目覚めた時プリンプリンは驚かなかった。
これまでの行動を振り返ればベベルがへまをしないのはわかりきっていた。
彼はグノーシアとしてほぼ完璧な行動をしている――ならば、この局面でプリンプリンを襲うはずがないのだ。
プリンプリンを消してしまえば自身が偽者だと残ったみんなに知らしめることになる。
本当は昨日のうちに仕留めたかったのだろうな、とベッドから起き上がりながら考える。
しかし思いもよらぬ伏兵が残っていたためにベベルはそちらを優先した。
ボンボンだ。
ベベルはボンボンこそがバグだと確信している。バグが残っていては、たとえグノーシアが勝利しても宇宙は崩壊をはじめる。
だからこそプリンプリンよりも彼の排除を優先したのだ。
だが遅すぎた。ベベルも、プリンプリンも。
ボンボンはその素直さゆえに残った乗員の心を掴んでしまっていた。
凍りつかせようとしても人間としての情が拒否する。彼を消すのは、すなわち自分の人間性を否定することになる。
人ならざる者よりもさらに冷酷な化け物になんて、だれもなりたくない。
プリンプリンは何度もループを経験して、人の心こそが最も厄介だと知っていた。
わかっていたはずなのに。
顔を洗い、衣服を整えてから部屋を後にする。
誰もいない静かな廊下にプリンプリンの靴音だけが鳴り響いている。
メインコンソールに向かう道すがら彼女はこれまでのループを振り返っていた。
今回はグノーシア汚染されてしまったが元のベベルは心優しい人だ。
ループがはじまったばかりのころ、ただの乗員や人外ではない役職の彼はプリンプリンに親切にしてくれた。
『おや、不安なのかい?
こんな状況では誰しも疑心暗鬼になって当然だ……どうだろう、一緒に協力しあって乗り切るというのは』
穏やかながら論理立てて物事を考えることができる彼は心強い協力者だった。
立ち回りの下手なプリンプリンが疑われた時、冷静に、かつ相手を刺激せずに疑惑を晴らすこともやってのけた。
どのループでも基本、仲裁役を買って出るような人なのだ――だからみんなから信頼される。
今回のループでは、そんな彼の優しさがグノーシア汚染により消え失せ、冴えた頭脳だけが残った。
これまでもベベルがグノーシアだった時はあるが今回ほど手強くはなかった。
優しい人が情を捨てると、ここまで恐ろしい存在になるのだと知った。
(ベベル……あなたが本当はそんな人ではないと、わたしは知っている……)
いくらかループを重ね、議論での振る舞いも上達した。
生存率も上がって乗員と知り合う時間も増えてきたころ。
プリンプリンもベベルとマノンの複雑な生い立ちを知った。
王家に生まれながら、それをひた隠して生きる二人。
ベベルは王である父と王妃であった母を殺したルチ将軍という人に復讐を誓っていた。
『わたしは、あなたが手を血で汚すのは耐えられません……』
プリンプリンはそうこぼした。ループを繰り返したことで大勢の屍の上に立っていたというのに。
直接、手を下すのは見たことがないから、そのようなことが言えたのだろう。今となっては自分がそんなことを言える立場ではないとわかる。
だがベベルはプリンプリンがループを繰り返しているとは知らない。
彼女のような子どもに血なまぐさい話をしたことを純粋に恥じていた。
『こんなことを話して悪かったね、プリンプリン。
きみと話していると別の生き方を考えることがある……。
私は王子などという身分ではなく、ただのお百姓さん。毎日、朝から晩まで畑を耕して、くたくたになって帰ったらかわいい子どもたちがいて……』
そこまで言ってベベルはプリンプリンを温かいまなざしで見つめた。
その瞳には幸せな夢が見えているのか口元には笑みが浮かび、目尻はふわりと下がっていた。
『そして、きれいな奥さんが家で待っているんだ。
きみといると、そんな夢を見ることがあるよ……美しく素晴らしい夢を』
照れ笑いする彼を見上げて、プリンプリンはその穏やかな夢が叶うことを願った。
騙し合いの連鎖から逃れ、ベベルがその夢のとおりに生きていけることを。
心から祈ったのだ……。
メインコンソールの扉を開けると空気が張り詰めていた。
議論卓には一人だけ。
どうあがいても今日が最後になる。
彼は敵意を隠そうともしていない。
プリンプリンが先ほどまで懐かしんでいた面影はそこにはなかった。
ベベルはどこか憔悴しきった面持ちで、燃えるような双眸でこちらの出方を伺っている。
議論卓を挟んでプリンプリンは彼と向き合わないように、すこしだけ横にずれた位置に立った。
モンキーがいないから本当に一人ぼっちだ……。
不安で押しつぶされそうなところに、忙しない足音が近づいてくる。
メインコンソールの扉がまた開いた。
ふわふわの白い髪を揺らし、息を切らして彼は遅れてやってきた。
「プリンプリン……!」
目が糸になってしまいそうな笑顔。ちらりと覗く八重歯。
隣にはモンキーもいる。プリンプリンの頼んだとおりにボンボンを連れてきてくれた。
「嘘だ……」
べベルがプリンプリンへ駆け寄るボンボンを見て呟く。
そんなことはあってはならない、とばかりに。
ベベルはボンボンと並ぶプリンプリンを食い入るように見つめた。
「プリンプリン、きみ……。
ボンボンを診断しなかったのか……?」
「――マノンは人間でした」
プリンプリンが目を伏せて答えると、ベベルに声を荒げられる。
「そう、だろうとも……当たり前だ!!」
するとボンボンが急にあたりをキョロキョロと見渡した。
まるでベベルなどいないかのように振舞っている。
「あれ? そういえば、マノンは?」
『LeVi』が無慈悲に答えた。
『マノン様の反応がございません』
天井を見上げ、ボンボンの動きが一瞬だけ止まる。
上を向いたまま残念そうに言った。
「そうなんだ……マノンは、良い人だったのに。泣いているおれを励ましてくれたんだ。
アルトコのおふくろのこと思い出しちゃったな……」
瞳から光が薄れてゆく。
……がらんどうの穴がひろがってゆく。
ボンボンはその目でべベルをとらえ、淡々と話しかけた。
「これがアンタの答えなんだね。実の妹でも邪魔になったら消すんだ。
生き汚い……恥ずかしくないの?」
議論卓がけたたましい音とともに揺れる。
ベベルの拳が震えていた。
涙を浮かべた目で彼はボンボンを睨みつける。
そこでプリンプリンは気づいたが、彼の目は充血したように真っ赤だ。
一睡もしていないのか。
ずっと泣いていたのか……。
空間転移時、時の止まった空間で孤独な決断をしたのか。
ベベルの荒い呼吸がひゅうひゅうと聞こえる。
必死で衝動を押さえつけているように見えた。
そんな彼をボンボンはつまらなさそうに眺めながら、
「おれアンタ嫌いだよ」
と吐き捨てた。
言葉とは裏腹に心底どうでもよさそうだった。
あまりにも残酷なのでプリンプリンはつい口を挟んでしまう。
「あ、あのね、ボンボン……マノンは、わたしが診断したから消えたかもしれないの。彼女がバグだったら、本物のエンジニアが診断した瞬間に消えてしまうのよ。
だから、ベベルをそんなに責めないで」
ボンボンの細くもうっすら筋ばった腕を握り、『もしかしたら』と説明する。
プリンプリンを見ながら、彼はゆっくりと笑った。
無表情から一点、慈しむような笑みだった。
「……何を笑っているの?」
プリンプリンは恐ろしかった。
穏やかな碧の瞳は驚くほどきれいなのに、慈愛に満ちているのに、彼がなぜ笑えるのか理解できない。
小首をかしげるとボンボンは唄うように答えた。
「きみは優しいな。さすが、おれの恋人プリンプリン。
惚れ直しちゃった……」
頬を紅潮させ、普段の困った言動を口にしても、目の前の少年がいつものボンボンからかけ離れているようにプリンプリンには感じられた。
絶句している間にボンボンは『そうだ!』と何か思いついたようだった。
「飲み物取ってくるよ。ノド乾いたんだ……だって起きたらきみがいないんだもの。
そこらじゅう探したよ! どこにもいなくて、ずっと名前を呼んで、船内を走り回ってさ。
そしたらモンキーが後ろからヘロヘロで追いついてきて案内してくれた!」
ボンボンはかたわらのモンキーへ笑いかける。
「ありがとな、お前さんのおかげでプリンプリンと今日も会えた。
でも、もう怖がらなくていいんだね。今日でこんなの終わりだから……」
ボンボンはプリンプリンの手をほどき、とっととメインコンソールから出ていこうとする。
プリンプリンはその背を呼び止めた。
「ボンボン、まだ議論の途中よ」
しかし彼は立ち止まらず、部屋の外まで出てしまう。
それからその場で舞うようにくるりと一回転し、
「それがどうしたんだい? おれから言うことはもう何もないよ。誰にナンと言われようと、きみを信じてる。
ぜーったいに気持ちは揺らがない。それに」
扉が閉まりきる前にプリンプリンは彼から表情が消え失せるのを見た。
暗い瞳は、万物を拒絶しているかのように黒黒としている。
薄い口がささやいた。
「どうせ結果は一緒だろ」
ボンボンの姿が扉の向こうに消える。
モンキーがプリンプリンをちらりと振り返った。
無言でうなずくと長いしっぽを揺らして彼のあとを追う。
議論卓は再びプリンプリンとべベルの二人だけになった。
重苦しく垂れ込める沈黙。
その帳を引き上げたのはベベルだった。
「プリンプリン……マノンをバグだと思ったのか?」
聞いたこともないような低く、くぐもった声。
プリンプリンはぎこちなく彼へ振り向く。
「ええ……彼女も、『人間だ』と言って、いなかった、から……二分の一で……」
口ごもってしまうのは自分で説得力に欠けると知っているから。
ボンボンに比べればマノンに怪しい点などなかった。
プリンプリンは、ただその一点で彼女を診断対象に選んだ。
「……」
ベベルはしばらく黙り込んで、議論卓へ視線を落としていた。
何も言わないのが怖かった。
やがてベベルは顔を上げた。
「きみは、マノンの何を見ていたんだ?」
ありったけの敵意が全身からあふれている。
その時、プリンプリンはこれまで彼が自分にまだ敬意や信用というものを示していたのだと否が応でもわからされた。
船を守るべくエンジニアとして努めているのだと。
だからこそ昨日まで彼は議論という形で相手をしてくれていた。
それが今や軽蔑のまなざしでプリンプリンを拒絶する。
「バグだとしたら……人外だとしたら、なぜマノンはあの時点で皆に『人間だと言え』と言ったんだ。
全員が宣誓できたなら疑われるのは自分だ。
人外ならなぜ、そんな賭けに出て目立つ必要があるんだ」
ベベルの問いにプリンプリンは答えられない。
そんな彼女に正解が差し出される。
「答えは簡単だ。マノンは人外ではない。人間だ。
人間だからこそ人外が誰か炙り出すために宣誓をうながした。
……なぜ、こんな簡単なことから目を逸らすんだ」
震える声で断罪してくる。
人ならざる者になっても、ベベルは耐えられなかったのだ。
自身の妹にあらぬ嫌疑がかけられたことが。
プリンプリンはその場に立ち尽くし、何も言えない。
発言の資格がない。
ベベルの瞳から一筋の涙が伝った。
「私は……この船に逃げ込む前、港で仲間たちと楽しそうに唄うきみを見かけたよ」
ループが始まる前の記憶がよみがえる。
ルゥアンで次の国へ向かう手続きをマイホームとワットが進めていて、その間にボンボンたちと唄っていた。
プリンプリンはもう、あのころのように純粋ではない。
繰り返されるループによって心がすり減り、すっかり変わってしまった。
それでも誰かを助ける選択を、犠牲が出ないような選択をし続けていたはずだった。
でも昨夜はそれすら放棄した。
目の前で眠るボンボンを切り捨てられなかった。
そのためにプリンプリンはマノンを犠牲にした。
自分と、その親友のために見殺しにした。
青ざめた顔のプリンプリンからベベルは目を離す。
見ていられない、といった様子だ。
「窓から見える星空と銀の髪が映えて、きれいな女の子だと思った。澄んだ唄声をして……人混みの喧騒の中でも聴こえたよ。
マノンがからかってきたなあ。
『一目惚れかい?』なんて言われて……
『まさか、あんな自分よりいくらか幼い子を』
って返した。
その時はまだグノーシア騒動も起きていなかった」
それは、この宇宙のベベルがまだ元の穏やかな青年だったころの記憶。
彼の口もとにかすかな微笑すら浮かぶが、すぐ表情はかげる。
「最後の穏やかな時間だった。
それから半日足らずでルゥアンはグノーシア汚染がひろがり、港は閉鎖された。この船のように個人所有のはぐれ船でしか脱出できなかった……取り残された人々はグノースの贄となるか、その手足となるか。今、思い返しても恐ろしい。
わずか数日でルゥアンは星系ごとかき消えた」
プリンプリンにはその時の記憶がまるでない。
トントンから聞いたが、他のみんなも重傷のプリンプリンを連れて逃げるのに必死でろくに話ができる状況ではなかったらしい。
そもそも自分がなぜ重傷を負っていたのか……それすらわからない。
ベベルはプリンプリンを知っていたようだが、話をしたのはこの船に乗り込んでからだ。
ルゥアンでの事情は知らないはず。
それなのに彼は懐かしそうに語りかけるのだ……失われた時だけを映した瞳で。
「私は、この船にマノンと命からがら逃げ込んで驚いた。
見覚えのある顔ぶれだったからね。
オサゲ、カセイジンは浮かない顔をしていた。マイホーム氏やワット博士は祈りつづけているようだった。
だがきみの姿はなかった……船内を見て回っていると医務室でまた一人見つけた。――ボンボンだった」
空白の記憶の中で、みんなを心配させたことにプリンプリンは胸を痛める。
これまでの宇宙では何となく避けられてきた話題だった。
目覚めたとたんに議論に巻き込まれ、とてもそんな余裕がなかったとも言えるが。
ベベルは記憶の中のボンボンを思い出しているようだった。
「彼は治療カプセルのそばに腰かけて、いつ終わるか気が気でない様子だったよ。
私は誰が入っているかなんとなく察して事情を聞いた……、
『何があったんだ?』と」
一拍置いて、失くした記憶を語りはじめられる。
「ボンボンが言うには、きみはひとりきりではぐれたモンキーを探しにいったらしい。
その最中グノーシア排除に乗り出した軍か、もしくは武装したグノーシアか。どちらかの凶弾に倒れた。
流れ弾に当たったんだろう――あの混乱では間違いで人が命を落としてもおかしくない。私たちも逃げる最中にそんな遺体を山ほど見たさ。
『なぜ、そんな無謀な真似を?』
そう尋ねたら、
『プリンプリンは優しいからみんなを巻き込みたくなかったんだ』と……」
聞かされても記憶がよみがえる訳でもない。
まるで他人事のように感じられ、プリンプリンは心細くなる。
それは自分なのか? 何を考えていたのか?
……優しいとは言うが、本当に?
実感も湧かないまま、ベベルによる回想はそろそろ終わろうとしていた。
「私は『早く目覚めるといいね』とボンボンに言った。
彼は……、
『もう絶対に目を離さない。どこへもやりたくない。
あんなプリンプリンは、もう見たくない』
とずっと泣いていたよ」
自分の知らないところでボンボンが泣いていた――それも、自分のやったことで。
悔やみたいのに靄に包まれたような心地だ。
だからベベルの言葉を半分も理解できていない。
今のプリンプリンには彼と向き合うことも許されていない。
「――それを聞いて、きみはとても優しい子なのだと思ったよ。
まわりを危険にさらすことを嫌い、ひとりで抱え込んでしまうような女の子なのだと。
港で見たとおりの……」
そこまで言って彼は絞り出すような声で告げる。
「でもそれは、全員に与えられるものではないんだね。
マノンは選ばれなかった。
きみは、友だちであるボンボンを選んだ。
どんなに怪しくても彼を見捨てなかった。
代わりにマノンを天秤にかけた……」
プリンプリンはやっと自分のした罪の重さを理解した。
これまでは美辞麗句を並べて正当化しようとしていた。
だが違う。
プリンプリンがボンボンを大事に想うのと同時に、ベベルだってマノンを想っている。
そこに、どんな言葉も届かない。
「私が、こんな身になっていなかったら。あの子を守ってやれたのに」
頭に響く声が彼を支配して、がんじがらめにした。
グノースに贄を差し出せ、と。
オサゲと同じようにベベルも逆らえなかった。
彼はその知性ゆえに誰を襲撃するのが最適解か導き出せてしまった。
それをグノースに集まる『知』は見逃さなかった――決して。
「かわいそうに。マノンには誰も味方がいなかったんだな。
あの子は……人間だったのに」
ベベルの言葉にひとつも嘘はなかった。
彼はマノンが人間だとわかっている。
診断などしなくても、身を引き裂かれるような痛みとともにマノンの潔白を確信している。
「紛れもなく人間で、正しいことをしたのに」
ベベルは皆まで言わなかったが、プリンプリンはその真意を悟っていた。
マノンはみんなのために兄を見限った。正しいことのために、愛する人から離れた。
プリンプリンはその想いに応えられなかった。
ボンボンを選ぶのは、そういうことだ。
瞳から涙があふれそうになったが、プリンプリンは必死に押しとどめた。
重苦しい室内に涼しい空気が入ってくる。
ボンボンが戻ってきたのだ。次いでモンキーが扉から飛び出し、ちょろちょろと議論卓へ駆けつける。
「あ、モンキー。コーヒーはテーブルに置いてくれ。
いちおう人数分取りに行ったんだ。
プリンプリンは紅茶が好きだよね?」
ボンボンはプリンプリンへカップを手渡すと、議論卓に近づきもせずに雛壇へ腰かけた。
口にしたカップには薄荷色の液体がなみなみと注がれている。
「ねえ、プリンプリン。話は終わった?
それなら、もう投票にしようよ」
一口飲んでボンボンが議論を打ち切ろうとする。
彼がもはや話し合う気がないことにプリンプリンは多少の憤りを覚えた。
「それはないんじゃないかしら……あくまで、こういう理由だから、という説明は必要だと……」
「だっておれ、みんなを消したヤツを許せないよ」
間髪入れずにボンボンが迷うプリンプリンへ言い放つ。
単純で、純粋な動機だった。
ボンボンからすがるように見上げられる。
「……プリンプリンも同じ気持ちだよね? まさかワットさんやカセイジンを消した人を許すハズがないよね?
たぶんオサゲだって嫌がったハズさ。それをこいつは、自分のよく知らない相手なら消しても心が痛まないとばかりに次々と」
べベルがボンボンの言うように好き嫌いで標的を決めていたとは考えにくいが誰も反論できなかった。
この場でボンボンだけが何の罪も犯していない――ただ、その存在が宇宙を崩壊しうるだけで。
彼はプリンプリンが返事に詰まっている間にも率直に話しつづける。
「それで自分が妹を消したくせにナンで傷ついたような顔をするんだ。
……グノーシア汚染されたから? 仕方なく?
カンケーないね。自分がやったことだろ。人のせいにするなよ」
メロンソーダを飲み干すとボンボンはカップをかたわらへ置いた。
「オサゲはきのうコールドスリープした。おれが凍らせた。
罪の意識にさいなまれるより夢も見ずに眠るほうがいいと思ったからだ……消えちまった人たちに比べれば、ずっと優しい処置だぞ。
本当はブン殴ってやりたいくらいだけど」
ボンボンがベベルへ視線を向ける。
瞳には奈落が映っていた。
「おまえはもう凍れ」
底冷えするほど冷酷な声だった。
プリンプリンは温かい紅茶のカップを両の手で握りしめ、震える。
ボンボンの視線を受け、ベベルは議論卓に置かれたコーヒーを取った。タールのような質感のどろりとしたコーヒーを。
「そうだな……」
もう片方の手で目を拭う。
彼はコーヒーに口をつけ、か細い声で言った。
「確かに、それがいい。
凍りついて……もう永遠に目覚めたくない」
その最後の望みは叶えざるをえない。
ベベルはプリンプリンともボンボンとも顔を合わせたくないのだ。
ここに彼の愛する人はいない。信じたい相手すらも。
生き残らせるほうが酷というもの。
地獄のような日々の果てに、プリンプリンの退路は完全に絶たれてしまった。