「621、お前に指名依頼が届いている」
ウォッチポイントへの襲撃の際に相対したスッラとバルテウスとの激戦を何とか生き延びた強化人間C4ー621、ルビコンでの名はレイヴン。
帰投してから自らの飼い主であるハンドラー・ウォルターにいきなり聞こえ出した幻聴の事を相談しても良くある事だと言われ、仕方なく休息を取っていた最中にウォルターからの通信が入った。
「お前には休めと言ったが、中央氷原へ向かう手段を探している間身体を動かさずにいるのも退屈だろう。ブリーフィングを確認しろ」
ウォルターの通信から、そのまま届いた依頼のブリーフィングへと移行する。
「初めまして、独立傭兵レイヴン。デトネーション・カンパニーの技術開発局長アインと申します。惑星ルビコンにおける貴方の目覚ましい活躍はルビコンの外にまで届いております。数々の強敵を打倒した貴方の力量を見込んである依頼……というよりも交渉を持ち掛けさせていただきました」
ブリーフィング画面で流れる柔らかな男性の声を聞きながら、エアと名乗った幻聴が呟く。
『デトネーション・カンパニー……星外企業の一つでコーラルを巡っての争いには消極的な企業らしいですが、レイヴンに何の依頼を持ってきたのでしょうか』
「ご存じかは分かりかねますが、我々は主に星間戦争に用いる巨大兵器の製造を行っております。その為ACを扱う独立傭兵の皆様とは縁が無かったのですが、この度ACに合わせた武装の開発に取り掛かる事になりました。ですが恥ずかしながら我が社にはAC乗りのテスターがおらず、折角なので独立傭兵からテスターを募ってはどうかと決まり……複数の巨大兵器との戦闘経験のある貴方に白羽の矢が立ちました」
ブリーフィングでアインの言葉と共に流れてくる数々の巨大兵器の写真に心が動かされる。これが、ロマンという物なのだろうか。
「『飢えた獣ほど牙を研ぐ』……追い込まれた者が発展させた技術は時に我らの想像を超え得るという意味の我が社の社訓の一つですが、ルビコン解放戦線にも当てはまるようです。貴方が相対したストライダーとジャガーノート、作りは粗製極まりませんが一部の武装は称賛すべき代物です。我々はこの二つの巨大兵器を基にAC用の規格外兵装を開発しました。貴方にはこの二つの兵器を我が社のシミュレータで運用して頂き、その戦闘データを用いて兵器完成の後押しをして欲しいと思っております」
新たに流れてきたのはアイボールを彷彿とさせる巨大なビーム砲台と、ACの全身を覆い隠せる程に巨大な鉄の盾の写真。
「もしこの依頼を請け負って頂けるのであれば、兵器開発の助けとなってくれた貴方には我が社の新開発兵器の優先販売権の付与、そして完成した規格外兵装の内どちらか一つを無償で提供する用意があります。……どうか色よい返事を期待しております」
アインがそう締めてブリーフィングは終了した。
ブリーフィング中は一言も喋らなかったウォルターが口を開く。
「命の危険が無い依頼だからか報酬金は少ないが……それ以上に得る物の多い依頼だ、だがそれだけに奇妙な点もある。デトネーション・カンパニー程に巨大な企業であればACテスターがいないなどという事はあり得ない、恐らく向こうが本当に欲しているのは……621、お前の戦闘データだ」
『確認できる限りデトネーション・カンパニーは裏の無いいたって健全な兵器開発会社ですが……コーラルの源泉が中央氷原にある事が確定した直後に独立傭兵への接触……かなりきな臭い依頼です』
二人の言葉に、しかし621は然程考えずに依頼を受ける事を伝える。
企業が己の戦闘データを取ろうがどうでもいい。重要なのはその依頼で得られるパーツが己に有用かどうか、ひいてはウォルターの命令をより確実に遂行できるかどうかだった。
「そうか、お前の意思を尊重しよう。向こうの思惑はどうあれ、企業からの指名依頼を成功させる事はお前の価値を大きく高める事になる。お前の価値を示してこい」
そう言ってウォルターの通信は途切れた。
『指名依頼はデトネーション・カンパニーのシミュレータで行う事になります。今までとは勝手が違うと思われますが、レイヴンであれば問題ないでしょう』
依頼を受ける旨をデトネーション・カンパニーへ返した621は、程なくして感謝の言葉と共に送られてきたシミュレータへの接続キーを機材に打ち込んだ。
――――――――――
621が目を覚ますと、自分が駆るACとは異なる機体のコクピットの中にいた。
周囲はいつも使っているACテストの空間の様に無機質かつ広大な広間となっており、その中心に621はいた。
機体構成や武器を確かめていると空間内にアインの声が響いた。
「依頼を受けて下さり感謝します、独立傭兵レイヴン。早速ですが我が社の開発した兵器の試験運用を二回に分けて行って頂きます。今貴方が乗っている機体はベイラムのMELANDER一式、左腕武装はアサルトライフルのRF-024TURNER、左肩武装は無し、そして右腕と右肩に装備されているのがアイボールを参考にして開発された戦術級レーザーキャノン、OW-001ARTEMISとなります」
MELANDERの右肩を覆い隠す様な巨大なジェネレーターと右腕の長大な砲身が一体化したレーザー砲台。武装を装備可能な二ヶ所を潰しているだけあってかなりの重量だが、見た所一つの武装に対して攻撃手段がかなり多い。一芸特化なわけでは無いようだ。
「欲しい戦闘データは集団戦における殲滅性能、重装甲に対する貫通性能、対AC戦闘においての継戦能力及び取り回しとなります。その他気になった点があればテスト後お聞かせ願いたく思っております。それでは対多数戦闘から始めましょう」
アインがそう言い終わると同時に何十体もの軽MTが出現する。
即座に後方へ飛び、レーザーキャノンを変形させる。長かった砲身が縮小し、砲口が拡大。肩部のジェネレーターが駆動し、砲口からショットガンの様に拡散レーザーが放たれ軽MTを5体程纏めて破壊した。
構わずこちらに向かってくる軽MTの群れに再び拡散レーザーが放たれる。威力は十二分、射程も良く連射可能。排熱機構が優秀なのか通常攻撃ではオーバーヒートする気配がない。かなり優秀と言えよう。
621は引き撃ちを止め、上空へ飛ぶ。未だに大量に残っている軽MTの群れの中央へ向けて拡散レーザーの強化砲撃を行う。
長い溜め時間の後、砲口から30条の青く輝く太いレーザーが乱雑に放たれ、軽MTに当たると同時に爆発し周囲の軽MTを巻き込んで破壊、瞬く間に50を超える軽MTを撃破した。
オーバーヒート状態となったレーザーキャノンの冷却を待ちながら残った軽MTをアサルトライフルで撃破していくが 結局撃破し終えるまでオーバーヒートが回復する事は無かった。
「――テスト1、完了。お疲れ様です、レイヴン。通常射撃の使い勝手は良さそうですが、ACでの戦闘において強化砲撃のオーバーヒートの長さは致命的とも言えますね、排熱機構をもう少し改良すべきかもしれません」
621は使っていて疑問に思った点をアインに伝える。
「強化砲撃の本数を減らし爆発範囲を広げてはどうか、ですか。仰る通り強化砲撃時はレーザーを全て射出するまで動く事が出来ません。チーム戦での運用を想定していましたが、それでも撃ってる最中に棒立ちになる時間は確かに減らしたいですね。貴重なご意見ありがとうございます」
『レイヴンは基本的に一人でミッションに挑みますが、独立傭兵の僚機がいる場合連携は取れないものと考えた方が良いでしょう。そうなると攻撃範囲の広さは却って足を引っ張る事になるかもしれません。それを置いてもかなり強力な武装である事には変わりませんが』
アインがキーボードを叩く音が僅かに通信越しに聞こえる中、エアもまた自分の意見を621に伝える。
問題点の書き出しが終わったのかアインが再び口を開く。
「続いて重装甲相手となります。拡散形態から貫通形態への移行をお願いします」
その声と共に軽MTの残骸が消え、4脚重MTが3体現れた。即座に621が機体を操作し、レーザーキャノンの砲口が狭まり砲身が延長される。
先程まで広範囲に拡散していたレーザーが1本に収束し、4脚重MTの1体を貫いた。一撃で倒し切る事は出来なかったが、アサルトライフルによる追撃で何もさせず倒し切る事に成功した。
もう1体は移動を繰り返しながら貫通レーザーを連射して撃破した。拡散形態の通常射撃よりも連射間隔は遅いが、その分火力は高い為許容範囲と言えよう。
残るは盾持ちの4脚重MTのみとなったが、ここで621はエリア端まで後退する。
相手の攻撃の届かない場所まで来た事を確認し、レーザーキャノンの強化砲撃の準備を開始する。
ジェネレーターが稼働し、全体的に青い光が更に強く輝いた所で621はレーザーキャノンを下から上に振り上げる様に射出した。
青い極大レーザーは盾を構える4脚重MTをそのまま消し飛ばし、シミュレータエリアの端から端までを焼き払った。
「――テスト2、完了。お疲れ様です、レイヴン。貫通形態は拡散形態よりもレーザーの射程距離を伸ばすように調節しましたが、悪くなさそうですね。距離減衰もほぼ無し、中距離から長距離は完璧と言っても良いでしょう。となるとやはりネックとなるのはオーバーヒートからの回復ですね……」
『ロックオン出来ない程の長距離からの攻撃で重MTの盾ごと貫通するとは、恐ろしい威力ですね。戦闘中に不意打ちでこの威力のレーザーが飛んできたらと考えるだけで嫌になりますね』
だがそれは、動きの鈍いMTに限った話である。相手が回避できない雑兵なら無類の強さを誇るだろうが、ことAC相手であればまた変わってくるだろう。
「最終テストはAC戦となります。相手はレイヴンの物と同じMELANDER一式にRF-024TURNER、そしてOW-001ARTEMIS。AC相手にレーザーキャノンを使う際の注意すべき点、或いは相手にレーザーキャノンを使われた際の対処法などを洗い出せれば幸いです」
4脚重MTの残骸が消え失せ、621の目の前に自身の機体構成と全く同じACが現れた。
2機は同時に動いたが、621はレーザーキャノンをを拡散形態に変形させながらアサルトブーストで接近し、相手のMELANDERは貫通形態のレーザーキャノンを621に向けて撃ちながら距離を離す。
飛来するレーザーをひらりと躱し、少しでも強化砲撃を撃とうとする素振りを見せれば拡散レーザーで牽制する621。互いにアサルトライフルによる攻撃は行うが、それよりも遥かに危険なレーザーキャノンをどこで使うか、両者共細心の注意を払っていた。
数度の応戦で無傷の621と拡散レーザーによる被弾を何度か受けた相手のMELANDER。APの差は着実に広がり、遂に至近距離まで接近した621のキックが炸裂する。もう少しでスタッガー状態となるが、レーザーキャノン相手に大きな隙を晒す事は死に直結する。相手のMELANDERも拡散形態にレーザーキャノンを変形させ621へ至近距離で射撃を叩き込む。
アサルトブーストによりエネルギーをほぼ使い切っていた621は少しでも被弾を減らすべくレーザーキャノンを持つ相手の右半身と反対に、つまり相手から見て左へクイックブーストを行いながらレーザーキャノンを貫通形態へと変形させた。
形勢は一気に変化し、エネルギーを消耗し一度レーザーキャノンによる拡散レーザーに当たった621とAPが半分を切りスタッガー寸前まで衝撃が蓄積した相手のMELANDER。相手が選んだのは一転攻勢ではなく衝撃値の蓄積を減らす為の逃げのアサルトブーストだった。
だが、今までの戦闘で相手が消極的な行動を取る事を理解した621にその逃げは悪手だった。
変形後即座にチャージを開始していた621のレーザーキャノンが、相手のMELANDER目掛けて極大レーザーを打ち込んだ。当然相手も逃げようとするが、MELANDERのクイックブーストの距離を把握していた621が軌道修正を行い、レーザーキャノンを下から上へ振り上げた頃には相手のMELANDERのAPは全損していた。
「――テスト3、完了。お疲れ様です、レイヴン。長距離から相手を寄せ付けず一方的に撃ち込み続ける運用方法を想定したAIの脆弱性が露呈したテストでしたね、まさかあの場で逃げの一手を打つとは。とはいえレイヴンの卓越した機体制御が無ければ最初の引き撃ちでほぼほぼ決着が付いていたでしょう、貴方の戦闘能力の高さを称賛いたします」
『対AC、それもそこまで精度の良い訳ではないAI戦とは思えない緊張感ですね。まるでバルテウスを相手にしていた時の様な一歩間違えれば敗北する綱渡りの様な戦闘でした』
アインとエアの労いの言葉が621の耳に届くが、もしもこれが面と向かっての1対1ではなく集団戦や市街戦であればあの戦い方のMELANDERに負けていたのは自分だと621は理解していた。
621が最も恐れたのは貫通形態での強化砲撃ではなく拡散形態での強化砲撃だった。一つ一つが致死級の攻撃力でありながら避ける隙間も無いような面制圧、初手でチャージが完了していれば負けていたのは621だっただろう。それをさせない為にアサルトブーストで急接近した訳だが。
データの解析を終えたのか、破壊されたMELANDERの残骸が消失すると共にアインの通信が再び繋がった。
「OW-001ARTEMISの戦闘データ収集の全工程が完了、お疲れさまでした。暫くの休憩の後もう一つの規格外兵装の戦闘データ収集に移りたいと考えていますが、よろしいですか?」
621は休憩は不要とアインに告げた。
「素晴らしい意欲をお持ちの様で、ご協力感謝いたします。それでは次に移ります、レイヴンの機体構成を変更いたしますのでしばらくお待ちください」
――――――――――
「次に戦闘データを取っていただくのはOW-002AREUS、多重装甲マテリアルシールドです。OW-001ARTEMISよりも重量が嵩むため機体構成は大豊のTIAN-QIANG一式、左肩と左腕でOW-002AREUSを保持し右腕にバーストライフルのRANSETSU-RF、右肩にはデュアルミサイルのP31DUO-02を搭載しています」
621の乗る機体が重量二脚へと変わり、左腕と左肩から伸びるサブアームで支えるのはACを丸ごと覆い隠す程に巨大な鉄塊の様な盾。
正面はジャガーノートを彷彿とさせる僅かな歪曲と重厚な作りが目に付くが、盾の裏側には3連装グレネードが備え付けられており静かに殺意を主張している。
「欲しい戦闘データは対実弾、対爆発、対EN防御性能と3連装グレネードランチャーの取り回し、そして同じく対AC戦におけるOW-002AREUSの効力の検証となります。それではテスト1、開始させていただきます」
アインの通信が切れ、4脚重MTが3機出現する。それぞれ実弾武器を装備した物、爆発武器を装備した物、EN武器を装備した物に分かれており、実弾装備4脚重MTが真っ先に突っ込んできた。
他の4脚重MTに動きが無い事を確認した621は盾を構えて実弾装備4脚重MTから放たれるガトリングを受け止める。
盾に当たる衝撃は想像よりも軽く、APが削られる気配は微塵も無い。衝撃値は徐々に溜まっていくが、それも僅かな物だ。
ガトリングを打ち切った音を聞いた621が構えた盾の下部を4脚重MTに向け、取り付けられた3基のグレネードランチャーを発射する。
『……レイヴン、もしやその盾を構えている間前方の視界を確保出来ないのでは?』
その通りだ。構えた時に気付いたがこの多重装甲マテリアルシールド、覗き穴の類が一切無い。一応センサー類があるとは言えモニターに敵が映らないのは中々の欠陥といえよう。
盾を構えている間はスキャンを使った方が良いかもしれない。或いは構え方をもう少し工夫してみるか。
3連グレネードでは片付けきれなかったのでバーストライフルとデュアルミサイルで止めを刺すと、続けざまに爆発武器装備の4脚重MTが近寄ってくる。
先手を打って処理したい欲求を抑え盾を構える621、そこにグレネードランチャーが撃ち込まれ強い衝撃と共に後方へ押し込まれた。
ガトリングよりも大きく衝撃値が蓄積したが、それでもAPが削られる事は無かった。
何度かバズーカを受け止めたが結果は変わらず。盾を構えながらデュアルミサイルをちまちま打ち込んだり半身を出して盾を構えながらバーストライフルを撃つなどの引きこもり戦法を続けて危なげなく勝利した。
最後にやってきたEN装備4脚重MT。先の2機と異なり距離を詰めるや否やレーザーブレードで斬りつけてくるのを621はこれまで通り盾を構える事でやり過ごす。
ダメージも無ければ衝撃蓄積も無し、どうやら純粋なEN攻撃であれば完全に無効化出来るようだ。これがプラズマ系やパルス系であればどうなるかは分からないが。
そう考えた621に応えるように4脚重MTからプラズマミサイルが放たれた。直撃こそ防げたものの、爆発と同時に展開されるプラズマ力場によってAPが削られた。このテストにおける初めての被弾に621は4脚重MTから距離を取る。
離れた621に向けて4脚重MTはパルスガンを放つ。当然621も盾で受け止め、先程のレーザーブレード同様完全な無力化に成功した。パルス系はそもそもパルスシールドの効率的な突破に特化した物、鉄の塊を剥がす程のパワーが無いのも当然だろう。
同じように3連グレネードやミサイルで処理しようと思っていたが、ふと思いついた事があった621は4脚重MTに向けて盾を構えながらアサルトブーストを吹かす。
急接近する621に攻撃を加える4脚重MTだが、先程の結果で有効打が無いのは分かっている為構わず突撃し、速度を乗せたブーストキックの代わりに盾によるシールドバッシュを行った。
あのジャガーノートの突撃を彷彿とさせる突撃によって4脚重MTは一撃でスタッガー状態となり、APを大きく削る結果となった。動けなくなった案山子にバーストライフルを至近距離から叩き込み、3機の4脚重MTの掃討が完了した。
「――テスト1、完了。お疲れ様です、レイヴン。強度維持の観点から覗き穴の設計が難しく、テスト段階では見送ったのですがやはり付けた方が良さそうですね。グレネードの威力、射程共に申し分無し。最後のシールドバッシュも想像以上の威力でした」
621がアインに向けてこの盾の弱点を訪ねる。
「ふむ、OW-002AREUSへの有効打ですか。確かに先程の様にプラズマミサイルの爆発は貫通しましたね。ですがどのような攻撃にも衝撃を吸収し無効化するよう設計したので特には……あぁ、複雑な機構を盛り込んだせいで排熱にやや時間がかかり継続的な熱には少々弱いのが弱点と言えば弱点でしょうか。後は単純に重く方向転換に僅かに時間がかかるので盾を無視してACの裏を叩くなどが……あ、これからAC戦だというのについうっかり口を滑らせてしまいましたね。折角ですので戦闘の足掛かりにでもご活用ください」
途中から独り言のように呟き始めたアインがそう言う。継続的な熱と言われてもそんな武器は……と考えた辺りで621の脳裏にバルテウスの炎が浮かび上がる。
あのような手合いがそう多くいない事を祈るが、成程確かに致命的な弱点にはなり得るだろうか。今からの戦いには関係無いが。
4脚重MTの残骸が消失し、先程と同じ様に621の機体と全く同じ盾持ちのTIAN-QIANGが現れた。
「テスト2、開始です」
アインのその言葉と共に相手のTIAN-QIANGが盾を構えながらバーストライフルを打ち込んでくる。当然621は盾でライフルの射撃を防ぎながらデュアルミサイルをお返しに叩き込む。
挨拶代わりのこの攻防で、両者ダメージ0。分かり切っていた事である。
『これは……相当な泥仕合が予想されますね。アインさんもわざとシールド以外の武器を弱くしたのでしょうか』
じわじわ削れるならまだしも全くのノーダメージで睨み合いが続くのは621としても御免被る。
ので、今回も速攻を掛ける事にした。
武装が大した事無いのは身に染みて分かっている為、621は盾を構えたまま相手のTIAN-QIANGに向けてアサルトブースト。
相手のTIAN-QIANGからミサイルやライフル弾が飛んでくるがまるで脅威になりはしない。逃げる事は出来ないと判断したのか相手はシールドバッシュに備えて全身を覆う様に盾を構え――
――その盾に向けて621はブーストキックを放った。
アインが気付いているかは不明だが、このOW-002AREUSには一つ小さな弱点がある。盾で受けた衝撃を多重装甲で吸収しAC本体への影響を最大限抑える機構が搭載されているこれは、強力な一撃を受けると衝撃を吸収仕切るまでACの方向転換が出来ない。
とはいえ、小さな弱点と述べた様に、この硬直は4脚重MTのグレネードでもほんの1~2秒といった所だ。だが、それだけあれば621にとってクイックブーストを用いて相手の背後を取る事は容易い。
キックの衝撃で硬直したTIAN-QIANGの裏を取った621は3連グレネードとバーストライフルによる攻撃を至近距離から叩き込み、強引にスタッガー状態に持って行く。
そのまま再びキックを入れてダメージを入れながら距離を離し、スタッガー状態が切れる前にもう一度アサルトブーストで距離を詰めて今度こそシールドバッシュをぶち込んで相手のTIAN-QIANGのAPを削り切った。
「――テスト2、完了。お疲れ様です、レイヴン。いやはや、完全に想定外の攻略法でした。やはり実際に戦う独立傭兵の方には我々に無い発想力がありますね、素晴らしい戦闘データの収集に協力して頂きありがとうございます」
アインの言葉に違和感を抱いた621は疑問をぶつける。
「はい? 本来想定されていた攻略法ですか? 構造上グレネードを放つ際は盾を構える事が出来ないのでグレネードを躱しながらバーストライフルによる攻撃を入れて撃破、でしたね。しかしレイヴンの攻略法の方が無駄がなくスマートでしたね、これを踏まえて更に改善させていただきます」
あぁ、そうそう。とアインが言葉を続ける。
「今回使用した試験機の内片方を製品用に調整を重ね、レイヴンに無償提供するというお話でしたが、OW-001ARTEMISとOWー002AREUSどちらに致しますか?」
『破壊力に特化したレーザーキャノンと生存力に特化したマテリアルシールド……どちらも確実にレイヴンの力になるでしょう。悩ましいですね』
エアの言葉に同意しつつも、621は既にどちらを選ぶか決めていた。
自らの戦法と合わせ、自分の肌に合うものとして選択したのは――
――――――――――
「621、無事依頼を終わらせたようだな。お前に報酬金と、後日パーツを輸送する旨のメッセージが届いている。……パーツの名は規格外兵装、OW-001ARTEMISとの事だが、間違いないな」
621はウォルターの言葉に肯定を返した。
結局621が選んだのはレーザーキャノン、OW-001ARTEMISだった。理由は幾つかあるが決め手は対応力の高さである。武装2枠分を潰して装備するのであれば、それだけの火力か手数を求めるべきだがOW-001ARTEMISはその条件をしっかりとクリアしていた。
無論多重装甲マテリアルシールドが悪かったという訳では無いが、火力不足でミッションが長引くのはハンドラーの猟犬としてはなるべく避けたかったのだ。
ともあれ、これでもっとウォルターの仕事をこなせるぞ、と621が意気込んだ所でウォルターのの言葉が続く。
「621、俺はこれから野暮用で少し外す。暫く休め、お前は飢えた獣では無いが動くべき時に向けて牙を研いでおくのは大事な事だ」
その言葉と共に通信が切れた。
暴れるのはしばらくお預けという事実に意気消沈しながら、621はふとアインから届いたメッセージを展開する。
「独立傭兵レイヴン、デトネーション・カンパニー技術開発局長アインです。貴方のお陰で兵器開発が大きく進展しました、約束通り調整したOW-001ARTEMISを遅くとも5日後にはお届けいたします。……それと、風の噂でお聞きしたのですが、何でもレイヴンは惑星封鎖機構の無人兵器バルテウス相手に勝利を収めたのだとか。次の規格外兵装はバルテウスをモチーフにした物にしようかと考えております、レイヴンさえ宜しければ次の戦闘データ収集も是非ともレイヴンに受けて頂きたい。それでは、今後ともデトネーション・カンパニーをよろしくお願いいたします」
終始柔らかな口調のまま、アインのメッセージは終了した。
『ルビコンに常駐している訳では無いようですが、惑星封鎖機構をすり抜けて5日以内にパーツを届けられるものなのでしょうか……? それはそうとレイヴン、ウォルターの命令とはいえ帰ってくるまでずっと休み続けるというのも退屈でしょう、デトネーション・カンパニーから規格外兵装が届いたら肩慣らしに依頼を受けてみるのはどうでしょう。ちょうどベイラムから最適な依頼が届いているようです』
エアが提示した依頼、それはべリウス南部に位置するグリッド086の調査だった。
ARMORED CORE WIKI
オーバードウェポン(AC6)
規格外兵装
フロム・ソフトウェアが発売している『アーマード・コア』シリーズの中でも『アーマード・コア6』に登場する武装。
概要
AC6においてアーマードコア(人型兵器)に装着する腕武器、肩武器に続く3種類目の武装。
全部で12個存在するが、その全てに共通して馬鹿げた攻撃力とふざけた癖の強さという特徴がある。
オーバードウェポンの名前自体は過去作であるACVで登場しているが、当時の「全てを焼き尽くす暴力」に比べれば遥かに扱いやすい代物に一新された。
一例として挙げると、
・全てに共通して、右腕、右肩、左腕、左肩の装備枠の内2つを消費してミッションの最初から装備・使用可能
・重いっちゃ重いが中量武器2つ分+α程度なので比較的アセンブリの幅が広い
・ミッションにつき1度しか使えない訳では無く、通常武器の様に総弾数やリロード時間が設定されている
・一部オーバードウェポンは装備するとアサルトブースト中の挙動やコア拡張機能が変化する
・通常武器に比べれば火力はかなり高いが1発でも当たれば死ぬというようなものではない。
・実弾、爆発、EN防御力の影響を受けるが、耐性が低い相手にはOW特効効果が付きダメージが跳ね上がる。
などなど超火力以外の全てを捨てたロマンというよりも武装選択肢を減らした代わりに高火力を担保した局所的な切り札と言った立ち位置となっている。
ちなみにAC6において全てのオーバードウェポンを制作しているのはデトネーション・カンパニーという如何にも破壊力に憑りつかれていそうな星外企業。何度か依頼は出してくるがウォルターやエアのセリフから察するにルビコンに常駐している訳では無いようだ。どうやってパーツ輸送してるんです……?
序盤の難所であるchapter1最終ミッション、ウォッチポイント襲撃をクリアするとデトネーション・カンパニーから依頼が届き、2種類のオーバードウェポンの性能テストを行いどちらか片方を報酬として選択する事で序盤からオーバードウェポンが使える様になる。二つの内片方を貰うという内容はこの先の依頼全てに共通する。
超兵器というよりも相対した大ボスの武装をオーバードウェポンとして使えるようにするというコンセプトらしく、最初の依頼ではストライダーのアイボールを模した戦術級レーザーキャノン、OW-001ARTEMISとジャガーノートの正面装甲を模した多重装甲マテリアルシールド、OW-002AREUSのどちらかが貰える。
ボスの力を自分で振るう事が出来るというシステムから、ソウルシリーズやエルデンリングのボス武器を手に入れる機能を思い出してクールラントのルドレスや円卓の指読み婆を重ねるプレイヤーも少なくない。
ミッションで貰えなかった方のオーバードウェポンはパーツショップから買えるが、とんでもなく高い。一からACのフレーム武器内装買い揃えるのと同じくらい高い。
貰えた方を売却すると同じく超高額で売れるが、買い直す際も同じだけ金が掛かるので選択は慎重にした方が良い。逆手にとってオーバードウェポンを売り払い潤沢な資金で武装を整えるというのも選択肢の一つとしてはアリだろう。
……余談だが、プレイヤーが使うパーツショップ。作中設定としては傭兵支援システム、つまりはオールマインドの管理下である。
このせいで3週目の難易度が異次元に高くなるのだが、詳細はオールマインドの項目で。
発売当初このオーバードウェポンの存在でアリーナが荒れに荒れ、対オーバードウェポンの戦術が確立されるまではオーバードウェポンの対策にオーバードウェポンを担ぐという地獄の様な様相を呈していた。
結果として芋砂アルテミス、オーバードブルートゥ、ガチタンヘルメス、ポセ4脚ミサイラー、メンヘラストーカーなど呪物の様な機体構成が流行ったりした。
名前の由来はオリュンポス十二神だが、AC6世界にギリシャ神話が存在するのかは不明。
一覧
OW-001ARTEMIS
戦術級レーザーキャノン
装着部位:右肩、右腕
価格:1250000
R1単押し:中射程拡散レーザー
R1長押し:長射程広範囲拡散レーザー
R2単押し:長射程収束レーザー
R2長押し:下から上に超長射程収束レーザー振り上げ
備考:収束形態タメ攻撃に限り有効射程3000、性能保証射程2500に大幅延長
ミッション、「新兵器性能テスト1」の報酬で取得可能。
名前の読みはアルテミス。レーザーに特化した規格外兵装となっており、射程の長さと二つの形態を使い分ける使いやすさが特徴。
通常攻撃でオーバーヒート状態になる事は無いが、タメ攻撃を撃った後のオーバーヒートがかなり長い為むやみに撃って窮地に陥らない様に注意。
OWー002AREUS
多重装甲マテリアルシールド
装着部位:左肩、左腕
価格:1320000
L1長押し:シールド構え
L2単押し:3連グレネードランチャー
アサルトブースト時L1単押し:シールドバッシュ
備考:実弾、爆発、EN全ての攻撃を100%カット可能、炎系の攻撃を受けるとかなり早く衝撃値が蓄積する。
ミッション、「新兵器性能テスト1」の報酬で取得可能。
名前の読みはアーレウス。鉄塊の様な巨大シールドで、前方120度をカバー可能。とても重い代わりに頗る頑丈で、盾を構えながらの攻撃も可能。
左腕が潰れる為近接武器を持てないのが痛いが、シールドバッシュの衝撃蓄積は目を瞠るものがあるのでスタッガーに繋げるコンボパーツとして使おう。