とある女子高生のダイエット日記 ~シンデレラは目指さないけれど~   作:クリリ☆

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太る原因は?

京加賀はドリンクのおかわりに行き、ウーロン茶を持ってきて席に座る。

 

「さて、ところで太田、お前は太る原因は何だと思う?」

 

太田はちょっと考える。

食べ過ぎだろうかと即答しようと思ったが、昼の弁当なども他の生徒と比較しても大差はない。自分の太っている原因が食べ過ぎだとも思えなかった。

 

「ええと、体質、でしょうか?」

 

「なるほど、体質か。そうだな、それじゃ念のために確認しておくが、お前は現在、糖尿病や代謝異常などの疾病(しっぺい)で、医師の治療を受けていたりするか?」

 

「しっぺい?」

 

「ああ、病気の事だ。とにかく、何らかの病気で現在治療を受けていたりするか?」

 

「いえ、特には」

 

「そうか、ならばはっきりと言おう。お前の太っている理由は生活習慣にある。誰が言ったか現代格言にこんなものがある。『性格は顔に出る、生活は体型に出る』とな。まあ、この格言はまだまだ続くんだが、興味があれば後でググってみてくれ」

 

「生活習慣ですか。でも、私他の人と比べてそんなに食べてるのかなあ?」

 

そう言いながら太田はジュースを一口飲む。その喉元から全身にかけて、京加賀とは対照的に脂肪に満ちていた。

 

「さて太田、ちょうどお前が口にしているジュース。そいつは太る原因の一つだ」

 

「えっ、これが?」

 

「そうだ」

 

「でもこれ、りんごジュースで、果汁100%って書いてあったので、身体に良いかなと思って」

 

「いいや、残念ながらお前がそのジュースで得られるものは糖質だけだ」

 

「糖質? お砂糖って事ですか?」

 

「直接的にはそうだな。はっきり言うが、太る最大の原因は糖質にある。いいか、お前の全身の脂肪、そいつは過剰に摂り過ぎた糖質の成れの果てだ」

 

そう言いながら京加賀はウーロン茶を一口飲んだ。彼がグラスを口に運ぶたび、袖口から覗く前腕の筋肉が、まるで編み込まれた鋼のワイヤーのように繊細にうごめく。

それは太田が今まで避けていた『自己管理』という戦場を勝ち抜いてきた男の、残酷なまでに美しい肢体だった。

 

「とりあえず順を追って説明しよう。体内に取り入れられた糖質は血液中に取り込まれて全身に運搬される。しかし、過度に取り入れられた糖質が血液中にそのままでいると、血管に大きな悪影響をもたらす。そこで、インスリンと言うホルモンが分泌され、過剰な血液中の糖分、すなわち血糖を脂肪に変換して体内に保管するんだ」

 

「ええっと、血糖が脂肪になるって事ですか?」

 

「結論だけ言うとその通りだ。もう少し分かりやすく説明してやろう。いいか太田、お前が糖質をドカ食いすると、自分の血管の中に『糖質という粗大ごみ』を不法投棄する事になる。そこで体内の『掃除屋であるインスリン』がごみを必死に片付けて、それを『脂肪という名の倉庫』に無理やり詰め込んでいるんだよ。その掃除屋が限界を迎えた時、お前の身体は壊れる。それが糖尿病だ」

 

太田がドキリとして、思わず自分の腹周りを手でまさぐってしまう。そこには非情なる現実である、大量の脂肪が居座っていた。その量はつまめるどころではない、手一杯に掴む事ができてしまう。

 

「インスリンさん、まだ元気ですよね? あの、ほら、糖尿病ってお歳をとった方がなる病気っぽいし」

 

すると京加賀は目を閉じ、悲しそうな表情で首を振る。

 

「いいや、残念ながら最近では10代でも糖尿病の発症例はいくらでもある。お前ももう時間の問題かも知れんぞ」

 

「そんな…」

 

「少なくともお前の中のインスリンは相当酷使されているのは紛れもない事実だ。潰れる前に少し休ませてやるべきだな」

 

太田は愕然とした。太っている事が単に体型の問題だけではなく、重篤な病気になるリスクに繋がっている事は深く意識していなかったのだった。

 

「はい。ではどうすればいいでしょうか」

 

「で、話は戻るがお前の飲んでいるジュースだが、そいつは糖質の塊だ。ファミレスの果実ジュースなど、ほとんどが濃縮果汁還元だからな」

 

「濃縮果汁還元、聞いた事はありますが、それってなんでしょうか?」

 

「言葉のままだ。収穫した果物の果汁を加熱などにより煮詰めて濃縮させる。そして、濃縮した分と同じ比率の水を加えて戻してやるんだ」

 

「どうしてそんな事をするんですか? わざわざ濃縮させるなんて手間じゃないんですか?」

 

「まあ、質量が減る事による輸送コストの削減や、保管スペースの確保、煮沸する事で雑菌を滅し、保存性を高めるためなどだな。だが、その過程でビタミンなどは全て破壊されてしまい、残るのは糖分のみという訳だ。まあ、後からビタミンⅭなどを添加して帳尻を合わせる事もあるが。だがまあ、得られるビタミン以上に糖質を摂る弊害の方が大きい」

 

太田はさっきまで美味しく飲んでいたジュースが、まるで自分の命を削る毒物のように思えてきて、思わずグラスを遠ざける。

 

「太田、りんごジュース飲まないのか?」

 

「何ていうか、飲みずらくなっちゃって」

 

「むしろ丁度いい。糖質の過剰摂取の弊害を知った上で、あえて飲んでみろ。もしかしたら先ほどとは違う味がするかも知れんぞ」

 

「そんな事ありますか?」

 

「人とは思い込みだけでも味覚は大きく変わる。身体に良いと思って食べる物は美味しく感じるし、悪いと思うと美味しく感じない。まあ、生命の持つ防衛本能的なものだな。今のお前なら、きっと先ほどまでとは違うように感じるかも知れないぞ」

 

「分かりました」

 

太田はいっそ残してしまいたかったが、あえてそれを一気に飲み干した。だが、それはりんごジュースなのか、りんご風味をつけたただの砂糖水なのかよく分からなくなっていた。

 

「りんごジュースってこんなに甘い飲み物でしたっけ。何だか無駄に甘いです」

 

京加賀は少しクスっと笑う。確かに多少の変化はあるだろうと見込んではいたが、太田の反応は思った以上だった。

 

「まあ、悪くない反応だ。それなら次からはウーロン茶でも取ってこい」

 

「はい」

 

太田はお代わりにウーロン茶を注いで持ってきた。

席に着いてから一口飲むと、ほろ苦さに何だかホッとする。

 

「今はスマホで簡単に食品の糖質を調べる事ができる。気になったらすぐ調べるクセを付けるといい。ちなみに今確認したが、りんごジュースの糖質は100ml当たりおよそ12gと言った所のようだ。コップ1杯200mlとして、氷の入っている分を差し引くと150mlくらいか。つまりコップ1杯18gの糖質になる。ちなみに角砂糖に換算すると角砂糖1つを4gと想定して、およそ4~5個程度だな」

 

「あの、私、りんごジュース2杯飲んだんですけど」

 

「じゃあ、角砂糖8~10個分ほどの糖質を摂った訳だな。もし果物が食べないなら果実を丸かじりするのがいい。あるいは、最低でも濃縮されていないストレートタイプのジュースがいいだろう」

 

「でも、当分そういうジュースはいいかもです。これからはお茶類にします」

 

「お茶類なら無難だな。だが、缶やペットボトルのコーヒーや紅茶類は気を付けた方がいい。微糖と書かれていても普通のジュースとほとんど変わらない程度の糖質がある。はっきり言って、『微糖は誇大広告』と言っていいだろう。そして、油断ならないのは味付きの水だな」

 

「味付きの水? もも水、みたいなやつですか?」

 

「そうだ。一見透明で水に近い見た目で惑わされやすいが、あれもなかなかの糖質だ。しかも、ジュース類のドリンクは『100ml当たり』という表記が多い。ペットボトル1本500mlだとしたら、実際は表記量の5倍を摂取するわけだからな。まあ、背徳感を薄れさせようと言う企業努力と言う訳だな」

 

「分かりました。これからはそういうドリンクは避けるようにします」

 

「それがいい。それと、究極のドリンクは水だ」

 

「お水ですか」

 

「そうだ。水はあらゆる飲み物の頂点だな。あらゆる不純物を取り除いた透明な色合いの高貴さは、宝石で言えばダイヤモンドだ。飲むものに迷ったら水を飲め。何も考えずに、雑に飲むと物足りなく感じるが、舌で味を味わうよう意識すると、水ほど美味い飲み物はない」

 

そう言うと、京加賀はウーロン茶を一気に飲み干し、再びおかわりに出かけた。その様子を見ながら太田は細井に言った。

 

「京加賀先輩、よく飲むね」

 

「そうだね。実は私も一緒にこういうお店来たの初めて知らなかったけど、案外貧乏性なのかも。それにしても水はダイヤモンド、とか言いながらウーロン茶を飲むのはウケるんだけど」

 

「まあ、せっかくドリンクバーを頼んだのにお水じゃ損した気になるし、普段はお水たくさん飲んでるのかもね」

 

などと言っていたら、すぐに京加賀は戻ってきて席に着き、グラスに口を付け始める。

 

「ふぅ、色々と飲んだが、やっぱ水は最高だな。例えるなら、旅行から帰ってきた時に、やはり自宅が一番だ、という感覚に近いかもな」

 

そう言いながら、今度は水を飲み始める。

 

「ちなみにお茶やコーヒーには利尿作用がある。場合によっては飲んだ以上の水分が出て行く事もあるから、お前達も後で必ず水を飲むようにしろ」

 

太田と細井は目を合わせる。偶然なのか、先ほどの会話が聞こえてしまったのか、内心ヒヤッとした。が、とりあえず笑っておこうとばかりに、二人は笑みを浮かべる。

 

「了解です部長」

 

「どうした細井、何だか顔が引きつっているぞ?」

 

「何でもありません」

 

太田はともかく、細井は明らさまにネタにしていたので少しバツが悪かった。だが、京加賀の反応は普段とあまり変わらない。二人は、先ほどの会話は恐らくは聞かれてはいなかったのではないかと感じられた。

 

「さて、飲み物と糖質の関係は分かりやすかったかも知れないが、それ以上に重要な事がある。それは食事に含まれる糖質についてだ。むしろ、ここからがダイエットの柱中の柱であって、本当の始まりと言えるだろう」

 

「はい、お願いします京加賀先輩」

 

生活は身体に出る。太田から見る京加賀は、肉体美という点では非の打ち所がないように見えた。京加賀がどんな日常生活を送っているのだろうと強い興味が湧く。京加賀の話をもっと聞きたいと感じたのだった。

 

 

続く☆

 




【おまけの解説】

糖尿病は原因不明な1型糖尿病と、肥満や生活習慣病由来の2型糖尿病があります。
2型糖尿病は全体の95%以上とされており、ほとんどが食習慣、生活習慣に問題があります。
症状は異常なのどの渇きや、手足の痺れ、血液の循環不良や抹消の壊死、視力低下など様々。更には血の塊(血栓)が出来やすくなり、その血栓が脳に飛べば脳梗塞、心臓に飛べば心筋梗塞など、重篤な後遺症や、生命に直結する病気になります。
さらに出血が収まりにくく、小さな怪我や手術などでも予後が悪くなる事もあります。

実は私の祖父や伯父さんは糖尿病がきっかけで、別の病気を引き起こして亡くなっております。糖尿病自体が直接的な死因にならなくても、他の様々な病気を引き起こしてしまう恐ろしい病気です。

なお、尿にまで糖が残り、尿が甘くなるから糖尿病というらしいですが、個人的には血糖病みたいな名称の方が実態を表している気がしております。

あなたのダイエット事情はいかがでしょうか?

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