天夜叉の狩人   作:青木蘭

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 コラソンとローの過去話で泣いたから書いた。
 衝動です。後悔はしていない。


序章 ドレスローザの悲劇

 

 

 ドレスローザは悲劇に見舞われた。

 八〇〇年間、只の一度も戦争の起きなかった平和な国は一夜にして喧騒と狂乱のどん底に叩き落とされてしまった。

 名君と讃えられたリク王は自国の民を騙し、彼らの兵隊は主君の命令に従って守るべき民を殺して回る。

 異常な光景だ。吐き気すらする。

 微かに残る良心の呵責。喉元から首をもたげる罪悪感。顎から滴る冷たい汗。

 巨悪を成している。客観的に見て、いや主観的に見ても巨大な悪と断言できる所行を成す仲間たちと共に歩を進める。

 今更な話だ。後悔しても無駄だ。

 これが選んだ道なのだから。

 あの日、逃げることが出来たかもしれない。それでも現状を選択して、未来を知りながらも何もせずに過ごしてきた。

 その結果が眼前に広がる阿鼻叫喚の図をもたらした。

 若は計画を変えず、仲間たちは素直に従う。ドレスローザ乗っ取り作戦。既にそれは終幕へ近づいていた。

 

「眺めのいい王宮だ。悪くない」

「ああ。ええだすやん」

「若様にふさわしい宮殿だイ~~ン!」

 

 おしゃぶりを口に含むサングラスの男に同意したのは、風車のような髪と顎髭を生やした大男だ。続けて、豊かな胸毛を外気に晒す男が主人と王宮の親和性を讃えた。

 外見と中身に激しいギャップを持つセニョール・ピンク。グルグルの実を食べた回転人間であるバッファロー。戦い好きな超体重人間のマッハバイス。彼らの言葉に反応せずとも、此処に集った十一人のドンキホーテファミリー幹部全員は同じ思いを抱きながら、ドレスローザの王宮へ侵攻を続けていく。

 但し“俺”だけは明後日の方を向いて立ち止まった。

 

「…………」

 

 今頃、若が登場してるのかな。

 

「どうかしたのか、カサ?」

「黙ってるなんて不気味だすやん」

 

 振り返るセニョール。

 バッファローは眉間に皺を寄せる。

 普段の陽気でお喋り好きな俺と、今の態度の違いに何か思うところがあるんだろう。

 

「不気味って酷いな、バッファロー。ただ若の方は大丈夫かなって考えてただけだよ」

 

 台詞の最後を彩ったのは突如前方で轟いた爆音だった。

 ラオ・G、グラディウスを筆頭に幹部たちが王宮内に残る兵士と官僚の掃除を始めている。慈悲も容赦もない。

 先程の爆発はグラディウスの能力だろう。パムパムの実の爆裂人間。歯車を模した飾と天を突く逆立った髪が印象的な男だ。

 

「問題ない。若の計画は完璧だ」

「セニョールの言う通りだすやん。ピーカ様たちも着いてるから万に一つ無い」

「だと良いけど」

 

 素っ気ない返事だが、俺だって計画の完遂を疑っているわけじゃない。記憶に残る原作の知識から成功することは最初から分かっていた。

 問題なのは俺という異分子のこと。

 本来なら登場しない十一人目の幹部によるイレギュラーで、原作がどのような変化を起こすか見極めないといけない。

 何も変わらなければ万々歳。

 もしも変化があれば対処しないと拙いんだ。最強の武器が無くなってしまう。

 

「ちょっと! アンタも働きなさい!」

 

 男三人で二言三言会話を交わしていると、唐突ながら甲高い声が間に割り込んだ。十四歳の身でありながら煙草を吸う不良めいた少女──ベビー5は、右腕にバズーカ砲を担ぎ、左手で俺を指差しながら怒鳴った。

 思わず後ろを振り向く。

 

「なに振り返ってるわけ!」

「いや、誰もいないぞ?」

「アンタのことよ!」

 

 分かってるよ、ただの冗談だろ。

 俺にだけ一々怒鳴るな。

 昔からだけど未だ不公平だと思う。

 

「でもな、ベビー5。働けって言われても、ラオ爺とグラディウスで殆ど終わらせてるんだけど」

 

 眼前には死屍累々の山。

 セニョールを加わった殲滅戦は戦いの様相を成していない。

 ドンキホーテファミリーによる無慈悲な蹂躙。石造りの壁と床に飛び散る血痕が痛ましすぎる。

 

「他にもまだ兵士たちは残ってるわよ」

「それはジョーラ婆さんの仕事だろ」

「私たちが休んでいい理由になってないわ」

 

 俺もベビー5と同い年。幹部としては下から三番目の若さ。確かに若から認められているが、年長者だけに働かせていたら仲間内からの評価も下降してしまうだろう。

 

「真面目だなぁ」

「貴方が不真面目すぎるのよ」

 

 至極ごもっともな正論だった。反論すらできない。ベビー5の癖に生意気な。

 

「じゃあ、ベビー5。お前は向こうを頼むよ。俺はこっちを担当するからさ」

「え? ──う、うん! 貴方はあっちで私はこっちね。任せてちょうだい!」

 

 途端、頬を赤くしたベビー5は猛ダッシュで俺の指差した方へ走っていった。

 他者に頼られれば断れず、あまつさえ私が必要なのねとときめく変人っ振りは相変わらずである。

 アレさえ無ければ完璧なのにな。

 幹部全員に共通している事は若への忠誠心と有り得ない変人性。どちらも欠けている俺からしたら嘆息ものだ。

 

「ヒドい男だすやん」

「さっきから辛辣過ぎない?」

 

 と言うか。

 

「バッファローだって同じだろ。事ある事にアイツからお金貰ってる癖によ」

「な、何で知ってるだすやん!」

「気付かないはず無いだろ、ギャンブル中毒者。もう一千万ベリーの借金拵えてるらしいぞ、あの馬鹿」

 

 見た目だけなら優良物件なんだが、中身と借金の額を合わせれば地雷臭しかしない女、それがベビー5なんだぜ。

 ……何とも物悲しい話だ。

 バッファローは情勢の悪さから大股でラオ爺とグラディウスの後を追った。

 

「うぅ! おれはもう行くぞ!」

「ああ。俺も後で行くよ」

 

 面白い頭の大男と分かれた俺は、約束通りに王宮の片隅を掃除することに専念した。とは言ってもごく少数だけど。

 殆どの兵士は、突然乱心したリク王と兵士たちの蛮行を止めようと外に出ており、元々王宮は手薄だったのだ。そこに現れた怪しい一派。残っていた兵士たちはごく一部を除いて玄関口に集合。そして彼らはラオ爺とグラディウスに一蹴されてしまった。

 こういう経緯から俺の手に掛かった兵士たちは四人しかいなかった。無論、殺さない。未来を知る俺は若がリク王軍の生き残りを助けると分かっているから。

 

「絶対に、許さない……!」

「野蛮な──海賊どもめ!」

「キュロス様さえ来れば、貴様らなんぞ全員王宮から叩き出してくれるッ!」

 

 怨嗟の声は鳴り止まない。

 この事態が海賊の仕業だと分かった兵士たちは一様に侮蔑の言葉を口にする。

 俺は反論せずに意識を断絶させた。

 ニヒルな笑みは誰に向けてか。

 俺か、仲間か、ドレスローザの民か。

 分からない異質な表情の綻びは、何時しか苦悶のそれに移り変わった。

 

「所詮、俺も同じ穴の狢だよ」

 

 あの時の選択で今があるんだから。

 

 

 ∞

 

 

 

 

 全ての始まりは三年前に帰結する。

 唐突に、何の予兆もなく、俺は通り魔に刺されて一生を終えた。訳が分からなかった。どうして俺なんだ、と霞行く意識の中で世界を呪った。

 人通りの少ない深夜の路地裏。

 夥しい量の血が流れる。真っ赤な池の中心でもがいた。死にたくないと声にならない叫びをあげた。

 それでも『生』は『死』によって覆われた。暗闇に包まれる。自己意識が無に塗りつぶされる感覚に焦燥した。

 恐らく数秒だっただろう。

 心臓を止まり、意識も消えた。

 間違いなく俺は絶命した。

 ちゃんと俺を刺した通り魔が捕まったのかどうか、俺の葬儀は執り行われるのかどうか。そんなことも分からずに人の世を去った。

 にも拘わらず、俺は目を覚ました。

 とある漫画の世界。海賊王を夢見る少年の浪漫溢れる冒険活劇。ワンピースの世界に生まれた少年に憑依してしまったのだ。

 

 前世に於いて、俺は何も特別なことはしていない。他人と較べて変わっていたことは家庭の悲惨さぐらいか。

 十三歳の頃だった。普通のサラリーマンだった父親は不況の煽りを受けてリストラ。長年勤めていた会社から裏切られた親父はアルコールに逃げてしまった。

 代わりに母さんがパートで働き始めたが、当然その収入だけで食っていける筈もなく、貯金を食い潰した後は借金に手を染め始める。その上、酒浸りになった親父の暴力で幸せだった家庭は一気に地獄と化した。

 そんな頃、妹が事故死した。轢き逃げだった。犯人の足取りすら掴めない完璧な轢き逃げだった。

 休みのない連日の勤務、家で待つ親父からの暴力、そして可愛がっていた娘の事故死。限界寸前だった母さんの心は砕けてしまった。

 ある日の夜、奇声を挙げながら親父を殺した後、母さんは俺にゴメンねと謝罪してから自ら命を絶った。首の大動脈を裂いた自殺光景は今尚忘れられない。

 一夜にして天涯孤独の身となった俺だが、中学卒業と同時に近くの工場で働かせてもらい、何とか一人でも暮らしていける環境を手に入れた。

 事情を知る友人から同情されるが、俺以上に悲惨な環境の子供なんて幾らでもいる。むしろ俺は幸運な部類だ。だから不幸を自慢するつもりもないし、これからは堂々と生きていこうと考えていた。

 その矢先の通り魔殺人である。

 神を呪った。

 犯人を憎んだ。

 それでも現実を受け入れた。

 なのに『無』と化したと思い、けれど身体の在る感覚に違和感を覚えて、もしかして天国って本当に在ったのかと宗教を馬鹿にしていた自分を恥じ、桃源郷ってどんなところだろうなと目を開けてみれば待っていたのはサングラスを掛けた金髪の大男である。

 ピンク色の羽を模したコート。何処か見覚えのある悪人面。安心したように漏らした「フッフッフッフ」という独特の笑い声で、目の前の男がドフラミンゴのコスプレイヤーだと気付いた。

 

「やっと目が醒めたか。フッフッフ、どうだ? 一週間振りに起きた気分は?」

 

 声も酷く似ている。

 レベル高ぇな、と朦朧とする意識の中でコスプレイヤーの男を褒めた瞬間、何故か見知らぬ少年の記憶が一秒に満たない時間の内に脳裏を駆け巡った。

 名前はアイン。北の海出身。五歳の時に戦争によって孤児となる。六歳の時に初めて人を殺害。その時、偶然居合わせたドフラミンゴに見初められた。以降はドンキホーテファミリーの一員として過ごす。ディアマンテから剣術を指南される。ローと仲良かった。コラソンからは嫌われていた。ベビー5と同い年。ピーカの声に笑わなかったから凄く好かれている。コラソンの裏切り、オペオペの実の奪取、計画破綻、おつるの船、逃げ出すドフラミンゴ、倒れる自分────。

 とんでもない情報量に目元を抑えた。

 頭痛だけじゃなくて、眩暈も激しい。

 ヤバい、と思った瞬間にはベッドの上で嘔吐してしまった。一週間、栄養食しか食べていなかったからなのか、直ぐに胃液を吐き、それでも止まらない嘔吐感に従って喉を震わし続けた。

 その間、金髪の大男は背中をさすってくれた。大声で医者を呼び、大丈夫かと声を掛けてくれる。

 

「おい。アイン、しっかりしろ」

 

 記憶は本物だろう。戦争の悲惨さ、人を殺した感覚、五年間共に過ごした仲間の暖かさは幻想じゃなくて確かだった。

 だから今も背中に手を当てる金髪の大男はコスプレイヤーじゃなく、本物のドンキホーテ・ドフラミンゴなんだろう。

 つまり此処は漫画の世界だ。

 ワンピースの世界なんだと分かった。

 そう認識した途端、急速に吐き気は治まり、頭痛は無くなって、視界は良好となった。

 医者の登場。シーツの交換。騒ぎを聞きつけて現れたベビー5やバッファローたち。未だ混乱しながらも記憶の通りに受け答えした俺は、コラソン殺害時から一週間も意識を失っていたと知った。

 

「取り敢えず寝ていろ。島に着いたら起こす。今は安静にしとくんだな」

 

 全員が去った後、俺は現状について考えた。此処は漫画の世界で、アインという少年に乗り移った事実は受け入れた。

 コラソンは死んだ。ローは逃げた。つまり原作開始から約十一年前だ。ドレスローザ乗っ取りまで残り三年ぐらい。十一歳だからその時は十四歳か。いや、この大海賊時代で死ななければの話だが。

 俺が知る原作知識はコラソンとローの過去編まで。立ち読みする程大好きな漫画だったから大体のイベント内容と年代を覚えている。原作通りに話が進めば身の破滅まで後十三年しかない。

 どうする? 逃げちまおうか?

 でも此処は船の上だ。能力者かどうかも分からない今、海に飛び込むのは賭けだとしても分が悪すぎるだろ。島に着いた瞬間、隙を見つけて逃走しても捕まるに決まってる。相手は空を飛ぶドフラミンゴだ。そして俺は十一歳の小僧。相手になるわけがない。

 なら裏切るか?

 方法がない以上に厄介な点が在る。

 アインの記憶に引きずられているからか、ドフラミンゴと幹部たちを嫌いになれない。拾って貰った恩義、仲良くしてくれた思い出が裏切ろうと考える自分を激しく責め立てる。

 

「どうしろってんだ……」

 

 窓ガラスから射し込む月明かり。

 真円を描く白貌に目を細める。俺は心底憎々しげに吐き捨てた。

 

「ホント──どうしろってんだよ」

 

 

 ∞

 

 

 

 

「この国に! 王に何をした!?」

 

 一時間もしない内にドレスローザは変わる。狂乱の夜は瞬く間に鎮まった。無念と憎悪と歓喜に彩られた島は新たな王の誕生を祝うようにドフラミンゴの名を連呼する。

 最高幹部三人は若の能力で身体を操られた兵士たちを片手間で鎮圧した。何度も見てきたが実に圧倒的な力である。

 狂騒の元凶とされたリク王だけは俺たちが占拠した王宮、スートの間にて平伏させていた。

 ギロギロの実を食べた第二王女ヴィオラと三千勝無敗の男キュロスを部下にする取引に利用する為だ。

 実に邪悪。それをグラディウスの真横で眺めている俺もまた、彼らからしてみれば忌むべき存在なんだろう。

 

「見ただろう? 王が町を焼いたんだ」

「王はそんな事断じてしないっ!!」

 

 計画通りにキュロスは現れた。

 原作と同じ展開だ。

 黒いマントを掛けて、リク王軍の一般兵士と同じ衣装に身を包み、それでもなお全身から溢れる強者の威圧は化け物じみている。主君の起こした狂乱を見ている筈にも拘わらず、リク王を信じ抜く強い意志と忠義を貫く様は同じ男として憧れるほど格好良かった。

 

「キュロス……!」

 

 リク王は泣く。

 気持ちは分かる。漫画を読んだ時、俺も心の底から同情した。

 リク王は何も悪くない。国民からクズだと中傷される謂われなどない聖人君子だ。

 

「この海楼石の鎖を解け! 私は能力者じゃない!」

 

 むしろ能力者だったら恐ろしいよ。

 目にも止まらぬ速さ。空気すら斬り捨てそうな太刀筋。銃弾の膜をかい潜る見聞色の覇気。ちょっと反則気味な強さ。

 当然だけど全部が俺以上だ。

 正直な話だとディアマンテ様より強いと思う。

 海楼石の鎖を填めることに成功したのもリク王という人質在ってのこと。そうしていなかったら俺も斬られていたに違いない。 

 

「フッフッフ。キュロス、お前の評判は聞いてるぞ。おれの部下になれ」

「!?」

 

 結末を知る俺でなくても、キュロスがこの申し出を受けるとは誰も考えていないだろうな。

 彼のリク王家に対する忠誠は本物。リク王の命と引き換えなら頷くかもしれない。もし仲間になったとしても反骨の士を飼うのと一緒だ。割りに合わない。 

 これは若特有の茶番だな。

 

「王は代わる。つまり、古い王族も皆死ぬんだ! 王家の血を引くお前の妻と娘の所にも、もう部下を向かわせてある」

「!」

「──よく見てろ! “リク王家統治のドレスローザ”は終わったんだ!!」

 

 装飾の欠片もない剣をリク王の首に押し付ける若。そのまま腕を引けばスパッと切り落としてしまえる。

 キュロスは目を見開いた。

 多分、妻子の安否とリク王の現状を思い並べたに違いない。直後、浮かべたのは覚悟を決めた表情だった。

 キュロスは己の持つ剣で海楼石の鎖が巻き付く左足を迷わず切って捨てた。 

 

「なに!」

 

 血飛沫が舞う。

 

「こいつ! 足を犠牲に!!」

「キュロス!!」

 

 片足で跳んだキュロスは隙を突かれて動けない若の首を跳ねようと剣を振りかぶる。

 俺は咄嗟にシュガーを見た。

 外見だけなら十歳の少女はホビホビの実の能力者。特別幹部であり、これからのドレスローザに於ける悲劇の一端を担う者である。

 原作だと彼女がキュロスに触れて、この危機を脱するのだが……。

 シュガーは手を翳す。触れてしまえば誰でも玩具に変えられる能力だ。

 その事実を剣士は知らない。しかし彼の剣は若と一緒にシュガーすら薙ぐ勢いだ。三千勝無敗は伊達じゃない。

 このままだと手で触れる前に斬り落とされる。刹那的にそう判断した俺は能力を使った。

 空中に見えない道を造る。

 それだけでキュロスの身体はぐらついた。覇気すら込められた剣撃は意味なく宙を薙いで、その隙にシュガーはドレスローザ最強の男に触れてみせた。

 パッという効果音。

 現れたのは片足の兵隊だ。

 

「! ………!?」

「お、オモチャ!?」

 

 リク王が端的に状況を捉える。

 そう、オモチャだ。虚空から登場したのは背中にぜんまいの付いた片足のオモチャだ。シュガーの能力は間違いなく発動している。リク王が“片足の兵隊の正体”に気付いていないから間違いない。

 

「ハァ、ハァ──!」

 

 片足の兵隊はうずくまったまま荒々しい吐息を繰り返す。信じられないと言いたげな様子だ。人間から玩具になったんだから当然である。誰だってそうだ、俺だってそうなるに決まってる。

 俺にとって問題なのはそこじゃない。

 そこじゃないんだ!

 

「オモチャが王を担いで逃げただすやん!」

 

 バッファローの声が遠く感じる。

 何故かって?

 そりゃそうだよ。

 オモチャにされた人物は全ての人間から忘れ去られる。悪魔の実による作用は半ば呪い。強制的なものだ。

 しかし、どういう因果なのか。

 

 なんで俺だけは片足のオモチャがキュロスだって分かるんだよ……!?

 

 新たな罪悪感と疑問が生まれた夜は呆然とする俺を差し置いて更けていった。 

 

 

 





 
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