一人は最近ナンとか賞で受賞した小説家とバレ、彼女の著作は飛ぶように売れた。一人はSNSやイベントで活動する無名のコスプレイヤーとバレ、一躍大バズリ&有名人に。一人は登録者数五人の個人VTuberと身バレし、今では登録者数五十万人を突破し、毎日同接三万人のトップライバーだ。
私はどれだ?
「されてぇ……身バレして一躍有名になって周りからちやほやされてぇ……!!」
魔法少女達は、自分から言い出すことはなく周りからひっそりと身バレをして自然な流れでバズり、著名人になることを目指し、夢を追い続ける。
世はまさに、大身バレ時代!!
自分で言うのもなんだけど、この私ことイクラ軍曹は日本屈指の魔法少女だ。
日本征服を目論んだ悪の組織を三つ壊滅させ、地球崩壊の危機を五回乗り越え、イクラの力を使って半導体技術に貢献し、2030年の現在もムーアの法則を成り立たせた。
全てを見抜く鋭い眼光。
それに、何事にも恐れず立ち向かう度胸。
更に、瞬時に状況を把握し最適解を選ぶ判断力。
加えて万能なイクラ。
あとまあ、その他もろもろ。
魔法少女の中で、いずれかであってもこの私を越える者は居ない。これマジね。めちゃくちゃ自慢。褒めて良いよ。
誰もが言っている──イクラ軍曹が最強だと。彼女が居る限り、日本に危機など訪れないと。
いやー、全くもってその通りでこの私が実力通りに評価されているって言うのは、とっても喜ばしいことなんだけどさ。そんなこの私にも、弱点という物がある。たった一つだ。ほんの、ちょっとしたたった一つの弱点。ちょっとし過ぎて、弱点というのも憚られるぐらいの物なんだけど、それでもあるものはあるんだ。仲良くしている魔法少女ですら誰一人知らない、この私の心の内に仕舞われ続けられている弱点。その弱点は──
──うん、分かるよ。本当に分かる。「普通の人間って言うけど、お前魔法少女じゃん」でしょ?「その中でも最強で最高で最善のイクラ軍曹じゃん」でしょ?「カッコ良くて、正義の為に働き続けていて、みんなの憧れのヒーロー、イクラ軍曹じゃん」でしょ?うんうん、分かる。みなまでも言うな。いや、言え。もっと、この私を褒め称えろ。
その美しき赤い髪が良い?どんな怪人にも苦戦しない完璧さ?ファンサを忘れないその姿?うんうん、おーけーおーけー。その辺にしてもらって結構さ。君たちの気持ちは十分に伝わったよ。褒めが足りてないけど、この私は優しいから満足して本題に入って上げよう。褒めが足りないけど。
閑話休題。でだ。なんで普通の人間であることが弱点なのかって言うとさ。普通の人間ってさ、露出性が無いんだよね。露出性。ああ、露出って言っても服を脱いで街を歩く、とかそういうあれじゃないよ?確かにこの私の裸体は非常に美しく、小説で描写するとすれば、軽く一冊の文庫本になるだろうね。一冊の文庫本だよ?その文章量で裸体の描写をするんだよ?どう考えたって書く方も読む方も変態だよね。自分で言い出してあれだけど、なくて良かったよ。そんな本。
話を戻すと、今言ってる露出性ってやつはいわゆるメディア露出、とかそういうやつなんだよね。要はその人がどういうことをしたのか。どんな人なのか。顔は?年齢は?趣味は?とか、そういうのが世間一般にどれだけしれ渡るのか、そういうあれだ。
こういう風に言うとトンでもない情報漏洩野郎だけど、まあ有名人なんてだいたいそうだよね。逆に言えば、普通の人間はそういう性質は一切持ってない、って訳だ。今やSNSが発達して誰もが発信できる時代ではあるんだけど、それでも人は自分の見たい物しか見ない。普通の人間がSNSを通じて発信したとしても、その露出は俳優の優雅な一日のニュースで掻き消されてしまうぐらいの物なんだよね。
となると、だ。君たちは気になるだろう。何故、露出性が無いことが弱点に成り得るのかと。
それはとても簡単な話だ。特、にこの現代においては語るまではないだろう。普通の人間であり、露出性がないということは──身バレしても全くの旨みがないのだ!!
例えば、魔法少女鰹王女には小説家という正体があり、身バレし本が売れるという恩恵を受けた。
また、魔法少女アジの開騎士は無名とはいえコスプレイヤーとして自作の衣装の再現度が高かった為に、身バレし多くの目を向けられれば、それだけで評価されるようになった。
更に、魔法少女鰆ナイトは個人VTuberでトークスキルとゲーム技術が高かった為に──いや、これ以上は語るまでもないかな。
魔法少女鮎勇者も魔法少女シーラ鑑'sも魔法少女蟹忍者も、誰も彼女も、身バレする正体があったからこそ、身バレの恩恵を受け、有名になれたんだ。
じゃあ、ここでこの私が身バレしたと仮定しようか。
まず、普通に誰も信じないよね。信じる人が居たとして、家族やクラスメイトぐらい。で、家族やクラスメイトにちやほやされたとしてさ……どう考えても足りなくない?足りないよね。そう、足りないんだよ。
言われることも「すごーい!」とか「サインくれ!」とか「いつもありがとう!」とか、その辺。それも、長くても一ヶ月程度で、イクラ軍曹であるこの私に慣れて、あんまりこの私をちやほやしなくなっちゃう。この私が怪物を倒す度に、家族とクラスメイトが三日三晩ちやほや上げ称え祭りをしてくれるなら、この私も妥協できるけどさ。そんなことは起きない訳だ。
そんなの、嫌じゃんね。
当然、この私もこの弱点を克服しようと努力していたのは言うまでもないと思うんだ。
小説を書いては小説のコンクールに片っ端から送ったり、音楽制作の機材を揃え曲作りに挑戦してみたり、絵を描くために教材と液タブとやらを買ってみたりもした──けど、その全てが駄目だった。
コンクールは一次も突破しなかったし、音楽制作は何一つ進まず弱音を吐きまくって、液タブはなんか知らんけど爆発した。板タブも爆発した。紙と鉛筆も爆発した。
他にも数々の挑戦を経てさ、気づいた訳だよ。この私には魔法少女の才能しかないんだって。
だから、身バレちやほや大作戦は一旦諦めて謎多き正体不明の魔法少女として怪人を葬り続けよう──と、思ってた。そうなり続ける筈だった。
「驚いているようだな、イクラ軍曹」
「……」
「ふむ、だんまりか。それともこの状況を打破する方法でも考えているのかな?だとすれば申し訳ない。そんな方法、無いのだよ」
そんな風に、この私へと語りかけるのは
赤い髪。黒い目。身にまとうはどの国にも属さない軍服。そして、首にはイクラを巻き付け、幾つかのイクラは宙を漂っている。どこからどう見てもイクラ軍曹で間違い。
「……肉体の入れ替え、か」
「ああ、その通りだ。発動条件は一定以上対象にボコられること。とても簡単で確実だろう?」
「どうだか。一撃で殺してしまえば問題ない。相手がトビウオ侍なら、お前は呆気なく死んでいた」
「それは間違いない。まあ、今のこの状況には関係ない話だ」
「くっ……」
この私の精神は、先程まで一方的にボコっていた筈の怪人の身体に宿ってしまっていた。
故に、この私は動けない。全身の痛み。性別の違う慣れぬ身体。それだけならなんとかなった。けど、けどさ。これから相手にしなきゃいけないのはイクラ軍曹の肉体。身体を奪ったばかりでイクラを万全に使えないだろうけど、この怪人の肉体では勝てないのは明白な訳だ。
……しくった!!
この前戦った怪人の能力がダメージ共通だったから(そのせいで、私の身体は一度七割消し飛んだ。痛かった)、最近は一撃で怪人を葬るのを避けていたのだが……そんな所にじっくりやると足元を掬ってくるタイプの怪人が来るとは。いや、狙ってたのか?同じ組織の怪人だったらタイミング図ったりしてそうだ。ズルい。卑怯だ。そういうのやめて欲しい。
とは言え、完敗は完敗である。
「殺すなら殺せば良い。だが、この国を守る魔法少女は他にも居る。貴様らは改めてその事を思い知ることになるだろうな」
「生憎だが、俺はお前を殺すつもりなどない」
「何?」
「普通に考えれば自分の身体を殺すなんて、そんな怖いことできる筈ないだろう?」
「……貴様は随分と腑抜けた精神をした怪人のようだ。これまで生き残れたのが不思議な程にな」
「ふん、痛い目に合いたいならそう言え」
怪人はこの私の髪を掴み、軽々と持ち上げて、躊躇いもなく地面へと叩きつける。そして、怪人はこの身体を鋭く踏みつけた。
痛い。めちゃくちゃに痛い。怪人の身体なんだから、いくら相手がこの私の肉体だと言えど案外耐えられるのかなぁ、と、思ったりしてた。この私がこの私を舐めてたね。全然普通に血を吐いたし、声も漏れた。流石、この私の肉体と言った所か。魔法もイクラも付与されていない純粋な踏みつけでこの威力。本当に痛い。心が泣いているのが分かる。拷問とか嫌いなんだけどなぁ……と思いながら、取り敢えず怪人を睨み付ける。
「驚いた、俺もそれ程に怖い目が出来たのだな」
「貴様にはできないだろうな。腑抜けた精神の貴様には」
「やれやれ、お前と話しているとどちらが勝っているか分からなくなる」
「……それで、私をどうするつもりだ?閉じ込めて私の身体で国を内部から掌握するつもりか?それとも実験材料にでもする気か?」
できれば、イクラ軍曹の身体を使って国を内部から掌握する方だと良いな。
この私程じゃないにせよ、優秀な魔法少女なんていくらでもいる訳だからね。日本屈指の魔法少女であるイクラ軍曹の肉体と言えど、中身がこの怪人ならすぐに正体も暴かれてボコされて解決だろう。
問題は、その頃にはこの私がどうなってるのか分かんないって所だけど。痛いのは嫌だぜ?洗脳もやだけど。人質にされるとしても、ちゃんと三食でるかなぁ。そもそも、悪の組織ってこの私をちやほやしてくれるのか?
取り敢えず死なないと分かった途端、自分でも驚く程に気楽なことを考え出していると、どうやら怪人はこの私の質問に答えてくれるらしい。ゆっくりと口を開いた。
「どちらでもない。俺がやることはただ一つ──この肉体で裏垢を作りちょっとえっちな投稿をしてお前を社会的に抹殺する、それだけだ」
「私の肉体で裏垢を作りちょっとえっちな投稿をして私を社会的に抹殺する!?!?!?」
空気が一変したような気がした。というか、した。それはもう明らかに。
「お前の実力は厄介だが、更に厄介なのは国からの絶大な信頼だ。お前が重ねたあまりにも膨大な実績は、魔法少女という危険視すべき力を自由にしてしまっている。だから、まずはそこから崩すという訳だ」
「えっ、いや……その、なんだ。ふざけているのか?私のすけべな投稿で、民たちの私への、ひいては魔法少女達への信頼が無くなるとでも?」
「俺がふざけているだけかどうかは今に分かるだろう」
怪人はイクラ軍帽の身体からスマホを取り出し、いとも簡単にロックを解除してこの私へと見せつける。そこに表示されるのは世界的に利用されているSNS『C(旧Shouter)』。それのイクラ軍曹公式アカウントだった。
どうやら本当にこの私の裏アカを作ろうとしているらしい。うーん、どちらにせよふざけてはいるだろも思ってしまうのは、この私の思考力が足りないせいなのだろうか。いや、そんなわけないな。どう考えてもふざけてる。この私のすけべ自撮りが見たいだけだろ。
「……チッ」
「肉体を奪っているんだ。指紋認証などなんの障害にもならん。さてと、準備をさせて貰うか」
とは言え、そんなふざけた目的な訳だが怪人は本当にやるつもりらしい。手慣れた手付きでそのままスマホを操作していく。もしかして普段からすけべ自撮りをしているのか?
それは気になるところだったが、流石に私までふざける訳にはいかない。この隙になんとかこの状況を脱しようと、この私はぼんやりと頭を働かせる。
ここから身体を取り戻す方法。なんとか仲間を呼ぶ方法。この肉体のまま怪人を打破する方法。まあ、正直に言ってそのどれもが成功するとは思えないぐらい、奇跡便りの策。この怪人がどうしようもない変人ってのは分かったけど、それはそれとして詰んでいる状況は変わっていないようだった。
しかし、このままではこの私の裏アカが作られて、えっちな自撮りが流出してしまう訳で。
うーん…………いや、逆にアリでは?
普通の人間を脱そうとしていた、この私がえっちな裏アカを検討したことがあるのは言うまでもないよね?
この方法だったらえっちな格好をしてSNSに投稿するだけで良い。そこに、正体はイクラ軍曹であるという特典が付いたら、一夜にして大バズり。取り巻きを確保して毎晩毎夜ちやほや確定。エンドレスハッピータイム、になるのは言うまでもない。
えっ?じゃあ、なんでやってないかって?いやい、普通に恥ずかしいでしょ。えっちな自撮り写真をSNSに投稿するとか、ただの変態じゃん。この私は別に露出性を求めてるだけで、露出したい訳ではないのだ。これ、結構上手いこと言ってない?ちょっと褒めて欲しい。
でも、その恥ずかしい部分を全部この怪人がやってくれるときた。しばらくはイクラ軍曹の見た目でえっちな自撮りを裏アカに投稿するにしても、そのうち変身前の姿もその対象となる筈だ。多分。
そうなればどうなる?
この怪人の戯れ言は起きない物として、そうなれば残されているのはこの私ががちやほやされる未来。その後でなんやかんやで身体を取り戻すとして──それの何が悪いんだろくか?
……いやまあ、だいぶんこの私の都合の良いように考えてしまっていると言うのは自覚している。とは言え、イクラ軍曹のような人物による裏アカが登場したとなれば、他の魔法少女が早めに接触を図るのは間違いない。そうなれば、イクラ軍曹の身体を取り戻せるのも時間の問題だ。
と言うか、本当にこの怪人は何がしたいんだろうね?この私の身体だぞ?あのイクラ軍曹の肉体だぞ?絶対、他にすべきことはある筈なんだけど……まあ、凄いアホなんでしょうよ。
まっ、普段ならともかく、初見殺しで負けてしまった訳だし。抵抗も無駄。かといって、排除される訳でもない。なんかこの私のえっちな裏アカを作られて、それで終わり。これはもう仕方ないのでは?いや、うん仕方ないな。いやー本当に参っちゃうね。有名な魔法少女ってやつは──なんて結論づけた所で、この私は気づいた。なんか、私の身体踏まれてなくない?
チラリと横を見ると、怪人の足(正確に言えばこの私の麗しい足なんだけど)はしっかりと地面へと立っている。そんな集中して裏アカ作りに励んでるのかな。慣れてると思ってたけど、案外機械音痴?それが気になって、怪人の方へと目を向けると──その目には画面を見つめる怪人の姿が映っていた。スマホから顔を逸らし、それでいて顔を赤らめて、目だけは食い入るように画面を見ている怪人の姿が。
「はっ、えっ……?ちょ、それは……えぇ!?いや、それはもう服とかじゃ…………えっ、えっち過ぎる……!!」
試しに撮っていた、この私(変身前)のけっこうえっちな自撮り──怪人はそれを見ていた。
…………。
「何じっくり見てるんだ貴様はッ!!」
次の瞬間、この私は寝転んでいた姿勢から一転、自らのスマホ目掛けて蹴りを入れた。カポエラーの要領である。
スマホに注目し過ぎていた怪人はそれを避けることはできなかったみたいだ。スマホは見事に宙を舞い、音を立てて地面へと落下していく。恐らく、というより確実にスマホの画面は割れている。でも、今のこの私にはどうでも良いことだ。嘘、なんも良くない。スマホを手から離させるだけなら、そこまで本気で蹴らなくても良かったなという考えが浮かび続けている。
とは言え、こんな状況下で私情に取りつかれる訳にはいかない。なので『スマホの恨み!』と怪人を睨み付けた。今年一番の鋭い目付きである。
「人の身体を奪っておいてわざわざ初めにすることが、スマホの写真フォルダー漁りか?」
「……っ、いや!!違う!!」
「何も違わんだろうが、貴様。驚いたぞ、この私を初めてここまで追い詰めたのが、こんなしょうもない変態怪人だと言うのだからな」
「いや、その……そっ、そうだ!!そもそも変態は貴様だろうが!!あっ、あんな、いやらしい格好の写真を撮って…あまつさえ保存していなど……!!」
「はっ、そんなことか。言っておくが、女子高校生は誰だってえっちな自撮りを写真フォルダに入れている」
「嘘だろ!?!?!?」
「御名答。だが、動揺し過ぎだな」
瞬間、隙だらけの怪人の顔へとこの私の蹴りが命中した。
この怪人の肉体から絞り出せるフルスペックの力を込めた蹴り。無論、この私の肉体と言えど怪人は──普通に無傷で、数歩後退しただけとなった。なんなら蹴りを決めた筈の足が痛みを訴えている。
あの……スペック差ありすぎない?無理ゲーだよ、無理ゲー。
ムカつくし、ちょっと煽るか。
「きっ、貴様!!卑怯だぞ!!それでも魔法少女か!?」
「貴様こそ本当に怪人なのか?私には貴様の腹綿の奥底が見え透いてならない。今をときめく女子高校生の肉体を奪い、えっちな自撮りをSNSに投稿すると宣う……魔法少女が倒すべき怪人と言うよりは、普通に警察に捕まるべき犯罪者なんじゃないか?」
「黙れ!!怪人であるこの私を、律するべき欲望に負けている低俗な人間と同じにするな……!!」
「トンでもない嘘を言うな。負けてただろ、現に」
「俺はまだ負けてない!!」
「まだ、ってことは負ける予定でもあったのか?低俗な人間とやらと同じ様に」
うわっ、襲いかかってきた。
怪人は怒りのままにこちらに飛びかかり、この私はとりあえずそれに応対する。怪人は魔法もイクラも使わず、隙ができても構わないと言うでも様にただ力任せに拳を振るい続ける。
やっぱり、この怪人の能力は身体を奪うまでで、その肉体が持つ能力をすぐに使いこなせる訳ではないみたい。怒りのままに動いてしまっているというのもありそうだ。宝の持ち腐れ……いや、猫に小判ってやつかな?
ふふふ、情けないね。怪人の力任せの攻撃を全て避けつつ、この私は拳や蹴りを隙を作らずに入れる。全く効いていない。嘘だ、壁を殴ったかのような反動がこの私には効いている。全く持って勝ち目がない。情けないね。
情けなさですら負けてないこの私、流石だ。
「……ふっ、どうした?この俺の肉体のスペックで、イクラ軍曹の肉体のスペックに勝てるとでも思っていたのか?」
「情けないな怪人。借り物で威張るなど、貴様自身は何も持っていないと言っているようなものだろう」
「借り物……?いや、違うね。これはもう俺の肉体だ」
力の差を自覚して少々冷静になったらしい。力任せの攻撃から一転、こちらの動きを良く見るようになってきた。攻撃を入れる隙も減っている。それでも全て避け続け、攻撃を入れ続けられるこの私。流石だ。でもやっぱりダメージはなく、この私にはある。この肉体はカスだ。
そんな風になんだかんだこの私の力で誤魔化してきた訳だけど、やっぱり肉体スペックがカス過ぎれば限界はあるらしい。拮抗というのは、いずれ崩れてしまうものだ。
「やれやれ、何を企んでいるかは知らないが……これで終わりだ」
「──ッ」
怪人の拳が私のお腹にクリーンヒット。一瞬、激痛が走り、呻き声をあげそうになるが────その前に止まった。
「……ふむ、上手くいったようだな」
そして、
「がっ、はっ、はぁ?なん、で、身体が再び……入れ替わって……」
「何を困惑する必要がある。肉体の入れ替え、それはお前の能力だろう?全く、とっても簡単で確実だったよ。この能力の発動条件は」
「……ッ!!きさ、ま、初めから、それを狙って……!?」
「当然だ。イクラ軍曹がなんの理由もなく怪人を挑発するとでも?」
ちなみに嘘だ。
すけべな写真見られたから怒りのままに挑発しただけで、途中までそんなことは何も考えてなかった。まあ、怪人が冷静になり始めた頃には思い付いていたし、最終的に身体も取り戻したからオールオッケー。褒めて良いよ。ちやほやまで許す。
とは言え、蓄積された反動ダメージと怪人の最後の一撃でようやく入れ替われたという形なのでギリギリではあった。本当に。危ない、危ない。多分、この私じゃなきゃ裏アカ作られてたね。だからなんだって話だけど。
「さて、確か一撃で殺せば能力は発動はしない、だったか?」
「まっ、待て──」
「待たない。私は貴様と違い自分も殺せる……まあ、貴様は私には程遠いが」
イクラで首を切り落としてしまえばそれで終わり。怪人の頭は地面へと落ち、そしてその身体と共に消失した。討伐完了である。
──いやぁ、あぶねぇ~!
トンでもないアホ怪人で助かった……身体を取られた後に殺されてたらこんな逆転もない訳で。それに関しては本当に感謝である。
とは言え、流石この私って感じだ。怪人がアホだったと言うのも含めても、そうそうこんな逆転劇はない。事実、この私でさえも諦めかけていたレベルだ。まあ?それでも?こんなこともあろうかと?自撮り写真をスマホに仕込んでおいて?怪人の隙を作り大逆転?
うーん、流石だ。流石この私だ。偶然であろうが、それを引き寄せたのがこの私である以上凄いのはこの私だ。カッコいいのはこの私だ。最強で最高の魔法少女はイクラ軍曹であるこの私だ。全人類を守り平和を実現し続けるのがこの私だ──そこまで言うと、他の魔法少女に失礼か。他の魔法少女も良くやってるよ。この私程じゃないけど。
閑話休題。なんにせよ、討伐は完了。時間的に全く人が居らず、イクラ軍曹の姿ですらちやほやはされないだろうが、民衆に見られていた方がどう考えても最悪なのでそれは良しとしよう。いや、本当は良くない。全く良くない。なんで、この私史上最大のピンチを乗り越えたのに誰も褒めてもちやほやもしてくれないんだ?この世界は間違ってないか?……うーん、まあ親に駄々でも捏ねてちやほやして貰うか。
そんな結論を出して、私は帰路へと着くのだった。口にすればとぼとぼって感じで。
……別に、皆も私を褒めてちやほやしても良いからね?
P.S.
実は先週、魔法少女赤☆GUYの正体がShouterの裏アカで活動していた女性と身バレして、大バズりをかましていたらしい。
二番煎じにならなくて良かったと、この私は買い換えたスマホからえっちな自撮りを消すのだった。