拙作『ユーハバッハ「私たちは友達だからだ」』(https://syosetu.org/novel/366331/)のユーハバッハとオリ主の番外編というかIFネタ。

「ユーハバッハがジークフリードと共に在ることにのみ価値を得た」という本編のIFルート。
直接的な描写は無いものの、実質BLルートです。

イチャついています。コイツらのイチャつきの被害者として藍染様が出てきます。可哀想。
空座町決戦らへん、藍染様が一護と戦うちょっと前の話。
あの展開の中で割って入れるシーンないだろということには目を瞑ってもろて。



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これで友達は無理がある

 

「……失望したよ、滅却師の始祖ともあろう者がここまで堕ちるとは、ね」

 

明らかな侮蔑の言葉と視線を、真紅の瞳と漆黒の髪を持った少年は無表情で受け止めた。浮かべる表情と感情に差異はない。つまるところ、何も感じてはいなかった。憤怒も恐怖も。

 

それを理解しながら、侮蔑の言葉を吐き捨てた男──藍染惣介は己が目の前の少年より圧倒的に強大な力を得たことを理解し、ゆるりと余裕のある笑みを浮かべる。現世、空座町において崩玉との融合は果たした今、眼前の存在に自分が劣ることなど決してない。藍染はそう確信しながら、少年の名を呼ぶ。

 

「ユーハバッハ、霊王の持つ退魔の力の具現よ。この世界の悍ましい成り立ちを理解したうえで、貴方はただ自己の存在を保つことのみに固執し続けた。世界を変え得る力を持ちながら、傍観さえ放棄した」

 

藍染は浮かべていた嘲笑を無表情に変える。

 

「……嗚呼、それはなんて──下らない」

 

その目に映るユーハバッハは身体の輪郭を隠すような黒い外套を纏い、収束させた霊子で構築した足場で空中に立っていた。吹きすさぶ風が彼の外套と髪をかき乱すが、それさえ関心無く彼は佇むばかり。その無関心が何よりも腹立たしかった。

 

己の根源とも呼べる存在が世界によって凄惨たる陵辱を受け続けていると理解して何故そのように在れる?犠牲のもとに継続される世界など悍ましいだけだというのに。

苛立ちを見せる藍染に、ユーハバッハはようやくその色素の薄い唇を開いた。

 

「価値観の同調を求めるとは、よほど孤独に飽いたと見える。世界への不満を語りたければ並び立つ友にでもするがいい。お前にそのような存在があるのならば、だが」

「……並び立つ友、だと?」

 

瞬間、藍染の蟀谷がピクリと動く。下らない考えだと唾棄する感情と同じように、どうにも先程までとは異なる腹立たしさに身体が強張るのを感じた。

 

「……貴方にしてはつまらない冗談だ。私に他者への依存を肯定する主義はない。その言葉を是とするならば、所詮貴方も他者に理解され得る程度の存在ということだ。同族の魂を貪っては己と己の眷属の延命に無心するばかりの今の貴方は取るに足りない」

「語ってやったところで、永久に隣人を得ることのないお前に本質は理解できまい。こうしてお前に割く時間さえ私には惜しいというのに」

 

このユーハバッハには、世界への関心も滅却師への庇護の感情も無い。そしてまた、世界を変革する意思も、国を興す理由も無かった。

 

求めるものはただひとつ。

己が唯一尊んだ存在と共に在り続けること。

 

そのためにユーハバッハは時折災害のように聖別の術式を起動しては、絶滅させない程度に滅却師の魂を自己に取り込み、自身とジークフリードの命を継続させる。彼にとって数多の滅却師は我が子ではなく日々の糧に過ぎなかった。

 

──あれはいつか得た温もりの光。

握りあった掌のためならば、己はどこまでも悪辣で無慈悲に在るだろう。そのためにどれだけの命が失われようと、どれだけの希望を踏みつけにしようと構わない。そのような自身の在り方を彼は良しとした。

己よりも、世界よりも優先すべきものを得てしまったのだから。

そのように己自身を定義するユーハバッハへ、藍染は訝しげに問う。

 

「……ならば、ユーハバッハ、何故貴方が私の前に現れる?私が何をしようと、世界がどうなろうと貴方には関係ないことなのだろう」

 

関心がないような素振りを見せながらも、崩玉と融合して絶大な力を得た藍染の前にユーハバッハは現れた。それまで世界の表舞台に現れることのなかった彼が、だ。そこに意図を見出さずにいられはしない。

怪訝そうに眉を寄せる藍染に、ユーハバッハはさしたる関心もなさそうに横を向くと遠くへ視線を向ける。

 

「ああ、私には関係がない。世界が滅ぼうと、どのように変わり果てようとも、だ」

 

藍染の問いかけに肯定を返しながら、ユーハバッハは「──だが、」とも続けた。

 

「お前の所業で世界が滅んだり混乱に陥ることを、私の星が嫌がったものだからな。曰く、最近気に入りのパン屋の商品を制覇しきっていないから、と」

「……は?」

 

……星?……パン屋?

藍染の思考が一瞬固まる。その様子にユーハバッハは彼自身呆れたような表情を浮かべながら続けた。

 

「下らないことだろうが、あれには重要なことだ。お前が事を起こすのがあと数日遅ければ、私が此処に来ることも無かったろうに。間の悪い男だ」

「……言っている意味がわからない。つまりは他者のためだ、と?」

「そうだ。これでも少しはお前に同情している。だがまあ、我が星の珍しい強請りだ。引いてやるつもりもないが」

 

さしてやる気のなさそうなユーハバッハに藍染も気持ちが削がれる感覚があった。なんというか、こう、なんかもう、帰って欲しい。他人のイチャつきのダシにされたような感覚だった。

そう感じながらも変なところで真面目な藍染は仕切り直す。

 

「──とかく、理由はどうあれ君は私の前に立ち塞がるということだ。ならば受けて立つとも。残滓たる君と共に霊王を終わらせよう。……最も、今の君に何ができるとも思わないが」

「構わん。ある程度努力したという姿さえ見せれば我が星からの甘やかしを受けられるからな。適度にやらせてもらおう」

「邪な動機で人の一世一代の計画に関わらないでくれるかな?」

 

やる気があるんだがないんだかわかりづらいユーハバッハに、藍染も思わずつっこむ。

とはいえ、そもそもユーハバッハの未来視では、本来ユーハバッハもジークフリードもこの事象に関わる必要さえない。世界の抑止力はすでに死神代行の形を得て顕現しているのだから。

 

つまるところユーハバッハからしてみればこれは、他人の功績にタダ乗りして恋人からのよしよしプレイを得られる絶好のチャンスといった程度だった。藍染はキレていい。

 

 

 

 

 

 

 

「……あの子、大丈夫なんですか」

 

何が起こっているのか理解しきれない状況の中、小島水色はこちらに背を向ける自分たちとそう変わらない背丈や顔立ちをした青年に向かってそう問いかける。

そうすれば彼は──ジークフリード・ジンツァーは振り返ってへらりと気の抜けたような笑顔を浮かべた。

 

「だいじょーぶだいじょーぶ、あいつは強いからな」

 

ひと気の無くなった空座町で突如見知らぬ男に襲われた水色たち。逃げ惑う彼らを助けるように男との間に割って入り、男から引き離してくれたのは異国の顔立ちをした黒髪の少年と赤毛の青年の2人組だった。

 

襲ってきた男──藍染を宙に吹き飛ばして追撃をするように少年が飛び立って行った空を見上げながらジークフリードはヒラヒラと手を振った。

 

「命に代えても、なんて真似をあいつはしない。する理由がないからな。安心してこの隙に君らは逃げた方がいい……と言いたいところなんだが……」

 

転送されたこの空座町のどこにも逃げ場など何処にもないというのが現実だ。ユーハバッハに連れられてよくわからないままやってきたジークフリードには出る手段も彼らを逃がす手段も無い。

彼はやる気なさそうに近くの瓦礫に腰を下ろすと「よっこいしょ」と年寄り臭い声を出した。実際今の彼は1000歳を越えているため、年寄りではある。

 

「ま、小休止だ。今のうちに休んどけ。どうせ俺や君らじゃどうしようもない。たまには命運を他人に任せるってのも悪くないぜ」

「そんな呑気な……」

 

思わずそう返す浅野啓吾にジークフリードは軽く笑った。場違いなほどに緩い雰囲気を纏う彼に有沢たつきは微かに強ばった表情で問いかける。

 

「……アンタも死神ってやつ?」

 

その問いかけにジークフリードは一度彼女へ視線を向ける。それから肩を竦めて首を横に振った。幼い子供の計算ミスを指摘するようなそんな表情だった。

 

「まさか。俺らと比較しちゃあ死神が可哀想だ。どちらかと言えば俺やあいつは世界の敵に近しいしな」

「それって、あたしたちの敵ってこと?」

「それは違うな。君たちが今なお生きる人間である限り、こちらが関与することは無い。恨みを抱いて死んだ挙句虚になるとか、実は滅却師でしたなんてことがなきゃ俺らに滅却(ころ)されることは無い。安心していいぜ」

「わからないよ……それってどういうこと?アンタたちは何者なわけ?」

 

微かに眉間に皺を寄せながら彼女は問いを重ねる。困惑の中にいる彼女たちに、けれどジークフリードはどこまでも友好的に言葉を紡ぐ。基本的に人が好きだ。死神も滅却師も人間も、兎を可愛がるように愛している。

 

「何者、か。それは肉体の話か?魂の話か?それとも、能力の話か?……って聞き返すのも意地の悪い話だな」

 

それ故に嘘も隠し事もなく彼は答える。

 

「俺は滅却師であり、……まあ、言ってしまえばこの世界の綻びから生まれた化け物の片割れだよ」

 

それから軽やかに笑って「今は君たちの味方だ」と言った。「……あと数分か、数十分の間くらいは」と小さく付け足して。

 

と、その時、ジークフリードはふっと空を見上げると立ち上がった。

 

「そら、小休止は終わりだ。クラウチングスタートの用意はいいか?走って逃げる準備をしとけよ」

「え……?」

 

彼は空を見上げながら、両腕を軽く前へ出す。

そして次の瞬間、勢いよく墜落してきた黒髪の少年をその腕で抱きとめた。その勢いによって瓦礫の中、粉塵が舞う。

 

「っ!おっもてぇな……!なんだユーフェン、太ったか?」

「……お前は筋力とデリカシーを無くしたか?」

 

ジークフリードの腕に収まったユーハバッハは見た目こそさしたる外傷はないが、藍染によって致命傷にならない程度に削られたらしい。疲労が滲んだ表情でジークフリードに身を任せている。

 

「厳しそうだな。まあ、その姿だし仕方ねえか。あの死神もなんか強そうだし」

「……ぬかせ、お前の『浸礼(ユヴァフルーテン)』で6割、あとは『聖別(アウスヴェーレン)』を発動すれば私の方が強い」

「それ結構ガチで本気出してるじゃん……そこまでするぅ?」

 

元来の負けず嫌いが芽を出しかけているようだが、そこまでして戦う理由も無いはずだ。ジークフリードはユーハバッハは顔を寄せると背後の人間たちには聞こえないくらいの声で「もう帰るか?」と囁く。そんな相棒からの言葉にユーハバッハの色の薄い唇が開かれようとした、その時だった。

 

「所詮その程度か、ユーハバッハ」

 

彼らの前に音もなく藍染が降り立ったのは。

向けられる膨大な霊圧に、目を見張ったジークフリードは反射的に霊子兵装の矢を藍染へ放つが、それは彼に届くより先に圧倒的な霊圧によって霧散して消えた。思わず舌を出す。

 

「げぇ、つよ」

「……それが並び立つ友、だと?……その程度のものがか?」

「馬鹿にされているぞ、ジーク。なにか言い返せ」

「よっしゃ任せろ。うるせーばーか!ハゲ!陰気!性悪!眼鏡でも掛けてろ!なんか友達いなさそうだなテメー!大体お前が過大評価してるユーフェンだって別に大して強くねえんだからちょっと優位に立ったくらいで調子乗ってんじゃねえぞ!ここに来る前もギリギリまでベッドから出る気なかったくらい寝汚ねえし!昨日も深夜までスマブラしてたし!チッ、しゃあねえから三限から行くかくらいの大学生テンションで来てんだぞ!舐めんなよ!」

「舐める要素しかないんだが」

「何故一度私を下げた?」

 

ユーハバッハはジークフリードの髪の毛を強めに引っ張る。

そんな彼らを藍染は呆れた顔をして見つめながらふと思った。

 

……やはり遊び半分で来ていないか?

彼らがここにいるということ自体が自分をコケにしており、体良く二人で仲良く戯れ合っているだけなのではないか。そう思って内心で苛つく。お気付きになられましたか。

 

もう殺そう。跡形もなく。塵さえ残さず。

そう判断した藍染に気がついて、ジークフリードは腕の中の存在を守るように自身の身体へ強く引き寄せ、抱き締める。それさえ気に止めず、藍染が二人へ掌を向けようとしたその時。

 

──ぬるりと蛇が現れた。

 

 

さて、それからのことは、ご存知の通り。

蛇の裏切りと、藍染の崩玉とのより深い融合。

少しだけ遅れてやってきた死神代行が藍染と共にこの場から離脱したのを見送って、ジークフリードは張り詰めていた息を吐き出した。

 

「……つまりはあの子が来るまでの時間稼ぎ?」

「私がそんな殊勝なことをするとでも思うのか?」

「するだろ、お前は案外良い子だし」

 

ジークフリードはユーハバッハを抱きかかえ直す。自身の首に少年の手が回るのを確認してからその背中を宥めるように撫でてやった。

 

「わかってるって。世界を守るためにやってくれたんだな」

「世界などどうでもいい。……お前のためだ」

「知ってるよ、ありがとな」

 

ジークフリードが笑えば、ユーハバッハは彼の首元に顔を埋めた。

疲れているというのは少なからず事実なのだろうが、ジークフリードの力や『聖別』を使わなくとも、本気を出せば倒せはせずとも善戦はできたのだろう。ただ死神の目のある場所でそこまでする理由はない。

というよりも、敢えて無力さと世界の危機に協力する素振りを見せて尸魂界からの警戒を解く意味合いもあったのだろうとジークフリードは思う。お前たちと敵対する意思はない、と示すためだったのだと。

 

死神たちにとって滅却師とは緩やかに滅びゆく種族だ。虚を消滅させる特殊な力を持ちながらも、突如何の前触れもなく、魂さえ循環に乗らずに死に行く存在。

 

その中でも異質な存在であるユーハバッハとジークフリードは死神から監視されていることを知っている。

だからこそだ。お前たちに関わる気は無い。だからお前たちも関わるな。お前たちを害さない。だからお前たちも害するな。

それが此度の参戦の理由。

この僅かな手間で当分の安寧は得られるはずだ。

 

「……すべきことはした。私は疲れた。もう寝る」

「じゃあ帰ろうぜ。パン屋は明日にするかな」

「帰ったら私を甘やかせ、存分にだ」

「おー、よしよし、寝ろ寝ろ」

 

躊躇いなく体重を預けてくる小さな体を抱え直して歩き出す。

死神やら何やらが集まって面倒になる前にとっとと退散しよう。

 

「ま、待って!」

 

その背を呼び止めたのは有沢だった。思わず振り返るジークフリードと、それでもなお関心なく目を閉じたままのユーハバッハ。彼らを視界に入れたまま、彼女は眉を下げながら口を開いた。

 

「あの、助けてくれて……ありがとう」

「……言われる筋合いが無いな。……いやマジで、俺ら何もしてねえし。それはあのオレンジ頭の死神に言ったほうがいい」

 

ジークフリードは軽く笑って、それからこちらを見つめる人間たちに背を向けた。

 

「さよなら。もう二度と会わないことを祈ってる」

 

 

 

 

 

「あっはっは!ありがとうだとよ!良かったなあ!ユーフェン!」

「ジーク、お前に対してだろう」

「ばか、お前に決まってんだろ!」

 

空を駆け抜けながらジークフリードは笑う。久しぶりにユーハバッハ以外の知的生命体と交流して変なテンションになっていることを自覚していた。

 

ジークフリードだって、世界のことなんかどうでもいい。

ユーハバッハ以外に大切なものなんか無くて、必要な人なんてもういなくて、それ以外に心を砕く理由もない。それはもう初めから変わらないこと。共に夜明けを迎えたあの時からずっとジークフリードはそういうふうに自己を定めている。

 

けれどユーハバッハはもう少しだけ違う。

ジークフリードと共に在ることだけを良しとし、世界に無関心を抱きながらも、その根底には人類愛がある。

だから人間であるあの子たちに拒絶されることなく、むしろ行いを感謝されている姿が見られて良かった、とジークフリードは思う。きっとそれは本来の、正しい在り方だったのだから。

 

嗚呼、世界がもう少しユーハバッハにとって優しいものだったのなら、彼はどこまでも人類と世界の味方であろうとしただろうに。

 

「……ざまあみろ、くそったれが」

 

ジークフリードは呟いた。ユーハバッハはそれを聞きながら、彼の心にあるものを理解して瞼を閉じる。

出会ったばかりの頃のジークフリードは無条件に人類と世界を愛していた。善良で平凡で、神を信じていた。狂わせたのは自分だと理解している。メリダには合わせる顔もない。ブルクハルトはユーハバッハを呪うだろう。

 

それでも、自分のために狂ってくれたジークフリードをユーハバッハは愛おしく思っている。

 

「ジーク」

「ん」

「……お前は、お前だけは変わらず私の傍にいてくれ。果てしないほど長く。例え十の天が堕ち、地獄の門が崩れ、アケローンの川が枯れ果てようとも、永久に」

 

ジークフリードは滑るように地上へ向かう。ビルの隙間、暗い路地、光の届かないその隘路へやってくると深く黒い影の上に足を置いた。

そうしてユーハバッハへ向けて、低く掠れた声で心を紡ぐ。

 

「……今更お前を手放してやれると思うなよ」

 

そう言って彼はユーハバッハを抱えたまま、溶けるように影の中へ消える。

あとにはもう、何も残らなかった。

 

 








BLルートだとこんな感じの二人。
分岐はユーハバッハがジークフリードに恋愛感情を抱くかどうかだけだと思う。ジークフリードは向けられた愛情に対して応えるタイプの人間なので。

個人的に一番恋愛ルートとして手っ取り早いのは、ユーハバッハが女でジークフリードが男だった場合。
ジークフリードが屋敷を出る時に人生も過去も苦悩も全てを覚悟の上でユーハバッハにプロポーズするから。

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