シリアス回
短め
アイアン・メイデンの肩、マフラー状に取り付けられた巨大な機械の腕が振るわれる。
躊躇がなかった。メッサーのように遊びではない。本気で命を奪う攻撃。
レイナはバックステップでかわすが、二発目が隙間なく飛んできる。
今度は当たる。しかし、打撃と逆方向に跳躍することで最低限のダメージで抑える。
「ぐっ…!」
しかし、飛び退いた先にはすでに敵のもう一人がいた。両腕にブレードを装備した戦闘人形──識別番号051、呼称は『グラディウス』がレイナに斬りかかる。
「対象の反応速度がデータ以上。戦術に修正」
斬撃を受け止めたレイナを、今度は高台からの狙撃が襲う。
後方の建物に陣取って対サイボーグライフルを構えている戦闘人形は識別番号080、呼称『バリスタ』。
そのバリスタの狙撃をギリギリで回避し、グラディウスから距離を取ったレイナを、今度はアイアン・メイデンが攻撃する。
「ほー、連携か。インプラントで情報交換…って動きだな」
三体の戦闘人形の統率された動きに徐々に押されつつあるレイナを、メッサーは観察していた。
追手の戦闘人形の連携は脳内インプラントによる擬似的な思考の一体化。戦闘用サイボーグで試験されていた不完全なシステムだとメッサーは見抜いていた。
「ふーーーん、なるほどなァ〜〜〜」
メッサーの視線の先では、レイナがグラディウスの左腕を切り裂いていた。しかし、止まらない。通常の人間なら痛みに動けなくなるような傷も、戦闘人形は気にすることはない。
兵器として設計され、自己保存が目的にない彼女たちにとって、傷で足を止める理由はない。そもそも、痛覚は破損を知らせる信号程度にしかならないのだ。
「なんか…無機質でやな感じ」
レイナのぼやきなど意に介する事なく、三体は攻撃を続ける。グラディウスの浅く切り裂かれた左腕は、すでに癒合を始めていた。
「チッ…くっそ、痛ぇ…」
瓦礫の中、リーザは危機的状況に陥っていた。メッサーからの一撃をナノマシンの集中で防御したのはいいが、衝撃を完全に殺すことはできなかった。
大量のナノマシンが耐圧バリアの過剰使用でエネルギーダウンし、肉体強化に回していた分もエネルギー残量が少ない。
何よりも、予備バッテリーを置いてきたのは痛手だった。
サイボーグは小型リアクターを搭載しているが、リーザは一応生身の人間だ。ナノマシンの稼働に使う外付けのバッテリーか、ナノマシンで構築できる簡易リアクターの触媒が必要だが、今日のリーザはバッテリーを短時間戦闘分しか持っていなかった。
「やべえ、エネルギー切れたら真面目に死ぬわ」
今のリーザには瓦礫を排除できるほどのパワーも残っていない。圧力に耐えるだけの肉体強度はなんとか維持できているが、それも時間の問題だった。
「第二排除目標の生命反応を確認。排除を開始する」
バリスタがリーザの生命シグナルを捉えた。ライフルの銃口が瓦礫の真ん中を捉えた。
「発射」
「おおっと」
バリスタの狙撃の射線に、不意にメッサーが割り込んだ。
ブレードで超高速の弾丸を弾いてみせる。
同時に衝撃波でリーザの上の瓦礫を吹き飛ばす。
「おい、なんのつもりだ」
「俺のエネルギーと触媒を分けてやる。とっととリアクターを作っちまえ」
立ち上がったリーザに金属のアームを通してエネルギーが伝達される。ナノマシンが再起動し、渡された触媒を使い簡易リアクターを構築し始める。
「……本当になんのつもりだ?」
リーザの問いかけを無視して、メッサーはグラディウスに斬りかかっていた。突然の乱入に、三体の動きが一瞬止まる。
「017号!」
その隙に、メッサーはレイナを掴む。そして、リーザのいる場所まで一瞬で後退した。
「本当に、どういうつもりだメッサー。答えろ」
「お前戦闘人形三体相手に逃げないって正気かァ〜〜?」
そろそろ苛立ちが強くなってきたリーザの問いかけをさらに無視してメッサーはレイナに向けて言った。
「一個は相手してやるからとっととぶっ殺しちまうぞォ!こんな出来損ないどもはァ〜〜!」
「おい答えろ」
「リーザてめぇはやっぱり許せねぇ!」
彼が敵についたことを確認した三体の戦闘人形が同時攻撃を始める。それを防ぎながら、メッサーはようやくリーザに向けて口を開いた。
「逃亡生活なんて、こんな面白そうなことを独り占めしやがってよォ〜〜!俺も混ぜろ!いいな??」
「シンプルに動機が意味不明なんだが」
そんな言葉を交わしつつも、リーザも戦闘態勢を整える。少なくともメッサーが味方につくということは理解したらしい。
「奴らはインプラントで連携してくるからなァ〜〜?それぞれ一対一で各個撃破といくぜ」
「仕切ってんじゃねぇ!」
「…今は……まあ了解」
口論になりそうな二人を制しつつ、レイナはメッサーとほぼ同時に飛び出した。
「017!お前はデカ腕をやれ!」
「レイナって呼んでください!」
アイアン・メイデンとグラディウスが分断され、それぞれ一対一の状況になる。単体での性能で勝るメッサーは、グラディウスを連携できない距離まで引き剥がしていった。
「クソ、余り物かよ」
早々に飛び出した二人に出遅れ、リーザは渋々バリスタの相手を始める。
遠距離武器はナノマシンで構築できるとはいえ、高所を取っている相手の方が有利だ。
リーザもそれを理解して、肉体強化を脚部に優先して配することで機動力を上げていた。スモークをばら撒きながら射撃を繰り返す。
「対象の機動力を再計算…捕捉」
バリスタも対応する。射撃ポイントとこれまでの移動経路から次の移動場所を予測して撃ち込む。
命中した。しかし、倒れ込んだのはリーザではない。
「バーカ、デコイにまんまと引っかかりやがって」
ナノマシンドローンが投影したデコイが霧散する。スモークが薄くなる中、姿を現したリーザは巨大なレールガンを構築していた。
「くたばれ」
バリスタの胸部をレールガンが撃ち抜く。バリスタはそのまま後方に倒れ込み、機能停止した。
一方メッサーは、完全にグラディウスで遊んでいた。
「ほー、プログラム通りで素直な剣捌きだなァ〜〜」
メッサーのブレードがグラディウスの右腕を斬り飛ばす。
それでもグラディウスは止まらないが、その攻撃はメッサーに届くことはない。
「やっぱり017号以外はダメかァ〜〜」
続いて左腕。グラディウスの武装が完全に奪われる。
「ほらほら、まだ脚があるだろォ〜〜?」
メッサーの言葉に応えるように、グラディウスは蹴りで戦闘を継続しようとするが、その攻撃もメッサーに右足を落とされ不発に終わる。
「はいおしまい」
なおも食い下がろうとするグラディウスだったが、刃に胸を貫かれ、機能停止する。
一方的な戦いだった。
「さーて、017号の方は…と」
メッサーがレイナの方を見やる。そちらの勝負は、佳境といったところだった。
アイアン・メイデンは両方の機械腕を落とされ、生身での肉弾戦に移行している。レイナの側も、メッサーから奪ったブレードを放棄し、生身でそれを迎え撃っていた。
「これで!」
レイナの細い脚からは想像できないほどの威力の蹴りがアイアン・メイデンの腕を捉える。
しかし彼女も止まらない。右腕がへし折れてもレイナへの攻撃を止めない。
「しつこい!」
レイナが振り下ろされた拳を避ける。空ぶった拳がアスファルトを砕く。
その一瞬の隙にレイナはすぐさま反撃する。今度はレイナの拳がアイアン・メイデンの脇腹を捉えた。
人間ならば即死するレベルの拳を受けて吹き飛ばされても、なお彼女は立ち上がる。
「排除…継続」
無機質な声。腕の骨格がひしゃげかけているが、気に留める様子はない。
ただ、レイナを排除するためだけに動いている。その無機質さが、どこか不気味にレイナには映った。
「貴女…なんなんですか」
答えはない。アイアン・メイデンが再び踏み込む。同時にレイナも動く。
拳が交差し、互いに頭に命中する。
衝撃で互いに一歩下がる。
さらにもう一度。今度はレイナが先だった。一瞬早く懐に入り込む。
上に殴り抜くように叩き込む。
アイアン・メイデンが吹き飛ぶ。しかし止まらない。
「なんで──ッ!」
身体中が痛い。まだなんとか動けるが、かなり苦しい。
だが、それは相手も同じはず。
お互いに限界が近い。それなのに、向こうには迷いがない。
レイナには、それがわからない。
普通に暮らしたいと考えるレイナにとって、戦って傷つくことは望ましいことではない。
何かを気にすることなく、波風立てず暮らしていたい。
目の前のアイアン・メイデンは傷つくことどころか、死ぬことすら恐れていない様子だった。
「対象を、排除する」
再び、ぶつかり合い、離れる。
その時、レイナの胸に鋭い痛みが走った。
外傷ではない。体の奥から、何かが引っ張られているような。
「痛っ…ぐっ…」
反射的に胸元を押さえる。致命的な隙を晒している状況だが、アイアン・メイデンも動きを止めていた。
「なに…これは…?」
同じように、動きを止めている。彼女もまた、胸を押さえて。
「何を…した?」
何か知らない出来事に、混乱しているようだった。
双方、動きが止まっている。
次の瞬間、アイアン・メイデンの後ろから、エネルギー弾が飛ぶ。
先ほどまでならかわせるはずだったが、アイアン・メイデンは避けられなかった。
「バカが、止まりやがって」
「…リーザ、さん?」
胸部を光線が貫通していた。アイアン・メイデンはそのまま、前方に倒れる。
そのままピクリとも動かない。
後方ではリーザの構築したエネルギー銃が銃口から煙を上げていた。
「レイナ、すぐにここを離れるぞ。アパートの荷物だけ回収しに行く」
「っ、わかりました」
「…だいぶ騒ぎになったみたいだがなァ〜〜?」
メッサーの言う通りだった。
遠くからサイレンの音が聞こえてくる。警察と、ガーディアン・リンクだ。
崩れ落ちた高架の向こうから、複数の光が近づいてくる。
「レイナ!!」
レイナがリーザに続いて走り出そうとした時、後ろから聞き覚えのある声が響く。
レイナが足を止め振り返ると、急行した機動騎士団の面々の中に、見覚えのある顔がいた。
「ミコト…?」
なんでガーディアン・リンクに?
という疑問が出かけたが、今ミコトと話している時間はなかった。
何よりも、今アパートを押さえられるのは困る。
「ごめん」
「レイナっ!!」
追おうとするミコトを、隊長のエラルドが制止する。
「今は周囲の安全確保が最優先だ!」
「…ッ!」
ミコトは足を止め、遠ざかるレイナを見送るしかなかった。
封鎖された周辺のエリア。
三体の戦闘人形の残骸が転がっている。
グラディウス、バリスタ、そしてアイアン・メイデン。
ガーディアン・リンクの隊員が現場を確認する。
「三体とも反応なし。完全に停止しています」
「回収を急げ。灰冠連盟の手駒なら解析する価値はある」
三体が、輸送用の特殊車両に運び込まれる。
車が走り出した、その時。
「ん…」
わずかに、アイアン・メイデンの指が動いた。特殊車両のコンテナに人はいない。誰も気づかない。
瞳が、わずかに開いた。
メッサー・"クリスタル"・グロック
最強枠。
終わってる理由で組織を裏切った。
ナサニエル・"ウィード"・カモフ
苦労人兄貴。登場してないのに胃痛が増える。
レイナ
オカルト擬似魂搭載のやべーやつ。
やっぱりズレているし何も説明しない。