とある女子高生のダイエット日記 ~シンデレラは目指さないけれど~ 作:クリリ☆
【前書き】
今回は業務スーパーのキムチの話。
作中では10月ですが、実際に変わったのは2026年の5月頃だったでしょうか。
作中と現実の時期にズレがありますので、ご了承ください。
【いつもの商品がない】
10月初旬。残暑の気配がすっかり薄らいで、秋風が心地よく感じられる頃。
幸子は、いつものように業務スーパーへと足を運んでいた。目的は「夜のおつまみ」にするための焼き海苔の買い出しだ。お目当ての品を迷いなく買い物かごに入れ、ついでに店内の通路をゆっくりと物色していく。
そこでふと、冷蔵ケースの前を通りかかったとき、幸子はハッと気づいた。
――あ、そういえば、昨晩の夕食でいつもの『キムチ』を食べきっちゃってたんだっけ。
幸い、キムチは美容や代謝の面でも心強い味方だ。幸子はそのままキムチの売り場へと向かった。
普段から買っているその商品は、1kg入りで340円程度という、他店ではちょっと信じられないほどの驚異的なハイコストパフォーマンスを誇っていた。家族全員がお気に入りで、冷蔵庫に常備してある定番の品だった。
しかし、いつも陳列されている場所へ近づくと、お目当ての赤いパッケージが見当たらない。
(あれ……?)
首を傾げる幸子の視線の先には、以前のものとは少しだけ違うパッケージが並んでいた。
以前のものより、ほんの少しだけ赤みが強く、デザインも刷新されている。価格を確認すると、従来品より10円ほど値上がりしてはいたものの、それでも1kgで350円程度。相変わらず、他のスーパーではあり得ないほどの安さだ。
(商品の入れ替えかな? それとも、ただパッケージがリニューアルされただけ……?)
深く考えることもなく、幸子は新しいその商品を迷いなく買い物かごへと放り込み、そのまま家路についたのだった。
【新商品実食】
その晩、さっそく夕食の食卓に新しいパッケージのキムチが並んだ。
早速一口食べた幸子は、その味の違いにすぐ気づいた。以前の品よりも、明らかにまろやかな甘みが広がっている。
「あれ……これ、味が違う。なんか、甘くなった」
「へえ、どれどれ」
幸子の言葉に続いて、母親も箸を伸ばしてキムチを口に運んだ。そして、すぐにその変化を実感する。
「本当だわ、甘みが増してすごく食べやすいわね。こっちの方が美味しいじゃない」
確かに味としては美味しいし、何よりも尖った辛さがなくて食べやすくなっている。母親などは新商品の方がすっかり気に入ったらしく、いつも以上にお皿からパクパクと口に運んでいた。
家族ウケは上々だった。だが、ダイエットを意識し始めてからの幸子の頭には、ふと小さな引っかかりが生まれていた。
(甘みが強いってことは……もしかして、糖質が増えてるんじゃないかな……?)
美味しいという感想の裏で、ほんのりとした不安が胸をもたげる。
そうして夕食の片付けが終わり、静まり返った台所で、幸子は少しだけためらいながらもゴミ箱の中を覗き込んだ。幸いなことに、昨晩まで食べていた従来品のキムチのパックが、まだ一番上に残っていた。
幸子は手早くそのパックからラベルを綺麗に剥ぎ取り、それを新商品のラベルと並べて見比べた。
【発酵キムチと非発酵キムチ】
剥がした二つのラベルを並べて、幸子はカロリー表記の欄に目を凝らした。
従来品の100gあたり『54kcal』に対し、新しいキムチは『32kcal』と、むしろ数値自体は大きく低下している。
「あれ……? カロリーが下がってるってことは、もしかして低糖質ってことなのかな?」
首をかしげながら、さらに細かな原材料の項目を目で追っていく。すると、従来品にはなかった『ソルビトール』という見慣れない添加物の名前が記載されていた。気になってスマホで確認してみると、それは糖アルコールの一種であり、砂糖よりも低カロリーな甘味料として使われる人工甘味料(あるいは甘味成分)の一種だった。カロリーが低い理由はこの甘味料にあるらしい。
だが、幸子の疑問はそれだけではなかった。もう一つ、どうしても気になる点があった。
従来のキムチのパッケージには、製造日からの日数や発酵の目安として、『浅漬かり』『食べ頃』『しっかり漬かり』といった分かりやすい表記が親切に添えられていた。
幸子はあのシャキシャキとした酸味の少ない『浅漬かり』が一番のお気に入りだったので、店頭で買うときにはいつも、できるだけ製造日が新しいものを探してカゴに入れていたのだ。
しかし、新商品のパッケージをくまなく見渡しても、そうした熟成具合を示す表記はどこにも見当たらない。
「これ……いつが一番美味しい食べ頃の目安なんだろう?」
ラベルの文字を見つめながら、幸子は密かな新しい謎に頭を悩ませるのだった。結局、いくら頭をひねってラベルを眺めても、答えは出なかった。
――まあ、考えてみれば、これはちょうどいい口実だ。
最近、何かと理由をつけては京加賀に連絡を取っている自分に苦笑しつつも、幸子はスマホを手に取り、新旧のキムチのパッケージ写真とラベルの情報を添えてLINEでメッセージを送った。
『先輩、ちょっとお聞きしたいことがあるんですけど……』
いつものように質問を投げると、思いのほか早いタイミングで既読がつき、すぐに返信が返ってきた。
『どうした?』
相変わらずそっけない出だしだが、ちゃんと答えてくれる安心感がある。幸子は早速、カロリーが下がったこと、ソルビトールが入っていること、そして熟成具合の表記が消えたことを書き連ねて送信した。
それから数分後、京加賀からの返信が送られてきた。
『恐らくそれは、発酵キムチと非発酵キムチの違いだな。従来品は発酵キムチ、新商品は非発酵キムチのようだ』
画面に映し出されたその文字を見て、幸子は思わず首を傾げた。聞き慣れない単語だ。発酵と非発酵、一体何が違うのだろうか。
『あの、どういう意味ですか?』
すぐに送り返すと、今度はほとんど間を置かずに返信が来た。
『そのままの意味だ。古来の製法で乳酸発酵させて作るのが発酵キムチ。白菜の浅漬けをキムチ味の調味液に漬けて、発酵のプロセスを省いて作るのが非発酵キムチだ』
まさか、普段何気なく食べていたキムチにそんな根本的な違いがあるなんて、幸子はまったく想像もしていなかった。思わずスマホを持つ手に力が入り、画面を食い入るように見つめてしまうのだった。
『ズバリ、発酵キムチと非発酵キムチはダイエットに影響はありますか?』
幸子は画面の向こうの京加賀を想像しながら、少しドキドキしてスマホを打ち込んだ。
『単純に言えば発酵キムチの方がおすすめだな。乳酸菌が腸の働きを整え、便通が良くなる。いわば腸活だな。非発酵キムチは、むしろ発酵が進まないようにしっかり殺菌されている。腸活効果は期待できない』
『なるほど……』
返ってきた言葉に、幸子は思わず納得して頷く。すると、すぐに次のメッセージが届いた。
『糖質制限ダイエットは米やパンを抜くのが基本だが、米や小麦には糖質の他に、食物繊維も豊富に含まれている。結果、糖質制限をすると便秘になりやすいという大きなデメリットがあるんだ。なので糖質制限ダイエットをする場合、水分や食物繊維を積極的に摂るようにするのが基本だが、恐らくお前のここまでの順調な減量は、毎日食べていたその発酵キムチが、裏で大きな貢献をしてくれていたんだと思うぞ』
その一文を読んで、幸子はハッと目を見開いた。
そういえば、食事をガラリと変えたにもかかわらず、自分はこれまで一度も便秘に悩んだことがなかった。いつもお腹はすっきりしていて、それがダイエットをストレスなく続けられた理由の一つでもあったのだ。
それは、あの1kg340円の業務スーパーの発酵キムチのおかげだった――。
無意識のうちに自分の身体を支えてくれていた「小さな功労者」の存在に気づき、幸子は思わずスマホを胸に抱きしめる。
『その点では、新しいキムチは腸活効果は期待できない。だが、比較的低糖質で食物繊維は豊富だ。決して悪い食べ物ではないと思うぞ』
『ちなみに何か、発酵キムチと非発酵キムチを見分けるコツはありますか?』
『絶対ではないが、『pH調整剤』『醸造酢』が入っているのが非発酵キムチの典型パターンだ』
『なるほど、原材料名を見るのが一番なんですね!』
『そうだ。乳酸発酵による酸味ではなく、酢酸や添加物でそれらしい酸味や日持ちをさせているからな。覚えておくといい』
『はい、ありがとうございます!』
納得した幸子は、パッケージの裏面を見るという新しい知恵をしっかりと頭に刻み込んだ。
『それにしてもうち、家族みんなキムチ好きで、1kgあっても3日くらいで1ビン空けちゃうんですよ』
『それはマズいな。食塩量を見てみろ。100g当たり2.8gもある。成人の1日の食塩量は男性7.5g未満、女性6.5g未満と言われている。1人当たり毎日130g平均で食べている計算になると、キムチだけで食事1食分以上の食塩量になるな。せいぜい1人あたり1日50gが上限だ。家族3人なら1kgで1週間はもたせろ』
『そうなんですか!?』
『食塩の摂りすぎは血管に大きな負担をかけ、高血圧を引き起こす原因になる。さらに、余分な塩分を体に溜め込もうとしてむくみの原因にもなるから、せっかくのダイエットの成果も水分で隠れてしまうぞ。何事もほどほどにな』
【キムチの代わりに】
『まあ、キムチにかかる費用は今後従来の半値になるんだ。浮いた分で低糖質なヨーグルトでも食べるといいだろう。ヨーグルトなら腸活にもなるし、カルシウムもある。それに、食後のデザートは食事の満足感も高めてくれるしな。これはむしろ進化と言えるんじゃないか?』
『おお、なるほど。その提案素敵です! ありがとうございます!』
京加賀の理路整然としながらも理にかなったアドバイスに、幸子は思わずスマホの画面に向かって大きく頷いた。
その言葉通り、翌日から太田家の冷蔵庫には、新たに低糖質タイプのヨーグルトが常備されるようになった。
お気に入りの発酵キムチが非発酵のものに変わり、一時はどうなることかと焦ったハプニングだったが、結果として塩分の摂りすぎを防ぐことができ、さらに腸活を補う新しい習慣まで手に入った。
思わぬきっかけから始まった小さな変化は、太田家の食卓をより健康的で豊かなものへとバージョンアップさせてくれたのだった。
続く☆
開始時の体重:90.80kg
現在の体重:70.05kg(-20.75kg)
【後書き】
かつて、私自身の減量を大きく支えてくれたのが業務スーパーのキムチでした。
糖質制限ダイエットを始めた直後、割と便秘傾向でした。ですが、このキムチを気まぐれで買い始めてから、非常に便通が良くなりました。キムチすげーって、感じで、もう手放せなくなりました。
ちなみに作中では家族みんなで食べてますが、私の家庭の場合、食べるのは私一人でした。そして、1kgを1人で食べて、1週間持ちませんでした。毎日200g近く食べていたと思います。
しかし、塩分の摂りすぎだと気付いてからは、食事前に娘が小皿に食べる分だけを取り分けてくれるようになりました。おかげで今は1ビンで2週間以上もちます。
ああ、毎日無制限に好きなだけバリバリとキムチを食べていたあの頃が懐かしい…。
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