『プリンプリン物語』で『グノーシア』パロ   作:つるみ鎌太朗

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 目が覚めた時、いつもの真っ白い天井が見えた。

 見覚えのある人形めいた美貌が見下ろしてくる。

 硬質な光を宿した鈍色の瞳がプリンプリンをとらえて、わずかに収縮する。

 

「……おはよう、プリンプリン。泣いているの?」

 

 トントンだった。彼の肩にはモンキーがしがみついて、同じく心配そうに覗き込んでくる。

 プリンプリンは自分が泣いていることに気づいた。

 まだ胸の奥がズキズキして次から次へ涙があふれてくる。

 起き上がることができずプリンプリンは手で目を覆うと、声を殺して泣いた。

 

 まぶたの裏でボンボンの白い髪がまだ揺れている気がした。

 

 

「僕は別の宇宙のきみに、その異様な宇宙のことを聞いていたんだ――」

 

 廊下を歩きながらトントンが教えてくれた。二人より少し先でモンキーが軽やかにスキップしている。

 新たな議論に続く回廊が途方もなく長く感じられた。

 

「その後、何十回ループを重ねてもボンボンがバグだった宇宙のことをきみは忘れられずにいた。

どれほどの衝撃だったか……聞けずにいたけれど、きっと深く傷ついたということだけはわかった。

あの時の議論で、ボンボンがやたらきみに執着しているから確信したよ。

『ああ、これがプリンプリンの言っていた宇宙か』

と」

 

 トントンの低い声が白光に照らされる空間に響く。

 彼は悔しがっている様子だった。

 

「きみが傷つくのがわかりきっていて、何もしないほど僕は冷淡じゃない。

何とかしてボンボンを先にコールドスリープできないか考えたさ。

だが彼はなんの役職にも名乗りでていないし、議論に参加どころか基本的なルールすら理解していない。誰からも疑われていなかった。

カセイジンが気づいているようだったから票を入れてくれないかと賭けに出てみたけどね。

結果は……きみも知ってのとおり。

自分が白出ししている相手に票を投じるほど彼は愚かではない。あの時点ではバグを泳がしたんだろうね」

 

 カセイジンが異様に怖がっていたのはそのせいだったのか。

 やはりトントンとカセイジンは他の乗員より抜きん出て賢い。

 プリンプリンはボンボンが本格的に議論へ口出ししてきてから、やっと気がついたのに。

 

 トントンが横で苦笑する。

 

「きっと『銀の鍵』が僕を役者じゃない、と追い出したんだろう……それで、どんな『知』を手に入れたんだい?」

 

 プリンプリンは手のひらを掲げて『銀の鍵』を取り出した。

 ボンボンについて、これまで明かされていなかった最後のピースが埋まっている。

 

――――――――――――

 

【ボンボン(バグ)】

 ルゥアンの騒動からプリンプリンが生死の境をさまよったのち、彼女を失うのを極端に恐れている。

 元よりプリンプリンに執着ぎみだったが恐怖によりさらに増した。

 

――――――――――――

 

 文章にしてみると呆気ないが、それがどれほどの想いかプリンプリンは身をもって知った。

 

「……なるほどな……。

これは、ちょっとやそっとでは知り得ない。彼のトラウマに直結しているからね」

 

 トントンがくぐもった声で言う。

 つまりボンボンの知られたくなかった心を『銀の鍵』が無理にこじ開けたということだ。

 あの残酷な宇宙でなければ彼の本心を引き出せなかった。

 

 自らにすくう『銀の鍵』の身勝手さにプリンプリンはまた涙する。

 

「わたし。ボンボンのこと、何も知らなかった……」

 

 これまで自分は『みんなについて知りすぎた』と考えていた。

 仲良くなるたびに、もしくは憎み合った果てに、知りたくない一面まで見せられているのだと。

 

 だがフタを開けてみれば誰のこともわかっていなかった。

 

 マノンが正しいことのために愛する人に背くと決めたのも。

 ベベルがグノースに逆らえずに愛する人に手をかけるしかなかったのも。

 そして、ボンボンが自分のために一生消えない心の傷を負っていたことも。

 

 みんなのいた宇宙を無意味にした罪の重さに耐えきれず、プリンプリンはその場に座り込む。

 いちど溢れ出したら涙が止まらない。

 

「わたし、わたしは……どこかで驕っていた。他の人よりもよくわかっているから上手くやれる、って。

でもダメだった。わたしは誰も助けられなかった」

 

 幼子のように泣きじゃくり、自分を責めつづける。

 

「わたしがもっと、みんなの声に耳を傾けていれば――誰かのことを救えたかもしれない。宇宙は残っていたかもしれない。

マノンから目をそらさなければ彼女の死を無駄にしなかった。ベベルだってあんなに傷つかずに済んだ。

それに、わたしが最後にボンボンを拒まなければ……ボンボンだけでも旅に戻れたかもしれない」

 

 プリンプリンがあんなことを言わなければ、ボンボンは世界に絶望せずに済んだ。

 彼はプリンプリンをただ「失いたくない」と恐れていただけなのに。

 突きつけてしまった――『人でなければいらない』と。

 

「消え、ちゃった」

 

 プリンプリンがいなくなったから彼はあの宇宙で生きていけなくなった。

 ゆえに世界は壊れた。

 あの宇宙には二度と戻れない。もう、あのボンボンには会えない。

 プリンプリンに『そばにいてほしい』と泣いていた彼に手を差し伸べる機会は永遠に失われた。

 

「ボンボンが、宇宙ごと……消えちゃった」

 

 その引き金を引いたのは誰だ。

 答えを知るのは今、彼と最後の時を迎えた記憶がある者だけ。

 

「わたしが消してしまった」

 

 プリンプリンはあのボンボンへ謝ることさえできない。

 泣きつづけているとトントンもその場でしゃがんだ。彼は唇を噛み、何かを言おうとして留めた。

 その代わりプリンプリンを抱き締める。

 

「……消えてなど、いない。どの宇宙も、あらゆる可能性のひとつに過ぎない!

ボンボンは一人しかいない!

だから、これから無数の宇宙で会う彼も……消えてしまったボンボンと同一人物なんだ。同じ人間だ!

きみは、彼を消してなんかいない‼︎」

 

 トントンの腕は思っていたよりも力強かった。

 あの宇宙のボンボンの手よりも大きくて、プリンプリンをすっぽりと覆い隠してしまう。

 この腕が、今だけはプリンプリンを新しい宇宙から遠ざけてくれた。

 まだボンボンのいた宇宙の傷から立ち直れていない彼女のことを。

 

「僕が、きみのためにもっと優しい宇宙を探す。

哀しいループから救い出してみせる――そして、きみの両親が待つ祖国へつながる宇宙に必ず送り出す」

 

 そこまで言ってトントンの声が震えた。

 プリンプリンから表情は見えないが、泣きだしそうな声だった。

 

「だから……そんなに泣かないでおくれ。プリンプリン……」

 

 その時、廊下の向こう側からパタパタと元気のいい足音が近づいてきた。

 モンキーの鳴き声もする。そういえば先に行ってから姿が見えなくなっていた。

 やがて足音が止み、トントンの肩ごしに白い髪が見えた。

 

「――何をしているんだ!」

 

 暗闇ではなく、船内の煌々とした白光に照らされた白い髪がふわりと揺れる。

 碧の目は怒りで吊り上がっていた。

 

「こ、こんなところで抜け駆けして!

この、恥知らず! ハレンチ! すけべ、ヘンタイ!

おれのプリンプリンに……許せねえ!」

 

 ボンボンがいつものようにヤキモチを妬き、肩で息をしている。

 言われてトントンは自分が何をしているか気づいたらしい。

 慌ててプリンプリンから身を離した。

 

「これは、プリンプリンが転んでしまったのを支えようとして仕方なく。決していかがわしい真似ではない」

「嘘つけ、目が泳いでる! ったく油断も隙もありゃしないッ!」

 

 釈明するトントンを指差しながらボンボンが喚き散らす。

 その彼が、あまりにも普段どおりで。

 あんな宇宙の崩壊を招いたとは到底思えなくて。

 

 プリンプリンはその場で目を丸くした。

 

「キィ」

 

 ボンボンとトントンのやりとりを横目にモンキーが呑気にしっぽを揺らしている。

 ちょっとだけ誇らしげだった。

 プリンプリンがモンキーと目を合わせていたら、急にボンボンがこちらへ足早に近づいてくる。

 トントンとの間に割って入り、片膝をつかれた。

 

「プリンプリン、転んだって大丈夫?

ケガは……治った? 傷口ひらいたりとか、ない?」

 

 碧の瞳にプリンプリンの姿が映っていた。

 ひどい顔だ、とぼんやり思う。

 

「……泣いていたの?」

 

 ボンボンも気づいたのか尋ねられる。

 プリンプリンは涙の跡をとっさに隠した。

 

「どこか痛むなら、無理に議論へ参加しなくていいよ。モンキーに『きみが起きた』って言われたから迎えに来てみたけど……」

 

 そこまで言ってボンボンがハッとした顔をする。

 プリンプリンの手を取り、説明してくれた。

 内容はわかっていた――。

 

「あのね、プリンプリン。

目覚めたばかりで大変だけど、この船にグノーシアが潜んでいるんだって。あの、ルゥアンをぶっつぶした奴らがさ。

そいつら嘘をついて邪魔な乗員を消してから、この船を乗っ取ろうとしているんだ!」

 

 幾度となく聞いた概要。

 また戻ってきてしまったのだ――グノーシアが出現したばかりの初日に。

 

「だからねえ、プリンプリン。もし、議論に参加するならだよ」

 

 ボンボンの記憶もリセットされている。

 そのはずなのに。

 彼はあの宇宙のボンボンと同じ瞳を糸のようにして、口から八重歯を覗かせて、笑うのだ。

 

「おれがきみを守ったげるよ。協力して敵をやっつけようよ。

二人で最後まで生き残るんだ! オサゲや、カセイジンのことも助けてやってさ。みんなで旅を続けよう。

きみとならナンだってできる。

きみさえ信じてくれるなら、どんなことだって。

 

ね、おれを信じて。この手を取って。

そしたら絶対に離さないからね」

 

――『この世界にきみとふたり』 おわり――

 





あとがき

 ヤンデレバグのボンボンを書きたかった。

 ……身もフタもない言い方をするな(笑)
 こんにちは、つるみです。
『グノ一シア』アニメ、めっちゃ面白いですね。毎週視てます。
 数年前にゲームをプレイしたらどハマりしたので感慨深いです。
 きれいな映像! ピッタリのキャスト陣! 原作の大筋をなぞりながらも『そうなるかあ』と感心する『人狼』ゲームのゆくえ。
 ゲームのアニメ化かくあるべし、といった内容で大満足っス。
 OPとEDもめっちゃカッコイイもんね。エンドレスで聴いちゃってる。
 そしてレムナンくんかわいいね。推しが動いて喋ってるだけでも尊いのに、出来も高クォリティで言うことなーし。

 ……『プリンプリン物語』の話をしようか?
 (*^-^*)ゞテヘヘ もちろん毎週視てますョ。そろそろアク夕編も終わりますね。
 そんなアク夕編からも今回のクロスオーバーパロに参戦してもらっ……

 ベベル兄さんのファンの方、すみませんでした。石を投げないで。

 いや、実はホントはこれ、二ページ漫画にする予定だったんですよ。その時にナンとなく最後に対峙しているのがべベルだったんです。彼がグノ一シアと確定していて、もう凍らせるしかねえ! という状況でした。
 そんで二ページでプリンプリンと二人で残ったけど、ボンボンがバグじゃん! ヤンデレ化してるじゃん!
 みたいなオチだったんです。

 それを急に小説にするから、こんな長々と敵役として出ていただくことに。
 何度も『本来のべベルはこうじゃない』と本文に差し込みましたが、嫌な方は嫌でしたよね。
 ごめんなさい。
 でも『優しい人が情を捨てたら怖い』っていうのは真理ですよね。
 原作のベベルも途中までは復讐を考えていた。それが迷いが生じるようになった。
 彼がもうすこし非情だったら展開は全然違っていたかもしれない。
 別の生き方を考えるようになって……この二次創作でもセリフの引用をしていますが夢を語る場面は切なかったですね。
 
 マノンについて。
 最終日のリザルトで明かされていましたが、彼女が『守護天使』だったのですね。
 すこし補足しておくと彼女は初日〜二日目はベベルを守っていたんですよ。だけどこの宇宙ではベベルがグノ一シアだから意味のない選択だったのです。
 結局、二日間守護失敗している。
『何かがおかしい……』と悩んで三日目を迎えたら、ベベルがオサゲちゃんをかばいつづけてるでしょ。
 そこでやっと『この人を守ってもどうしようもないかもしれない』とわかって、最後の最後に真エンジニアのプリンプリンを守った。
 しかし本文に書いてあったとおり、ベベルがプリンプリンを襲撃対象に選ぶメリットはなし。さらに役職持ちなのでマノンが守護天使だった場合、守護対象に選ぶ可能性も高い。実際に選んでますからね。
 そしてボンボン襲撃は意味がない。バグはグノーシアの襲撃を無効化しますから、無駄撃ちになるだけです。
 つまり自らのことは守れない守護天使を襲撃するのがあの時点で最適解だったのです。

 あとトントンが『あの海のリンリン』(※過去に投稿した長編。原作の十九年後の子世代ねつ造小説)に続いて登場しましたね。
 ……キャラとして好きなんだよ(笑)
 CP固定派なので最終的にはボンプリにしちゃいますが、トントンとプリンプリンはボンボンとはまったく違う関係性なので、つい書いてしまいますね。
『グノーシア』におけるセツのポジションはトントンのほうが合ってますし。
 このお話でも最後にトントンが出てきて慰めてくれたのが救い。一人きりでプリンプリンが抱えていたら心が壊れてしまうよ。
 いつもナンか出すわりにプリンプリンと良い仲にしきれなくてすまねえ……!!
 わたしがボンプリ民ですまない……!!
 でもトントンもベベルも原作でプリンプリンが好きですからね。それを無視してお話を作るのはキャラクターをねじ曲げてしまうから……。
 他CPがお好きな方は当て馬っぽくなってごめんなさいね。

 最後に最推しのボンボンについて語ってみましょうか。
 たぶん、こういう議論がいちばん苦手なタイプだよね。考えるのがニガテ、っていうのもそうだし、嘘をつくのが嫌いっていうのも致命的だ。
 じゃあどうするか、ってーと三日目みたいに感情で押し切ってもらうしかないんですよね。
 でもそれが擦り切れた心に響いてしまう。
 論理的にはおかしくても、
 『好きだから』
 とかいう理由でみんなから凍らせられない。
『グノーシア』あるある(笑)
 だからマノンが『人間だと言え』スキルで宣誓拒否からヘイト集めさせたのはかなりの良アシスト。
 それを無視したのが今回の宇宙の敗因でした。

 バグだから、わざわざ嘘をつく必要がない。存在が爆弾である以外はいつものボンボン。
 それを消すとな? いやいやいやいや……

 というのが最難題になっていました。

 結局このお話のプリンプリンはボンボンを最後まで残し、宇宙崩壊を招いてしまったワケですが。
 最後のシーンはかなり初期から決まっていました。タイトルも最初から決まっていたので、そこに向けて書いていました。

 でもタイトルがネタバレすぎるよなぁ、と思って伏せました。

『実績解除』という形でタイトル回収させましたが、実際の『グノ一シア』でのリザルト画面の文章は違います。実績解除はあんなふうに出てこない。
 ただ、あくまで『グノ一シア』風なので雰囲気を優先させました。
 あれ? こんなんじゃなくない? と思われた方は正しいです。

 あと、ボンボンがプリンプリンへ最後に伝えようとした言葉は、

『だいすきだよ』

 です。
『愛してる』じゃ大人びてしまうので、そこは拘りたい。
 原作で言ってたよーな気はするが、それはそれだ! このお話では『だいすきだよ』なんだ!

 伝えたかったけど間に合わなかった。
 他の人が断罪されてるのにボンボンだけ何もお咎めナシなのは変だよね。
 だから一番伝えたかったことを彼は伝えられなかった。

 という全員が全員して不幸になった宇宙でした。
 救いはなかった。

 メッチャ暗いお話になりましたが、誰がどの役職か予想しながら読んでくださった方はありがとうございます。
 当たりましたか?(*^^*)
 ではでは、今回はこれで失礼します。また何か書いたら投稿するので、よかったら読んでやってください。

   つるみ 2025.12.21
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