艦これ掌編話集・彼らが見た景色   作:山本常緑樹

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この掌編は、のちの作品群の「原型(プロトタイプ)」となった
Twitter連投小ネタ(2015年)の再構成版です。

当時はまだ世界観が固まっておらず、
現在の掌編と比べると

・艦娘がやや「遠い存在」

・組織は軍事・機密色が強い

・一般人からは手の届かない存在

として描かれています。

後の作品で確立されていく
「艦娘=警察官・消防隊員のような身近さ」
に至る前の段階の名残として、
世界観の揺れも含めてお楽しみください。



【Ⅲ:港湾地帯と本土の仕事】
有蓋車の中の秘密 ―鎮守府専用鉄道―


「あの貨物の先頭、時々冷房付きの有蓋車がついてるよな。何運んでんだ?生鮮品ならコンテナだろ……?」

 

下校途中、踏切で遮断機が下りた。

滅多に列車が通らない貨物専用線だけど、僕ら鉄道好きにとっては「当たりタイム」だ。

 

ゆっくり通り過ぎていく短い貨物列車を見ながら傍らの友人に声をかける。

いつもはコンテナ車か石油を運ぶタンク車だけなんだけど、今日は一両、小さい箱型の屋根付き貨車――有蓋車がついてくる。

 

「あー、あれかぁ」

隣で最後尾のタンク車を目で追っていた友人が言う。

「なんか、埠頭の向こうから望遠で撮ってたやつが言ってたんだけどさ、その写真に『女の子が降りてくるのが写ってた』とか聞いたことあるぜ」

 

 

「へ?女の子?人が乗ってんの?」

 

思わず声が裏返った。

 

すると、もう一人の連れも

 

「そういやさ、兄貴から聞いたことあるんだよ。前に有蓋車からぐったりとした女の子が運び出されてきたってさ」

 

「……はい?」

 

貨車からぐったりした女の子――

そりゃ、もう「事件」じゃないのか。

 

「それもな、何も書いてない旧式の救急車に乗せられて……、港のほうに行ったんだと」

 

さらに追い打ちがきた。

 

「おいおい……。港に病院ってないよな?どこに連れてかれたんだよ?」

 

友人は怪談を聞いたみたいな顔になっている。

きっとこっちも似たような顔になってる。

 

「でもさ、あれ、『艦娘基地の専用鉄道』って話だよな?」

連れが言う。

「ってことは、ぐったりして運び出されたのは艦娘か?」

 

たしかに、艦娘基地は謎の塊だ。近くにあるけど、中身が全然わからない。

だから、港のほうに何があっても不思議じゃないんだけど。

 

「まあ、基地の専用医務室……とか、だよ……な?」

 

その子の無事を願って、そんな希望的観測を口にするのがやっとだったんだけど、ふたりともこわばった顔をしている。

 

……やめてくれよ。何か言ってくれよ。

 

 

―――――――――

ここまでは基地の外側の「噂」。

今度は艦娘たちの「現実」です。

同じものでも、見る角度によって全然見え方が違う。

そんな鎮守府専用鉄道の話を続けましょう。

 

――先ほどの「噂話」より少し遡ります。「港のほう」にある艦娘基地のお話。

―――――――――

 

 

「おーい。例の件の陳情、上げといてくれたかー?……って、この部屋、今日もやたら冷えてんなー。天国みてぇだぜ」

 

事務室の扉を開けるなり、奥でパソコンに向かっていた青い制服の艦娘に声をかけた。

肌の露出が多めで、見ているだけで寒そうだ。でも、なぜか上着を羽織ってるのを見たことがない。

 

「あ、お帰りなさい。ちょうど送信するところなので、確認お願いします」

 

声をかけられた艦娘がメガネを押し上げ、こちらへ振り返った。

 

「……たくよぉ、毎度毎度移動が地獄だぜ。揺れるし窓もねぇし冷房もねぇ。人間の乗り物じゃねぇぞ」

 

ペットボトルの水を一気に飲み干し、隣の椅子にドカッと腰を掛けた。

画面には投稿フォームと文面。

 

――――――

 

艦娘輸送担当者様へ

 

艦娘の移動には、内装を改造した専用の有蓋貨車(箱形の屋根付き貨車)が用いられていますが、

窓がないため猛暑により熱中症で搬送される事故が相次いでいます。

 

機密保持のため、一般の客車でなく貨車を用いる必要があることは理解しておりますが、

せめて専用貨車に冷房装置を設置していただけませんでしょうか。

 

庶務担当

 

――――――

 

「おい……。腰が痛ぇって件が抜けてんだろが。あの揺れなんとかしてくれって書いてねぇぞ。……って、水貰っていいか?」

 

自分のペットボトルだけではとても足りたもんではない。メガネの艦娘のマグカップにまで手を伸ばす。

 

「ちょっと!給水機、すぐ後ろにあるんですよ!紙コップ置け置けって散々うるさかったのに、今度は人の水まで取るんですか」

 

「わりぃ。そこまであるくのも遠いくらい喉渇いてんだ。……勘弁してくれ。

でな、言い分はわかるんだけど――いくら余ってたからってワム8に内装はっつけただけなのは、人が乗るものとしてはどうかと思うぜ」

 

空になったマグカップを戻すと、ぼやきながら給水機に向かって歩く。

 

――ワム8ってのは昔の国鉄で山ほど作られた箱形の小さい貨車だ。

人が乗ることなんてもちろん考えてねぇ。とにかく揺れる。窓も当然ねぇ。

真夏に乗りゃ、熱中症にもなるわな。

くそ暑い、揺れも酷いとなるとつい換気したくなるじゃねぇか。

でもよ、横っ腹の引き戸開けたらえらい怒られるんだぜ。

機密保持上問題だ、ってな。

 

 

給水機の水を三杯くらい立て続けに飲み干したとこで、

 

「……はぁ。書き直しですね」

 

後ろからそんな声が聞こえてきた。

 




この掌編は、今のシリーズの「もっと前」――
まだ艦娘たちとの距離感も、語りの形も、ほとんど固まっていなかった頃の
ツイッター小ネタ、いわば作品ナンバー0たちを拾い上げて再構成したものです。

当時の私は、艦娘という存在を
「噂の向こう側にいる、よくわからない人たち」
くらいに捉えていて、
今の作品群のように「身近な公務員」としては描けていませんでした。

だからこの作品だけ、少し硬かったり、
軍隊色や機密色が強かったり、
どこか遠くに感じられると思います。

でも、その「揺れ」こそが、
後の掌編世界が育っていく最初の段階だったりします。

前半は外側の噂話、
後半は内側の現実。
たったそれだけの角度の違いで、
同じものが別物みたいに見えてしまう――
語りの面白さに最初に触れたのが、この原型でした。

いま登場してくる艦娘たちは、
もっと近くなったり、
港の人と立ち話したり、
バスに乗ったり、
たまに謎の暴走をしたりしますが、

この、作品0番の世界はその手前にある、
ちょっと遠くて、ちょっと謎めいた景色です。

掌編世界の「ビッグバン前」として、
どうぞ楽しんでいただけたら嬉しいです。
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