もしもナナミンが沖縄にパシられたことを根に持っていたら。
今まで積もりに積もった怒りが原動力になっていたらのif

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七海建人は殴りたい。

呪術高専三年の夏。

 

 訓練場は相変わらず暑苦しい。

 僕の額からは汗が流れ落ち、木刀を握る手に力を込めた。

 

 目の前にいるのは、五条悟。僕たちの先輩であり、この世界における最大の理不尽、特級呪術師だ。

 

 「なーなみん、今日は動きがいいね! でも、遅い、遅い! そんなのじゃ僕にカスリもさせられないよ〜」

 

 彼の言葉は軽薄だ。心底から人を馬鹿にしている。

 僕の攻撃は、五条さんの周り数センチの空間で常に停止し、弾かれる。

 

 彼の生得術式「無下限呪術」による、無限の障壁だ。

 

 僕が心底、彼に憤りを感じている理由は二つある。

 

 一つは、呪術師としての努力を鼻で笑う、あの傲慢な態度。

 

 もう一つは、僕と灰原の努力が、彼にとっては存在しないに等しいという事実だ。

 

 

 僕たちは命を懸けている。

 だが、彼の前では、僕の全てが無意味になる。

 

 

 僕の目標は、至って明確だ。あの鼻につく顔を、思い切りぶん殴る。

 

 

 

 僕の術式「十劃呪法」は、対象の全体を七対三に区切り、強制的に弱点を生み出す。

 しかし、無下限は七対三以前の、接触自体を拒否する。

 

 

 僕の術式は、彼に届かなければ意味がない。五条さんを殴る方法はただ一つ。

 彼の術式が成立する前提条件を崩すこと。

 

 

 僕は高専の蔵書に籠り、あらゆる術式文献を読み漁った。そして、たどり着いた結論が、領域展開だった。

 領域展開は、自身の術式を空間に刻み込むことで、必中必殺のルールを強制する、呪術の極致。

 

 五条さんの無下限防御も、この必中のルールを前にすれば、成立しない。

 

 「領域展開を習得すれば、五条さんのあの顔に、僕の渾身の一撃を叩き込める」

 

 それが、僕の修行の全てになった。

 

 

 僕の術式は、物質の構造に干渉する。

 それを領域に落とし込むなら、「この空間にある全てに対して、強制的に七対三という分割点を適用させる」領域だ。

 

 

 領域を広げるための空間、結界術が苦手な僕はとりわけ苦労した。

 どうやってもうまく結界を維持することができないのだ。

 

 結界が作れなければ、領域展開も何もない。

 だから、割り切ることにした。

 

 

 結界術という技能を捨て、領域展開にのみ力を使うように縛りを設ける。

 そして、領域を作るための解釈も変えた。

 

 

 空気中の成分は窒素がおおよそ78%、それ以外の物質が残りの割合を占めている。

 こじつけだが、空気というものに対して術式を適用させる。

 

 空気の成分中に分割点を作り、その点を起点に術式を流し込む。

 領域とはすなわち、術者の術式で満たされた空間だ。

 

 であるならば、この方法でできないわけがない。

 

 

 呪力消費は凄まじく、身体は鉛のように重くなる。

 だが、五条さんをぶん殴るという執念が、僕を支えた。

 

 

 

 

 そして、運命の訓練の日。

 

 五条さんは、いつも通り、僕を軽くあしらっていた。

 

 「そろそろ休憩にしよーよ、なーなみん。そんな顔してるとシワが増えるぞ」

 

 「五条さん。これ以上、あなたに馬鹿にされるのは御免です」

 

 

 

 僕は大きく息を吸い込み、全呪力を開放した。

 

 両手で手印を結ぶ。

 阿弥陀定印によく似た印が結ばれる。

 

 

 「領域展開——等割針獄(とうかつじごく)」

 

 瞬間、周囲の体育館の空間が歪み、一瞬にして、無数の七対三の線で構成された、黒く硬質な世界に塗り替えられる。

 

 五条さんの目が、見開かれた。初めて、彼の顔から余裕が消えた。

 

 「マジかよ、七海。お前、この短期間で…」

 

 「あなたの無下限防御は、この領域では無効です。僕の術式は、あなたという存在に七対三の弱点を、強制的に確定させた。」

 

 彼は、一瞬で回避行動に移ろうとした。

 

 だが、遅い。

 

 領域内のルールは、もはや絶対だ。僕は迷わず踏み込み、渾身の力を右拳に込めた。

 

 ドゴッ!

 

 僕の拳は、五条さんの頬骨に、完璧に、深く、めり込んだ。

 

 彼は信じられないという顔で、数メートル後方に吹き飛んだ。

 

 僕の領域は、すぐに崩壊した。

 

 身体が震え、その場で崩れ落ちそうになるのを、僕は必死で耐えた。

 

 五条さんは床に倒れたまま、しばらく動かない。

 

 やがて、彼は笑いながら、立ち上がった。

 

 反転術式で、頬の腫れはみるみる治っていく。だが、彼が僕を見た目は、明らかに違っていた。

 

 「七海……参ったよ。まさか、本気で領域展開をぶちかましてくるとはね。しかも、僕の防御を完全に突破する必中の術式。……凄いな、お前」

 

 彼は軽薄な笑いではなく、呪術師として、純粋な賞賛を僕に送っていた。

 

 「僕の勝ちです、五条さん」

 

 僕は、ぽつりとつぶやいた。

 

 僕が欲しかったのは、勝利ではない。

 

 彼に一撃を届かせたという、確固たる事実だ。

 

 この事実は、僕の努力が、規格外の存在の前でも無意味ではないことを証明してくれた。

 

 僕は、呪術師という仕事への絶望ではなく、自分自身の価値を見出すことができた。

 

 僕の呪術人生は、ここから始まる。




無限に拡張したナナミンの術式

領域展開「等割針獄」(とうかつじごく)

対象の7:3の位置に強制的に弱点を作り出すという術式を、領域内の全てに適用させる。
割合を区切る起点は七海が指定するため、他者が視認・利用することはできない。
術式の解釈を深めた結果、物質以外にも適用させることが可能となったことで、概念に対しても割合を適用できるようになっている。

縛り内容
・領域展開以外で結界術を使用することができなくなる。(帳は天元の結界を利用していると解釈しました。)
・領域の展開時間は、最大で73秒。
・必中の部分は7:3の部分に弱点を作り出すこと。弱点を確認するのは従来の術式効果で行う。
・術式の適用は自動では行われない。
・領域の効果は領域内の術師に自動的に公開される。

術式絶対通すマン。
設定次第では、対象の呪力の使用割合を7:3に強制できたりする。
つまり、呪力を扱う感覚も狂わせられる。


また、「弱点を作り出すということは、弱点以外はノーダメでは?」と考えた七海によって新たな拡張術式も編み出されていたりする。

要するに、ギミックボス化。
見えない7:3の弱点(ピンポイント)以外はノーダメというクソボス誕生。


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