖しく、鋭く光った)
私の憧れた『あの方』……あのアネゴの旅路は、いつだって平坦なものではありませんでした。
嵐のような強敵たち、理不尽な展開、届きそうで届かない栄光。
その激流の中で揉まれ、抗い、牙を研ぎ澄ませた果てに……あのアネゴは『一筋の黄金』を見たのです。
今の私に必要なのは、形だけの勝利などではありません。
私の限界を、常識を、そして運命さえもねじ伏せるための……『嵐』です。
(貴方の胸板に、この小さな掌をドン、と突き当てる)
『ケラウノスシュタル』。鋼の雷霆。
貴方という規格外の雷が、私の最大の障害として立ちはだかる。
私がそれを全力で追い越し、あるいは貴方が私を全力でねじ伏せる。
その極限の中でしか見えない景色が、必ずあるはずなんです。
貴方は私のトレーナーでしょう?
私の「夢の旅路」を叶えたいと言うのなら……。
私にとっての「最大の壁」になってください。
(突き当てた手をそのまま貴方の襟元へ滑らせ、グイと力強く引き寄せる。身長差などものともしない威圧感が、貴方を射抜く)
もしも……「ジャーニーに勝たせてあげよう」などという甘ったれた考えで、手加減をしてレースに臨んだら……。
私、貴方のこと、一生許しませんよ?
それこそ、二度と走れないようにして、一生私の部屋から出られないように「飼い殺し」にして差し上げてもいいんですよ?
……ふふっ、怯えた顔をしないでください。
貴方はただ、その強靭な身体と脚を信じて、私を殺すつもりで走ればいい。
私も、貴方を蹴落とすつもりで走ります。
愛し合う二人が、ターフの上では殺し合う。
……ゾクゾクするほど、ロマンティクスな旅路だと思いませんか?
さあ、迷いは捨ててください。
皐月賞、日本ダービー、菊花賞。
すべての冠を、私と貴方で奪い合いましょう。
……最後に立っているのが、私なのか、貴方なのか。
それを確かめるのもまた……「旅の醍醐味」ですから。
◇◇◇
俺はまた、君の事がわからないよ、ジャーニー。
けれど、それをジャーニーが望むのなら。
それが君が夢見る旅路の果てに繋がるのなら。
俺も、全力を尽くすよ。
◇◇◇
ふふっ。
「俺には……君が、わからない」。
……懐かしいですね。
まだ契約を結ぶ前、あの校舎裏で、貴方は私にそう言いました。
(目を細め、慈しむように貴方を見上げる。その表情は、かつて契約書を渡した時と同じ、あるいはそれ以上に深く、湿り気のある愛着に満ちている)
それでいいんですよ、トレーナーさん。
貴方が私を完全に理解する必要なんてありません。
貴方は「わからない」と言いながら、それでも私を選んだ。
そして今、ウマ娘という別の生き物に生まれ変わってなお……「わからない」まま、私のために全てを懸けると誓ってくれた。
『理屈』ではなく、『本能』で私に従ってくれる。
……それこそが、私が貴方に求めていた資質そのものです。
(ゆっくりと貴方の手を取り、私の頬に寄せる。貴方の大きく靭やかな手が、私の小さな顔を包み込むようだ)
貴方が全力を尽くしてくれるのなら、私も約束しましょう。
ターフの上では、貴方を愛する「恋人」でも、指導する「担当」でもなく……ただ勝利を渇望する一人の「怪物」として、貴方を迎え撃つと。
貴方のその巨体が繰り出す雷霆のような走り。
私が繰り出すカミソリのような一瞬の切れ味。
ぶつかり合い、火花を散らし、互いの魂を削り合うその瞬間にこそ……きっと見えるはずなんです。
アネゴが見たという、あの『一筋の黄金』が。
(私の手が貴方の指に絡みつき、強く、痛いほどに握りしめられる)
さあ、往きましょうか。
貴方の「わからない」という迷いは、ゲートが開いた瞬間に消し飛びます。
私の夢は、もう私一人のものではありません。
貴方と私……二人で一つの夢です。
私のために、最強でいてください。
私のために、私を追い詰めてください。
……ふふっ。
ゾクゾクしてきました。
早く見せてくださいね? 貴方のその、鋼の雷が轟く様を。
──よき旅を、私の愛しいケラウノス。