転生ギレンが動画配信してみたw 作:匿名一般国民
輪廻転生。
概念としては知っていたが、よもや自分が体験するとは
思ってもみなかった。
ギレン・ザビ。
それがかつての私の名であった。
自分がいた宇宙世紀とは違う、恐らく平行世界の地球に
生まれ変わって、早十数年。
宇宙世紀に変わる前の西暦の時代、日本に再誕した私は
それなりに新たな人生を満喫していた。
平穏な日常、豊かな生活、世界の中でもトップクラスの治安の良さ。
腐敗した連邦政府の傲慢と支配を覆す為、
優れた指導者が強権を用いて独裁国家として立ち上がるより
方法がなかったサイド3こと、ジオン公国に比べれば、
遥かに生きやすい世界だった。
だが、ここ最近は世情が大きく揺れていた。
日本政府の腐敗と汚職。
それによって引き起こされた、
国民生活の不安定化と国力の衰退。
一個人が簡単に情報の収集と発信がしやすくなった世の中は、
権力者が自らの悪事を誤魔化す為、どれだけ情報統制を行おうと
完全に隠せるものではない。
ましてや、情報通信の分野に関しては、かつての宇宙世紀よりも
部分的には発展しているのだ。
全体的な科学技術に関しては宇宙世紀の方が優れているが、
かつての世界は、地球環境が後百年で人類が生存不可能になり、
必要に迫られて向上したに過ぎない。
なにしろ、地球環境を改善する為、人類の大半を宇宙に上げ、
人口の大地であるスペースコロニーに強制的に移住させねば
ならないほどだ。
そこまで世界が追い詰められていないにも拘わらず、
今の日本政府は、嘗ての連邦政府と同じ過ちを犯している。
民主主義国家の悪しき部分が現実となったのだ。
一部の愚者による私欲と保身によって国民に不幸が訪れるは、
いつの時代でも同じという事だ。
やはり、優れた指導者に率いられた国家こそ、
繫栄と安寧が約束されると思いつつも、
民主主義そのものを否定する気はない。
かつての私を知る者がいれば意外と思うかもしれぬが、
政治体系の一つとしては悪くないと思っている。
他の生物より人間の優れた点として、集合知というものがある。
多数の意見を汲み上げ議論し、より良き行動方針を決定する。
民主主義はそれを生かした政治体系という訳だ。
とはいえ、欠点もある。
多くの者が高い教育による知識と知性を持ち合わせていなければ、
意味はないという点だ。
意見を述べる者、意見を纏め結論を出す者が愚かであれば、
国は悪しき方向へと進み、衰退あるいは滅亡する事になる。
私はかつて独裁者として君臨した男だ。
サイド3をジオン公国に変えて、民主主義から絶対君主制へと
統治体制を移行した。
だが、それはあくまで必要に迫られての事に過ぎない。
かつての世界では、地球に住む一部の者こそ特権階級であり、
宇宙に住む者は地球より遺棄された、劣った者達であるという
印象が強かった。
それを覆す為、私は敢えて優生人種生存説を唱えた。
宇宙に住む者、即ちスペースノイドこそ、
宇宙という新たな環境に適応した人類であり、
その中でも指導的な国家であるジオン公国の民こそが、
優れた存在であると。
そして、優れた存在に人類全体が率いられてこそ、
人類の存続が維持されるという説だ。
ジオン公国と連邦政府の国力の差は、約30倍あると
言われていた。
その中でジオンが勝利する為には、国民の士気を向上させ、
新兵器である人型機動兵器モビルスーツと
核兵器やコロニー落としといった大量破壊兵器。
従来のレーダー・センサーを駆使した長距離誘導兵器を無力化する
ミノフスキー粒子を生かした戦いしかなかったのである。
つまり、数少ないジオン公国の利点を生かし、連邦に勝利する為に
敢えて不敵で自信に満ちた独裁者を演じたという訳だ。
しかし、あくまで非常時の手段であり、
真っ当な国民の為の政治が行われていれば、
強権を用いる独裁者など不要である。
私の結論としては、重要なのは政治体系ではなく、
あくまで人の能力・人格こそが最も重要だという事だ。
全ての政治体系は一長一短。
それを生かすも殺すも人次第という事だ。
豊かな生活と治安の良さを併せ持つ国でありながら、
一部の権力者とその共犯者による私欲と保身によって、
民を苦しめ国を衰退させる。
この愚かな行為に対して、大いに思うところはある。
だが、私は再び国家の指導者として立とうとは思っていない。
本来は無いであろう、折角の第二の人生だ。
始めとは別の人生を歩んでみても良いだろう。
ただ、国の状況が悪化するのを見ておきながら、
単に座して待つのも芸がない。
昨今流行りの動画配信で、国民にちょっとした活をいれてみるのも
良いだろう。
幸いというべきか、非常に良い素材がある。
機動戦士ガンダム。
なんと、かつて私のいた世界を物語にした娯楽だ。
簡単に言えば、民間人であった主人公アムロ・レイと、
その仲間達による戦いの物語だ。
自分達の住むスペースコロニー・サイド7が
シャア率いるジオン軍に襲撃されたのを始まりとして
連邦軍に入隊し、我々ジオンと戦うSFロボットアニメである。
このアニメの存在を始めて知った時は大層驚いたものだ。
まさか、嘗ての自分がアニメの登場人物になっているとは
思いもよらなかった。
とはいえ、重要なのはそこではない。
登場人物としての私、ギレン・ザビがそれなりに有名である事。
また、いわゆる主人公と敵対する悪役ではあるが、
意外と人気があるという事だ。
この知名度の高さは、動画配信において非常に有利に働くのは
間違いない。
もちろん、生身の私が嘗てのギレン・ザビを名乗ったところで、
一笑されるのがオチである。
実の所、私の外見等は前世とよく似ている。
目鼻立ちはそっくりだし、声も同様だ。
しかし、日本人ゆえ黒目・黒髪で髪型も以前とは違うし、眉毛もある。
ギレン・ザビの特徴である、銀髪オールバック・眉なしではないのだ。
そこで、私は自分の声を利用する事にした。
たまに知り合いから、声がギレン・ザビに似てね?と
言われる事もあるくらいだ。
私が偶然だろうと言えば、すぐに忘れられる様な程度ではあるが。
もっとも、それは私にとっては都合が良い事だ。
輪廻転生など、概念だけで実際に起こるなど聞いた事も無い。
下手に名乗り出て狂人扱いされるのはゴメンな上、
本当だと判明してモルモットにされるのも、ごめん被る。
よって、自分の素性を隠しつつ動画を配信するには、
声だけ利用する位が丁度良い。
具体的な手段としては、アニメのギレン・ザビの演説に
今の自分の声を宛てる方法だ。
『 声を似せたモノマネさん 』 という事で、ウケを狙いつつ、
多くの人に動画を見て貰える様に関心を引くのである。
さて、新たな人生では直接政治に関わるつもりはない。
だが、今の私は日本国民である以上、
自らの住む国が、より良き国であって欲しいとは思っている。
これで多少なりとも国民の意識改革が出来れば良いと思いつつ、
動画を配信するのであった。