艦これ掌編話集・彼らが見た景色   作:山本常緑樹

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採用パンフレットによくある「先輩の声」。
働く人のリアルが見える貴重な材料ではあるけれど、
美辞麗句ばかりだと途端に胡散臭くなる──読者もそう感じる。

艦娘募集でもそれは同じ。
「平和を守りたい」だけではなく、
つまづき・迷い・配属ミスマッチ・挫折──
そういう泥の部分まで語ってくれたほうが、きっと未来の後輩の背中を押す。

そこで広報担当が向かったのは、
「成功談より失敗談のほうが多い」と噂の内勤艦娘。

彼女の語る現場のリアルは、
もしかしたら採用パンフレットに載せちゃいけない種類の「本当」かもしれない。

――でも、それこそが一番参考になるのだ。

※pixiv同時投稿(初出:2018年11月)
※世界設定:艦娘=海上保安官的公務員(一般的な艦これ設定とは異なります)



艦娘部隊に入ろう

―――では、インタビューはじめますね。えと、艦娘の志望動機はどういった感じで?

 家でごろごろしているだけなのも気が引けるので、何か食っていけそうな職はないかと役所のラックから手当たり次第に募集要項を取っていったんです。で、私の年齢ではたいてい一年更新の嘱託員しか受けられなくてどうしたもんかなと思っていたんですが、最後に手に取った「特別艦艇技士(編集部注:艦娘の正式名称)」のパンフレットに「応募資格が33歳までに延長!!」と書かれてたのが目に入ったのでダメもとで受けてみたんです。

 

―――じゃあ、採用試験のときに印象に残ったことなどは何かありますか?

 そうですね。面接で年齢と職歴のこと聞かれたときは焦りましたが、そこはほら適当にごまか……。いえ、あのー、正当な理由っぽいものをでっちあ……、ああだめだ、実は頭の中空っぽになってわりと正直にぶらぶらしてたみたいなことを言ったような気がするんですが、よく覚えていません。

 当然ダメだと思ったので合否の通知は郵便受けに入れたままで、溜まったダイレクトメールと一緒に次のゴミ出し日の時にそのまま捨てようと思ってたんですよ。

 

―――そ、そうなんですかぁ。でも、結局ちゃんと開けたんですよね?

 ええ。いざ捨てようと思ったというか、いったんはごみ袋に投げ込みました。でも、あまりに分厚くて大きい封筒だったので、これはもしかしたらもしかするんじゃないかと思って開けてみたらまさかの合格通知だったんですよ。

 

―――よかったですねぇ。すんでのところで見つけて。それはびっくりしたでしょ?

 いや、驚いたというか、正直私みたいなのを通すようなところに行っていいのかしばらく悩みましたよ。適当に十把一絡げでとりあえず採用してて、しごかれた挙句に捨てられるんじゃないかとか。私体動かすのあんまり得意じゃないですし。

 

―――体動かすの苦手なのに艦娘になろうと?

 はい。私なりに焦ってましたので。とにかく受けられるものは全部受けてみようと。

 まあでもせっかく受かったのでダメだったら駄目だったで話のタネになるしと思って行ってみたんですよ。案の定私みたいにごろごろしてた人間にとっては訓練はそれはそれは大変で二度ほど逃げ出しましたけど、その都度教官や仲間に囲まれ……、いえ、優しく説得されてなんとか修了しました。

 

―――わかりました。いろいろ大変だったんですね……。で、今は艦娘部隊でどのようなお仕事をしているのですか?

 まあ、身体を動かす方はやっぱりてんでだめでしたし、海酔いも酷かったので実戦部隊勤務は2か月で外されてしばらくいろんな部隊をたらいまわし……、いえ、何か所か転任したのですが、今は地方本部の事務局で艦娘たちの出撃状況の整理と功績記録簿の記入の仕事をしてます。私自身意外だったんですけど事務関係には結構向いてたみたいで、今度昇任の推薦を受けられるまでになりました。

 

―――それはよかったですね。おめでとうございます。それでは最後に艦娘志願の方に一言お願いします!

 ええと、私みたいなのでもどこかに引っかかる……、もとい、ちゃんと適性を生かせる職場があるのが艦娘です。

 ほんと、34歳未満の女性なら誰でも資格があるのでダメもとだと思って受けてみてください。

 

――本日はありがとうございました。

 

 後日、とある地方本部の広報室にて

 

「ただ今戻りましたぁー!」

「おーい。昨日送ってきた『先輩の声』の原稿だけどさ、テープそのまま起こすやつがあるかよ」

 後ろで髪を大きくまとめたセーラー服姿の艦娘を事務官の制服を着た男が呼びつける。

「やっぱりだめですかぁー編集長。志望者不足の折ですし、志願するかどうか迷ってる人の後押しになるかなーって思いましたし、なんといっても下手にいじらないほうが面白いなって思ったんですよ」

「確かにな、正直面白くはあった。でも、こりゃいくらなんでも明け透けすぎる」

「よくこの面白さに気づきましたねぇ―。ならもうちょっと表現をオブラートに包みますかぁ?」

「いやあ、これはそれ以前の問題だ。それにしてもよくこんなの見つけてきたなあ」

「そこは取材力!ってやつですよぉー」

「いや、いるんだなあこんな艦娘というか、募集パンフレット向けと知っててこんなの喋る馬鹿がよ……」

 笑いを堪えているようにも、苦虫を噛み潰しているようにもどちらにも取れる顔で、相手に話すというわけでもなく呟く。

「そんで、募集パンフ向けにこんなのをテープ起こししてわざわざ仕上げてくるお前さんも大概だと思うがな」

「きょーしゅくです!」

「ほめてねぇよ。とにかくこれは没」

「えー、面白いと思ったんですけどぉー」

「しゃーねーなー。まあ確かに単に没にするのも惜しいしな。なんか別の部内報にでも回せるかどうか検討してみるわ。でもな、パンフ向けの原稿は別のを用意しろ」

「きょーしゅくです!では、別の基地に取材のアポ取り直してきまーす!」

 

 大げさに敬礼して自席に戻る艦娘の姿を見送りながら、首を力なく横に振りぼそりとこぼす。

「艦娘がこんなんばっかりって知ってたら、俺事務官受けなかったかもなー……」




本編で語られた声は、採用パンフレットに載せるには
少し生々しすぎたかもしれません。
後輩たちに誇れる武勇伝でも、サクセスストーリーでもない。
それでも確かに、艦娘として海に立つことを選んだ誰かの歩んだ道でした。

彼女の道のりは「挫折」ではあったかもしれません。
ですが、失敗や逃避や迷いを経ても
――日々はそれでも続いていきます。

もし広報用の文章として整えたなら、
言い淀みは削られ、ぶっちゃけ話は当たり障りのない表現に変えられ、
採用パンフレットとしてふさわしいものにはなったかもしれません。

でも、言い淀む声や、少し投げやりな話し方のほうが、
紙面には載らなかった「本当」の姿でした。

これから艦娘を目指す誰かにとっては、
華やかな言葉よりもあの揺らぎのほうが届くのかもしれない。
採用パンフレットには載らなくても、誰かの背中を押す話にはなるかもしれない。

――どこかの部内報でこのインタビューを目にした現役艦娘が
  ふっと笑ってしまうような。

それだけでも、「募集パンフ向けと知っていて
明け透けすぎるくらいに自分の欠点を語る彼女」や
「それをわざわざテープ起こししてくる広報艦娘」の
仕事は無駄じゃなかったといえるでしょう。

さて、次の艦娘のお仕事は、
いったい誰にどんな影響を及ぼすのでしょうか?
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