とある女子高生のダイエット日記 ~シンデレラは目指さないけれど~ 作:クリリ☆
【体重計が褒めてくれる】
10月中旬。日曜日のおだやかな朝の空気を突き破るように、家中に「よっしゃぁあああ!」という激しい絶叫がこだました。
「何事よ、幸子!?」
驚いた母親が慌てて声のする方へと駆けつけると、そこには脱衣所で体重計に乗り、感無量といった表情で力強いガッツポーズを決める幸子の姿があった。
「お母さん、見て……! ついに、60kg台の大台に乗ったわ!」
「へえ、60kg台! すごいじゃない!」
「まあ、69.6kgなんだけどね」
そう言って照れくさそうに笑う幸子だったが、数値の十の位がひとつ繰り下がったことによる達成感は、格別のものだった。思えば、ダイエットをスタートさせたときの体重は90kg台。あの果てしない山を登り続けて、ついにここまで辿り着いたのだ。
ふと、親友である瑠奈の言葉が脳裏をよぎる。
『私ね、体重計に乗るのが毎日の楽しみ。だって、体重計が私の頑張りを褒めてくれるから』
かつてその言葉を聞いたとき、幸子は到底理解できず、遠い世界の出来事のように感じていた。年に一度の体重測定でさえ、太った自分という現実を突きつけられるようで嫌だった。けれど今、あの時の瑠奈の言葉が、自分自身のリアルな実感として胸の中に溢れてくる。
――あの日見た景色と、今の私はつながっているんだ。
今までの人生、勉強だってなんだって、自分なりに努力してきたものは色々とあった。けれどそれらは、目に見える数字や明確な評価として結びつきにくいものばかりだった。自分が感動した事を、SNSで投稿しても、周囲の反応は冷ややかで、ほとんど反応は得られなかった。まるで、自分の存在そのものが意味のないもののように思えてしまう。
だが、ダイエットは違った。
「体重」という誤魔化しのきかない絶対的な評価が、自分の重ねてきた努力をありのままに認めてくれる。これほど嬉しく、誇らしいことが他にあるだろうか。
『ダイエットはRPGのレベル上げみたいなものだ』
いつだったか、京加賀先輩が淡々と言い放った言葉も重なる。
努力したぶんだけ確実にステータスが上がり、その先にいる「まだ見ぬ新しい自分」へと成長していく感覚。
体重計の上で、幸子は全身を駆け巡る小さくもとてつもない高揚感に、じっと浸っていた。
【日常の中に溶け込んだ習慣】
そんな幸子のダイエット生活も、いまや一つの「完成形」を迎えつつあった。
始まったばかりの頃は、食生活を劇的に変えたり、慣れない運動を始めたりと、毎日が新しい試みと戸惑いの連続だった。けれど今では、それらの取り組みが当たり前の日常——切っても切り離せない「生活習慣」として完全に身体に馴染んでいる。
朝食は、手軽で栄養豊富な豆乳と納豆。
昼と夜の食事は、おかず自体は家族と同じメニューを楽しみつつも、主食の米やパンの代わりに、レンジでチンしたシャキシャキの「もやし」に置き換える。
運動面でも、週に2回の高強度なTABATA(タバタ)式トレーニングを欠かさずこなし、週末には気分転換を兼ねて1時間ほどの散歩を日課にしていた。
さらに幸子は、京加賀先輩からのアドバイスを受けて、日常の動線に「とある自分ルール」を組み込んでいた。
幸子の家には、1階と2階の2か所にトイレがある。幸子の自室は2階にあるため、当然ながら2階のトイレを使う方が圧倒的に近いし楽だ。しかし幸子は、どんなに面倒でも「トイレに行きたくなったら必ず1階のトイレを使う」と決めていた。そして、階段を降り切った最後の段で、必ずスクワットを10回行う——というルールを徹底しているのだ。
ちなみに京加賀先輩自身は、階段の段差に片足を後ろ向きに乗せて行う『ブルガリアンスクワット』という、より強度の高いトレーニングを取り入れているらしい。
片脚だけに自重がかかるため運動負荷は一気に跳ね上がり、お尻や太ももへの筋トレ効果は抜群だ。だがその反面、膝や下肢への負担も大きい。
『お前の今の段階でブルガリアンは関節を痛めるリスクが高い。まずは自重のノーマルスクワットからだ』
そう言って先輩からの許可が出なかったため、幸子は素直に通常のスクワットをコツコツと続けているというワケだった。
【日常の隙間に潜ませるトレーニング】
さらにもう一つ、幸子が生活習慣の中に密かに取り入れている筋トレがあった。それが『プランク』だ。
腕立て伏せのような姿勢から、両肘を肩幅に開いて床につき、手のひらを下に向ける。そのまま頭からかかとまでを一直線に保つことで、上肢から体幹、そして下肢に至るまで全身をまんべんなく鍛えられるトレーニングだ。
しかし、これが見た目以上に想像を絶するキツさだった。最初はたった20秒身体を支えるだけで限界を迎え、プルプルと震えて崩れ落ちていたものだ。けれど、地道な継続の甲斐あって、最近では30秒程度なら無理なく姿勢を維持できるようになっていた。
さて、このプランクをどのタイミングで行うかが問題だったのだが、ここでも幸子は独自の「自分ルール」を適用していた。
それは——「スマホでゲームや動画を楽しんでいる最中、広告動画(CM)が流れ始めたら、すかさずプランクの姿勢を取る」というルールだ。
導入したばかりの頃は、たった一本のCMが終わるまでの時間すら耐えるのが辛く、その結果としてスマホの動画視聴そのものが減るという副産物まで生んでいた。
だが、今となってはそこまでのキツさを感じなくなっている。それどころか、スマホから広告の音が流れ始めると、自然と床に肘をついてプランクの姿勢を取っていないと、なんだかソワソワして落ち着かなくなってしまうほどだった。
【継続という最強の武器】
そうして現在、幸子のダイエット生活はひとつの「完成形」を迎えていた。
あとはこれを愚直なまでに継続し、身体の変化に合わせて細かな微調整を加えていくだけ。そしてその取り組みは、体重計の数値という揺るぎない現実となってしっかりと反映されていた。
恐らく、もっと突き詰めればさらに短期間で減量に特化したストイックな生活スタイルもあるのかもしれない。
けれど、何よりも大切なのは「継続すること」なのだ。
特別な我慢や大きな負担を感じることなく、息をするように当たり前の日常として日々を積み重ねていく。それこそが、どんな過激な方法よりも確実で、最強のダイエットなのだろう。
——そうして迎えた、翌月。
11月のとある土曜日、京加賀と瑠奈が通う高校で文化祭が開催されることとなった。
幸子は、事前に瑠奈から誘いを受けていたこともあり、クラスメイトであり大切な「ダイエット仲間」でもある中間(なかま)を誘って、文化祭へ足を運ぶことにしたのだった。
お目当ては——京加賀たちが所属する『健康増進部』が出展する催し物だ。
健康相談や栄養指導などの他、瑠奈も何か発表があると言っていた。そのイベントはきっと自分の生活に役立つヒントがあるに違いない。幸子はその日を待ち遠しく日々を過ごすのだった。
続く☆
開始時の体重:90.80kg
現在の体重:69.60kg(-21.20kg)
【あとがき】
最近、pixivでのイラストや漫画投稿にすっかりハマってしまい、こちらが疎かになってしまってすいません。
完結しないまま放置されてしまう事を『エタる』と言うらしく、それだけは何とか避けたいと考えております。これからも亀更新になるかもですが、きっと役立つ情報をお届けいたしますので、のんびりとお付き合いください。
また、最近の投稿小説には挿絵をセットで入れております。本作も、いずれpixivに投稿予定ですが、その際には挿絵を付けようと考えております。いや、今後過去に遡って挿絵を加えるかも。その際には後書きで報告いたします。
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