『プリンプリン物語』で『グノーシア』パロ   作:つるみ鎌太朗

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【Day3-2】

 

「アンタ、さっきからチョットうるさいな。喋りすぎじゃない?」

 

 議論卓で頬杖をついてベベルをまっすぐに見据えている。

 ボンボンだった。

 薄い口に笑みが張りついているが碧い目は笑っていない。

 ベベルも瞬時に気づいたのか機嫌を害したように言う。

 

「……私は自分の推理を説明しているだけだ」

「へえ、ずいぶんと長々話さないといけないんだね。

ノド乾かない? 飲み物でも持ってこようか?」

 

 ボンボンは完全にベベルを挑発していた。

 冷静なベベルはさすがに乗ってこないが、彼のペースを乱すのに成功している。

 しかし、これまで築き上げたシナリオを崩すまでには至っていない。

 まるで綱渡りのようなボンボンのやり方をプリンプリンはハラハラしながら見守っていた。

 ボンボンはなおもベベルを煽りつづける。

 

「そんな必死こいて喋っちゃ疲れるだろ。

――そうしなくちゃいけない理由があるのかなァ?」

 

 疑問を口に乗せながら横目でマノンを見た。

 

「ねえ、マノン。きみはどう思う?」

 

 急に話を振られたマノンが目を瞬かせる。

 

「ああ。そうだな……」

 

 彼女はすこし考え込んでから重苦しい口調で発言した。

 

「きみが話を遮るまで納得しかけていたけど……冷静になって考えると兄さんの推理は一方的すぎる気もしてきた……」

 

 実の妹から思わぬ言葉をかけられたせいか、ベベルの顔にわずかに焦りが生じる。

 先ほどまでは彼が完全に場の空気を支配していた。だからこそ多少強引でも信じさせる勢いがあったのだ。

 だがボンボンが冷や水を浴びせかけてきた。いちど流れを止めてしまえば溜め込んだ熱気も霧散するというもの。

 ベベルの論理が消えた訳ではないが無理やりにでも話を切り上げることができた。

 

 プリンプリンはボンボンに感謝する。

 議論の流れを堰き止めてくれた……。

 

 閉口したベベルをよそにボンボンが話を進める。

 

「だってさ。だから、アンタの話ばかり聞いても不公平だよ。

もっと別の相手の話も聞きたいなあ……例えば」

 

 目線を動かしながら、彼の顔から笑みが徐々に消え――

 

「オサゲ。おまえ、よくもプリンプリンにそんなことが言えたな、え?」

 

 純度一〇〇パーセントの怒りが昨日まで仲良しだったオサゲへぶつけられた。

 予想はしていたのかオサゲは身構えていたものの、想像以上に低いボンボンの声にヒッと息を呑んだ。

 彼の怯えようにボンボンは呆れ顔。

 

「ナンだよ、そっちが先にプリンプリンをなじったクセに。

自分が言われたら黙るのか? ……ったく、胸糞悪ィ……」

 

 小声だったが聞かれても構わない様子でボンボンが悪態をついた。

 柔らかく白い髪が顔にかかるのすらわずらわしいようにかきわける。

 

「オサゲ。おれたちって、アルトコからここまでずーっと旅してきた仲間だよな?

プリンプリンのためにみんなで協力してやってきたハズだ。プリンプリンの祖国を見つけるために!

それを、お前さん昨日からナンだ?

『トントンはプリンプリンばかりひいきしてる!』だの『ぼくをグノーシアだなんて、ひどいやプリンプリーン!』だの、まるでプリンプリンが悪いようにさ。

何かプリンプリンに恨みでもあンのか?」

 

 一気にまくしたて、あごをしゃくるボンボン。

 オサゲがたじろぎながら答えた。

 

「う、恨んでるとか、そういうんじゃない……だって、ぼくのことグノーシアだって言うから!」

「ウン。だから?」

「だから、って……だってグノーシアって人を襲う、から……」

「それで? お前さんがプリンプリンを責めたのと何か関係があるのか?」

「ボ、ボンボン……」

 

 まるで聞く耳を持たない友だち相手にオサゲは目に涙を溜める。

 昨日まで彼らは確かに親友だった。

 だが今はもう二人の間には大きな亀裂が走っていた。

 ボンボンがため息をつく。

 

「オサゲ……お前さん、勘違いしてるよ。おれはさぁ、お前さんがグノーシアかどうかの話をしているんじゃない。

お前さんが、プリンプリンをなぜ悪者に仕立てあげようとしているのか聞いてるんだ」

「プ、プリンプリンだってぼくんことグノーシアだって診断してるよ」

「診断したってだけだろ。お前さんみたいに『ひいきだ〜』、『酷いヤツだ〜』とかプリンプリンが一言でも言ったか?

……言ってねえよな? 『診断でそう出た』としか!」

 

 ボンボンに指摘されてオサゲが再び口をつぐんだ。

 

「おれたちはこれまでプリンプリンのために頑張ってきたのに。

友情をないがしろにするなんて、最低だ。

――見損なったよッ!」

 

 ボンボンから裏切りの烙印を押され、オサゲが肩を震わせて黙り込む。

『グノーシアであるかどうかの話はしていない』。

 この言葉がオサゲの反論を封殺した。

 

 ボンボンが問うているのは『友情』の重さ。これまで彼らが育んできた信頼についてである。

 

(意図的なのかどうかはともかく、論点をすり替えたわ……)

 

 強引ではあるが話を有利に持っていこうとするボンボンの手腕に、プリンプリンはすこし感心した。

 プリンプリンの不審な点よりも、オサゲがこれまでの友情を切り捨てた点を他の乗員の前で指摘する。

 マノンのほうを見ると彼女もオサゲの挙動を気にかけている。

 

(すこしかわいそうだけど……オサゲもうろたえているし、今日は乗り切れそう、かな)

 

 プリンプリンが楽観視していると一声かかる。

 

「ボンボン、すこしいいかな」

 

 べベルだった。

 ボンボンが苛立ったように彼へ目を向ける。

 

「……なに? まだ話し足りないの?」

「そうだな。でも無実の人間が吊るし上げているのに黙っているワケにはいかないよ」

 

 ベベルは意を決したようにボンボンへ切り出す。

 

「きみの主張は、この場にふさわしくない。もはや人格非難になっているじゃないか……。

オサゲは彼女がグノーシアである可能性から疑惑を向けただけだ。それに対し、きみは論点をすり替えて彼を攻撃している」

「先に非難したのはどっちだよ。のっけからプリンプリンばかり責めやがって。

アンタに言われる筋合いはこれっぱかしもないね」

「それは……」

 

 マノンからも自身の一方的な物言いに言及されたばかり。ベベルの返しも弱い。

 だがそこは元来の胆力で越えてきた。

 

「私も話し合いを終わらせたいばかりに焦ってしまった。それは認める。

しかし……きみは議論をいたずらに引っ掻き回しているだけだ。今は子どもの駄々に付き合っている場合ではない」

「……!」

 

 ボンボンの顔がサッと朱くなる。

 面と向かって『大人げない』と言われ、怒りと気恥ずかしさがないまぜになったような表情だった。

 彼を黙らせ、ベベルはゆっくりと語りかける。

 

「ボンボン、私は個人の感情を抜きに話をするべきだと考えている。

オサゲもきっとそのつもりだ。きみたちを疑うのは、彼だって辛いハズ。

しかし……それよりもまず人命が優先されるべきだ。これ以上、犠牲を出さないために速やかに事態を収拾させなければならないよ。

きみもきのう言っていたことじゃないか? ――怒りに我を忘れたか?」

「……」

 

 ボンボンも自身の発言を持ち出されると返す言葉がないようだ。

 相手の返事がないと見るとベベルも元の調子を取り戻してくる。

 

「ボンボン、きみが感情的になりやすいのは優しいからだ。仲間思いだからこそ裏切りに敏感なのだろう……。

しかしもっとよく考えなくてはならない。今、最も必要なことはグノーシアを排除することだ。

するべきことはわかったね。きみはそんなに愚かではないだろう?」

 

 穏やかな口調で恐ろしいことを言っている――。プリンプリンは背筋に悪寒が駆け上がるのを感じた。

 彼はボンボンをなだめすかして懐柔しようとしている。

 

(わざとボンボンの弱みにつけ込んで、それを許すような口ぶりで……)

 

 プリンプリンは『罠だ』と訴えたかったが、疑念を向けられた現状ではボンボンへ積極的に関わるのは返って怪しまれる。

 

「キィ……」

 

 彼女の代わりにモンキーがボンボンの席の前に腰を下ろし、顔を覗き込んだ。

 下を向いているから彼がどんな顔をしているのかわからない。

 ボンボンは誰にも顔を見せないまま口を開く。

 

「アンタ……自分の妹が相手でもそれを言える?」

「……え?」

 

 突然問われ、ベベルが聞き返した。

 顔をあげたボンボンの目が潤んでいる。

 

「例えば、マノンがグノーシアだったとして。それを簡単に排除できるかい?」

「!」

 

 問いかけをそのまま跳ね返されたベベルは一瞬だけ迷いを見せた。

 そこをボンボンが切り込んでいく。

 彼は両手を握りしめて訴えた。

 

「おれは、『そんなこと』で友だちや家族を諦めたくない。ナンとかして治してあげなくちゃ、って思う。

だからオサゲにも『そんなこと』でプリンプリンをなじってほしくなかった……」

 

 彼はかぶりを振り、鋭い声で言い切る。

 

「『そんなこと』で大事な人を切り捨てるくらいなら、死んだほうがましだ!」

 

 彼は議論卓を両の手で押さえつけ、オサゲへ再度向き直った。

 先ほどとは打って変わって哀しみをつきつける。

 

「オサゲ、本当にどうしちゃったんだよ!? おれら、もう三人しか……モンキーを入れても三人と一匹なんだぜ!

マイホームさんもワットさんも、頭のいいカセイジンやトントンもいねえんだ! それなのに、どうして変なことばっかり言うんだよ!

グノーシアがナンなんだ。そんなのが、おれたちの仲にカンケーあるのか!?

元のおまえに戻れよ! 戻れったら!」

 

 飛びかからんばかりのボンボンをベベルが押さえ込む。

 

「やめろ、彼を刺激するな!」

 

 ボンボンがベベルの腕をどかそうと両手で掴みかかった。

 普段から腕力を自慢しているボンボンなので、成人したベベルも子ども相手だがわずかに顔をしかめる。

 それに構わずボンボンは金切り声で喚いた。

 

「どうして!? おれら、もっとちっちゃい時からの付き合いなんだ。ずっと仲が良くって……なのに、どうしてアンタはおれからオサゲを遠ざけるんだ?

おれらにはおれらの話があるんだから放っておいてくれよ。

それを……アンタ、なんでオサゲに構うんだ! おれとアイツ以上の何かがアンタにあるのか!?」

 

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