Ver4.4まで後わずか...覚悟を決めて臨みたいですね
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後書きにこれからの投稿についてのお知らせが書いてあります
よければ確認していただけると幸いです
サフェルが《詭術》の火種を継いでから暫くの時間が経った。
その間にも火種の回収という功績によって少しは火を追う旅に賛同する者も増えている。
このまま少しずつ地道に進めていけば、全盛期のようには行かずとも火追いの旅は進める筈だ。
しかし、今抱えている問題はまた別にある。
「なぁライア、サフェルが何処に行ったか知らないか?」
「セファリアですか?
私は見ていませんが...あの子に何か用でも?」
「軽く説教をな。
サフェルのやつ、権能を手に入れてから悪戯の頻度が上がってんだよ」
ここ最近、悩んでいたのはサフェルが悪戯を仕掛けることが多くなった事だ。
大小様々な悪戯を十回以上は引っかけられている。
今以上に被害を出さないためにも、一度ちゃんと話し合う必要があった。
「まぁ悪戯自体は何故か俺だけにしかしてこないし、分別は付いてるんだろうけどな」
「しかし半神としての権能は無暗に使うものではありません。
彼女を叱責する際は、私も同行しましょう」
「あー....それは最終手段って事で頼むわ。
最初は俺だけで話してみるから、ライアの出番はその後でな」
ライアの提案を苦笑しつつ断わっておく。
彼女の説教は酷く効く、それは俺も身をもって知っていた。
金糸で内心を探りながら正論で叩き潰してくる。
サフェルにそれを体験させるのは最終手段にしておきたかったのだ。
「まぁ兎に角、サフェルが見つかったら教えてくれ。
俺はこれからちょっと行く場所があるから」
「行く場所ですか?
今日は何の用事も無かった筈では?」
「その筈だったんだけどな。
急に元老院から呼び出し食らったんだよ。
なんでも近頃オクヘイマの衛兵たちの質がどうのこうのってな」
「なるほど、師範の教官としての立場を問うつもりですか。
あの卑怯な者たちらしい姑息な手ですね。
師範、くれぐれも気を付けてください」
「応、じゃ行ってくる」
そう言って屋敷を出て、黎明の崖へ向かう。
その道中で遠くに見えるケファレの神体へ目を向けた。
黎明の崖は神体の真下にあり、オクヘイマの政治と信仰の中心地として重要な役割を担っている。
だからこそ入るには手続きが必要なのだが────
「.....遅い」
手続きをしてから小一時間、俺は待ちぼうけを食らっていた。
このままでは指定された時間に間に合わない可能性も出てくるだろう。
焦りを覚えながら腕を組んでいると、突如として身体に強烈な怖気が走る。
一体何事かと思い辺りに視線を走らせると、俺に近づく一人のアンティキシラ人が目に入った。
「お久しぶりですね、ポネウス殿。
本日は黎明の崖までどのような御用でしょうか」
「...元老院に呼ばれてな。
そっちこそわざわざ俺に何の用だ、ライコス」
「偶々お見かけしたので声をかけただけですよ。
お気に障ったのなら申し訳ございません」
「.....いや、別に不機嫌だとかそんな事はねぇよ。
悪いな、余計な気使わせちまって」
声をかけてきたライコスは、黄金戦争時の際に数を減らしたアンティキシラ人だ。
オクヘイマでは元老院の席に座りながらも火を追う旅に反対せず、常に中立を保っている。
俺たちにとって毒にも薬にもならない人物────その、筈だ。
物腰柔らかく誰に対しても丁寧な好人物、俺もその意見に否は無い。
ただ、彼が近くに来ると何故か本能が警鐘を鳴らすのだ。
(アンティキシラ人が苦手、とか別にそんな事はないはずなんだけどなぁ。
本人に問題があるわけでもないし、一体何なんだか。
────まさか、もしかして何か企んでる?)
怖気の理由を考えてみても思いつくものはない。
しかし彼と会うたびに毎回怖気が走る以上、何かしら原因はあるはずだ。
ならば俺の知らない所で陰謀でも企てているのかと考えるが────
(いや、ねぇな。
もしそうならライアが気づくだろうし)
ライアの金糸を理由に頭に浮かんだ考えを切り捨て、結局答えが出ずに頭を悩ませる。
すると、黙り込んで考え事をしている俺の様子が気になったのかライコスが再び口を開いた。
「なにかお困り事ですか?
もしよければお話を伺いますよ」
「...えっ!?あー困り事ね、えっと......そうだ!
いや黎明の崖に行く手続きはしたんだけど中々許可が下りなくてな。
こうして待ってるわけだけどいつになったら許可が出るのかなーって思ってさ」
突然降られた話の内容に動揺をまったく隠せずに答えてしまった。
だが咄嗟に許可が下りない話を言えたのは我ながらよくやったと思う。
なにせ「あなたに会うと怖気が走るのでその原因を考えていました」なんて馬鹿正直に言えるわけがない。
そんな動揺丸出しの答えを聞いたライコスは特に何も言うことなく何かを考えるように腕を組んでいる。
隠しきれなかったかと額に冷や汗を浮かばせていると、考えが纏まったのかライコスが組んでいた腕を解いた。
「これは提案なのですが、もしよければ私の権限で黎明の崖までお連れしましょうか?
勿論、ささやかな対価は頂きますが」
「え...それっていいのか?
対価云々も気にはなるけど、いくら元老院でも許可も出さずに黎明の崖に連れてくのは流石に...」
「いえ問題はありません。
ポネウス殿はご存知ではないでしょうが、そもそも手続き自体そう時間がかかるものではないのですよ。
それもトリビー殿の従者としての立場が明確な以上、引き留める理由にはなりません」
「そうだったのか....。
なら、何でこんなに待たされてるんだ?」
「恐らく、ポネウス殿がクレムノス人だからでしょうね。
手続きを進める者たちも、通していいのか悩んでいるのでしょう」
「あーそういうことか。
こんな当たり前のこと忘れちまってたな」
ライコスの説明を聞いて合点がいった。
確かに黎明の崖という重要な場所によそ者を簡単に通す通りは無い。
そんな当たり前のことをすっかり忘れてしまっていた。
「おや、お怒りになられないのですか?
少なくとも不当な扱いを受けたのは間違いないのですよ?」
「俺を通さない理由は納得出来るからな。
クレムノス出身ってのもそうだけど、殺戮者の名前は切っても切り離せないものだし。
この扱いは俺の業の結果、誰かに文句を言う気はねぇよ」
「成程、貴方はそのような解を出すのですね」
俺の答えを聞いて興味深そうな反応を見せるライコス。
今の返答の何処にそんな反応になる要素があったのかは分からないが、こちらも一々聞く気はない。
それよりも俺は先ほどライコスが持ち掛けてきた取引の内容が気になっていた。
「俺の話は一旦置いといてくれ。
今はアンタが言った対価が何なのかを教えてくれないか」
「フフ、そう警戒せずとも大したことではありませんよ。
単に黎明の崖に着くまでの間、私の話し相手になってもらいたい...それだけです」
ライコスの発言を聞いて思わず胡乱気な目を向ける。
その言葉の裏には何か含んでいる気もするが、そうでもないかもしれない。
今ひとつ判別がつかない中、俺は一か八かでその誘いに乗ることにした。
「────分かった。
話し相手になれ、だよな」
「えぇ、それ以外に求める気はありません。
では対価を了承していただけたようですし、早速向かうとしましょうか」
ライコスの先導の元、黎明の崖へ向かって歩き始める。
その道を進むたびにケファレが放つ神気がより強く、濃くなっていく。
知らず知らずのうちに息を飲んでいると、ライコスから声をかけられた。
「そういえば近頃、《詭術》の火種を回収したとお聞きしました。
見事な戦果に元老院でも大変議論が盛り上がったのですよ」
「盛り上がるのは別にいいけど、その議論の中身が俺は気になるね。
大方、火を追う旅を止めさせるようにって話なんだろうけど」
「それは否定しません。
全員ではありませんがそう言った事を主張する者は少なからず存在します。
火追いの神託を信じていない者が未だに多くいるからでしょうね」
どうやら《詭術》の火種を手に入れた件は元老院でも話題になったらしい。
しかしその反応は予想通り、余り俺たちにとって都合の悪いものだ。
これから先も陰湿な嫌がらせじみた妨害が続くと思うと気が重くなる。
「はぁ...もう邪魔するのは構わないから正面から来てくれないもんかね。
一々妨害を疑わなきゃいけないの心底面倒なんだけど....アンタの方からも言ってくれないか」
「生憎ですが、私は『神礼の観衆』の名において中立を保つ立場。
その要望には応えられません」
「そうかい、まぁ別にいいけどさ。
俺も本気で言ったわけじゃないし」
適当に言った言葉に思っていた以上にしっかりした答えを返された。
それに苦笑しつつ冗談であったとライコスに伝える。
しかしそれを聞いても尚彼の様子は変わらず、寧ろより重い空気を漂わせながら話を切り出した。
「神を殺して火種を奪い、それを返還し新世界を作り出す....聞くだけでそれがどれだけ難しい難行かが分かるというものです。
────ですが、こうも考えたことはありませんか?
火を追う旅を続けたとしても、その先にあるのは思い描いたような世界ではないと」
「....何が言いたい」
「火を追う旅の結果が良いものであるという明確な証拠はありません。
もしも皆様の戦いが最後にただの徒労に終わってしまうのなら、その戦いを続ける意味はあるのでしょうか」
「.......」
「余り大きな声では話せませんが、私としては火を追う旅を続けてほしいと思っているのですよ。
ですので今の話は、一種の思考実験だと考えてください」
「思考実験、ね」
ライコスが発した問いは火を追う旅の根幹を揺るがすものだった。
オンパロス全土に広がる暗黒の潮を消し去り、かつての黄金期のような世界を取り戻す。
各々戦う理由は違えど、最終的な目標はそれである事に間違いはない。
だが、もしもライコスの言う通り火を追う旅の結末が悪いものだったとしたら────
「...大して悩む理由はないな」
「ほう?
では、ポネウス殿の答えを聞かせてもらいましょう」
「俺の答えは『徒労だったとしても進む』だ」
「ふむ....何故そうなったのかお聞きしても?」
「だってアンタが言った『もしかしたら悪い結果かもしれない』ってのも別に証拠とかはないだろ?
良い結果になるのか、悪い結果になるのか...どっちにしろ分からないなら立ち止まる理由にはならねぇよ。
それに────」
「それに...なんでしょうか」
「良い悪い関係なく、結果だけが重要ってわけじゃない。
仲間と積み重ねたもの、時間、絆...全部無駄にはならねぇよ」
「それら全てが、徒労だったとしても?」
「応、絶対に無駄になんてならない。
っていうか無駄になんてしてやるもんかよ。
今までも散々犠牲を払ってきたし、これからも払うことになる...それなら最後は良い結果にならなきゃ嘘ってもんだろ」
今の答えは自分でも分かるほどに感情が多く混ざっていた。
思考実験と言われた手前、もしかしたら今の答えでは不十分かもしれない。
だが、俺はライコスに向かって真っ直ぐに言いのける。
何故なら俺は、今の答えを微塵も間違っているとは思っていないからだ。
そうして答えをぶつけられたライコスは少しの間、考え込む様子を見せる。
そして納得したように頷くと再び俺に向き直った。
「成程、あくまで信念をもって突き進むと。
貴重な意見、参考にさせていただきます」
「自分で言うのもなんだけど、今の答えでいいのか?
割と感情に寄ってたと思うんだけど」
「えぇ、勿論構いませんよ。
そもそも戦いを続ける意味があるかどうかを問う思考実験でしたから、感情論が混ざるのは自然な結果です。
それに貴方の『無駄にはしない』という貪欲な発言、私としても愉快なモノでしたから」
「...そうか。
ま、なら良いんだけどさ」
それ以降は他愛のない話を続けながら、黎明の崖へと続く道を歩く。
その最中にも何故ライコスがあんな問答を仕掛けてきたのかを考えるが、やはり納得のいく答えは出ない。
心に言葉に出来ないしこりを残しつつ、俺たちは黎明の崖に脚を踏み入れた。
「では私はここで失礼します。
ポネウス殿、黎明の崖ではくれぐれも自らの行いに細心の注意を払うようにしてください。
ここで稚拙な振る舞いをしてしまえば火を追う旅を反対する者たちに明確な弱点を晒すことになってしまいますから」
「言われなくても分かってるよ、ライアにも釘を刺されてるし。
兎に角、ここまで連れてきてくれて助かったよ」
「いえ、私も短い時間でしたが楽しい時間を過ごせました。
それではポネウス殿、またいずれ」
「....応。
──────ライコス!」
そう言ってライコスは去っていく。
彼の足取りに迷いはなく、すぐに姿も見えなくなるだろう。
その事実に気付いた瞬間、俺は反射的にライコスを呼び止めていた。
そして呼び止められたライコスは、怪訝な様子のままこちらを向く。
「どうかしましたか、ポネウス殿。
何かまだ済んでいない用件でも?」
「あぁ、アンタに言っておくことを思い出してな」
「言っておくこと、ですか」
「....アンタがさっき言った、火を追う旅の続行に賛成しているって話。
その言葉に嘘や誤魔化しは感じなかった。
────なのに、俺の直感はアンタを信じるべきじゃないって訴えてる」
「........」
「アンタを怪しいと思うのは俺の直感だけ、それだけの理由でアンタを手にかける気は無い。
でも、もしもトリビーたちを傷付けるような真似をしたら──その時は俺がアンタを仕留めてやる」
明確な殺意を含めてライコスに言い放つ。
俺自身の首を絞めるような発言だったが、言われた当人はただ静かに佇んでいた。
そしてライコスから小さく息が漏れた音が鳴ると、彼は丁寧な動作で礼をする。
「その言葉、覚えてきましょう。
では今度こそ、失礼します」
最後の言葉は何処か得体の知れない重さを感じさせた。
その正体を探る前にライコスは今度こそ俺の視界から消え失せる。
俺もまた不安を感じつつも、ライコスとは反対の方向に歩き出した。
いつも本作「クレムノスの殺戮者」をご愛読いただきありがとうございます。
私が書きたい話を書いているだけなのですが、感想や評価、お気に入りのお陰でここまで書き続ける事が出来ました。
ではこれからの執筆に関するお知らせなのですが、暫くの間投稿をお休みしようと思います。
理由としては
①これからのお話の時系列が定まっていないこと
②誤字脱字や違和感のある表現が増えてきていること
③1話の文字数が多くなりすぎているのではという懸念
以上3つの理由が挙げられます
ですので期間は自分でも分からないのですが、構成や文章を見直す時間も兼ねて投稿をお休みしようと思います。
最後になりますが、以前前書きで書いた通りエタる気だけは一切ないので気長に待っていただけるとありがたいです。
これからも「クレムノスの殺戮者」をよろしくお願いします。