途中で終わっています。
碁盤目状の無機質な電脳空間が視界に広がった。直後に足元から身体が生成され、成人の男性が形作られる。
175cmの身長で、
民族的で素朴な
「ようやくとお出ましになったな! おい、さっさとそのツラを拝ませろ」
視界の右上。立体的に反響する少女の声に視線を向けていくと、そこには佇んだ長方形の無機質なブロックと、その上に腰を掛けてこちらを見下ろしてくる1人の少女が存在していた。
155cmほどの背丈である彼女は、白色と黒色のみで構成されたモノクロ調の独特な外見を成していた。腰辺りまで伸ばした長髪と幼げな顔の輪郭という容貌で、ノースリーブのキッズワンピースのみを身に着けている。一方、こちらを見下ろす両目には狂気の螺旋が渦巻いており、口角を吊り上げた笑みからは不敵さを伺わせる。
視線を向けると、直にも少女は挑発的な眼光で微笑しながら生意気な調子でそれを喋ってみせた。
「カメラ操作のチュートリアルは完璧ってトコか? 今から大役を任せるんだ、最低限の動作は心得てないとオイラが困る。じゃあ次のレッスンだ。動く標的を目で追ってみろ」
そう言い、少女はブロックから下りる動作を行った。
落下する彼女を目で追おうとした。だが、予想と反して少女はその場で浮遊するなり、ワンピースを
呆気に取られるこちらの様子に、少女はしてやったりな表情を浮かべてきた。
「今のオマエ、間抜けな顔をしているぜ? いいか、落下するからと言ってなにも真っ直ぐ下に落ちるとは限らない。そいつは緩やかに浮遊しながら下りてくる可能性だってあるし、逆に目にも留まらない速さで落下してくる可能性だってある。何なら、上に落ちることもあるだろうな。うっくくく、なに? さすがにそんなワケはないって? 甘いな。非現実的な挙動すら十分に起こり得るのが、“この世界”なんだぜ」
両目をかっぴらいて瞳の螺旋を渦巻く少女は、うろうろしながら言葉を続けてくる。
「ウェルカムトゥーザ・ワールド!! よくおいでなすった。その心意気は大いに認めてやる。これより開幕する冒険譚は、オマエが勇者として築き上げる唯一無二の物語だ。オマエが踏み出した一歩は、言葉通り世界を変える。一つ一つの選択がフラグとして世界全体に様々な影響を及ぼし、その結果を積み重ねて作り上げるオマエだけの
少女は狂気的な螺旋の瞳をこちらに真っ直ぐ向けてきた。今にも吸い込まれそうなほどの強力な眼力にたじろいでいると、次にも少女はあっけらかんとした態度で踵を返しながらそれを喋り出してくる。
「前置きが長くなったな。続きは“現地”に到着してからでもいいだろう。こんな何もない場所でただ突っ立っているだけじゃあ、プレイヤーは飽きるだろうしよ。……ついでに言っておくが、オイラは画面の前にいるオマエの存在を認識している。今も晒しているその仏頂面を、画面越しに見ているんだ。――そのツラ、憶えたからな」
不意に振り返り、不敵な笑みと共にかっぴらいた眼差しを向けてくる少女。突き出した右手で指差すと、その右手をゆっくりと持ち上げた後にパチンッと鳴らしてみせた。
次の瞬間、足元の浮遊感と同時にして虚無の空間へと落下した。真っ黒な謎の場所へと落ちた体はザブンッと着水し、体の重みと共に水底へと沈んでいく。次第にもボコボコと水泡が浮かび上がる先から眩い光が見えてきたため、自分はそれを目指して泳ぎ始めた。
水を吸った衣類が重く、重量感を伴いながら掻き分けるように泳いでいく。恵まれた筋肉による推進力からその体は順調に浮上すると、自分は水面から思い切り顔を出して肺いっぱいに空気を吸い込んだ。
同時に広がった前方の視界には、晴天の青空と緑豊かな森林の光景が展開されていた。自分は森林に囲われた湖の中央にいるらしく、理解が追い付かない思考のまま取り敢えず地上に到達するまで泳いだ。
濡れた体で地面に這い上がり、辺りを見渡してみる。一連の出来事でカメラ操作と移動の方法を身に着け、生成されたばかりの体にも少し慣れてきた。だが目的地が分からずにいると、次にも死角からあの少女の声が聞こえてくる。
「ウェルカムトゥーザ・ワールド! 勇敢なる魂は、その歴史的な第一歩を踏み出した! 怖がらずともいい。水辺を泳ぐというシチュエーションはどのオープンワールドでも心躍るものだろう? それともあれか? スタミナ残量や水棲のエネミーばかりが気になって気乗りしないか? まァ、オイラからすればどちらでもいい」
素足で地面を歩く少女は、ケラケラと微笑しながら言葉を続けてくる。
「さて、これで晴れてオマエも“この世界”の住人だ。この時を以てして、オマエの物語は幕を開けた。何をするにしても自由の身だ。しかし……明確な目標が無いと張り合いが出ないだろう。そこで、オイラがタスクを用意してやった。要は、メインストーリーだ。目指すべき場所にピンを刺しておいたから、メニューからマップを開いて確認してみろ」
少女の言葉にしっくりこなかったが、ふと何気無く手を振ってみると眼前にホログラムが現れた。手のスライド移動と共に滑り込むよう出現した画面は、空中に留まってマップを映し出している。
「いいぞ、さすがの適応力だ。マップを縮小して全体図を映してみろ。すると、自分の現在地から伸びる線が、ある村に繋がっていることが分かるはずだ。そこが、今のオマエが目指すべき場所だ。なに、こいつは飽くまでオマエの物語だ。オマエ自身の物語に、オイラは干渉するつもりはない。“この世界”を好きに冒険してくれて結構だ。あとはなるようになるさ。オマエの物語を謳歌してもらえれば、それでいいんだからな」
マップを閉じて、ホログラムを消していく。そうして顔を上げると、少女の姿は消えていた。
まるで最初から存在していなかったかのように、忽然と消えていた。行方を探して周囲を見渡してみたものの、自分は直感に従って少女の示した目的地を優先することにした。
マップに伸びていた線を辿るように歩を進めていく。地上を歩くチュートリアルを済ませると、次にダッシュをした。途端に加速した移動で森林を通り抜けると、開けた視界と共に高台の先端で立ち止まった。
無限に続く青空。広大な緑の地上。地平線の山脈と開けた平原、そして地平線へと続く平原の途中に佇む集落の様子。景色を一望すると、自分は足元に気を付けながら崖を伝って慎重に下り始めた。
肌にピリつく感覚は、大気中に漂う魔力を思わせた。平原には動物の他に結晶化した体を持つモンスター達がうろついている。ゲームオーバーという概念に極度の恐怖を抱きながら平原に着地すると、まっさらな若葉色の大地を踏み出してその歩を進めていった。
時間の概念も気にしなければならない。陽が落ちると、モンスターが湧き始めるだろうという直感が脳裏に
植物が生い茂る一帯から、赤色の実を採集した。おそらくはリンゴと思われるアイテムをいくつか採っておいた。試しに1つ食べてもみた。体力が上限に達していたからか、回復はしない。得られたのは物質的な重量と適度な満足感。次に風化した小屋に立ち寄ると、そこには錆び付いた剣が刺さっていた。心許ないが、身を守る術として所持しておくことにした。入手したアイテムは、パッと手元から消えてポーチへと移される仕組みだった。
他にも立ち寄りたい気持ちはあったが、まずは安全な拠点の確保を優先したかった。自分は平原を横断して目的地の村に接近すると、マップの更新が挟まると共に周辺地域の地形を直感で理解した。まるで、更新されたデータが脳内に流れ込んできたかのような感覚だった。
のどかな村。それがこの集落の名前だ。主に木造建築の建物や巨大な風車、無数の砦などが周辺に伺えて、広場には屋台が立ち並ぶ市場が展開されている。往来する人々は商人や冒険者が多く、剣士や魔法職、弓使いや騎士など様々。地形は平坦で、牧場や教会などありふれた施設や景色が見受けられた。