艦これ掌編話集・彼らが見た景色   作:山本常緑樹

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艦娘になる動機には、どのようなものがあるでしょうか。

ある人は、艦娘の活躍に憧れて。
別の人は、昔艦娘に助けてもらったから自分も誰かを助けたいと思って。
またある人は、いろいろ公務員を受けたけどそこしか受からなかったから。
また別の人は、なんか艦娘は退職金がいいらしいから。

立派な理由から身も蓋もない理由まで、実に様々ですが、
中にはちょっと風変わりな理由の人もいたり。

―艦娘になる過程を、見てみたかったんです。
ただそれだけで、受けちゃいました。
もちろん面接のときにはそんなこと言いませんでしたけどね。


※pixiv同時投稿(初出:2019年2月/一部改稿)
※世界設定:艦娘=海上保安官的公務員(一般設定とは異なります)



【Ⅶ:世界の入口ふたたび】
入隊前日――ある艦娘志願者の場合


 艦娘にはどうやって「なる」――否、艦娘とはどうやって「作られる」のか。これは私のかねてからの疑問だった。

 

 艦娘の入隊試験は広く一般に開かれており、欠格条項を満たさない一定の年齢の女性であれば誰でも受験できる。当然身長体型顔立ち年齢など皆異なる訳である。しかし例えば「比叡」といえば快活で、「那珂」といえばなんとなく華やかな雰囲気を纏っているというのは誰が艦娘になっても概ね相場が決まっている。

 この現象について一般的には彼女たちの戦闘装備であるいわゆる「艤装」に影響されるのではないかという説明がなされているが、私はむしろ個々の隊員が「比叡」であるとか「那珂」であるとかを演じているだけなのではないかと思っていた。つまり、「金田一耕助」とか「水戸の黄門様」といえばどの役者が演じてもそれと認識できるような感じで、艦娘も単にそのようなものなのではないかと推測していたのだ。

 何故私がそう思うようになったか。それは以前見た艦娘部隊の密着取材テレビで、出撃から戻ってきた「軽巡龍田」が入れ替わりで出撃していく「海防艦択捉」に「艤装」の一部を手渡しているところを見てからだ。「艤装」の影響で「ある艦娘」たりうるのであるならば、艦種すら異なる別個の艦娘に艤装の「使い回し」ができるというのはとても不思議な話ではないだろうか。その後テレビは出撃した「択捉」隊の様子を追っていたが、何度見返しても潜水艦掃討作戦の間「択捉」の様子に変化が、踏み込んでいえば「龍田」の影響を受けていたようには感じることができなかった。

 ところでここ数年で増えた密着取材番組や基地公開行事などで「開かれた艦娘部隊」とのアピールは積極的に行われてはいるものの、艦娘になる過程における実際の教育の様子というのは以前謎に包まれていて、広報パンフレットを見ても入隊式の写真のほかは艦娘に「仕上がった」姿しか出てこないのは今でも変わらない。それならばと艦娘を退役した人たちに伝手をたどって質問してみたものの、訓練課程についてだけは皆多くを語ろうとしない。退役時の支給金が多めなのはそういうことに関する口止めを兼ねてのものかもしれないが。

 そんな折、艦娘の募集年齢が大幅に引き上げられ、私もギリギリで応募可能になった。「今年を逃せばもうその謎を解き明かせる機会はやってこない」と、そう思った私は即座に願書を取りに行き、翌々日には願書を募集事務所に郵送していた。

 

 もっともそれはかねてからの疑問を解き明かしたいという半ば衝動的な行動で、それで何ができるとか考えていたわけでもなかったのだが。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 ここまで書いたところで、わたしは「保存」のボタンを押した。ファイル名は……『艦娘とは何か(序)』。続きはまだ書けない。ともあれ、この続きは、「帰ってきてから」だ。パソコンの電源を落として、プラグまで抜いた。逃げ道を断つみたいに。

 果たして明日からどんな日々が待っているのか、全然見当もつかない。ただ、知りたいという気持ちだけがある。続きが書けない未来なのかもしれないし、ページを続ける気すら起きない結果かもしれない。見るべきではなかったと思うのか、見てよかったと思うのか――。今はそれはわからない。もしかしたら……

 

――ああ!考えるのはやめよう!やめよう!

 

 後ろに転がしてある大きめのスポーツバッグを開いてもう一度荷物のチェックをする。うん。必要なものは忘れてない。持参書類も大丈夫。明日の集合時間と場所もばっちり。……あ、何時に家を出ればいいんだろう?調べてなかった。

 電車の時間を調べようとパソコンに向かったけど、電源が入らない。

 

――あ。もう使わないと思ってプラグ抜いたんだった。




彼女が翌日以降いったい何を見て、何を体験することになるのかは、
ここでは語られません。
続きを書く価値を見いだせるような御大層なものじゃないかもしれませんし、
もしかしたらとても語る気が起きないような経験をするのかもしれません。

――もし帰ってきて何かを書くにしても、それはまた別の話。
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