とある女子高生のダイエット日記 ~シンデレラは目指さないけれど~   作:クリリ☆

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砂糖の呪い

スーパーで納豆と木綿豆腐と豆乳を買ってきた幸子と瑠奈は、幸子の家の前に立っていた。

京加賀から家族の協力は必須だと言われていたため、少し気持ちが重かった。というのも、幸子は過去にダイエットに失敗した際、家族にも少し強く当たってしまっていた。もしまたダイエットをするなどと言いだしたら、きっと親は良い顔をしないだろう。そんな訳で、家に入るのに少し躊躇いがあった。

幸子は京加賀の言葉を思い出す。

 

『いいか、家族の協力は必須だ。納得して協力してもらえ』

 

『でももし拒否されてしまったらどうしたらいいでしょうか?』

 

『その時は2度3度、あるいは10度でも20度でも、繰り返し説得しろ。そうすればやがて熱意が届くだろう』

 

『あの、お母さんは一旦置いておいて、自分で頑張るのは駄目でしょうか?』

 

『ダイエットとは生きザマだと言っただろう。ダイエットが幸せに繋がっていなければ何の意味もない。家族の絆を分断してまでダイエットをするべきではないと俺は思う』

 

『でも、以前私はダイエットに失敗した際に母に強く当たってしまって』

 

『その時の事は謝ったのか?』

 

『いえ、もう1年くらい前だし、うやむやになったというか、もう時効かなって…』

 

『家族間の問題に口出しはしたくないが、やはり謝罪はするべきだ。もし過去に母親にキツく当たった事がお前の心のわだかまりになっているのなら、むしろこれはトラウマを解消する絶好のチャンスかも知れない。当時の事を謝罪してから説得に移るんだ』

 

『分かりました。お母さんに謝ります』

 

まずは謝罪。そう思うと気持ちが重かった。しかし、ここを乗り越えないときっと前に進めない。ダイエットをするとは生まれ変わる事。覚悟を決めろ。幸子は自分に言い聞かせる。

 

玄関のドアノブに手をかける。しかし、どうしても踏ん切りがつかなかった。その時、ふと京加賀との初対面の時のことを思い出した。

最初ファミレスで会った時、京加賀は幸子の態度に強い不満を持ち帰ろうとした。しかし、その際に放った一言が幸子を傷つけたと考え、明らかに立場が下の相手の幸子にも謝罪をした。

その誠実な態度に、幸子は京加賀の事を信頼できる人だと思えるようになり、話を聞きたいと思えた。

 

やっぱ謝罪しなきゃ始められない、私は前に進みたい…。

 

「それじゃ行くよ」

 

「うん頑張って」

 

幸子は意を決して中に入る。

 

「ただいま」

 

するとキッチンの方から母親の声が聞こえた。

 

「おかえりー」

 

母親は夕食の準備をしている様子だった。

 

「それじゃルナちゃん、最初は私一人で話してみるから、ルナちゃんは少しだけここで待ってて」

 

「うん」

 

キッチンの入り口で瑠奈に待機しててもらうと、幸子はキッチン内に入っていった。

 

「お母さん、少し相談があるんだけど」

 

「うん、どうしたの?」

 

母親は夕食の準備に鶏肉をカットしていたが、幸子の声のトーンがいつもより重々しく、神妙なムードを感じた。

 

「あの、お母さん、1年前、ダイエットした時にお母さんにキツく当たってごめんなさい」

 

そう言いながら幸子は母親に向かって頭を下げた。

 

「えっ、ああ、別にそんな、気にしてないわよ」

 

いきなりの謝罪に母親は驚きの表情を浮かべ戸惑いを見せる。

 

「それでお母さん、それで一つお願いがあるの」

 

「お願い?」

 

「私、もう一度ダイエットしようと思って」

 

「そうねえ、でも無理しなくてもいいんじゃないの」

 

「別に無理してる訳じゃない」

 

「そうだとしても、別に焦らなくなって、世の中にはありのままの幸子の良さを分かってくれる人がいるわよ。ダイエットなんかしなくたって、そのままでも十分に幸せになれるわよ」

 

「それじゃ、そんな人と出会えるまでひたすら待ち続けてればいいの?」

 

「そうね。お母さんも、お父さんに出会えた訳だし」

 

ちなみに母親の体型も幸子とほとんど変わらない。二人揃って肥満体型だった。

 

「私はイヤよ。どうして、いるかどうかも分からない、そもそもいたとしても私が好きになるかも分からない、そんな誰かのために私が我慢しなきゃいけないの?」

 

「幸子」

 

「私は、見も知らない誰かのためにダイエットをするんじゃなく、自分のためにダイエットをしたいの。自分を好きになりたい、鏡に写る自分を見て可愛いって思いたいの」

 

「でも、太っちゃうのはきっと体質よ。お母さんだって痩せてた事がないもの。こればかりは仕方ない事なのよ。仮に一時的に上手くいったとしても、きっとリバウンドしてしまうわ」

 

「そうじゃないよ、太る原因が分かったの。ちゃんと体重管理すればきっとできるから」

 

「でもねえ」

 

これ以上、言葉での説得は難しいと感じ、幸子は瑠奈を呼ぶ事に決めた。かつて自分とほぼ同じ体型だった瑠奈を見せれば、きっと母も納得するのではないかと考えた。

 

「それじゃ、ちょっと待って。ルナちゃん、来てもらっていいかな」

 

「うん、それじゃ失礼します」

 

幸子に呼ばれて瑠奈がキッチンに入ってくる。

 

「あの、こんにちはさっちゃんママ」

 

「あら、あなたは? 何となく声は聞いた事がある気がするんだけど」

 

「私は瑠奈です。以前よくさっちゃんと遊んでいた」

 

そう言われ、母親はビックリした。母親の中の瑠奈も、幸子と変わらない体型で、まるで双子のようだったからだ。しかし、目の前の少女は明らかに細かった。

 

「まあ、あのマシュマロみたいだったルナちゃんが、わあ、見違えたわねえ」

 

「はい、昨年からダイエットを始めまして」

 

「人って変われば変わるものねえ」

 

「はい。それでさっちゃんも一緒にダイエットしたいなと思いまして」

 

「なるほどね。ルナちゃんが一緒にやってくれるなら、今度こそ続けられそうね。分かったわ、お母さんも協力する」

 

そうして母親の理解も得られ、ようやく重々しかった空気が、ふわっと和らぐ。

 

「ありがとうお母さん」

 

「まあ、もしかしたら女の子が一方的に待つ時代じゃないのかも知れないしね。あなたのやりたいようにやってごらんなさい」

 

「うん、やってみる」

 

そうして、幸子にとってようやくダイエットのスタートラインに立つことができた。京加賀から基礎的な知識は学んでいる。後は実践に移すだけだ。

 

「ところでお母さんは何を手伝えばいいの?」

 

「えっと、実は今晩からお米を抜こうと思うんだ。その代わりにお豆腐を食べる事にしたの」

 

「ご飯の代わりにお豆腐ねえ」

 

「それ以外にも、できるだけ糖質を抑える食事にしたいんだ」

 

「糖質? お砂糖のこと?」

 

「うん、直接的には糖質だけど、それ以外にも炭水化物は糖質が高いんだって」

 

「炭水化物ねえ。そう言えば今晩のおかずは鶏の唐揚げなんだけど、衣とかに使う片栗粉も良くないのかしら?」

 

すると瑠奈が答えた。

 

「それくらいならわずかではありますが、できるなら唐揚げより照り焼きか何かの方が良いですね。糖質だけでなく、油分も抑えられますし」

 

「じゃあ、今日は鶏の照り焼きにしましょうか。ちょうどさっき鶏肉をカットして、下味を付けてたところなの」

 

「下味?」

 

「醤油に、おろしにんにく、おろししょうがを混ぜた調味液にカットした鶏肉を漬け込んでいた所なのよ。それに、最後に隠し味に砂糖を大さじ1杯入れようと思ってた所だったのよね」

 

「砂糖を入れるんですか?」

 

「砂糖を加えるとコクが出て、肉質も柔らかくなるのよ」

 

「結構料理にお砂糖を入れる事が多いんですか?」

 

「そうねえ、煮物とかにもちょこちょこ使うし、1カ月で1kgの砂糖をちょうど1袋くらい使ってるかしら」

 

それを聞いて幸子は驚きの表情を浮かべる。今まで自分は知らない間にそんなに糖分を摂っていたのかと愕然とした。自分は決して人よりは大食いじゃないと思っていたし、もしかしたら太っているのは体質のせいじゃないかと思っていたのが何だか恥ずかしくなった。やはり自分は太るべくして太っていたのだと気付かされる。

 

幸子はふと、シンクの横に積まれた1kgの砂糖の袋を見つけた。ずっしりと重い1kgの塊。それが毎月、自分の身体の中を通り過ぎ、お腹や背中に蓄積されていたのだ。

 

「お母さん、いつもそんなに砂糖を使っていたの?」

 

「でも、幸子も美味しいって食べてくれてるじゃない」

 

「…うん、美味しかったよ。でも、その美味しいが私を縛っていたんだね」

 

あの中身がまるまる自分の脂肪になっているのかと思うと、ゾッと背筋に冷たいものが走った。さらに瑠奈が言った。

 

「実は私の家も料理に結構お砂糖を使っていたんですが、私もママに言ってお砂糖を控えてもらったんです。確かに最初の頃は味に物足りなさを感じていました」

 

「やっぱお砂糖を入れるとお料理が美味しくなるんじゃない」

 

「いえ、【甘くない=美味しくない】って感じていただけなんです。これはもはや砂糖の魔力、いえ、砂糖の呪いだと思いました」

 

「砂糖の呪い」

 

「はっきり言って、糖質には中毒性があります。ですが、これを断って2週間くらいしてくると、だんだんその味に慣れてきて、特に物足りなさを感じる事はなくなりました。むしろ素材の味をより感じられるようになって、食事が美味しくなった気さえします」

 

「なるほどねえ」

 

「ねえお母さんお願い、うちの料理もお砂糖を止めてみて」

 

「そうねえ」

 

「さっちゃんママ、甘みを加えたいならみりんを少しだけ入れてみたり、肉質を柔らかくしたいのなら、調理酒や無糖のヨーグルトを入れて漬け込むのもおススメですよ」

 

「なるほど、それじゃ今日の所はお砂糖を入れるのは止めて、お酒を少し加えておくわね」

 

「うん」

 

そうして夕食の準備を進める。そして、その日は瑠奈も一緒に食べていく事になった。調味液に漬け込んだ鶏肉を焼き、それにえのき茸を加えて炒める。それに、仕上げに大根おろしを加えて、締めにもう一度軽く炒めた。

 

そして幸子の茶碗には白米の代わりに豆腐が入っていた。そして瑠奈は茶碗の代わりにお皿にキャベツの千切りが乗っていた。

 

「それにしても不思議な絵面ねえ。ご飯の代わりにお豆腐にキャベツの千切り。本当にご飯がなくていいの?」

 

「うん、試してみる」

 

「それじゃいただきましょう」

 

そうして幸子は照り焼きを食べて、そのままご飯代わりに豆腐を食べた。

 

「あ、普通におかずに合う。と言うより、むしろご飯が邪魔をしない分、お肉の味がいつもより分かる気がする。美味しい」

 

「ネギやしょうが、薬味があるといいかもね。味が物足りなかったら少しお醤油を足してもいいし」

 

「私、このままで全然イケちゃうかも」

 

そう言いながら豆腐を平らげていく。

 

「さっちゃん、食べるスピードにも注意だよ。早食いは食事の満足度を下げちゃうから」

 

「そうなの?」

 

「食事の満足度は、【 満足度 = 食事時間 ✕ 食事量 】みたいになるよ。だから、ご飯をたくさん食べても、あっという間に食べ終わっちゃうと何か物足りなさを感じたりするし、逆に時間をかけると割と少ない量でも結構満足しちゃったりするんだよね」

 

「確かにそんな感じするかも」

 

「そのためにはたくさん噛む事が大事らしいよ」

 

「たくさん噛むのかあ、普段あまり意識してないから難しいなあ」

 

「何でも慣れだよ、ちょっと気を付けてるとすぐ習慣になるよ」

 

「分かった、やってみる」

 

幸子はいつもなら3分で茶碗を空にしていたが、今日は豆腐一つを食べるのに10分をかけた。何と言ってもお代わりがない。早く食べてしまっては勿体ないと思い、自然と食べるスピードが落ち着いた。

 

そうしてご飯の代わりに豆腐に置き換えた夕食を終えた。ご飯は一切食べなかったが、意外なほど違和感を感じなかった。そうして、いよいよ幸子のダイエット生活がスタートしたのだった。

 

「それにしてもルナちゃん、体重の最終目標は何キロくらいなの?」

 

「私の目標は46kgくらいかな」

 

瑠奈の身長も幸子と同じ160cmあった。そんな瑠奈が46kgと口に出している事が、幸子には別世界の住人のように思えた。

 

「ええー、そんなに!? すごいね」

 

「うん、これくらいの体重をシンデレラ体重って言うんだよ」

 

「シンデレラ体重?」

 

「うん、芸能人やモデルさんに多い体重なんだって。すっごいキレイな見た目なんだよ。さっちゃんも一緒に目指そうよ」

 

「46kg…」

 

今の自分の、約半分。その響きに幸子は眩暈(めまい)に似た憧れを感じた。

 

シンデレラ。王子様に見初められ、人生を逆転させた少女。

 

しかし、その『シンデレラ体重』という言葉が、京加賀の言う『健康的な生きザマ』と真っ向から衝突することを、今の彼女たちはまだ知らなかった。

 

 

続く☆

 

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