艦これ掌編話集・彼らが見た景色   作:山本常緑樹

4 / 11
絶海の孤島にひっそりと置かれた艦娘基地。
今ではもう、深海棲艦の情勢が落ち着き、撤退が決まっている。

ほとんどの艦娘は既に引き上げ、残るのは数名と司令官だけ。
とある艦娘がふと見つけてきた一本の古いビデオテープ――
そこには「基地が来る前の島」の姿が映っていた。

産業も仕事もなく、ただ海と暮らしだけがあった島。
そして、基地ができて島がどう変わっていったのか。
いったいこの島は何を得て、何を失ったのか。

この掌編は、艦これの世界を舞台装置として借りた創作です。
司令官の目に映った範囲だけで切り取られた、
「ある島と艦娘基地の歴史」をめぐる物語。

……え、昔のこの島、こんなだったのかい?

※pixiv同時投稿(初出:2018年12月)
※世界設定:艦娘=海上保安官的公務員(一般設定とは異なります)


撤退の島 ―艦娘基地以前―

「しれぇ!これは何ですか?」

 

 司令室の棚の奥から出てきたほこりまみれの段ボール箱を持った艦娘が、私に訊ねてきた。蓋にはマジックで「この島とともに ―わが艦娘基地の映像記録―」と書かれており、開けると中に数本のビデオテープが収められていた。それぞれのテープには放送日と番組名が丁寧な手書きで書かれている。

 

「これはこの基地の昔の様子を取材したテレビ番組か? 昔のここの司令が残したものかな。確かどこかに昔のビデオデッキあったはずだけど動くかなあ……?」

 

「それは見てみたいですね! 昔の様子に興味があります!」

 

 元気よく答える艦娘に対して、見つかったら見ようと答えておいた。

 

 

――数日後。

 

 見つかったビデオデッキは無事動いたので、まだ残っていた数名の艦娘を呼んで、だだっ広い食堂のテレビで早速再生してみることにした。

 

「今日は一番古いのから見てみようか。ええと、再生はこれか」

 

 「続日本紀行 69.7.21(00.2.22アーカイブス再放送)」と書かれたビデオテープをデッキに差し込み、リモコンのボタンを押すと、しばらく間を置いて再生が始まった。

 

 

【微妙な不協和音を含む古風なBGMをバックに、島の空撮画像とともにはじまるナレーション】

 

 東シナ海に浮かぶ××島。本土の港へは週に一度の船がやってくるだけです。

 

 

【斜面に猫の額ほどの畑の画像】

 

 島は自給自足。狭い畑でサツマイモや野菜を栽培しています。

 

 

【裸電球が一斉に消える村落の様子】

 

 島の電気は自家発電。燃料が限られているため一日3時間のみ。そのため、時間が来ると電気は一斉に消えてしまいます。

 

 

――……え? 昔のこの島こんなだったのかい?

 

 おさげ髪の艦娘が思わずそう漏らす。私も声にこそ出さなかったが同じ感想を持った。

 

 そしてテレビの画面は淡々としたナレーションとともに別の映像に移る。

 

 

【凸凹の未舗装道路に手作業で砕石を敷き詰める島の住民の様子】

 

 島で現金を手に入れるほぼ唯一の手段は、県による道路の簡易舗装の作業に従事することのみ。しかしこれにより、毎日の水汲みや雨の日の船着き場と集落の行き来が格段に安全で楽になったと島民たちは言います。

 

 

【崩れそうな小さな校舎で、生徒を教える先生の様子】

 

 集落の上手にある学校です。この島唯一の教師である上沼先生はいいます。「一年生から六年生で7人、すべて私一人で授業を行っています。より良い教育環境を求めて小学校入学とともに一家で本土に移住する家族が後を絶ちません」

 

 

――50年前ってこんなんだったんですねしれぇ!

 

 最初にビデオテープを見つけてきた艦娘が無邪気に問いかけるが、私は無言で首を横に振るしかできなかった。

 

 少なくとも、本土の重化学工場都市育ちの私の知る「50年前の姿」ではない。道の舗装だって住宅地の中まであらかた済んでいた。それに――いくら50年前だからといって毎日の水汲みとはどこの国の話なのか。

 

 唖然としている私をよそに、場面はさらに転換する。

 

 

【集会所に集まってなにやら議論する島民たちの様子】

 

 このままでは本土へ集団移住するしかないとの声が出始めたとき、にわかに降ってわいた艦娘基地建設の話に住民は沸き返りました。

 

 艦娘基地の建設作業で現金収入が得られる。基地が完成すれば、そこでの雇用も生まれるのではないか。まだ学齢期の艦娘がいると聞けば学校の環境も充実するのではないか。

 

 何よりも、父祖伝来の島がこれで守れるのではないかと、島は期待に満ち溢れました。

 

 

【小学校の体育館で横断幕を書いている子供たち】

 

 いよいよ来週の定期船で、具体的な建設場所を決めるための調査団がこの島にやってくるとのことで、今島を挙げて歓迎への準備に追われています。

 

 大きな筆を手に取って「歓迎調査団御一行様」と横断幕に字を書いていた六年生の川畑君は、「中学校はこの島にはないので来年から下宿しなければならないのですが、艦娘基地ができれば中学校もできるかもしれないということなので、自分には間に合わないかもしれないけどとても嬉しいです」と語りました。

 

 

――それでだったんですのね。

 

 この島の基地に転任して来たとき、私一人のためにわざわざ学校で歓迎集会が開かれたので何事かと思いましたの。基地ができる前は貧しい島だったのですわね。

 

 茶色のブレザーに同系統の髪色の艦娘が、合点がいったというように頷く。

 

 

【再び島の空撮画像】

 

 離島部への艦娘基地拡充案についての国会での議論は続いていますが、候補地として挙げられた場所ではこのような喜びの声に満ち溢れています。

 

 

【微妙に不協和音を含む現代音楽風のBGMがひときわ大きくなる。中央に「終」と「協力:○○県離島振興協会」の文字が現れる】

 

 

「そうか。僕たちがこの島を出るということは。またここは――」

 

 そう呟きかけたおさげ髪の艦娘を遮って、私は言を引き取る。

 

「いや、その先は言うな。お前たちが気にすることはないし、その責任はない。ただ、そう決まっただけのことだ。

 

 今日は解散だ。明朝0730、またここに掃除道具を持って集合のこと」

 

 

 私はただそれだけ言うと席を立って自室に戻った。背後からデッキのビデオテープを別のものに入れ替える音と、押し殺した艦娘たちの話し声が聞こえてきたが、それには構わずに。

 




この掌編の舞台は、深海棲艦の脅威が落ち着き、
役割を終えて撤退が決まった絶海の孤島の艦娘基地です。

もうすぐ誰もいなくなる基地で、
司令官が見つけた一本の古いビデオテープ。
そこに映っていたのは――
基地が来る前の、貧しく静かな島の姿でした。

艦娘が来て、島に仕事が生まれ、
人の往来が増え、生活が変わっていった。
しかしその基地も、今は去ろうとしている。

艦娘たちのいなくなった島は、これからどうなるのか。
本編では語られませんが、
最後の撤収作業を終えた彼女たちの胸中には
さまざまな思いがあったのではないでしょうか。

次の掌編では、また別の場所で、
別の艦娘たちの姿が見えてきます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。