艦これ掌編話集・彼らが見た景色   作:山本常緑樹

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僕の基地はコンテナがずらっと並んでる。

窓やドアが取り付けられて、岸壁にしっかり固定された
コンテナの群れは、もう海には戻らない。

コンテナが船の上じゃなくて岸壁に据え付けられたのは誰のせい?
海が戻らないないのは誰のせい?

――そんなことを考えてるのは、僕だけなのかな?


※pixiv同時投稿(初出:2020年2月/一部改稿)
※世界設定:艦娘=海上保安官的公務員(一般設定とは異なります)



【Ⅴ:コンテナ基地とその周辺(周縁の基地生活)】
コンテナ艦娘基地でつらつらと


 僕が赴任した小さな艦娘基地はまだできたばかりだ。深海棲艦の増加によって各地に急造された基地の例にもれず、事務棟も宿舎も会議室もみんな行き場のなくなったコンテナが改造されてずらっと並んでる。

 僕は時々考える。ここのコンテナは海が閉ざされる前はどこを巡ってたのだろうかと。

 

 前にそんなことを同僚に話してみたら、

「んー。よくそういうの思いつくよなあ。あたいそんなこと考えたこともねぇや!」

と返ってきた。これは聞く相手を間違えたと今度は工廠に出入りしてる同僚に話したら、コンテナに近づいて細かいところをじっと見て回りながら、

「ここのはどれも新しいから、そもそも海に出ないままだったんじゃないかしら?」

とか真顔で答えられた。だからもう誰にも話さないことにした。

 

 コンテナが再び船に乗って海を巡る日は来るのだろうかと思うことはある。でも、止まない雨はないって言葉もあるし、きっと深海棲艦の勢いが止まる日は来るのかな。いや、僕は雨を止ませなくちゃいけない立場なんだろうけど。

 

 今日みたいに深海棲艦の出ない日の当直は、すっかり船の行き交わなくなった真っ暗な海峡を双眼鏡で見つめながらこんなどうでもいいことばかり考えてしまう。双眼鏡の中は両岸の灯りを分かつみたいに、黒い帯のような海面が走っている。時折何かを反射して鈍く光る海面に目を凝らす。鈍く光るその一瞬の揺れだけが、「まだ何かいるのかもしれない」という気配を強めてくる。

 

 だから正直言って、「何もない」って言い切る自信はまだない。でも、隣で同じように双眼鏡で海を眺めている当直の相方が何も言わないから多分本当に何もないんだと思う。いっそ何か出てくれれば少しでも深海棲艦が減らせるというものだけど。

 

 と、その相方が大きく欠伸をしながらこんなことを言ってくる。

「今日みたいに何も出ねえ日がずーっと続いてくれると楽なんだけどなあ。そういうわけにもいかねえんだろうけどさ」

 

 僕は双眼鏡から目を離さずに、

「同じものを見てても随分考え方が違ってくるから面白いもんだね」

ってそれだけ答えた。そしたら、

「へへへなんだよそりゃ」

と、また欠伸をしながら返してきたから、僕は眠いなら先に仮眠をとるといいよと言っておいた。その言葉を待っていたみたいに相方は立ち上がると、

「そいつはありがてぇな」

とだけ言うと、さっさと間仕切りの向こうの仮眠スペースに消えていった。すぐに高いびきが聞こえてきたけど、もう慣れたので気にならない。あとは心おきなく一人で考え事に耽ることにした。

 

 相方が戻ってきたら、僕も仮眠をとろう。どうせベッドでもまたそんなことを考え続けてて、ろくに眠れないんだろうけど。

 

 




船も通わない夜の海をずっと眺めていると、ふと吸い込まれそうになる――

そんな情景を思い浮かべながら書いたような記憶があります。
語り手の艦娘は今日も鈍く光る海を眺めているのでしょうか。
今日もまた、何も起きなかった。
多分それ自体がもう異常なんだけど、
誰もそれをおかしいとは思わなくなっている。


次のお話は賑やかで、明るい場所。
一見すると、一番安全そうな海でのお話です。
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